闇を裂く閃光
ゼンメホ帝国首都宙域。表向きは民間輸送船として登録された船影が、ゆっくりと軌道ステーションに接近していた。しかしその船の正体は、神聖旭日連邦帝国宇宙軍遠征隊隠密局(ECAD)所有の特殊作戦艦。船内には、上級指揮官ヴァレリア・セラフィムと、彼女が選抜した精鋭女性部隊が、沈黙の中で最終準備を整えていた。室内には、オーロラ-9突撃銃を点検する音と、光子剣カガヤキのエネルギーフィールドを調整する音だけが響く。ヴァレリアは隊員達を見渡し、冷ややかながらも芯の通った声で口を開いた。
「これより、カウンタークーデター作戦を開始する。目標は、ゼンメホ帝国国政院筆頭代理カレヴォスとその支持派の排除。手段は問わない。正義は我らにある。神聖旭日連邦帝国、そして盟友たる女帝アナスタシア陛下のために、確実に成功させろ」
誰一人として躊躇う者はいなかった。《ノクティア・オルド》は全員が精鋭中の精鋭、忠誠と訓練において一切の妥協を許さぬ兵士たちだった。ヴァレリアは手元の戦術端末に目を落とす。潜入ルート、警備ローテーション、施設内の通気シャフトからの進入計画が緻密に描かれている。
「作戦は1段階に分かれる。第1段階は帝都オステラ行政区第3ブロックにある国政院支持派の通信センターを制圧し、内通情報を遮断。 第2段階はカレヴォス派の高官を秘密裏に粛清、または拘束。 第3段階は国政院地下指令区画に潜入、カレヴォス本人を逮捕。以上」
特殊作戦艦は宇宙港の一角にある補給ハブに係留されると、ヴァレリアを先頭に、ノクティア・オルドのメンバーが次々に艦を後にした。彼女たちは全員、民間作業員に偽装していたが、装備の一部は光学迷彩によって隠されている。数ブロック離れた裏路地。事前にゼンメホ帝国内の親神聖旭日連邦帝国派によって用意された倉庫へ入り、彼女たちは本来の装備を完全に装着した。夜の闇の中、黒く艶のある強化スーツに光子力兵装を纏った彼女たちは、まるで影のように沈み込む。
作戦、開始。
第1標的である通信センターへ向かう部隊が、外周警備を狙撃によって無音で排除し、爆音ひとつ上げることなく門を開けた。突入部隊が一気に制圧に入り、内部の警備ロボットをヴィーナス11による電磁麻痺弾で無力化、制御室ではレグルス-7の制圧射撃が炸裂し、短時間で中枢は沈黙した。
「通信妨害完了。外部接続、遮断済み」
部隊通信が報告を送ると、ヴァレリアは即座に第2段階へ移行を指示。ノクティア・オルドは分隊に分かれ、国政院支持派の議員・官僚・軍司令官など計12名の高官邸宅へ同時突入を開始。その中には重武装のボディガードを擁する者もいたが、ノクティア・オルドは有利な局地戦闘を選び、精密な時間差突入で一点突破、肉薄戦によって制圧していく。抵抗する高官もいたが、その多くは即死か、拘束され意識を失ったまま回収された。第3段階、作戦最大の難所カレヴォスが潜む国政院地下指令区画。地下層の入り口には生体認証と軍用パスコードが必要だったが、ヴァレリアは事前に親神聖旭日連邦帝国派から得ていた認証コードでクリアし、さらにARIAの技術者が組み込んだハッキングウイルスにより防衛ネットを一時的に停止させた。
無音のエレベーターが最下層に到達した瞬間、警備兵が不審を察知し、銃を向けた。しかし、既に遅かった。カガヤキの閃光が走り、警備兵のライフルが真っ二つに斬り落とされる。続けざまに飛び出したオーロラ-9の収束ビームが、他の警備兵の胸部を貫いた。ヴァレリアは遮蔽物に身を隠しながら、冷静に敵の動きを読み取り、仲間に指示を飛ばす。
「右手階段裏にスナイパー! 二番隊、上から包囲!」
女性兵士たちは指示通り高速で展開し、数秒後には狙撃手も排除された。司令室直前の防爆ドアを前に、ヴァレリアは爆破班に合図。微弱振動型切断爆薬が音もなくドアを解除し、閃光弾と同時に突入。室内では、カレヴォスと数名の側近が驚愕の表情を浮かべていた。逃げようとする者、抵抗しようとする者もいたが、ノクティア・オルドの動きは完璧だった。非殺傷モードのヴィーナス11による制圧、逃走経路の完全封鎖、全てが教範通りに遂行される。カレヴォスは床に押し倒され、ヴァレリアに拘束される。彼は醜悪な声で喚き散らす。
「お前たち、何者だ! これは反逆だぞ! 女帝が許すとでも……!」
ヴァレリアは冷ややかに言い放つ。
「いいえ。これは正義の執行よ。ゼンメホ帝国の未来のために、神聖旭日連邦帝国より祝福を込めて」
作戦完了の通信が、ヴァレリアの戦術端末に表示された。全目標の排除および確保を完了。犠牲者無し。《ノクティア・オルド》はその名の通り、夜に生まれ、闇を裂く閃光となったのである。