ケタサカ王国の防衛線
同時刻。神聖旭日連邦帝国首都地球。首相官邸地階に設けられた巨大な大円卓会議室には、国家の中枢を担う要人たちが居並んでいた。アリス総理大臣を筆頭に、国防大臣、宇宙軍総司令部総司令官、宇宙軍連合艦隊司令長官、帝国情報庁長官らが一堂に会し、緊迫した雰囲気の中、会議が進行していた。
「以上が、現在までのケタサカ王国宙域における軍事的情勢です」
報告を締めくくったのは宇宙軍連合艦隊戦略局の高級分析官であった。会議の議題は、ガフラヤサタ連邦によるケタサカ王国侵攻と、それに対する神聖旭日連邦帝国の対応策についてである。数日前、銀河連邦元老院でのエイン外務大臣の演説を受け、天の川銀河全域の目は再び帝国に注がれていた。
「外征対応艦隊——銀陽戦団の展開状況は?」
アリス総理が問う。
「現在、外征対応艦隊『銀陽戦団』は第11艦隊を母体とし、第3、第5、第24艦隊より増援を受けて総計99隻の大編成で、ケタサカ王国宙域に常駐しております。内訳は、超弩級宇宙戦艦大和級3隻、艦隊主力宇宙戦艦アルタイル級12隻、超弩級航宙母艦セイオリオン級4隻、宇宙巡洋艦ノクティルカ級18隻、宇宙駆逐艦クレイヴァル級24隻、宇宙フリゲート艦セラフィム級40隻、宇宙強襲揚陸艦アグレイオン級2隻です」
総司令部総司令官の報告に、室内の空気が更に張り詰めた。
「……では、その艦隊を丸々ケタサカ王国に提供できるかしら?」
静かだが強い意志を込めてアリス総理が言った瞬間、場の空気が変わった。国防大臣が驚きの表情を浮かべる。
「総理、それは……銀陽戦団を全艦、提供するというお考えですか?」
「そうよ。神聖旭日連邦帝国の建造能力をもってすれば、わずか3か月で補填は可能です。今、私たちが優先すべきは、信頼される『力の行使』よ」
誰もが理屈としては理解していた。しかし、沈黙を破ったのは宇宙軍連合艦隊司令長官だった。
「総理、提案には一定の合理性がありますが、現実的な運用能力の問題がございます。ケタサカ王国には、ノクティルカ級巡洋艦、クレイヴァル級駆逐艦、セラフィム級フリゲート艦の三種のみ、短期的な運用が可能です。超弩級戦艦や航宙母艦、そして航宙機やバトルフレームは年単位の訓練と艦隊戦術の熟練が必要です」
「なるほど……では、現実的に提供できるのは?」
「巡洋艦18隻、駆逐艦24隻、フリゲート40隻、計82隻の運用可能艦に絞るのが妥当でしょう」
そこへ国防大臣が一つの提案を投じた。
「総理、宇宙軍連合艦隊が保有する旧型艦艇のうち、予備艦隊として保管する、旧型宇宙巡洋艦18隻、旧型宇宙駆逐艦43隻、旧型宇宙フリゲート艦74隻も、改修の上で提供可能です。艦隊の主力としては陳腐化しておりますが、ケタサカ王国の訓練艦や予備戦力としては有用かと」
アリス総理は静かに頷いた。
「それも加えましょう。必要ならば帝国軍顧問団も派遣します。彼らが自立し、抑止力として機能するには、それが最善です」
会議室には沈黙が流れ、やがて誰もがこの決断に納得していた。
「よろしい。では総力を挙げて、彼らを支援するわ」
アリス総理の声が響いた。彼女の視線は遠く、ケタサカ王国の蒼穹を見据えていた。