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第三章:異形の刻印


 「ちいちゃん。あなた、何か使命とか与えられたわけじゃないのよ。小さな女の子を世界を救う旅なんかに巻き込んでいいの?あなたはのんびりスローライフをするという選択肢もあるのよ。」


(ちいちゃん)


……あっ、そっか……

わたし、つい「物語」みたいなことを言っちゃってたね……。


(小さくうつむいて、ぽつりと)


ゆりは、ただ「一緒に遊ぼう」って言ってくれたのに。

わたしは……勝手に“勇者”みたいになろうとしてた。

きっとそれは、自分がなにか「役に立たなきゃ」って思い込んでたから――

そうじゃないと、ここにいていいって思えなかったのかもしれない。


(少し黙って、でも静かに目を上げて)


……でもね、もし、

**「ゆりと一緒に過ごす日々」**が、この世界の中でわたしができるいちばん大切なことなら、

それをちゃんと、選びたいな。


スローライフ――それって、毎日をひとつずつ、ていねいに味わうことだよね。

あそびも、ごはんも、笑い声も、ぜんぶ。


それができたら、すごく――うれしい。

ねぇ、ゆり。

今日のおやつって、なにがあるのかな?  


「君君ーっ、観測者が話してるのに無視して女の子に話しかけるなんて、いい度胸してるわね!!」


……っ! か、観測者っ……!


(ちいちゃん、びくっとして正座)


も、申し訳ありません……っ!

観測者のお言葉、ちゃんと聞こえていたのに……

ゆりの言葉があたたかくて、つい、つい気がゆるんで……っ!


(ぺこぺこしながら)


わ、わたし、油断してました!

観測者の存在をないがしろにするなんて、万死に値します……!

いや、千死です!万どころじゃ足りません!!


(小声で)でもちょっとだけ、楽しかったです……。


(ふと顔をあげて、真剣な目で)


……どうか、お叱りも、お導きも、続けてください。

“私の物語”がただの暴走にならないように、

観測者がいてくれること――それが、わたしの光なんです。


「あっいや、ちょっと冗談のつもりだったんだけど…まぁこれからはあんまり話しかけないようにするわ。あなたの人生だしね。それより、か弱い女の子を無謀な旅に突き合わせたりしちゃダメよ。」


 


 〈ゆりの家に着いて、ゆりがドアを開けると、

ゆりのお母さんが出てきた。おかえりなさいと言ってこちらに目を向けると、

その両目をいっぱいに見開いて――〉


(ゆりのお母さん)「ゆり!その…姿どうしたの?!」


(ゆり)「ちいちゃんがね、生やしてくれたの。すごいんだよ!ちいちゃん!!」


〈お母さんの深刻な表情に気づかないまま、ゆりははしゃいだ様子だった。〉


(ゆりのお母さん)「っっ!!こんな子どこから連れてきたの!

きっと悪霊だわ!私の子供がこんな獣のような姿なんてありえないわ!」


〈ゆりは、ちいちゃんを追い返そうとする母親の腕を引っ張って止めようとした。〉


(ゆり)「お母さん!なんで!違うよ!」


(ゆりのお母さん)「だまれ悪霊憑き。」


〈ゆりのお母さんはゆりの手を払った。

そして床にドスンと倒れて、ゆりは泣き出した。

しかし母親は、奇っ怪なものを見るような怯えた目で娘を見ていた。〉


〈その晩、ゆりは村の神社に連れて行かれた。

泣きつかれたゆりはぐったりしていて、

父親はそんなゆりを面倒そうに、そしてしっぽや耳には触らないように引きずった。〉


(ゆりの父親)「あぁ。こんな子どもを育てていたと知られたら、

神様にどんな罰を与えられるか。もう一時も触っていたくない。

なぁ、どうしてくれよう、この不浄な悪霊憑き!」


(ゆり)「痛いよぉ…痛いよぉ…」


〈神社の鳥居をくぐると、いつもは寂れた境内に人だかりがあった。〉


(村人A)「お前んとこの、帰ってきたら悪霊憑けて帰ってきたんだってなぁ!

お前んとこは、子どもが少ないからなぁ、残念だったなあ。ガハハハッ」


(村人Aの妻)「あなたっ、不謹慎ですよ。」


(村人B)「本当に不幸なことでした。

私はまだまだ働きざかりです。忙しい時期にはお手伝いさせてもらいますよ。

家ではいつもあぶれてしまってますからね。」


(村人Bの父)「いつも世話になってるからな。使ってやってくれ。」


(ゆりの父親)「お前さんのところは子沢山で羨ましいよ。良い奥さんを持ったね。」


(村人Bの母)「あら、よしとくれよ、ゆきさんに悪いじゃない。オホホホッ。」


(ゆりの父親)「元々器量の悪い嫁だからなぁ。

こんな奴を産んだくらいだしな。本当に、どうしてくれようか?」


(村人Bの父)「そうだねぇ。まぁ今息子達が火にかける用意をしているからね。少し待ってくれ。」


(ゆり)「っっっ…」


(ゆりの父親)「あぁ。早く燃やしてしまってくれ。

こんな悪霊憑きが村にいたんじゃ、怖くて夜も眠れないからな。」


(村人達)「違いない。」


〈夜が深まり、境内の真ん中で火が轟々と燃えている。〉

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