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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第1章 ジレンマ

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銀河連邦調査団

宇宙は、時に沈黙をもって答える。

帝国歴1500年2月1日。調査団を乗せた銀河連邦保有艦『アルゲネイア』が、ガフラヤサタ連邦の首都惑星の迎賓館へと到着した。その時も、まるで星々が言葉を呑んだような沈黙が世界を包んでいた。今回の派遣は、銀河連邦元老院が1月24日に緊急決議した『調査団の派遣:ガフラヤサタ連邦のケタサカ王国侵攻に於ける実態調査」に基づくものであったが、準備は性急ではなかった。人員選定に慎重を期した結果、調査団の編成と派遣には猶予が置かれ、ようやくこの日を迎えるに至ったのだ。

調査団には、ナタアワタ共和国・ブレクティア同盟・エリュシオン連合、そして神聖旭日連邦帝国の代表団が名を連ねた。彼らは一様に重厚な表情を浮かべ、まるで銀河の審判者としてこの惑星に降り立ったようだった。だが、迎える者もまた、銀河の歴史に名を刻む一人であった。

銀河連邦調査団の前に現れたのは、ガフラヤサタ連邦統合政府議長ゲルマヴァルドその人であった。ガフラヤサタ連邦の最高指導者であり、絶対権限を持つ行政の長である。軍事国家ガフラヤサタ連邦において、この男の名は軍令と同義であった。

「調査団の皆様、ようこそガフラヤサタ連邦へ。銀河の意思に従い、我がガフラヤサタ連邦は貴殿らの調査活動を全面的に受け入れることを決定した。どうか、この機会が誤解の払拭と理解の促進につながることを、心より願っている。」

言葉の内容は礼儀を尽くしていたが、その声音には硬質な冷たさがあった。神聖旭日連邦帝国外務省特任筆頭外交官エインは、その抑揚と視線の鋭さに即座に反応していた。彼女の背後には神聖旭日連邦帝国が極秘裏に送り込んだ、『科学顧問』や『記録技術者』の仮面を被った諜報員達が控えている。彼らの任務は明確だった。ガフラヤサタ連邦が隠す『真実』を、あらゆる手段で記録し、それを銀河連邦元老院の場で暴露する。すなわち、情報戦における『勝利』を収めることにあった。

ガフラヤサタ連邦統合政府議長ゲルマヴァルドは調査団に向き直り、冷静に言葉を重ねる。

「諸君には、都市部・工業地帯・軍駐屯地、そして前線基地を案内する予定である。だが安全保障上の理由から、いくつかの区域には制限が設けられることを理解していただきたい。」

これに対し、ナタアワタ共和国代表が無言の頷きを返し、エリュシオン連合の代表が無難な礼を返す中で、エイン特任筆頭外交官はあくまで微笑を絶やさずに返答した。

「もちろんです、議長。私達の目的は対話と観察であり、挑発ではありません。すべては天の川銀河の共存と調和のために。」

彼女の言葉は、神聖旭日連邦帝国らしい洗練された外交術の結晶であった。だが、その背後にある狙いは、ガフラヤサタ連邦という巨大な軍事国家の『綻び』を暴き出すこと。調査団が移動を始めるや否や、神聖旭日連邦帝国諜報員たちは所定の計画に従って裏手で動き出した。地上の偵察チームが民間人強制移送の証言を集め、衛星通信傍受チームが前線部隊からの戦況報告を解析していく。

諜報員達はすでにいくつかの『証拠』をつかみつつあった。民間人の『避難』を装った強制収容、

ケタサカ王国の民間施設への爆撃記録、破壊された都市周辺に敷かれた隔離ラインと、そこに『何か』を封じ込めている痕跡等々。一方、ガフラヤサタ連邦統合政府議長ヴァルドの視線は、別の場所へ向けられていた。それは神聖旭日連邦帝国代表団に寄り添う一人の人物、特任筆頭外交官エインにほかならなかった。彼は既にその静かな外交官の裏に潜む意図を直感していた。だが、動かぬ証拠もない今、直接的な対処は政治的自爆を意味する。

(銀河連邦は、口では中立を唱えても、既に神聖旭日連邦帝国に傾きつつある……)

ヴァルドの胸に、忌々しい確信が芽生える。だが、ガフラヤサタ連邦は今もケタサカ王国への侵攻を止めてはいなかった。それは政治的信念であると同時に、弱者に譲れば滅びるという、この国の根幹思想でもある。調査団の滞在は長くて10日。だが、その10日がもたらすものは、戦争を止める平和ではなく、より高度な情報戦と外交戦の『開戦』なのかもしれない。


銀河の未来は、いま、戦火の外で動き出していた。

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