第9話『厨二病の魔法少女』
ここからは我の一人語りだ。多少の回想はあるが基本的に他愛のなち会話シーンなど入れないつもりだから覚悟してくれ。では話を始めようと思う。
我が名は蝶野響、女子高生兼厨二病兼魔法少女だ。
一応コレだけは言うが、自分が厨二病なのは自覚している。むしろ“これが普通なんだ”と思ってくれた方が個人的には傷付かない。何せコレをやめると悪人が寄って来るからな、それを防ぐ為の自己防衛だ。はたから見れば変人かもしれないが、おかげで悪人は寄って来なくなったんだ。
その代わり、善人も寄って来なくなったがな。
さてと、自己紹介も済んだ事だし何か思い出話でもした方が良いのだろうか? 我はこの言動以外は至って普通の女子高生だから、大した話は出来ないんだが……
でもまぁ、それでも読んでくれれば満足だ。
「さてと、帰るとしようかな」
本当に何気ない一日になるはずだった。我は魔法少女として活動してはいるが、それ以前に女子高生。勉学をサボる訳にはいかないからな、こういう時は真面目にしなくては。
「……………………」
何か“嫌な気配”を感じる。しかも既に被害が出てる時のネガティブな気配も一緒だ。こういう気配は魔法少女になってから手に入れた魔法の一つなんだが、我の性格に合わせたのか非常に厄介な魔法なんだ。
「……はぁ」
我は今日も騒動を起こすのかと既に諦めながら、カバンから二体の“まぞく人形”を取り出す。これも我が魔法の一つ、気配を探り出す探知魔法のアイテムだ。
「さぁリリー、悪き気配の根源を探すんだ。系統は…… イジメだ」
まぞく人形の探知担当“リリー”、彼女は善悪の気配を探り出す警察犬の様な役割を持っている。もし見つけたらもう一体の人形“アスセナ”に場所を伝えてくれる。
「さてと…… 魔法少女が学校の廊下を壊す出来事があったんだ。当事者へのリンチがあっても、何もおかしくないはずだ」
魔法少女の力なんて、たとえ人助けで使ったとしても良い目で見られない。ましてや変身していきなり天井と教室を壊す魔法少女を目の当たりにした場合、裏でリンチに遭うのはごく自然。
その流れに便乗して、当の本人ではない者をイジめているのが目の前にいる。一人の女子が一人の女子を静かに攻撃して、周りにバレないよう慎重にやっている。
「おい、何やってるんだ」
我が姿を晒すだけでイジめてた奴は焦りながら退散する。やはりイジメをする奴は皆、本当はものすごく臆病なのかもな。ちょっと見られただけでバッチリ動揺している。とても分かりやすい奴め。
「大丈夫か、立てるか?」
リリーとアスセナが腕を引っ張ろうと近付くと、彼女はソレを振り払って立ち上がる。
「ふん、別にアタシ一人で立てるから」
そう言いながらスッと立ち去ろうとする、少し陰気くさくて無愛想な少女の事を我は知っていた。
彼女の名は小野寺満里奈。入学時から存在感がとても薄かったのだが、それはどうやらイジメを受けていたからみたいだ。クラスに助けられる事も先生に守られる事も無く、彼女はただひたすら耐えるだけの日々を送っていたのかもしれない。
それにしても彼女…… いや、満里奈からは我と似たモノを感じるんだが、まさかアレなのか?
「それは失礼したな。ところでさっき何かを振り払う素振りをしてたんだが、ソイツらは魔法少女にしか見えない物だ」
「えっ、ウソォ⁉︎」
まぁ本当の事を言うと嘘だがな。満里奈が魔法少女かもしれない疑惑を確信に変える為、少しカマをかけてみた。
「へぇ…… 感触とか、全然本物みたいなんだけど」
ほぉ、驚きながらもリリーを触ってくれるのか。それにしてもほんの些細な嘘をアッサリと信じてしまうあたり。随分とピュアなんだな、満里奈は。
「つまり、これでお互い魔法少女なのが分かった訳だ。立場を理解した上で聞きたいんだが……」
リリーを揉みながら聞く姿勢をとってくれる。せめてアスセナも可愛がってほしいが、言わないでおこう。
「さっきの女が何者か知ってるか? 一般人なのか魔法少女なのか、どっちか分かるか?」
「んなの知るか。コッチは身を守るので精一杯だっんだしさ……」
「つまり君の魔法は戦闘面では役に立たないのか? 魔法少女なら反撃してもアイツらが隠蔽してくれる。たとえ爆裂魔法だろうが、きっと完璧な隠蔽をしてくれるはずだ。実際に我は一度だけ八王子駅で派手に電車一本吹き飛ばした事があるが、この通り生きてるし何も咎められてないのは確かだ。君も自身を守る事に専念せず、身を滅ぼす前に魔法少女として反撃に出るべきだ」
しかし彼女はあまり良い反応を示さなかった。いくら魔法少女とはいえ一般人に危害を加えるのは気が引けるという訳だな。ならば少しでも焚き付ける必要があるな、彼女の未来を少しでも良くする為にも。
「言っておくが満里奈、お前がそのままでは相手が一向にやめないんだぞ。それはお前自身もよく分かってるだろう?」
「それは、分かってるけど……」
どうも我だけでは最後の一押しは無理らしい。やはり初対面の人に対していきなり説教されてる状況だからか、あまり胸の奥にまで響いてないのだろう。これでは横の繋がりが無い我自身も困ったものだ。
『あれ〜、なんか魔法少女が一人増えてるじゃん』
どうやらさっきの女生徒が戻って来たようだ。満里奈は彼女の顔を見るなり、顔が引きつり青ざめて怯えだし、その場に硬直してしまう。この怯えようだと相当に満里奈を痛め付けてるみたいだな、あの女。
「魔法少女を二人まとめて退治したら、私かなり幸せになれるのかなぁ? どうかなぁ?」
「さぁな、やってみなきゃ分からないだろ?」
満里奈が恐怖のあまり、ガッチリと我の脚に掴まってくる。それをチラ見した女生徒は狂った笑顔で魔法少女に変身してすぐに大量の紙を構えだした。
「オイお前ェ‼︎ 先輩にタメ口してんじゃねェー‼︎」
狙いを定める事もせず、デタラメに手紙を投げ付ける。我にとってあの魔法少女とは初対面だし投げられた手紙に興味がある。
「ふん、こんな紙きれ…… 避けるまでもないな」
無防備で紙を受け止めたが、全くと言っていい程にどこも痛くない。手触りは紙そのものだし、どれも簡単に破ける。
「フフフ、フハハ…………」
「どうした、何がおかしい?」
薄々だが嫌な予感がしてきた。さてはこの魔法少女、この手紙に何か仕込んでいるな。
「お前は今、不幸になった‼︎ 私の魔法が込められた“不幸の手紙”を、沢山受け取った‼︎ ソレは触れば触る程に不幸になる最悪の魔法‼︎ ソレをお前はざっと二十枚は触った‼︎ そしてこれからお前に起こるであろう不幸は、階段から転げ落ちたり財布を盗まれたりするよりももーっと悲惨な目に遭う‼︎ 今日中に、必ずだ‼︎」
ほう。他人を不幸にさせるとはコイツ、“女”を最大限に発揮しているな。
ここからどんな不幸が襲ってくるかと、想像するだけで脚がすくみそうだ。我は魔法少女ではあるがそれ以前に怪我をするからな。ヤツの魔法で事故に巻き込まれたりしたら、流石におしまいだ。
さてこの状況、どうしたものか。
「おい、あの手紙に当たってないよな?」
「ごめん、何枚か触っちゃった……」
「何やってんだ‼︎ アイツは敵なんだから気を付けろ‼︎」
「んんッ……‼︎」
我の焦ってる声を聞いた途端、満里奈が頭を抱えながら萎縮してしまう。なるほど、これが満里奈に対するヤツからの“不幸”なんだな。
「あーあ、つまんないな」
「……つまんない? 何故そんな事を言う?」
「はぁ〜、だってさ…… そいつ元から不幸なヤツじゃん。不幸なヤツ程に私の魔法は無意味になってくんだもん。人を不幸にする魔法なのにさぁ、そもそも不幸なヤツに使うとか意味不明じゃん?」
「……確かにな。マイナスにいくらマイナスを足しても、プラスにはならないからな」
しかしおかげで良い事を聞いた。満里奈に魔法をかけたとしても元々不幸だから効果が薄いと。つまりヤツの魔法は、幸福な人程に絶大な効果を発揮すると。
「さてこの状況、どうしたものか…… 我は大量に不幸を浴びてしまったし、満里奈も不幸を少なからず浴びてしまった。こういう時は“絶体絶命”と言うべきか……」
「……………………」
運気を下がられた以上はどうしようもない。だがもし他人を不幸にする手紙が一度きりの代物だとしたら?
何かしらの不幸に遭えば、その効力を失うとしたら?
「……クソッ、どうしてアタシばかり」
ふと背後から殺気。振り向いた時にはもう遅かった。
「アタシばかりッ‼︎ どうしてこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよッ、どうして、どうしてッ‼︎」
パニックを起こし過ぎたのか、満里奈が我を金属バットで殴りかかってきた。魔法少女なのに物理で殴るのはコレいかにと考えたが、そんな悠長な事を考える余裕も無くなってきた。
「ハハハハッ、とうとう内輪揉めか⁉︎ やっぱり誰しも不幸になんてなりたくないよね〜?」
向こうは他人の不幸を見て腹から笑っている。魔法だけでなく、人としても最低な生き物だったのかアイツは。
「アタシの分まで不幸になっちまえ‼︎ お前さえいなければ、こんな事にはならなかった‼︎」
マズイ、意識が無くなってきた。どう考えてもこの魔法少女は“本気”で我を攻撃している……‼︎
「ホレ見たことか‼︎ 私の魔法は絶対に人を不幸にする‼︎ 不幸から逃れようって考えは、現実逃避と一緒‼︎ 幸福な人間ほど不幸になる落差が極端になる‼︎ そういうヤツが不幸になった時、どぉ〜んな不幸が待ってるんだろうねぇ〜⁉︎」
くっ、もはやここまでか?
「……………………」
突如として満里奈が攻撃の手を止め、相手の方へ歩み寄っていく。我から見てさっきまでの殺意は感じず、何かしらの意図で確かに歩み寄っている。
「……やっと捕まえたぞ、不幸の魔女」
「なっ⁉︎」
満里奈はヤツの胸ぐらを掴みかかると同時に、左フックを全力で繰り出す。とっさにヤツは防御の構えをとろうとしたが間に合わず、鼻っ柱へダイレクトヒットし仰け反りながら地面に倒れる。
「悲劇のヒロイン、大逆転ってトコロか……」
満里奈の事を呆気にとられながら見つめていると、コチラへ振り向いて少し気まずそうな表情で歩み寄る。
「あ、あの…… いきなり殴って悪かった……」
視線を逸らしながらだが、手を差し伸べる。
「アイツが“不幸になる”って言ってたから、先にコッチから不幸な事をすれば良いかと思って…… それで……」
なるほどな。自分から不幸になれば魔法が発動する、そういう発想もある訳か。参考になるな。
「だが満里奈よ…… お前は手加減というモノを知らんのか? 魔法少女だから幸い血は出なかったが、滅茶苦茶に痛かったぞ‼︎」
「あぁ、それはホント悪かった。あやまる」
律儀に頭を下げてくれたのはとても嬉しいんだが、少々やり過ぎではないか? 元々悪いのは手紙使いの魔法少女なんだから、軽く謝る程度でも良かったんだがな……
う~む、まだ少しだけ頭が痛む。ちっとも我慢出来なかったな、痛み。
ダメだった。耐え切れなかった、痛み。我は魔法少女なのに我慢出来なかった。もしただの人間だったらもっと悶えていただろう。
「それじゃあ、アタシはこれで」
その場をチラ見しながら立ち去った後は、我と満里奈に殴られて再起不能になった同学年の不二谷幸だけ。そこそこ面識があっただけに若干の居心地悪さを感じている。
「うぅ……」
ここに長居はとても危険では? 誰か別の人間がコレを目撃した場合、どうごまかす? 満里奈に迷惑をかけるワケには、いかないし……
「にッ、逃げるんだよォォォォ!!!!」
堪らず我はその場から逃げ出した。もちろん、何も後先なんて考えてなどない。




