第32話:父
俺の父さんを一言で表すなら『ずぼら』が一番あっているだろう。
着替えをすれば、脱いだものはその辺に捨て置く。
料理をすれば使ったものは放置、キッチンの回りも掃除しない。
掃除をさせれば見えるところはやるが、ちょっとでも隠れていれば炬燵の下すら掃除機をかけない。
一人で生活させていたら、ゴミ部屋が誕生していたのではないかとすら思うくらいには、父さんはずぼらである。
ただし、それは日常生活に限った話である。
例えばサッカー。
プロとして活動していた数年前までは、キャプテンマークを背負い日本代表のサイドバックとして活躍していた。
当時、ワールドカップの試合を現地にまで赴いて、父さんのことを応援していたが、10も20も身長の高い海外の選手をものともせず、スピードとボールコントロールで攻め上がり、クロスを供給する姿はとてもカッコよく見えた。
ディフェンスでも、合気らしき技を使い上手く相手のバランスを崩しボールを奪うなど、世代トップの選手として名をはせていた。
父さんがプロをやめることになったのは歳と怪我が原因だが、怪我がなければ今でもプロの世界で活躍していたかもしれない。
父さんの率いていたチームの雰囲気もとてもよく、父さんも周りとよく話し、監督と選手間のバランスを上手い事取っていたらしい。
結局ワールドカップはベスト4で負けてしまったが、それでも日本代表としては快挙だったという。
ちなみに、怪我は既に完治していて、監督をしながら選手に交じって練習をしていることもあるらしい。
監督としても、リーダーシップを発揮し、采配はとても評価されている。
元がディフェンスでありながらも、本人がオフェンスも兼任していたためどちらかに偏ることなく、バランスの良いチーム作りをしているそうだ。
また、日本では珍しい完全なポジショニングサッカーを目標としていて、良いメンバーがそろった一昨年にはポジショニングサッカーでJリーグを優勝していた。
ただし、初めに言った通り、家ではただひたすらにずぼらである。
今も凄い寝ぼけた表情で俺の前で朝食を食べているが、口の周りに卵の黄身をべったりつけ、少し前にはコーヒーもこぼしていた。
「父さん。口の周り汚いよ」
「ん?そうか」
そう言うが、結局拭くことは無い。
今までもそうだった。
「今日もゲームやるのか?」
父さんはスマホから目を離し、俺の方を向いた。
恐らくニュースを読んでいたのだろう。
「うん。今日もゲームはやろうと思っているよ。結構楽しいんだ」
「それなら初めて良かったな。でも、勉強の方もおろそかにはするなよ」
「父さんに言われたくはないな」
父さんはサッカーの推薦で学校に通う‥‥と言ったことは無く、クラブチームの提携校に通っていたのだが、そこで英語以外の教科全てで赤点の常連だったらしい。
正直、俺の学力を知っている人にいったとしても、今まで信じてもらえたためしはない。
「ははは。それもそうだな。まあ、俺みたいに一つの事に打ち込んで、それを仕事に出来るならいいんだよ」
「仕事に出来たから良かったものの、出来なかったら今頃悲惨だっただろうね。俺も産まれていないし、母さんとも結婚できていなかっただろうし」
本当に父さんはどこかで野垂れ死にしていたとしてもおかしくはなかっただろう。
父さんからサッカーを取ったらただのだらしなくずぼらで学もない人間だからな。
「俺みたいに一つの道にしか進めない訳じゃないんだ。お前はちゃんと勉強して、運動もして、どんな道でも進めるように頑張れ」
「———ああ」
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次話の投稿は未定ですが来週月曜の6時に投稿する予定です
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