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新世紀宇宙戦争  作者: 007
第1章 ジレンマ
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ケタサカ王国の苦悩

帝国歴1500年1月25日。その朝ケタサカ王国の首都星は、驚くほどの静けさに包まれていた。だが、平穏はすでに幻想に過ぎなかったのである。前日、銀河連邦元老院で行われた緊急審議は、平和を愛するこの国にとって希望であり、同時に最後の砦でもあった。ブレクティア同盟が主導した制裁案は、最終的に『継続審議』とされ、ガフラヤサタ連邦との交渉の場の設置と、調査団の派遣が決議された。制裁は見送られたのである。

それは銀河秩序にとっての中庸な妥協であり、ケタサカ王国にとっては、見放されたも同然の結果だった。だが、静かな敗北の影で蠢いていたものがある。神聖旭日連邦帝国の大使は元老院の議場で、ただ一度だけ静かに息を吐いた。その所作の裏で、すでに神聖旭日連邦帝国はケタサカ王国への極秘軍事支援の準備を進め、宇宙軍連合艦隊の再配置を開始していた。ゼンメホ帝国もまた、一部の戦力を密かにケタサカ王国隣接宙域へと進出させているという報が、今朝方届いている。

平和を重んじるケタサカ王国は、そもそも軍事による抑止や外交に頼らずして星間国家の地位を築いてきた。軍は存在するが、その多くは災害対応や治安維持を主とし、対外戦争の準備には程遠い構成だった。だが、この王国にはもう一つの力があった。経済力だ。星間交易、ハイパー経済ルートの集積地、銀河有数の資源金融拠点……その規模は、天の川銀河の中でも五指に入る。ケタサカ王国を手中に収めれば、ガフラヤサタ連邦は一挙に銀河最大の経済圏を得る。それこそが、彼らの真の狙いだった。

そして、ついに侵略は現実のものとなる。敵艦隊は、第二植民宙域にまで侵攻。ケタサカ王国の外周基地『エルミレア』は昨夜陥落し、現地駐留部隊は全滅したと報告されている。通信は途絶し、司令部からの応答もない。敗北は、目前にまで迫っていた。王都アリエナスの王宮では、情報と報告が静かに積み重ねられていく。外交部は神聖旭日連邦帝国との緊急連絡ルートを確保し、極秘支援に関する調整を進めている。だがそれは、今まさにこの国が戦争の只中にあることを意味していた。

それは建国以来貫いてきた『戦わぬことによる繁栄』の終焉だった。この国は、武力よりも理性と合意を信じてきた。星々と交易し、文化を交流し、言葉によって争いを鎮める。神聖旭日連邦帝国が国交を結んだのも、この精神に惹かれたからだ。だが、理性は時に、力によって蹂躙される。

現実は残酷だ。銀河連邦の調査団と交渉の場が設けられるまでに、いくつの都市が焼かれ、いくつの命が奪われるのか。そしてその間、誰がこの国を守るのか。

王宮の高窓から見える空は、今日も青く穏やかだった。王座に座す女王、エルシアルフィーネケタサカは、一人静かに目を閉じた。華奢で繊細な容貌に似合わぬ強さが、その横顔には宿っていた。

その胸中には、答えのない問いが止め処なく溢れ出ていた。私はどうすればいいのだろう、民を守るために私は何を選ぶべきなのだろう。やがて、彼女はゆっくりと目を開け、空を見つめながら、誰にともなく呟いた。

「私は、この国の女王。平和を信じて生きてきた……だが今、戦火の中にこの身を置かねばならないのならば、せめてその決断が、民を未来へ導くものであるように……」

その声は誰にも届かず、王座の間にだけ響いた。

そしてその日、ケタサカ王国は静かに、しかし確実に、戦争という現実へと足を踏み出していった。

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