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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第1章 ジレンマ
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ガフラヤサタ連邦の動き

同時刻ガフラヤサタ連邦統合作戦司令部。その深層区画にて、連邦宇宙軍最高評議会は緊迫した空気の中で静かに進行していた。連邦宇宙軍最高評議会ではケタサカ王国への侵攻作戦『紅環の矛先』の初動成果を冷徹に分析していた。ケタサカ王国宇宙軍の外周防衛網は想定以上に古く、抵抗も儀礼的に近いものだった。8000光年にも及ぶ広大な領域を統治する国家にしては防衛の薄さが目立ち、各宙域の拠点間の防衛連携も機能していなかった。だがそれこそが、ガフラヤサタ連邦の戦略を肯定する根拠となっていた。

『平和』という幻想に甘え、経済力だけを肥大させていた国家に、銀河の秩序を託すべきではない。それがガフラヤサタ連邦政府と連邦宇宙軍最高評議会、そして中央評議会の共通した認識だった。だが、事態は彼らの予測通りに進行してはいなかった。ナタアワタ共和国首都星系に建造された銀河連邦本部にて、ブレクティア同盟が提出した対ガフラヤサタ連邦制裁案。確実に通過すると思われていたその動議に、神聖旭日連邦帝国が反対を表明したと報告が入ったとき、ガフラヤサタ連邦中央の戦略局では一瞬、静寂が支配した。神聖旭日連邦帝国。かつて地球統一政府から発展し、エターナルナイトとの接触以降、超文明的な飛躍を遂げた存在。表面上は外交的中立と謳いながら、実のところその行動原理は一貫して国家利益に基づいている。その神聖旭日連邦帝国が制裁案に反対し、なおかつ『継続審議による調査団派遣・交渉の場の設置』という中庸案の通過に関与したことは、ただの調整役ではないと、ガフラヤサタ連邦の連邦宇宙軍最高評議会は直感していた。

そして神聖旭日連邦帝国と同調するようにゼンメホ帝国も動いた。天の川銀河で神聖旭日連邦帝国と唯一軍事同盟を結んでいるこの国は、明確にケタサカ王国への連帯姿勢を示している。ゼンメホ帝国宇宙軍は既に一部の宙域で動きを見せ、ケタサカ王国方面に艦隊のシグナルが検知されていた。これらの事実はすぐにガフラヤサタ連邦中央に報告され、驚愕と警戒が入り混じる評価をもって受け止められていた。

制裁案は退けられた。しかし、それは外交的勝利ではなかったのである。むしろ神聖旭日連邦帝国による『沈黙の動き』により、ガフラヤサタ連邦は意図せぬ外交戦に引きずり込まれたと言ってよかった。神聖旭日連邦帝国の銀河連邦大使が元老院の壇上でわずかに吐いた薄い息。それが暗示していたものは、軍事の準備と外交の包囲網、そして表に出ることのない支援の着手であった。連邦宇宙軍最高評議会の一角に座する情報局統括官は、神聖旭日連邦帝国の『軍事力』そのものではなく、その『軍事力を背景にした戦略思想』にこそ最も警戒すべきだと訴えていた。神聖旭日連邦帝国宇宙軍連合艦隊100個艦隊に加え、その14000光年に及ぶ領域各地に配備された巨大戦略宇宙要塞群。加えて極秘裏に再配置されつつある艦隊それら全てが、いずれ自国の行動に対して牙を剥く可能性があるのだ。

そしてケタサカ王国。あれほどまでに平和を尊び、戦争を否定し続けていた国が、今や神聖旭日連邦帝国とゼンメホ帝国という二大国の庇護を求め始めている。これが意味するのは、単なる占領対象の『喪失』では無かった。天の川銀河全体における影響力、発言権、そして『道義的正統性』の失墜であった。

果たして、銀河連邦が派遣する調査団を受け入れるべきか。受け入れればガフラヤサタ連邦の主張を吟味されることになる。拒否すれば制裁の可能性は高まる。だが、神聖旭日連邦帝国とゼンメホ帝国が反対する限り、即時発動はない。つまり、交渉の余地が生まれたということでもある。

宇宙軍最高評議会長官は、端末越しに銀河連邦の最新報を見つめながら深く息を吐いた。政治の表と裏で、もはや戦争は始まっている。ケタサカ王国はまだ膝を屈していない。神聖旭日連邦帝国は沈黙のまま剣を研ぎ澄ませている。ゼンメホ帝国はその翼を広げつつある。そしてガフラヤサタ連邦は、いまや戦場の中心にいた。

今度の戦いは、ただの砲火では決着がつかない。銀河を覆う、意志と理念と野望の戦争だった。

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