第11話『魔法少女ショー、開演』
八王子から遠く離れた、愛知県名古屋市。8月になって半袖半ズボンじゃないと外に出たくない日に“私達”はやって来た。
「ひっさしぶり〜七海ちゃん‼︎ 元気してた〜?」
「朝日、久しぶり‼︎ もう全然元気だよ‼︎」
4月から進学と進級でちっとも会えなかった岩見沢朝日と再会し、名古屋が誇る遊園地“スターライトパーク”へ遊びに来た。
「あたしココに来るの中1ン秋以来なんだよ〜、七海ちゃんは来た事ある?」
「私は初めてだよ。芸能人が逃げ回る番組で見たくらい」
「テレビかぁ…… なら情報皆無ってトコロか。良かったぁ、ホテル予約しといて。一泊分の荷物は持って来てるよね?」
「もちろんだよ。念の為に着替えも用意しといたよ」
「オッケー‼︎ じゃあ行こう‼︎」
スターライトパークは、あまりにも広大過ぎるマップから“1日で回れない遊園地”として知られているらしい。そんな迷子になりそうな所に女子2人で来るのは、どこか不安も覚えちゃうけど何も起こらない事を祈りつつ楽しもうかな。
「じゃあまずジェミニエリアの双子座コースター‼︎ 恐怖でおしっこチビらないでよ〜?」
「ちょっ、そんな子供じゃないから私‼︎」
「あははっ、冗談冗談‼︎ んじゃ乗りますか‼︎」
それにしてもジェットコースターかぁ、とっても懐かしいな。
確か最初に乗ったのは、8歳の頃に北海道旅行で釧路に行った時だったかな。動物園内に小さく設けてた遊園地エリアのジェットコースターで、たった2分くらいしか乗らない小さな乗り物だったはず。最初はワクワクしてたけど、いざ走り出したら突然の猛スピードで動き出す恐怖で降りた時にはお父さんにしがみついて泣いてたって、お母さん言ってたなぁ。
それから中学の修学旅行でまた別の更に立派なジェットコースターに乗る機会があったけど、その時はギリギリ泣かなかった。最初よりも圧倒的に長くて速いジェットコースターだったのに。
「ちょ、コレは……」
そして3回目。今まさに稼働中なんだけど、乗ってる人がほとんど見えない。服の色すら分からない程に人影が小さい。
あ、コレ乗ったら涙出そう。出来れば意地でも乗りたくない。
「さぁ行くよ‼︎ 今さら逃げるのは敵前逃亡と同じなんだからね⁉︎」
朝日の凄まじい腕力に負けて、ついに乗ってしまう。そっから先は意識が飛び飛びで、乗ってから降りるまでの数分が記憶から抜け落ちてしまった。
「ちょっとベンチで休むわ……」
ぐらつく視界のまま誰も座ってないベンチで横になってると、2週目に行ってた朝日が帰って来て私の肩を支えてくれる。
「ごめんね七海ちゃん、観覧車でしばらく景色でも眺めてよっか」
「う、うん。そうさせてもらうわ……」
朝日と隣り合う様に座って、ボーッと景色を眺める。
「もう夕日が終わるね」
「夜が早くなってるんだね」
ほんのしばらくの沈黙。
「調子よくなった?」
「まぁ、なんとか……」
「ま、まだ魔法少女やってるの?」
「うんやってる。ボチボチね」
しばらく会ってなかったからなのか、何処かぎこちなさのある会話。それでも朝日から積極的にしてくれたおかげで、いつの間にか観覧車が1週しようとしてた。
「ありがとうございました〜」
夕日はもうすっかり沈み、既にいくつもの星が空で輝き始めている。すっかり夜の時間になったんだね。
『〜〜〜〜♪』
遠くから音楽が聞こえてくるのと同時に、気付けば周りの人達が一斉に一箇所へ歩いていた。時間帯や客足の良さから考えると、これからナイトショーをやるみたい。
「ほら行くよ七海ちゃん‼︎」
朝日に手を引っ張られながらショー会場に向かうと、既に大勢の観客が集まってて、距離感としてはキャストの顔が見えない程。
「さぁ‼︎ 今夜のショーは、とーっても特別な魔法少女ショーだよ‼︎ 小さいお子さんから大きなお友達さんまで、いーっぱい楽しんじゃってねー‼︎」
挨拶を終えてマイクを隣に立つ女の子へ手渡すと、いきなり特撮ヒーローばりの大げさな身振りな変身ポーズと共にバック宙を繰り出す。
「えっ、ウソ……‼︎」
床に着地と同時にキャスト衣装から魔法少女衣装に早変わり。小さな子供達がキャーキャー騒ぎ、大人はまるでアイドルを応援するかの様にうちわでアピールし始める。
『ほいキター‼︎ 魔法少女唯ッ‼︎ いや、長谷良唯改め魔法少女唯ちゃん‼︎
彼女が決めポーズをとると同時に、背後のキャスト2人が巨大クラッカーを発射させる。さらにその後ろで複数の炭酸ガスを噴射させ派手に演出させて音楽も鳴らす。
「これからはあたしの時間ッ‼︎ ココに来た魔法少女さんには、“逃げる”なんて許さないからね☆」
『うぉーーーー‼︎‼︎』
ショーと呼ぶには、かなり幼稚っぽい。それとも痛いと見るべき?
とにかく世界観がカオス過ぎて、これがどっちの層に向けたショーなのか理解しかねる。
「何コレ、これ本当にショーだよね?」
「さぁ…… でもまぁ、向こうがショーって言い張ってるんだからショーなんじゃない?」
ショーに見えなくもない。だけどこのテンションはどう見ても、アイドルのライブなんだよなぁ〜。子供より圧倒的に大人のテンションが高いし、うちわや親衛隊っぽい衣装を纏ってるし。やっぱりカオス。
何というか、攻めてるね。スターライトパーク。
「そしてぇ〜、今回あたしと戦う魔法少女さんはぁ〜…… ソコに座ってる君ッ‼︎ 2人とも〜、やーっておしまい‼︎」
『アラホラサッサー‼︎』
さっきのキャストが私に迫って、迫って、立ち止まる。私と目が合うなり腕を掴まれる。
「えっ、な、何コレェ⁉︎」
キャストは無言のまま私を彼女のもとへと連行する。朝日とも引き離され訳も分からずステージに立たされると、観客から盛り上がる声が波の様に押し寄せる。
「ようこそ魔法少女、あたしとのバトルに勝てたらご褒美が待ってるよ‼︎ もちろん負けたとしても罰ゲームとかはないから安心してね‼︎」
恥ずかしい、ここで変身するの?
そこへキャストが静かに真横に潜み、耳打ちする。
「大丈夫、あなたの変身シーンはきちんと隠しますので」
「背中や胸とかの、プライバシーの最低限を隠すっす」
「出来れば全身隠してほしいな……」
とにかく魔法少女に変身して、さっさとショーの舞台から降りたいな。こんな所居続けるの恥ずかしいし。
「それじゃあ始めるよ‼︎ 楽しい魔法少女ショーを‼︎」
ライブの勢いで歓声をあげる観客。やっぱりここショーって雰囲気じゃないんだけど。
「いっくよー‼︎」
観客へコールを送って、しかも手まで振ってる。
「ホントにここショーなの……?」
「もっちろんショーだよ。ほらほら、油断してると……」
ふと彼女が消えたかと思ったら、いきなり背中を蹴られて目の前が拡大されていく。いや、拡大するというよりかは“激突した”って言った方がよさそうだ。
「あたしのファイトスタイル、それは体術‼︎ ガチャでステータス補助とか、派手な魔法で戦うとか、そういうズルいのはナシ‼︎ 独学で学んだこの拳や蹴りは、素人にはちょ〜っとばかり痛いかもよ〜?」
鼻血が出そうな痛みに耐えながら立ち上がると、私がぶつかった箇所が思いっ切り壊れてた。いくら木製だからって、それだけで彼女の身体能力が単純にズバ抜けてるとは思えない。
「ステータス補助なしでこの威力、ありえない……‼︎」
「ホントだよ、こうして思いっ切り殴れば……‼︎」
下から突き上げる様に拳を顎にぶつけられ、真上に吹き飛ぶ。その様子はもう格闘ゲームの領域だった。たった2回しか攻撃を受けてないのにHPを9割持っていかれ、一桁しか残ってなかった。
「ウソでしょ……」
ステータス補助がない。でもって派手な魔法を使わず、己の身体一つで魔法少女を吹き飛ばすなんて、可能なの?
「七海ちゃーん‼︎」
「ケール‼︎」
慌てて私のもとへケールが飛んで駆け寄る。すかさず耳元でヒソヒソ話を始める。
「ちょっとケール、あの魔法少女どうなってるの⁉︎ ステータス補助とか魔法なしで、あそこまで強くなれるもんなの⁉︎」
「こんな事言っちゃマズイんだけど…… 彼女はウソをついてる」
「ウソって、どんなウソよ?」
「両方ウソだよ。彼女は“ステータス補助と魔法の二つ”を駆使して魔法少女ショーを開催している」
「両方ウソって…… どうしてそんな事……」
「演出の一環じゃないかな。バラエティやゲーム番組で面白さを追求する為に、ほんの少しだけ手を加えるのと同じで、彼女は物理で殴るスタイルをショーの売りにする為、裏で数え切れない回数のガチャをした事を隠してるはずだよ。彼女の契約主が違うから断定出来ないけど、恐らくノルマを最低200回は迎えてる程のポイントを全部ガチャに費やしてると思うよ」
「ノルマ200回分って、単純計算で12000ptだから……」
「1200回ものガチャをしてる計算だね。彼女はまごう事なき“ガチャ廃人”って事になるね」
正直なところ信じられなかった。ああやって舞台でキラキラ輝いてて、しかもファンから応援されてるショーキャストが、その裏ではガチャ廃人だなんて。
「ガチャ廃人なのは分かったけど、なら彼女が持つ魔法って一体何なの? 攻撃力? それとも吹っ飛ばす力?」
「半分正解。もしかしたら固有魔法で、攻撃力を極振りしてる。しかも“支持率”に比例して攻撃力を上げる、チートじみた固有魔法だよ」
「支持率って……」
派手な衣装や演出を駆使して、観客に自分をアピールする唯。その様子はプロレスラーが大技をかける直前のリングアピールに見えなくもない。やってる事は同じだけど、ステータスを魔改造されるのはいくら何でもたまったもんじゃない。
「ヒーローは勝つってヤツか……」
まるで“出来レース”じゃんか。彼女に選ばれたら最後、たった数発で負けてポイントをもぎ取られる。しかもそのポイントはノルマに使わず、自分のショーに全部費やす。見方によれば周りの事を考えてるように見えなくもない。だけどそれってどうなんだろうか?
確かにスターライトパークは超大型施設だ。だから想像以上に経営費とか、膨大なお金がかかるのは分からなくもない。何とかしてお金をやりくりしていく方法として、ショーを派手にするのは分かる。すごく分かる。
だけど、彼女の事が心配だよ。この施設の為に身を削って働くのは、ある意味プロだなぁって尊敬するよ。でもそれでもし過労死しちゃったら元も子もないよ……‼︎
「だったら、蹂躙の炎‼︎」
全てのMPで、舞台全体に魔法を撃ち込む。もうHPが少ない以上どうしようもない。なら賭けに出るしかなかった。
「う、うぅ……」
「えっ⁉︎」
彼女は倒れてた。ダメージがあった。まさかこんなあっさり倒れるとは思ってもいなかった。
「た、大変だぁ‼︎ このままじゃ唯ちゃんが負けちゃうよ‼︎ さぁこんな時こそ、みんなの応援が必要だよ‼︎ 大きな声で元気よくっ‼︎ 唯ちゃんを応援しようっ‼︎ せーのッ‼︎」
『がんばれーーーーッ‼︎ 唯ちゃーーーーん‼︎」
まるで私を悪者扱いするような態度で、いやむしろ悪者として見て応援しだす観客達。
っていうかこれアレだ。子供向けヒーローショーでよく見る“応援して強くなる展開”じゃんか‼︎
「ありがとうみんな‼︎ みんなの応援、確かに受け取った‼︎ 少しずつ、力が湧いてきたよ‼︎」
「HPが全快した⁉︎」
「うぇっ、そんなのアリ⁉︎」
ケールが驚くあたり、唯が魔法を持ってる事が明らかになった。自分の所持してる魔法を演出でごまかすなんて、随分と卑怯すぎる手口をしてくれちゃって、まぁ。
「最後はオラオラでいくよー‼︎ さぁ、これがあたしの全力だぁー‼︎」
唯が繰り出す目にも止まらぬスピードで繰り出される拳を前に、なす術なし。そのまま敗北してしまい150ptにまで落ち込む。
「大勝利ー☆」
キラキラした笑顔で締めに入った唯を背にその場から立ち去る。そこへ他のキャストが駆け寄って耳元で囁く。
「ご協力頂き感謝します」
「これ記念品っす」
ラバーストラップやら缶バッジやら、色々貰った。多分これまとめて買うとなると3000円くらいしそう。
「また選ばれたら、その時はよろしくっす」
「負け戦をさせようとすなっ‼︎」
どうやらこのショーは選ばれたら最後、勝ち目なんてなさそうかも。




