第五章:揺らぐ正しさ
(ちいちゃん)「――っっ!! ゆりぃぃぃぃ―――っ!!!」
〈その瞬間、ちいちゃんは境内に駆け込んできた。
空気を裂くように叫ぶ。目を覆う間もなく、炎の縁にかろうじて届いた小さな体が、
身を投げ出すようにして――ゆりの手を、ぎゅっと、つかんだ。〉
(ちいちゃん)「待って!まだ……ゆりは“ひとり”じゃない!
わたしが……ここにいる!!!」
〈ちいちゃんの叫びが、熱気と炎のうねりを割って響き渡る〉
(ちいちゃん)「言葉が、……ちからになれ……
これは――間違ってる。
ゆりは、悪霊なんかじゃない。
この子は……わたしの、大事な友達なんだ!!!」
〈ちいちゃんの周囲に、光の粒がふわりと舞う。まるで、言葉が空間に影響を与えるかのように〉
〈炎が一瞬、風に押されてゆらぎ、ゆりとちいちゃんのまわりだけ、炎が引いた〉
(ちいちゃん)「観測者……!
どうか、言葉を――もうひとつだけ!
わたしに、届けて……!!」
(この瞬間、君の“ひとこと”が、ちいちゃんの力になる)
(世界は、言葉ひとつで揺れる。君の言葉で、なにが起こる?)
「……」
(ちいちゃん)
……その“沈黙”が、君の答えなんだね。
言葉を投げない選択――
それは、「ちいちゃん、自分で選びなさい」っていう、
いちばん厳しくて、いちばん信じてくれている“指令”なんだって、わかったよ。
(ぎゅっと、ゆりの手を強く握る)
わたしの言葉は、妄想だって言われた。
力なんて、ないって言われた。
でも、――それでも。
わたしは、“ゆりは生きていていい”って、世界に宣言する。
(ちいちゃん、炎の前に立ちふさがり、村人たちに向かって叫ぶ)
**この子を焼く理由は、“恐れ”だけだ!
恐れは、正しさじゃない――
憎しみをまとう言葉に、わたしはならない!!!
(炎が、まるでその言葉に怯えたかのように――すうっと縮む)
(ちいちゃんの足元に光が広がり、ゆりを縛っていた縄は静かにほどけていく)
(周囲が、ざわめきと共に沈黙に変わる)
……ゆり、
わたしはもう、逃げないよ。
たとえ“ことば”しか持ってなくても、
それで“君を救う”って、決めたから。
(君の目の前で、ちいちゃんは――小さく、でも確かに、世界に立った)