解説 神聖旭日連邦帝国2
『第1章[帝国という名の希望]
私がこの回顧録を記すにあたり、まず筆を置くべきは、やはりこの帝国の名であろう。[神聖旭日連邦帝国]この名を初めて耳にしたのは、私がまだ学徒であった頃。だがこの名に、いかほどの重みと、いかほどの歴史が宿されているか。それを知ったのは、私が政に携わるようになってからのことであった。
かつて、地球は争いと混迷に満ちた惑星だった。だが、歴史が転換したその日は、突如として訪れた。2053年1月1日人類は初めて[地球]という名の星に一つの旗を掲げた。幾千年の歴史を経て、国家という枠を越え、民族も宗教も超えて統一が果たされたのだ。新たに誕生したその超国家の名は神聖旭日連邦帝国。
地球の覇者となった神聖旭日連邦帝国はやがて太陽系全域への進出を開始し、その歩みは止まることを知らなかった。そして、西暦2076年3月24日その運命の日。人類は未知との邂逅を果たす。天の川銀河の中心、いて座A*より訪れた存在。それは、遥かなる時と技術を超越した異星の民エターナルナイトであった。彼らは我らに告げた。「お前たちは今や宇宙文明国たり得る。保護は終わった」この一言が、全ての始まりだった。彼らは保護者であり、観測者であり、審判者であった。我々が未開だった時代に、彼らは姿を見せず、だが常に背後にいた。いかなる侵略者も、いかなる災厄も、彼らの手によって取り除かれていたのだ。
エターナルナイトは我らに贈り物をもたらした。いや、それは贈り物と呼ぶにはあまりに重い。未来そのものを差し出したと言っても過言ではない。彼らが提供した技術は、伝説の書物の中にしか存在しないと思われていた神話的技術だった。
・エターナルエンジンとエターナルスラスター
・重力制御と反重力
・大規模建造とテラフォーミング
・ゲートウェイ技術通信と万能翻訳機
テラフォーミングにより、帝国は数千万に及ぶ星々を人類の第二の地とした。ゲートウェイにより、銀河の涯から涯へと瞬時に至るようになった。ゲートウェイは通信にも利用され銀河全域でリアルタイム通信が可能だった。翻訳機は脳波に直接言語を伝え、理解を齟齬なきものとした。そして、我々は応えた。光子力エンジンと光子力スラスターを独自に開発し、エターナルナイトにすら贈呈するに至ったのである。
かくして神聖旭日連邦帝国は拡大し、14000光年の領域に及ぶ銀河の大国となった。神聖旭日連邦帝国が併合した星間国家は52カ国、470種族にのぼる。だが植民地ではない。我々は彼らを地方自治体・属州として受け入れ、すべての種族に人類と同等の権利を保証した。連邦議会は27万3000名の議員を抱え、内閣総理大臣は種族を問わず選出される。その中で私は、200年ぶりに選出された人類の総理大臣である。我々の時代、銀河における経済大国は神聖旭日連邦帝国と、ガフラヤサタ連邦であった。毎年のように経済順位が入れ替わるほどに拮抗し、ナタアワタ共和国、ゼンメホ帝国、ケタサカ王国が続いた。
中でもゼンメホ帝国は唯一の正式同盟国であり、神聖旭日連邦帝国との間にゲートウェイが建造されたことで、経済は飛躍的に成長した。だが我らは、形式上は同盟を結ばぬエターナルナイトとの関係を、事実上の同盟と認識している。1500年が経ち、我々は一つの節目を迎えている。拡大する国土。多様な民。積み重なる責務。私は、神聖旭日連邦帝国という名のもとにこの銀河がいかなる未来を紡ぐのかを、静かに見つめている。
私たちは今宇宙のただなかに立っている。
そしてこの帝国は、かつて地球という青い星に芽吹いた、小さな希望の結晶なのだ。
帝国の歩みを語る上で、戦争を避けて通ることはできない。私が生を受けた時代それはすでに、神聖旭日連邦帝国がを天の川銀河で責任ある大国になっていた頃だった。だが栄光の影には常に、幾多の犠牲と苦難が横たわっている。かつて神聖旭日連邦帝国が併合した52の星間国家の多くは、血をもってその帰属を決した国々であった。それらの戦争はすべて[帝国の正義]の名のもとに遂行された。エターナルナイトから授かった技術は戦争の形を一変させ、戦術、戦略、さらには外交までもが一新された。
宇宙戦争における距離は、もはや意味をなさない。
重要なのは「どこに、どれだけ、どれほど早く」戦力を投射できるかであった。私は政務官としてその様子を観察し、内閣参与として決断の傍にいた。そしてついに、前総理の辞任と共に神聖旭日連邦帝国帝国史上最年少の女性総理大臣として、帝国の舵を握ることとなった。私が総理に就任したのは、帝国歴1499年のことである。その年、私はわずか85歳であった。若いと感じる読者もいるかもしれないが、星間医療の進歩によって人類は250年が一般的な寿命とされている。私の就任は、人類の中で若い年齢での就任とされた。私が総理に就任した当初、最も懸念されたのは、ゼンメホ帝国との関係の深度化であった。彼らとの同盟は正式なものであり、ゲートウェイの建設を通じて経済交流も盛んとなった。だが、脆弱な軍事力と過度な依存体質が露呈し、同盟内での役割分担を巡る調整が必要となった。私は[自立的共存]という新たな外交理念を打ち出した。ゼンメホ帝国に経済支援と軍事技術の一部移転を行い、自衛能力を一定水準に引き上げたのだ。
他方で、ガフラヤサタ連邦との経済競争は激化していた。帝国が首位を維持した年もあれば、連邦に追い抜かれた年もあった。だが、それがいい。私はそう信じていた。競争がなければ、国家は澱む。銀河は腐る。我らは常に挑まれ、競われ、試されねばならぬ。なぜなら、我らは帝国なのだ。内政においては、最大の課題は多種族議会の統制であった。27万3000人の議員たちは種族も文化も思想も異なり、その中で一つの方向性を打ち出すことは、至難を極めた。だが私はそれを、「混沌ではなく、豊穣」と見なした。帝国議会における討議は、あたかも星々の歌声のようであった。鋭く、熱く、時に暴風のごとく荒れたが、そのすべてが帝国という船を前に進める風となった。
それでも
時に、私は夜毎に悩んだ。本当にこの道は正しいのか。技術に頼り、拡大を続けるこの国家の形は、いずれどこかで破綻するのではないか。人類がまだ地球で空を見上げていた時代の、慎ましさと畏れを、我々は失っていないか、と。その時、私は彼らの姿を思い出す。浮遊する銀翼の船、金と白に輝く身体、そしてどこか寂しげな仮面をつけた彼ら――エターナルナイトを。彼らは、なぜこの帝国を選んだのだろうか。その問いに、私は今も答えを出せずにいる。けれども、私は信じている。帝国は、誰かがくれた未来を歩むだけではない。己の手で、未来を刻む存在でなければならない。私は、この星の時代に生きた者として、この帝国と共に生き、共に戦い、そして共に夢を見た者として、この記録を後世に残したい。
星々の未来に、願いを込めて。』
スカーレットアリス著
『回顧録:星の時代に生きて』より一部抜粋
良い感じの回顧録が書けました。