反応
銀河連邦元老院でのエイン外務大臣の演説は、天の川銀河全域に衛星中継され、各国の関係者と一般市民たちの目と耳を惹きつけていた。その演説を、神聖旭日連邦帝国首都地球の首相官邸執務室で、アリス総理はただ一人、正面の大型ホログラフ・スクリーンを見つめていた。 演説中、毅然とした態度で語るエイン外務大臣の姿は、言葉の一つ一つが静かに、しかし確実に胸を打つような気迫に満ちていた。
「……エイン……あなたは、本当に……」
アリス総理の瞳には、わずかに潤みが浮かんでいた。政治家としての言葉ではなく、想い人として、エインの覚悟と誇りを感じ取った瞬間だった。
一方、首相官邸地下。 総理直轄特命部隊『ノクティア・オルド』の作戦拠点となっている秘密基地では、ヴァレリア上級指揮官と部下たちも演説中継を見守っていた。 全員が戦闘服姿のまま、無言でスクリーンを注視する。
「……こんなにも、覚悟を持って銀河に訴える方が、総理の隣にいるのね……」
第3班セリス軍曹が呟く。ヴァレリアは無言で頷き、スクリーンを睨むように見つめていた。
「この演説を無駄にするわけにはいかない。私たち『ノクティア・オルド』が、その『正義』を証明するのよ」
彼女の言葉に、部下たちは一斉に背筋を伸ばした。
「ナタアワタ共和国の秘密、必ず暴きましょう」
ヴァレリアのその言葉には、決して揺らがない意志が宿っていた。
その頃、天の川銀河の対極に位置するガフラヤサタ連邦の統合政府本庁舎。 統合政府議長ゲルマヴァルドは、演説の中継映像を乱暴に切ると、机を激しく叩きつけた。
「またしても……またしてもエインか……ッ!!」
怒りに震える議長の声は、空調音すらも止まったかのような重さで部屋を満たしていた。
「あの女の演説で、天の川銀河の空気が変わる……『正義』などという幻想が、またしても世論を動かす!」
ゲルマヴァルドは両手を握り締め、震えを押さえるように深く呼吸を整えた。
「……ナタアワタ共和国との裏の繋がりを暴かれると、我々の支配構造が崩れる……」
そこで彼は、執務端末の通信スイッチを叩いた。 瞬時に接続された先には、冷徹な視線を持つ一人の人物が映し出される。
「ヘルメス。いるか」
「……ここに」
画面越しに応えるのは、ガフラヤサタ連邦諜報総局長官、ヘルメス。 無表情で、口調も冷たい。
「“清掃”を早めろ。銀河の空気が動く前に、不要な証拠も、証人も、全て消し去れ」
「了解した」
通信が切れると同時に、ゲルマヴァルドはまた椅子に深く身を沈めた。 エイン外務大臣の演説は、彼にとっては明確な『宣戦布告』だったのだ。
その演説が、今後の銀河の情勢を大きく揺るがすことになるのは、もはや誰の目にも明らかだった。