婚約破棄は出来ません。~王女と補佐官、たった二人の戦争~
ほぼ台詞劇です。
婚約破棄出来ませんでした。。。
「結婚が決まりました」
国王の首席補佐官、ヴァイオスが言った。
私、アルティアは愕然とした。
遂に来た政略結婚・・・。
国王の娘である以上、避けられないと思ってはいたけれど・・・。
「嫌です」
「嫌は通じません。して頂かないと」
「でも相手のフェルナルドは愚鈍な男だと聞いてるわ。そんな男の妻になれと?」
「だから良いのではありませんか」
「私に、夫を隠れ蓑にして宮廷を牛耳ろと」
「はい」
「・・私、危ない目に遭うんじゃない?」
「上手くやって下さいね」
「ね、じゃないわよ」
「王女殿下、本来であれば、このような説得は不要です。国王陛下が一言、行け、と仰れば、貴方は行くしかありません」
「私は道具」
「左様です。貴方は、そのように教育されている筈です」
「けれど、人間というのは、そんな簡単に割り切れるものではありません」
「それは、、そうでしょうが」
「そうですよ」
「・・・」
「・・・」
「わかりました。陛下の命令書を持って参ります」
「ちょっ、そこまでしなくてもいいじゃない。父に、こんなことで命令されるなんて嫌よ」
「嫌ばっかりですね」
「なんですって」
「私もそんなに暇じゃないんですよね」
「じゃあもう行きなさいよ」
「そういう訳には」
「どっちなのよ」
「結婚すると言ってください」
「嫌よ」
「・・・・」
「今こいつ面倒くせえって思ったでしょ」
「何で分かるんですか」
「そんな顔してたわ」
「出てましたか」
「出てましたよ」
「・・・」
「・・・」
「ま、兎に角、嫁に行ってください」
「嫌」
「分からない人だなあ」
「なにその口の利き方」
「・・王女殿下に於かれましては、婚姻の儀式をつつがなく遂行して下さいます様、切に願い、存じ、たて、たてまつり、ます」
「無理やり馬鹿丁寧に言わなくていいから」
「はあ」
「・・・おかしな人ね、あなたって」
「なにがですか?」
「私、前からあなたの事、結構好きだったのよね」
「・・・それって、、、何をどこまで・・・どういう・・?」
「目が優しくて、可愛いなって」
「おじさんですよ」
「でも可愛い顔してる」
「おじさんが好きなんですか」
「かも知れないわね」
「・・・」
「そんな困らないでよ。ちょっと言っただけじゃない。雑談よ」
「左様で。じゃあ、可愛い私に免じて行って下さいますか」
「嫌」
「殿下」
「なに」
「いい加減にして下さい。本当に父君に命令して頂きますよ」
「・・・納得できないの」
「言いなりになる人生が、ですか」
「そう、、そうよ」
暫しの沈黙の後、ヴァイオスは、静かに微笑んだ。
「確かに、貴方にとっては、理不尽な話かも知れません。ですが、ひとつ言える事があります。貴方が結婚することで、両国は無理な戦争をしなくて済みます。多くの兵士たちが死なずに済み、多くの民の生活が守られます。それは紛れもなく真実です」
私は、何も言えなかった。
「貴方は、そういう立場に生まれた。これは結婚ではなく、貴方にとっては戦争です。たった一人で、戦って頂かなくてはなりませんが。どうか、貴方の力で貴方の民を守って下さいませんか」
私は、すぐには答えられなかった。
すべては、彼の言った通りだ。自分は良い生活をし、良い教育を受ける立場に生まれた。故に義務は果たさねばならない。それは解っている。けれど、どうしても割り切れない気持ちが残る。
私は、歯を食いしばり、ヴァイオスを見た。優しい顔をしている。もしかすると、彼にも父にも、それぞれの戦争があるのかも知れない。内心で、どんな葛藤があるのか、知りようも無いが。
「戦争、、ですか」
「はい。貴方の戦争です」
私は、腹をくくった。
「承知しました、と、父に伝えて下さい」
ヴァイオスは、かすかに目を見開き、控えめに微笑んだ。
「畏まりました」
婚姻の儀式はつつがなく進み、嫁ぐ日となった。
私は、白いドレスに身を包み、城を出て行く。
皆、整列して送り出してくれる。
「王女殿下」
後ろからヴァイオスの声が聞こえた。
「行ってらっしゃいませ」
私は、振り返った。
「行ってきます」
一瞬目を合わせて、私はまた歩き出す。
そうだわ。
私は、くるりと向きを変え、ヴァイオスに駆け寄った。そして彼の頬にキスをした。
皆、ざわめいたが、どうせ、私はもう出て行く。
「行ってくるわ。私の戦争に」
彼に、そう囁いた。
ヴァイオスは、熱く私を見た。
「ご武運を」
そう、言った。
私は、胸を張って歩き出した。
終
恋愛の話を書こうとしたらこうなりました。
これはこれで良いかなと思います。