第2話『剣と魔法少女』
十二月の下旬、今日も私は普通に学校へ登校する。授業はきちんと聞いてるけど、何故かいつも同じような毎日を過ごしてしまう。これって私だけかな?
「はぁ…… 」
授業中だけどいつものように窓を眺めながら、私はため息をそっと漏らした。
(あ、飛行機曇)
こんなに長い飛行機雲初めて見た。次々見つけ出される雲は天まで上りそうなくらい長かった。
(やったラッキ〜♪)
これ、ケールに見せたらどんな反応するかな…… ってか、なんでこのタイミングでケールなの!? ヘソを一分も舐める妖精がなんだって言うのよ……‼︎ って、一人授業中に何考えてるのよ…… 私の方が変態みたいじゃんか‼︎
そんなことを考えているうちに先生が私に視線を向けている事に気付いた。
(あっ、ヤバっ‼︎)
私は急いで視線をノートに向け、シャーペンを動かした。
『クスクスクス……』
もう…… 生まれて初めてクラスメイトに笑われたじゃんか。あれもこれも全部、全部魔法少女になってからだ。そう、これはケールのせいだっ‼︎
そして、チャイムが鳴り響くと同時に六時限目が終わった。
(今日は早く帰ろう……)
足早に教室を去ろうとしたが何故か重りが付いたように動かなかった。でも午後の為にも無理して動かさなきゃ。
靴を履き替えて歩き、外の空気を大きく吸いながら歩いていくと、向こうから初めて戦った体育会系魔法少女が走って来た。マラソン中かな?
「あ、お〜い‼︎ そこの君‼︎」
あ、私に話しかけてきた。
「は、はい⁉︎」
なんか、ドキドキする……
「君ってあの時の子…… だよね?」
私の顔覚えててくれたんだ…… 印象的なのかな?
「あ、はい。私の事覚えていたんですね‼︎」
この子、何で敬語になってるんだろう……
「やっぱりそうだよね‼︎」
「あ、そういえば帰り時間にもランニングですか? もう放課後なのに走る体力があるなんて元気で羨ましいなぁ〜‼︎」
「そ、そうかな? いつも登下校で走ってるよ?」
「へぇ…… ずっと走ってられるんですねぇ、私なんてマラソンでマイペースに走っちゃうんですよ……」
「ん〜なら次の土日どっちか、あたしと一緒に走ろうよ‼︎」
「えっ、走る⁉︎」
う〜む、運動は苦手なんだよな〜。でも会ってすぐ仲良くなった友達の誘いを断るわけにはいかないからなぁ……
「まぁ、少し走るくらいなら良いけど……」
「よしっ、決まり‼︎ じゃああたしと連絡先交換しようよ、時間とか決める時に便利でしょ?」
「じゃあ私も連絡先教えるね‼︎」
私と体育会系魔法少女で連絡先を交換して、電話を掛け合って確認もした。
「あ、そういえば君の名前、なんて言うの? 聞くの忘れてて今更なんだけど……」
「そう言えばそうだったね、忘れちゃってたや。私は高宮七海、七海って呼んでね」
「あたしは岩見沢朝日、朝日でケッコーだよ‼︎」
そうして私は朝日と軽い会話を交わして家へ帰った。それにしても友達と遊ぶなんて結構久しぶりかもしれないなぁ。あんまり知らない人と会話出来るかどうか若干心配だけど、心の何故かでは心が躍ってた。
家に帰って、早速朝日に連絡をした。
『朝日、』
そこで私の指が止まった。帰ってすぐ何も用事がないのにメッセージを送る必要はないよね。
「ん〜……」
私はすかさず内容を考えた。
「……そ、そうだ‼︎ 一緒に走るなら持ち物とか決めないとね‼︎ ね‼︎」
……って、誰に説得してるのさ、私は。
『朝日、土日一緒に走る時ってどんなの持ってきたらいいかな?』
よ、よし、送った……
私はスマホの画面を消して夜ご飯を食べに行こうとしたら、もう通知が来た
「え、早っ⁉︎」
私はすかさずスマホの通知の正体を確かめる。
『とりあえず走りやすい格好と飲み物もタオルかな。それと土曜日一緒に走れる?』
普通に返信きた。っていうか普通って何だろう。それにしても既読早いなぁ、もう家に帰ったとか?
『うん、時間作っておくね』
とりあえず、土曜日か。その日は魔法少女バトルの日だからもしかしたらありえるよね。
「ただいまー」
だから明日に備えて、体力を残しておかなきゃな。
「あっ、おかえり〜七海ちゃん‼︎」
部屋に戻ると、ケールが私の本棚から漫画をベットの上で読んでた。私がベットに腰掛けようとしたら漫画を閉じて避けてくれる。
「ねぇねぇ七海ちゃん、この漫画面白いよ‼︎ 三番パレットって人が描いたリリチル‼︎」
「あぁ面白いんだ。ケールにも百合の感性があるんだね」
「へぇ〜、こういう感じの事は百合って言うんだね。女の子同士でイチャイチャするの」
「知らないのに気に入ったんだ……」
「知らないって言うか、ボクが生まれ育った場所は差別や同性愛こそあるけど、君達ほど意識なんかしてないからね。やれジェンダーが、やれ男女平等が、やれ女性差別が。そういうね、すっごくつまんない事してるから平等になんかなれないんだよ。何事も自業自得なの。全ての行動には良い事と悪い事が同時に起こるんだから。差別を掲げたら差別をして、平等を掲げたら女尊男卑になり、形だけの苦情に屈したら周りに都合良くオモチャ扱いされる…… この世界で起きてる問題は、全て自意識過剰と嫉妬がある限り終わらないんだとボクは思ってるよ」
「えぇっと、つまりケールがいた世界には百合とかは珍しくないって言いたいんだよね。あって当たり前ってレベルに」
「うん、まとめちゃったらそういう感じだね」
確かにこうして私達の周りには百合漫画とかが溢れてるけど、やっぱりそういうのを気にしてる人って無くならないよね。最近だとチュウチュウランドに迷惑なテログループが来たって、ネットで話題になってたくらいだし。
「ねぇケール、もしもだよ? 魔法少女のポイントで差別とかを無くせたり出来ないかな?」
「うーむ、出来ない事はないかな」
えっ、差別を無くせるの⁉︎
「ただし、その願いがいつまで続くかは保証しないよ?」
じゃあ差別は完全に無くならないって事じゃん。そりゃそうか、たかが一人の魔法少女が強く願ったところでね。無駄だもの。
「あぁ〜あ、それにしても夜七時にならないと戦闘が始まらないのが面倒だなぁ…… せめて朝と昼でも戦える様にならないかなぁ……」
「なるほどねぇ、ルール変更を唱えたいんだ。そういうのはきちんと理由さえあれば出来なくも無いけど……」
「もしかして、大勢の魔法少女が求める多数決も必要だったり?」
「あぁいや、来年の四月に大型アップデートが入るからそこで戦闘時間の変更が出来るかもしれないよ?」
大型アップデートって……
「けど決定するのはボクじゃなくて、もっと上にいる人が全て決めちゃうからね。もしかしたら魔法少女バトル自体を撤廃する可能性だってあるかもしれないし……」
「えっ、どうして⁉︎ もしかしてお金関係とか⁉︎」
「お金は関係ないかな。それに七海ちゃんが参加してる魔法少女バトルなんて、ボク達の単なる暇潰しでしかないから」
暇潰しって。そんな軽い気持ちでやってたの……?
「だからボクもいつ終わるか分からないんだ。飽き性じゃないから、なおさらね」
そっかぁ。ケールの気分次第で私、突然魔法少女を出来なくなっちゃうんだなぁ……
「そう言えば七海ちゃん。このリリチルにテレビアニメってあったりしないの? 無いと暇潰しになんないんだよ」
「アニメならあるよ、ほら」
しかもDVDは全巻持ってる。私のこと周りから百合オタクみたいに見られたらおしまいだよ、コレ。
「お待たせ朝日‼︎」
家の近くにある土手で朝日が準備運動をしながら、私に手を振る。それから隣で私もしっかり準備運動をして体をほぐしていく。
「それじゃ、小走りで会話出来る程度にいくからね〜」
私は運動自体、苦手じゃない。流石に男子相手には徒競走で勝てないけど、それでも帰宅部の中では動けるタイプだと思う。だから朝日の隣で一緒に走って数分くらいは余裕だった。
「……………………」
でも十分くらい経ったあたりから、流石に運動量という名の差が牙を剥いてきた。次第に呼吸が辛くなってきて、足がガクガクしてくる。それでも三十分は我慢して走り続けられたから、頑張った方だと私としては思ってる。
「はぁ〜、結構走ったね〜‼︎」
その場に座り込んで、乱れた呼吸を整えながらスポーツドリンクを飲み干す。小鳥のさえずり、風の音がとても心地良い。何だか久しぶりに外に出て良い思い出になったかもしれないな。
「それにしても…… 魔法少女バトルが夜七時からとか面倒だなぁ〜。夜わざわざ外出なきゃダメとか、高校生にはキツ過ぎるしさぁ〜」
「あぁ〜それ分かる‼︎ 出来れば朝でも出来る様にしてほしいよね‼︎」
「そんでもって、誰が魔法少女なのか事前に教えてくれたらもっと嬉しいよね‼︎」
「そうそう、分かる‼︎」
夜七時にならないと出来ない魔法少女バトルに不満をたらしながら話し込んでいたら、休み始めてもうすぐ四十分が経とうとしていた。
「そんじゃ、まぁまぁ休んだ事だし…… 走るかッ‼︎」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
もうすぐ夜七時になるってのに、まだ疲れてる。でも戦わないとポイントは貰えないから無理して外に出たものの……
……もしかしたら今回、勝てないかも。
「あ、なんか聞こえる」
人が歩く音に紛れて金属音がする。家の周りは夜になると人通りが減るから、大体の方角までなら特定出来ちゃう。私の目の前から堂々と歩いて来ている。
「今回の相手は武士ってところかな……」
動きやすさのある鎧、長いハチマキ、一メートルはある日本刀。まさにザ・女武士といった感じ。
あと気になるのは、彼女の肩にはケールと同じ背丈の女の子が私を指差して話している。その子がヒソヒソと話し込んでる感じから察して、新人魔法少女といったところかな。
「え、えっと…… 初戦なので、どうぞお手柔らかにお願い、します‼︎ 名前は天海彼方、中学生です……‼︎」
刀を震わせながらも律儀に自己紹介をしてくれた彼方ちゃんに、今度は私の自己紹介をしたら深くお辞儀をしてくれた。この子ホントに律儀な子だよ。
「それじゃあ、いきますね……」
刀を向けているけど、ドラマとかで見る様な構えじゃない。例えるなら竹刀を初めて持った人の構え。ヒジが伸びてて振る力がこもってない感じに似てる。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「うわぁ〜、初心者丸出し…… そういう私も、刀は持ったコトないんだけど」
真っ直ぐ向かってくる彼方ちゃんは受け流す様に避け、そのまま“蹂躙の炎”で決着付けよう。初心者相手に少し容赦ないかもしれないけど、ポイントが掛かってる以上は本気でやらせてもらうからね。
「……ってい‼︎」
「えっ……⁉︎」
彼方ちゃんの単純な突貫を避けた。けど物凄い反応で刀が私の心臓目掛けて振り向いてきた。
「うっ……‼︎」
もしかして、刀が動いた……?
「なんかよく分かんないけど、動いた‼︎ 刀が勝手に相手を向いてくれた‼︎ スゴい‼︎ 何で何で⁉︎」
えーっと、もしかして彼方ちゃんが持ってる刀に追尾機能付きって事かな? 常に相手に刃を向ける魔法が備わってるとか、そういうので良いのかな?
「だったら…… アフターファイヤー‼︎」
目の前を見えなくして、パッと消える手品‼︎ これなら刀でも追尾出来ないでしょ⁉︎
「…………えぇーい‼︎」
「う、うそぉ⁉︎」
でも無駄だった。しっかりと物陰に隠れてたはずなのに、彼方ちゃんの刀がしっかりと私を向いていた。
「やああああああ‼︎」
ただよく見てると、刀任せに突っ込んでばかりで前も見ていない。ズブの素人同然としか思えない動き。ハッキリ言って単調だった。
「あぁ〜、これってもしかして突っ込んだら行けるとか……?」
一つ考えた作戦を思い付き、すぐ実行にうつす。
「アフターファイヤー‼︎」
まず、彼方ちゃん目掛けて急加速……
「……からのフレイム‼︎」
そして炎を拳にまとわせ殴る‼︎ ゴッドフィンガーって感じに殴る‼︎
「やった⁉︎」
しばらくしてコンパクトから音が鳴り出す。これは勝利を伝えるメロディだね、ファンファーレだもん。やったぁ‼︎
『戦闘決着、勝利‼︎ 持ち点移動+55pt 現在持ち点200pt(内訳○勝利:25pt 処女ボーナス:30pt)』
「はぁ〜勝てたぁ〜…… とは言っても相手が新人だったから余裕で勝てたってだけだし……」
向こうは少し泣いてるけど、それでも前向きに反省したりしている。この子はきっと、何かしらの願いを本気で叶えたいんだ。私よりスゴい魔法少女だよ、天海彼方ちゃんは。




