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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第2章 秘密
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決議と影の選抜

帝国歴1500年2月17日。神聖旭日連邦帝国の歴史は、この日をまた一つの転換点として記録することとなる。


前日の悪夢。ケタサカ王国第2防衛線の崩壊。それは、ガフラヤサタ連邦がかつてないほどの攻勢を強行している証であり、連邦宇宙軍の象徴たる超弩級宇宙戦艦ベルグドルファ級の投入によって、星間戦争の均衡はついに破られた。全長1200メートル。神聖旭日連邦帝国宇宙軍の誇る超弩級宇宙戦艦大和級さえも凌駕するその巨体は、ただ存在するだけで戦場の地形を塗り替え、圧倒的な破壊をもたらしていた。しかし、神聖旭日連邦帝国は沈黙しなかった。アリス総理は、連日の最高政策評議会の中で断を下した。天の川銀河全土に向けた、神聖旭日連邦帝国としての明確な意志表示。そしてその最前線に立つ人物に選ばれたのは、エインだった。


その日、神聖旭日連邦帝国首都地球を離れたエインは、正式に『外務大臣』の肩書を与えられていた。特任筆頭外交官、外務大臣代理、その道程を駆け抜けるように昇り詰めた彼女の姿は、もはや『若き才媛』の域を越え、『帝国外交の化身』として知られつつあった。向かった先は銀河連邦元老院。ナタアワタ共和国の首都星系に位置するその場所は、天の川銀河の知的生命体が利害をぶつけあう舞台であり、言葉ではなく信念と影響力が結果を決める、最も苛烈な政治の戦場だった。銀河連邦元老院での「対ガフラヤサタ連邦制裁決議案」は、一度は提出されたものの、継続審議という形で保留にされていた。しかし、いまや状況は一変していた。再侵攻、さらに超弩級宇宙戦艦ベルグドルファ級の出撃という暴挙を受けて、天の川銀河の世論は大きく傾いていた。銀河連邦元老院の壇上に立ったエインは、抑制された声で、けれど確固たる語調で言葉を紡いだ。


「我々は、戦争を求めていない。だが、正義なき力には、銀河共同体としての明確な意思が必要です」


議場が静まった。非難でも怒号でもない。ただその響きが、真実の重さとして沁み渡ったのである。ガフラヤサタ連邦の銀河連邦大使が反論に立ったのは当然のことだった。だがその言葉は、もはや各国の代表たちに届くものではなかった。彼の声が怒りに満ちれば満ちるほど、その背後にある現実の非道さが露呈されていったのだった。


数時間後、制裁決議案は投票にかけられた。


それは圧倒的賛成多数による可決。


銀河連邦史上、異例の早さで成立したこの決議によって、ガフラヤサタ連邦に対して外交的、経済的、軍事的支援の停止を含む包括的制裁が課されることとなった。銀河連邦元老院を後にしたエインは、深呼吸ひとつして虚空を見上げた。そこにあったのは、勝利の余韻ではなく、これから始まる真の戦いへの覚悟であった。



その頃、神聖旭日連邦帝国首都地球では、アリス総理が動いていた。首相官邸の大円卓会議室。長く、歴史の節目を刻んできたその空間に、選ばれし者たちが集められていた。帝国情報庁が統括する五つの諜報機関から、総力を挙げて選抜された人員。戦場ではなく、影の中で戦う者たちである。

帝国戦略情報局(SIA)、帝国思想安全局(IOISB)、帝国先端科学査察局(ARIA)、宇宙軍連合艦隊情報部(CFIB)、宇宙軍遠征隊隠密局(ECAD)。

彼らはそれぞれ異なる専門性と戦術を持ち、天の川銀河の裏側に張り巡らされた敵の罠や機密を解き明かすために動く。『ベルグドルファ級の実態』『ケタサカ王国侵攻の最終目的』、そして『ガフラヤサタ連邦の秘密』。

アリス総理は、静かに命じた。


「これは、神聖旭日連邦帝国の未来を決する任務です。今この瞬間も、敵は我々の正義を踏みにじろうとしている。ならば我々は、ただ報復するのではない。真実をもって、銀河に正義を問うのです」


沈黙のなかで諜報員たちは一斉に敬礼し、次の瞬間には音もなくその場を去っていった。銀河の夜に、静かに動き出す影。戦火の裏で始まったもう一つの戦いが、やがて銀河全体を巻き込む激動の渦を呼ぶことになるとは――この時、まだ誰も知らなかった。


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