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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第1章 ジレンマ
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調査の裏で

帝国歴1500年2月2日。銀河連邦調査団がガフラヤサタ連邦の首都惑星に降り立ってから一夜が明けた。惑星軌道上にはガフラヤサタ連邦連邦宇宙軍宇宙艦隊から派遣された監視任務を帯びた艦隊が浮かび、首都直轄の行政区域では、ガフラヤサタ連邦の治安部隊が異様なまでに配置を強化していた。表向きには友好的な調査団受け入れ。しかしその裏では、すでに両陣営の目に見えぬ対立が始まっていた。

この日、銀河連邦調査団は正式に活動を開始する。調査項目はケタサカ王国への侵攻の法的妥当性、民間人に対する被害、ガフラヤサタ連邦内の情報統制と思想弾圧の有無など、多岐にわたった。表の外交交渉を仕切るのは、神聖旭日連邦帝国外務省の特任筆頭外交官エイン。深紅の軍装を思わせる儀礼服に身を包み、慎重かつ鋭利な視線で調査団と共に行動していた。

しかし、真の調査は別の場所で行われていた。エインの影で動くのは、帝国情報庁(IID)傘下の諜報機関であり民間人被害の証拠収集と思想弾圧の実態を暴く為に、帝国思想安全局(IOISB)と帝国先端科学査察局(ARIA)、そして宇宙軍遠征隊隠密局(ECAD)特別行動班がガフラヤサタ連邦内部へと潜入していた。

彼らは調査団の中に紛れ込んだ正規外交官を装い、あるいは現地のスラム街で『失踪者の家族』として演技を行い、秘密裏に証言を集めた。だが、敵も黙ってはいなかった。ガフラヤサタ連邦の連邦治安情報局(ISB)はこの動きを早々に察知し、電子網を通じた全通信の監視を強化。街頭にはAI検問ドローンが配置され、神聖旭日連邦帝国の諜報員たちはわずかなミスで『消される』危険に晒されていた。

ガフラヤサタ連邦のゲルマヴァルド統合政府議長は、調査団の公式行動には柔和な態度を装ったが、内心では激しい怒りと恐怖に満ちていた。見られてはならぬ真実が、ある。その一点が彼の行動を異様なまでに過敏にさせていた。

彼はこの日、最高治安会議を極秘に招集し、内部告発や情報流出の疑いがある官僚を数十名単位で拘束・尋問させるよう命じた。また、連邦宇宙軍高官にも命じ、前線から最新の戦果報告を調査団へ提出しないよう『機密保持』を名目に拒絶。調査団がケタサカ王国の被害状況に迫ろうとするたび、彼らの前に立ちはだかる壁は高くなっていった。だがそれでも、特任筆頭外交官エインは焦らなかった。

彼女は冷静に、慎重に、外交の表舞台で機を待ちつつ、裏の諜報網へと静かに指示を送った。

「今日、君たちが得るのは情報ではない。感情だ。恐怖、疑念、そして不信――それらはやがて真実を引き寄せる。」

その言葉通り、ARIAのエージェントが接触したガフラヤサタ連邦の研究施設技術者は、家族の『失踪』をきっかけに内密な会話を始めた。IOISBの密偵が夜陰に紛れて接触した行政官僚の妻は、「夫が処刑された」と涙を流しながら訴えた。

だが、それらはいまだ『断片』にすぎない。確たる証拠とはなりえず、ガフラヤサタ連邦の内情を暴くには、さらなる証言と記録が必要だった。

そして、その時間こそがゲルマヴァルドにとって最も許容しがたい『敵』だった。

調査団が1日、2日と滞在するごとに、神聖旭日連邦帝国の刃は確実に連邦の中枢へとにじり寄る。彼は焦燥に駆られつつも、外には一切表情を出さず、次の一手を考えていた。

それは、偽装された『公開査察』と『証拠提示』。

事前に清掃され、あらかじめ用意されたデータ、従順な証言者。演出された事実こそが、調査団の目を曇らせると彼は信じていた。

こうして、帝国歴1500年2月2日。銀河の片隅で、調査という名の静かな戦争が始まった。その日陰で行われた諜報の応酬は、いずれ血を流す戦いに直結する、最初の火花であった。

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