悪魔の給源
帝国暦1500年2月26日。神聖旭日連邦帝国首都地球首相官邸大円卓会議室。
「みなさん、『制裁決議』が可決されたのに、何故ガフラヤサタ連邦は戦争を続けられるのか。これを誰よりも先に、我が国が探る必要があります。」
アリス首相は重い言葉で開始を告げた。集まった閣僚たちは静まり込んだ空気の中、その言葉を傾聴する。
「ずっと調査を続けてきたゼンメホ帝国も同様に手掛りを打ち、戦争続行の理由を見出せていません。軍事的にも、資金経済的にも無理があります。」
そこで声を上げたのが、エイン外務大臣であった。
「我が国の調査の結果ではなく、最近、ガフラヤサタ連邦の変則な物資流通を検知しました。従来、周辺の経済集団や不借務基金の動きには注目すべきでしたが、それらの中に、本来存在しないはずのファンドが流入している兆候がみられました。」
それは、形を変えた裏ルートのマネーロンダリング。 それも、簡単には探知出来ない種類の形態を取り、戦争続行のための資金と不法一般物資をガフラヤサタ連邦にまわしている可能性が高い。ざわめき出す閣僚たち。エイン外務大臣の言葉に、帝国情報庁長官も追従した。
「確かに、我が帝国情報庁が派遣した諜報員より、同様の報告がありました。ですが今回は相手の『秘密』の探索を最優先に計画したはずです。」
その言葉に、アリス総理は自らの失態を自覚した。
「……私の指示でした。すべてにおいて、秘密を探れと。他は気になっても、その命令を優先せよと…。」
一瞬、静黙が集まった。アリス総理は発言した自分の少女しさに気付いた。 罪を、年齢のせいにしてはならない。だが、誰もそのことを罵らなかった。エイン外務大臣も心配そうに、アリス総理を見つめる。
「悪いのは私です。これより先、秘密のみならず、戦争持続の原因も同時に調査するよう、完全な処置を計ります。」
アリスはそう言って頭をさげた。そして、エインも静かに立ち上がり、相手を見つめながら言った。
「わたしは、この国の一員として、自らの手で真相を探します。外務省は独自のルートで、ガフラヤサタ連邦の資源経済の繋がりを追跡します。」
一人、エインの瞳が、静かにアリスを見つめる。
「私は、誰のためにここまで来たのか……もう、わかってる…」
不意打に脳裏に漂かんだその思いに、自分であって自分でないような疑惑に揺れながらも、エインは定めていた。私は、あの人のために動く。 たとえ、この思いを、すぐには伝えられないとしても。戦争は、まだ終わらない。 しかし、最後に答えを出すのは、自分たちの血ではなく、真実の力でなければならない。
新たな調査指令が発せられる。神聖旭日連邦帝国は動き始めるのだった。