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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第2章 秘密
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アリス総理の覚悟

静かなる緊張が流れていた。神聖旭日連邦帝国政府の中枢、首相官邸の大円卓会議室。そこに集まったのは、神聖旭日連邦帝国の最高指導層。政治・軍事・情報・外政の頂点に立つ者達である。そしてアリス総理大臣の緊急招集によって開かれた最高政策評議会が始まった。

その壇上、アリス総理の背後に立っていたのは外務省特任筆頭外交官から新たに、『帝国外政特別戦略顧問官』へと任ぜられたエインであった。総理に近侍するその姿は、以前とは違う意味を帯びていた。だが、それが一部の者の反感を買っていることは明白だった。

会議の幕開けは儀礼に則り、粛々と進行していた。国防大臣、帝国情報庁長官、宇宙軍総司令部総司令官等々各閣僚達、皆がアリス総理の報告を受け神聖旭日連邦帝国を取り巻く状況の深刻さを再確認していた。だが、静寂を破ったのは、外務大臣であった。


「総理、ひとつ確認させていただきたい」

甲高く、やや怒気を孕んだ声。大円卓会議室の一角に座る壮年の男は、冷ややかな視線で壇上のエインを見上げた。


「本日の会議において、我が省の正式な承認もないまま、特定の個人が『帝国外政特別戦略顧問官』なる地位に任ぜられたと伺いました。それが事実であれば、あまりに越権行為ではありませんか?」


場内に重苦しい空気が漂う。


「神聖旭日連邦帝国の外政は、制度として外務省が担うべきものであり、いかに個人が実績を持とうとも、正式な閣議を経ていない任命など、前代未聞にして危険極まりない! 総理、これは私の立場を著しく軽視し、いや、侮辱するものです!」


言葉は激しさを増し、やがて個人攻撃に近い非難へと変わっていった。


「このような任命は、銀河連邦から見ても神聖旭日連邦帝国の内政秩序を疑わせる結果となりかねない! このような『小娘』に帝国の外政を担わせるなど」

「……黙りなさい」


アリス総理の声は、ささやきのように静かでありながら、その場の空気を凍らせるほどの力を帯びていた。外務大臣が言葉を切ると同時に、壇上からアリス総理はわずかに手を挙げた。それだけで警備兵が数名、静かに外務大臣の背後へと回り込む。


「あなたを、外務大臣の職より罷免します」


淡々と、だが一切の余地を残さぬ宣言だった。


「な、何を!それは権限の乱用だ! 賛同もなく……!」

「私が神聖旭日連邦帝国憲法第8章第5節、緊急行政措置権に基づき行使している。違反はしていないわ。貴方には退席を命じます。」


抗議を叫ぶ間もなく、外務大臣は警備兵により円卓の間から連行された。ドアが閉じた瞬間、沈黙が残された。アリス総理は再び壇上に視線を戻すと、毅然と語った。


「よって、これよりエインを外務大臣代理とする。正式な国務大臣認証は後日、天皇陛下の御裁可を仰ぐ。それまでは臨時権限の下、全ての外政行動を委任する」


その場に居合わせた閣僚達は一様に驚愕の色を見せた。だが、最も驚いていたのは、壇上に立つエイン自身であった。


「総理、私は……そこまでの器では──」

「過ぎたことを後から責めるのは、誰にでもできる。だが、責任を背負ってなお前へ進む者こそが、神聖旭日連邦帝国を導く器なのよ。失敗を恐れるならば、それを糧にしなさい。飛躍の礎としなさい」


その言葉に、会議室全体が静まり返った。やがて、国防大臣が静かに頷いた。


「総理の御意志、承知いたしました。神聖旭日連邦帝国のため、我々は協力を惜しみません」


続いて各閣僚達、帝国情報庁長官、さらには宇宙軍総司令部総司令官までが、同意を示す言葉を口にした。エインは震える手を握りしめ、一礼した。


「僭越ながら、お受けいたします。必ず、神聖旭日連邦帝国のために職責を果たします」


そして会議は本題へと移行した。アリス総理とエインが導き出していた仮説。それは、ガフラヤサタ連邦が重大な事実を隠匿しており、神聖旭日連邦帝国の諜報活動を過剰に非難する背景に何か裏があるという点だった。


「帝国情報庁を筆頭に汎ゆる諜報機関、そして外政機関の全てを動員し、ガフラヤサタ連邦の『秘密』を徹底的に探るように。今この瞬間からだ」


そう語るアリス総理の声には、揺るぎない覚悟があった。また同時に、現状のガフラヤサタ連邦による神聖旭日連邦帝国非難に対し、対外的な『カウンター』が急務とされた。


「その全ての外政行動は、エインに全権を委任する。私の名の下において、神聖旭日連邦帝国を動かしてもよい。全責任は、私が引き受ける」


誰も言葉を発しなかった。アリス総理の覚悟に、圧倒されたからである。その瞬間、神聖旭日連邦帝国はふたたび大きく舵を切った。その操縦桿を握るのは、2人の女性。

アリスとエイン。

天の川銀河を巡る暗闘の渦中で、彼女たちは神聖旭日連邦帝国の未来を背負って立つ。


そして、静かに──

銀河が動き出す音が、確かに聞こえ始めていた。

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