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第四話:隠れ家求め、神行探索

第四話:隠れ家求め、神行探索


血と土煙に汚れた大地に、梁山泊の百八星が立っていた。最初の戦いは、想像以上に一方的な勝利に終わった。周囲には倒れた敵兵の死体が転がり、血の匂いが漂う。倒れた敵兵の顔には、飢えや苦しみと共に、梁山泊の力に対する絶望が刻まれている。戦場には、破壊された粗末な武器だけが残されていた。勝利の興奮はすぐに冷め、彼らは再び見慣れぬ異郷の風景の中にいる自分たちに気づく。風が、血の匂いと乾いた土埃を運んでくる。辺境の厳しい太陽が、容赦なく彼らを照りつける。圧倒的な力を持つ自分たちだが、拠点はなく、この世界の何も知らない。勝利の後の現実と、次にやるべきことへの意識が、彼らを支配していた。


「怪我人の手当てを急げ!物資を確認しろ!」


安道全が、医療班を率いて負傷した梁山泊メンバーの元へ駆け寄る。彼の手当は迅速で的確であり、まるで魔法のように傷が塞がっていく様子に、他のメンバーは安道全がいかに頼りになるか改めて感じていた。死にかけだった者が、彼の治療を受け、かすかに息を吹き返す。梁山泊の医療チートが、早くも実戦で機能していた。湯隆らは、血に濡れた武器や壊れた鎧の確認を始めている。鍛冶担当の彼らにとって、この世界の鋼がどのような質かも気になるところだ。食料担当のメンバーは、倒れた敵兵が持っていたわずかな食料を回収している。荒廃したこの辺境では、食料そのものが貴重だ。水軍衆も、水辺が少ない中でどのように貢献できるか、模索している様子だった。梁山泊という集団は、戦う者だけでなく、様々な役割を持つ者たちが集まった、多角的な「力」である。


宋江は、戦いの終わった大地を見渡しながら、呉用と共に立っていた。第三話で、この「力」で「義を天下に示す」と決意したが、その力の自覚は、同時に言い知れぬ重圧を伴っていた。李逵のような制御不能な暴力。圧倒的な勝利と、そのために奪われた命。この力を、本当に「義」のために使えるのか。どこへ向かうべきか。勝利の安堵と、この力への重圧、そして次にやるべきことへの思考が、彼の心に去来する。力だけでは足りぬ。この乱世を変えるには、何が必要なのだ?呉用はそんな宋江の様子を見守りながらも、冷静に状況を分析している。その知的な瞳の奥に、この未知の世界への探求心と、梁山泊という集団への確かな期待を宿らせていた。


「頭領、まずはこの場所が安全でないことを認識せねばなりません。今回の敵は弱小でしたが、いずれより強力な勢力に目をつけられるでしょう。どうやらここは涼州という辺境で広大な様ですが、この辺りは荒れており、食料や水を見つけることすら困難の様でもあります。このままでは、じり貧となります」


主要な頭脳(宋江、呉用)と、一部主要メンバー(李逵、魯智深、武松、林冲、関勝など)が集まる簡易会議。荒涼とした大地を前に、彼らはこの世界の厳しさを改めて共有する。この地で苦しむ民がいること、その苦しみが梁山泊の課題(食料、情報、拠点)とどう結びついているのかも、彼らは肌で感じ始めていた。


「我々が生き残るためには、安全な拠点が必要です」と呉用が続ける。「山がちで、水辺も近く、外敵から身を守れる要害の地が望ましい。しかし、このような好条件の場所は、既に他の勢力が抑えている可能性が高い。見つけること自体、容易ではありません」


「難しい話は分からねぇ!また戦いか!?」と李逵が斧を振り回す。第三話での興奮がまだ残っているようだ。「次もぶっ飛ばしてやりますぜ、兄ちゃん!」


「うるせぇ鉄牛」と魯智深が軽く李逵の頭を叩く。「今度は戦いより厄介かもしれんぞ」。武松は静かに頷く。「力だけでは、この世は渡れぬ、ということか…」。林冲は険しい表情で大地を見つめる。「拠点か…かつて追われた身としては、安住の地が必要だ…」。関勝は腕を組み、思案にふける。「この地で、いかに足場を築くか…」。彼らは皆、今後の困難を予感しつつも、どこかこの挑戦への前向きさも感じていた。「でも、自分たちならできるはずだ!」。梁山泊らしい、逆境への強さ。


「そして何よりも、我々がどこにいて、この時代がどうなっているのか、周囲にどのような勢力がいるのか…情報が決定的に不足しています」と呉用が強調する。「この時代の情報網は未発達の様です。伝令は遅く、情報は不確か。都からの確かな情報が届くのに数ヶ月かかることも珍しくないでしょう。我々はこの広大な闇の中を手探りで進むしかないのです」もう、現状の情報伝達の限界を呉用は理解していた。


宋江は、仲間たちの顔と呉用の言葉を見つめた。圧倒的な力を持つ自分たちだが、情報は足りない。この世界のことを知らねば、どこへも進めない。そして、この「力」を正しく使うこともできない。「義を天下に示す」。その道の第一歩は、この世界のことを知ることだ。力だけでは足りぬ。情報と知略が必要だ。この認識が、彼の心に刻まれる。


「情報、か…」宋江が呟く。


「情報収集に長けた者たちを集めろ」


宋江の指示に、呉用が頷く。すぐに、梁山泊が誇る「目と耳」、戴宗、燕青、時遷が呼ばれる。彼らは、この任務が自分たちにしかできないことを理解している。


「皆の者、頼むぞ」と宋江が彼らに向き直る。彼の瞳には、この任務への強い期待と、彼らへの絶対的な信頼が宿っている。「この地を探索し、我々梁山泊が拠点とすべき場所を見つけ、そして、この世界の情報を集めてきてほしい。他の者にはできぬことだ。お前たちの能力が、今、梁山泊の未来を切り開く」


呉用が、彼らに具体的な指示を与える。この涼州という辺境の範囲、主要な街道、都市、そして有力者達の動向…彼らの間の関係性、兵力、弱点…今後の戦略に不可欠となる具体的な情報の「種類」を、今後の伏線として含ませながら指示する。呉用の頭の中には、既にこの情報を基にした計画の萌芽がある。宋代の地図作成技術や計測技術といった知識が、情報収集の効率を高める可能性も示唆される。


戴宗は、黒い装束をぴしりと締め、深く頷いた。彼の足元に、微かな光が宿り、体が軽くなる。神行法。風のように駆け、霞のように消える。この時代の常識を覆す速度。


燕青は、懐に潜入道具を確認しながら、どこか楽しげな表情を見せる。「どんな面白い奴らに出会えるか…」。この時代の言葉や習慣に戸惑うだろうが、彼の多才さ、人たらし、そして変装の腕が試される。


時遷は、身軽な構えを見せ、いつでも飛び立てる準備ができている。「宝探しみてぇだな…」。彼の軽功と盗賊スキルが、見えない情報を盗み出す。


「御意。必ずや、最高の情報と、最高の場所を見つけて参ります!」


戴宗が代表して、力強い返事と共に、他の二人と顔を見合わせる。彼らのプロフェッショナリズム。梁山泊の情報チートが、いよいよ本格的に始動する。


簡潔な言葉を残し、彼らはそれぞれの任務を開始する。戴宗は、その場に立ち、一瞬で視界から消え去る。燕青は、人目を避けるように静かに物陰へ移動し、周囲に紛れ込む。時遷は、地形を活かして素早く身を隠し、岩陰を伝って姿を消した。


広大な涼州の大地へ、梁山泊の「目と耳」が放たれた。情報は力。この時代の混沌を乗り越え、天下に「義」を示すために、最も必要な力。残された梁山泊のメンバーは、彼らが吉報を持ち帰ることを信じて待つしかなかった。彼らの足が、梁山泊の、そしてこの乱世の未来を切り開く。

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