夜闇に咲く刃
神聖旭日連邦帝国首都星系を航行する一隻の古びた民間輸送船。その正体を知る者はほとんどいない。外観は錆び付き、登録コードは商業船。だが内部は違った。この艦は、神聖旭日連邦帝国宇宙軍遠征隊隠密局――通称ECADが所有する極秘の特殊作戦艦である。無機質な格納デッキ。その中央に立つのは、黒衣の上級指揮官、ヴァレリア・セラフィム。美貌と鋼鉄の意志を併せ持つ彼女の視線の先には、選び抜かれた精鋭たち特殊部隊の隊員たちが整列していた。
「今からお前たちに告げるのは、銀河の運命を左右する作戦だ」
ヴァレリアの声は低く、だが確実に心に響くものだった。
「作戦名は『コード・エクソダス』。対象はゼンメホ帝国政府中枢に巣食う親ガフラヤサタ連邦派。最終目的は、カレヴォス国政院筆頭代理の逮捕と、その派閥の粛清。議会工作が封じられた今、これが唯一の手段だ」
艦内に緊張が走る。誰もがその名を知っていた。その権勢は一枚岩に見えた。
「援護はない。バトルフレームもない。私たちだけで任務を遂行する」
ヴァレリアは冷酷な現実を突きつけた。
「歩兵装備と、知略と、技術と、覚悟だけが頼りだ。生還率は、正直言って五割を切る。だが」
その瞬間、ヴァレリアの瞳が鋭く光る。
「成功すれば、この銀河に再び『信義』と『誇り』が息を吹き返す。神聖旭日連邦帝国は、戦うに値する国家であることを証明できる」
ノクティア・オルドの隊員たちは、わずかに表情を引き締めた。彼女たちは元々、正規軍から選りすぐられた戦士たち。極限の訓練を潜り抜けた者のみが、この任務に選ばれたのだ。
「命を捨てる覚悟はとっくにできています」
ひとりの隊員がそう口にすると、それは波紋のように他の隊員にも広がり、皆が力強く頷いた。
「よろしい」
ヴァレリアはわずかに頬を緩めると、背後の操作卓に立ち、航行情報を確認した。
「ゲートウェイ通過まで、あと5分。そこを抜ければ、ゼンメホ帝国宙域。作戦開始は、直後だ」
全員が無言で装備の最終確認に入る。彼女たちが身につけるのは、ECAD仕様の漆黒の戦術装甲服。そして、輝刃型三式光子剣“カガヤキ”、9式オーロラ突撃銃、7式レグルス支援火器、11式ヴィーナス光線銃、最新鋭の個人火器。
艦橋のオペレーターが告げる。
「ゲートウェイ、通過準備完了。ゲート開放までカウント開始」
数秒後、船体が光の奔流に包まれ、一瞬にして空間を跳躍する。
それは、ただの移動ではない。銀河の闇を斬り裂き、新たな秩序を刻む、覚悟の出撃だった。《ノクティア・オルド》。その名のもとに、静かなる刃が、今宙域を越えて走り出した。