宇宙軍連合艦隊司令部
神聖旭日連邦帝国首都星系地球の宇宙空間浮かぶ巨大な軍事中枢施設。それこそが神聖旭日連邦帝国宇宙軍連合艦隊司令部である。それはまるで銀河の中心を象徴するような威容を誇っていた。神聖旭日連邦帝国宇宙軍連合艦隊の神経中枢であり、全艦隊の指揮命令が出されるのだ。その最深部重厚な防音隔壁で覆われた戦略会議室では、緊急通信が数分前に到達していた。差出人は神聖旭日連邦帝国宇宙軍総司令部つまりは、宇宙軍連合艦隊を統括する中枢である。そこには、確かにこう書かれていた。
「天の川銀河宙域情勢の急速な緊張を踏まえ、防衛体制の現状維持を優先しつつも、各方面艦隊における配置転換準備に入ると共に、宇宙軍連合艦隊の展開計画および戦力再編成案を検討せよ。」
命令の語調は慎重だ。しかしその裏にある意図は明白だった。ケタサカ王国を巡る事態の本格化に備え、帝国軍の中枢たる宇宙軍連合艦隊を[動かす準備]に入れ、ということである。
宇宙軍連合艦隊司令長官は、眉一つ動かさず命令文を読み終えると、沈黙のまま背後の作戦ホログラムに目を移した。宇宙軍連合艦隊はその広大な14000光年の領域に100個艦隊編成を維持し、各艦隊は超弩級宇宙戦艦大和級を旗艦として戦力が均等に割り振られている。だが今宇宙軍連合艦隊司令長官に求められているのはそれを再構成すること、つまりはある宙域に集中配備できるように、一部艦隊の再配備を伴う練り直しが急務であった。
「――戦略投影モードに移行。第11艦隊の現配備状況、及び第3、第5、第24艦隊の再編案を即時提示せよ」司令長官は確固たる決意で命令を下すと、参謀長を筆頭に参謀幕僚たちが即応し、宙図が塗り替えられてゆく。ケタサカ王国宙域に近い第11艦隊に、支援的に投入可能な機動戦力がどこにあるかが迅速に炙り出されていく。
この新たな構成下では、『外征対応艦隊銀陽戦団』という仮称の下で、以下の戦力群が統合運用されることとなった。
『外征対応艦隊銀陽戦団』
超弩級宇宙戦艦大和級3隻
艦隊主力戦艦アルタイル級12隻
超弩級航宙母艦セイオリオン級4隻
宇宙巡洋艦ノクティルカ級18隻
宇宙駆逐艦クレイヴァル級24隻
宇宙フリゲート艦セラフィム級40隻
宇宙強襲揚陸艦アグレイオン級2隻
ちなみに神聖旭日連邦帝国宇宙軍連合艦隊の艦隊基本編成は以下の通りである。
超弩級宇宙戦艦大和級1隻
艦隊主力宇宙戦艦アルタイル級4隻
超弩級航宙母艦セイオリオン級2隻
宇宙巡洋艦ノクティルカ級6隻
宇宙駆逐艦クレイヴァル級8隻
宇宙フリゲート艦セラフィム級10隻
宇宙強襲揚陸艦アグレイオン級2隻
この艦隊基本編成に比べると外征対応艦隊銀陽戦団は、かなり強化再編されていることが理解できた。その戦力は本格的な戦闘展開にも耐えるが、あくまで今の名目は「平和的監視と支援の為の抑止展開」である。宇宙軍連合艦隊司令長官にとって、この微妙な立場は逆に危険だった。誤っても、先制攻撃を仕掛ける口実を与える訳にはいかない。だが同時に、何かが崩れれば即座に戦端が開く。そういう地雷原の上を歩く展開でもあった。作戦部から提案されたのは、三段階展開である。
1. 戦力の段階的移動: まずは第11艦隊をケタサカ王国隣接宙域へ展開させる。名目上は「防衛演習」
2. 戦力の再配備: 後方艦隊、この場合は第3、第5、第24艦隊の一部を転属、外征対応艦隊銀陽戦団を編成する。
3. 宙域待機: 開戦シナリオに備えた臨戦態勢下での抑止展開を外征対応艦隊銀陽戦団に行わせる。
以上であった。宇宙軍連合艦隊司令長官は決断を下すと、作戦部からの提案を承認したのである。
そして宇宙軍連合艦隊司令部から通知が飛び、搭載兵装・乗員・物資・艦隊の最終調整が開始される。やがて戦略会議室では司令長官が緊迫する情勢を睨みつつ、静かに戦略通信を送信したのである。
「作戦コード[銀陽三段]を発動せよ。全展開は段階的に。武力誇示に留まり、挑発に乗るな。だが[万が一]には備えておけ」
こうして宇宙軍連合艦隊はケタサカ王国隣接宙域に展開する、第11艦隊を外征対応艦隊銀陽戦団に再編する作業を開始した。そしてその銀陽戦団はケタサカ王国隣接宙域に展開し、汎ゆる事態に備える事になった。
かつて幾千もの星が神聖旭日連邦帝国旗の下に沈んだように、再び、神聖旭日連邦帝国の意思が天の川銀河へと伸びてゆく。だがその先が『戦争』か、『平和の均衡』か、それを知る者はまだ誰もいない。