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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第2章 秘密
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交差する思惑

帝国歴1500年2月12日。ガフラヤサタ連邦統合政府の声明は、天の川銀河全域の情報網において瞬く間に拡散された。その内容は、あまりにも衝撃的であった。

神聖旭日連邦帝国の諜報員とされる人物の遺体が、ガフラヤサタ連邦宙域内で確認されたという。しかも、その肉体には神聖旭日連邦帝国宇宙軍の識別符号を有する内部装置が埋設されており、遺留品にも明確な神聖旭日連邦帝国製の諜報機材が含まれていた。それはもはや、推測や疑念を挟む余地のない、『動かぬ証拠』であった。

これを受け、銀河連邦は即座に対応を開始した。

銀河連邦は臨時の元老院を招集し、関係各国に対し調整と声明の準備を要請した。銀河連邦加盟国である神聖旭日連邦帝国に対しては、厳格な説明責任と再発防止措置が求められることとなった。

諜報活動は、表には出ぬ暗闘である。それをここまで公にしたガフラヤサタ連邦の意図は、明白だった。この『死体』を武器に、真に隠したい『秘密』から目を逸らさせるためである。まさに、肉体が情報戦の駒へと変わった瞬間であった。

神聖旭日連邦帝国は、銀河連邦加盟国の中でも突出した軍事力と技術力を誇る超大国である。帝国歴にして1500年、かつて地球の統一政府として誕生したその国家は、エターナルナイトの技術供与を受け、急速に宇宙文明の頂点へと駆け上がった。その影響力は、経済・外交・軍事を問わず、あらゆる局面で天の川銀河の重石として機能している。神聖旭日連邦帝国が有する巨大な軍需産業は、銀河連邦諸国の安全保障に不可欠な存在であり、艦隊技術・兵装技術・重力制御機構などの分野では、多数の中小国家がその支援を仰いでいる。神聖旭日連邦帝国との関係断絶は、すなわち自国の防衛インフラの崩壊を意味する。

それでも、『死体』は黙して在り続ける。

ガフラヤサタ連邦はこの一点を突き、神聖旭日連邦帝国への公的非難を煽動した。「銀河連邦加盟国が銀河連邦加盟国をスパイしていた」というスキャンダルは、銀河連邦憲章にも関わる深刻な事案と位置付けた。スパイ活動等公然の秘密たり得たが、ガフラヤサタ連邦は『秘密』を隠す為に公然と非難を続けた。

これに対して各国の反応は、決して同じではなかった。

エリュシオン連合は沈黙した。その軍需装備の4割は神聖旭日連邦帝国製である。連合議会は技術供与の打ち切りを恐れ、言葉を慎重に選んだ。声明は『遺憾の意』と『銀河連邦による独立調査の必要性』にとどまり、神聖旭日連邦帝国非難という決定的な文言は用いなかった。

ブレクティア同盟もまた同様であった。彼らは物流と宙域交通の要衝を担っており、神聖旭日連邦帝国の航路制御アルゴリズムに依存する。神聖旭日連邦帝国の逆鱗に触れれば、交易そのものが頓挫しかねない。同盟代表団は、『事態を注視する』という表現に終始した。

ナタアワタ共和国は、銀河連邦の本部を抱える国家であり、象徴的中立を保たねばならなかった。

共和国評議会は情報局の専門家を招集し、声明文の検討に丸一日を費やしたが、最終的には中立的立場からの『調査継続の支持』を打ち出すにとどまった。

このなかでただ1国、神聖旭日連邦帝国への支持を断固として示したのが、ゼンメホ帝国であった。彼らは即座に神聖旭日連邦帝国への『全面的信頼』を発表し、さらに『ガフラヤサタ連邦の発信情報に明確な偏向がある』と名指しで非難した。ゼンメホ帝国は神聖旭日連邦帝国と長きに渡る軍事・技術同盟を結んでおり、神聖旭日連邦帝国への揺るぎなき信頼は、同時に自らの国益そのものであった。

その一方で、銀河における『共通認識』となっている存在エターナルナイトは、未だに沈黙を保っていた。『銀河系の管理者』を自負する彼らは今こそ仲裁に動いてくれても良かったが、エターナルナイトがこの事案に対して動くことはなかった。しかし全ての天の川銀河星間国家はその目が注がれていることを理解していた。

こうして、天の川銀河は不安定な静寂のなかに沈んだ。一つの死体が銀河秩序を揺らし、神聖旭日連邦帝国の軍靴がまだ踏み出さぬなか、ガフラヤサタ連邦は均衡の維持という名の『停滞』を選んでいた。

だが、静寂の奥底には、必ず『熱』がある。天の川銀河は、確実に沸騰し始めていた。

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