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第6話『魔法少女の願い』

「目標ポイント達成、おめでとう‼︎ これでキミの願いを叶える力は充分に溜まったよ‼︎」

 ケールからくす玉と小さいラッパで祝福され、手元のコンパクトにも軽快なファンファーレで祝福される。これでようやく私は魔法少女を卒業して、願いを叶える事が出来るのか……

「さぁさぁ、どんな願いを叶えたいのか言ってね‼︎ 言わないと叶えられないからさ‼︎」

 そんなもの、決まってる。

「ケール、私の願いは…… 男をこの世から消して欲しい‼︎」

 邪魔な存在を消してやった。この魔法少女の力で。

「よし分かった‼︎ その願い、このボクが聞き入れた‼︎ “跡形もなく”は無理だけど、この世に存在する男という存在を一人残らず消してあげよう‼︎」

 そう言うとケールが突如として真剣な眼差しを向け、片手を空に掲げて紫色の魔法陣を展開する。

「……エクスプロージョン」

 ケールの放った魔法は、一言で言うなら“無敵”。

 魔法陣こそ小さいけど、そこから放たれる黒がかった紫の炎が四方八方へ飛んで行く様子を見ただけで、真っ直ぐ立つ気力が無くなる程の圧倒的存在感。

「さてと。これで男はケッコー消え去ったから、束の間の幸せを楽しんでおいで‼︎ 先に言っとくけどお腹の中にいる男は消してないから、後で文句とか言わないでよ?」

「わかった。それじゃあさよならケール、結構楽しかったわ」

 いよいよ始まる、最高の日々が。

 男が一切存在しない、歓喜の瞬間。

 これが私の望む、理想の世界。


『続いてのニュースは、全世界で突如として男性が行方不明になっており、警察が総動員で捜索しています』

 魔法少女を辞めて最初の朝。外から聞こえる素敵な音を耳にしながら、野菜を程よく乗せたトーストを口にする。

『男性だけが忽然と消えるのは通常、ありえない事なんです。ですが何かしらの霊的現象というか、神隠しって言うんですか? 朝起きたら夫も子供も綺麗さっぱりいないって、女性からしたらパニックを起こすものだと思います』

 コイツ、何言ってんだろうか。男がその場にいなくても本音を言わないとかどうかしてる。もう救いようがないわ。

「行って来ます」

 高校に着くまでの道中が、いつも以上に楽しい。それはもちろん男を目にする事が無くなったからでもあるが、何より学校に行っても男を目にする必要が無くなったからだ。それが一番嬉しい。

「おはよう、ニュース見た?」

 流石に靴箱とか机はそのままだったけど、それがむしろ“男が跡形もなく消えた”という実感に繋がっている。教室で女子数人と全世界で男が消えた怪事件について真剣なトークをする裏で、真顔で「アホらしい」と思っていたけど、つい笑みがこぼれかけてしまう。

 だって男ってゴミクズじゃんか。

 女をイヤらしい目で見てるし、ムカつくからって殴るし、平気でスカートめくりだってしてくる。

「ねぇねぇ彩名(あやな)、今日はパンツの色ってピンクなの?」

「ちょっと倫子(のりこ)ちゃん〜、それセクハラ〜‼︎ まぁたしかにピンクだけどさ〜‼︎」

 ホンット男というゴミクズがいなくなって、すごく人生がバラ色になったんだ。もうこれで無駄に辛い思いをする必要が無くなったんだ。これからは普通の女の子として、普通の生活を送らなきゃな。


「ねぇ倫子ちゃん、中学生からやってた魔法少女、だっけ? あれはまだやってるの?」

 学校からの帰り道、今日も私は親友の彩名と一緒に帰る。

「あぁいやさ、もう流石に年が気になるから辞めちゃった」

「えー、もったいなーい‼︎ 倫子ちゃんなら大人になっても似合うと思うのになぁ……」

「いや無理があるだろ流石にさ‼︎ 三十過ぎた女がミニスカとか、確かに今の流行はミニスカらしいけどさ……」

 こうして街中を歩いていても、すれ違う人達の数人がミニスカで歩いている。ヒザが丸見えだし、太ももだって丸見え。

 私からしてみれば、ミニスカの何処が良いのかサッパリ分からない。彩名なら流行関係が、少し分かるんだろうか?

「倫子ちゃん、何事もやってみないと分からないよ‼︎ 大人になったら、一度でも良いからミニスカ穿いてね‼︎ 彩名がミニスカ姿の倫子ちゃんを見に行くから‼︎」

「見に来なくて良いって、恥ずかしいし……」

 というか彩名の場合いくら「見ないで」って言っても、結局はコッチが折れて私から見せちゃうからなぁ。本当は彩名に色んな一面を見てもらいたいとか思ってる以上、彩名のアイドルみたいな人なんだよ私って。

「あっ、もう家に着いちゃったね。じゃあまた来週ね」

「倫子ちゃん、ばいばーい‼︎」

 部屋に入って着替えもせずすぐベットに倒れ込んで、そのまま物思いにふけってみる。内容はもちろん魔法少女の事だ。

(男がいなくなって、今すごく私にとって過ごしやすい世界になった。それはとても良い事だし、少なくともイジメが無くなって最高な一日だったはず……)

 だけどもしも、もしもだよ?

 私がこの世界を良く思っていても、誰かが男を欲しがっていたら? その時は一体どうしたら良い?

(そうだよ……‼︎ 男は平気で女子のスカートをめくるし、プールを覗こうとするし、付き合ってるってだけでキスしようとしてくる‼︎ 最低で気持ち悪いんだよ男ってモンは‼︎)

 男はゴミクズ。女の子を嫌がらせしたり、平気でモノ扱いするし、何よりも裸を見たがる。特に胸のある女子の裸は男がこぞって覗きたがる。アレは本当に理解出来ない。

 その点、やっぱり私達女子は大人よね。男の裸なんてむやみに見ようだなんて思わないし、いざという雰囲気だってそれなりに考える。

(……でも、このまま私達が大人になったら)

 いつか絶対に、男が必要になる。

 例えば、その、結婚とかさ。

(……子供、か)

 そういえばケールの奴、“お腹の中にいる男の子は消してない”って言ってたな。今になってその意味がなんとなく分かった気がするな。

(男が嫌いだからって存在を消しても、世界が平和になる訳が無いって事か…… でももう私は魔法少女なんかじゃないし、他の魔法少女が自分の願いを押し殺して、わざわざ元に戻すとは限らない…… だとしたら私、とんでもない事をしてしまった‼︎ もう大人の男は存在しない、いたとしても最低二十年かかる、それまでに他の女が何をしでかすか分からない…… 最悪、男しかやらない犯罪を女が……)

 死にたい。頭を打って自殺したい。私は魔法少女の力を使ってわがままを言ったゴミクズなんだから。

(最低だ…… 最低だ…… 最低だ……)

 窓から飛び降りようと身を乗り出したとき、遥か遠くでとてつもない大きさの炎柱が四方八方に飛んで行く。それは私が見たモノと似ているけど、色は真っ白に染まった神々しい色。

(……まさか)

 慌ててリビングにあるテレビを付けてニュースを開くと、そこに映し出された映像は“男が帰ってきた”様子だった。

「倫子ちゃん、君のやった事が分かったかい?」

 いつの間にかケールが、私の肩に乗って話しかけていた。

「とても運が良かったね。倫子ちゃんの他にもポイント達成した魔法少女がいて、男が消えた世界を目の当たりにしてから“男の人を元に戻して”という願いを叶えたんだよ」

 とても平坦に。親の立場になった説教じみた喋りとかじゃなく、私自身がした過ちを思い知らせる様な言い方をする。

「百合の世界はね、男がいなきゃ百合として成立しないんだよ。女しかいない世界なんてのは百合じゃなく、ただ人がいるだけの世界。性別すら存在しない異常な個体でしかない。そんな女だけの世界に対して病的な愛情を向けたり、一挙手一挙手に脊髄反射で発狂してる姫好きはハッキリ言って廃人と一緒だよ」

 スクッと立ち上がり、私の手のひらに乗り出して指をさす。

「いい? 倫子ちゃんは魔法少女だったんだから、前みたいに自分の考えばかり押し通してちゃ反発されちゃうよ。相手と対等に接して、子供を見守る。そんな女性になれる事をボクは祈ってるよ‼︎」

「あー…… うん、分かった」

 なんとなく理解したら、ケールは微笑んで飛び立って視界から消え去った。これで私は魔法少女を卒業して、普通の女の子に戻った訳だ。

「男も必要、か……」

 ケールは日本人じゃないから、所々言葉がヘンだった。でもケールなりに頑張って私の事を心配してくれた。魔法少女を終えた私の人生に、少しだけ希望が見えた気がする。

「まぁ、やっぱり悪くなかったかな……?」

 魔法少女だった時間は、これにて終了。

 そして私は、人としての時間を過ごしていく。


「おはよー……」

 自分の娘が寝ぼけながら食卓について、ウトウトしながら朝食を口にする。私の娘は立派に育って今は高校一年生、クラスのお友達も出来て、それを楽しそうな目で私に色々話してくれる。

「ほら急いで、朝早くから出発するんでしょ⁉︎」

「うん……」

 そして今日は、その友達と二人きりでチュウチュウランドへ遊びに行くみたい。確かその子が娘を迎えに来るはずだったわね……

『おはようございまーす‼︎』

「あっ、来たわよ‼︎ 早く準備なさい‼︎」

「んーもう分かってるってば‼︎ じゃあ行って来ます‼︎」

「行ってらっしゃい、楽しんでね‼︎」

 友達と笑顔で話しながら玄関の扉を閉め、家には私一人だけになる。まだ娘の事が心配だからコッソリ玄関から出て二人を伺うと、私が今まで見た事のない笑顔で友達と笑い合っていた。

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