表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

第10話『リリチルイベント』

「やった、ついに手に入れた〜‼︎」

「どうしたの七海ちゃん、紙切れを手にしてさ」

「紙切れじゃないよ、リリチルのイベントチケットがやっと手に入ったんだよ‼︎」

 リリチルに関してはグッズとかを買わない程度のファンの私だけど、八王子でイベントをやると知ってダメ元で抽選してみたら当たってしまった。抽選倍率は3倍だけど、それでもかなり嬉しかった。

「へぇ〜、学校がない土日にやるんだ。ラッキーだね七海ちゃん‼︎ ところでそのイベントに、ボクも連れてってくれないかな?」

 あ、コレはもしや断ってもこっそり付いて来る感じかな?

 ケールめ、自分の身体の小ささを利用したな。


「ここでイベントをやるみたいだね〜」

 結局ケールを連れてイベント会場まで来たんだけど、開始時間前ギリギリだから出演者の顔がハッキリ見えない位の人混みで、チケットに記された席を探すだけで手一杯。

「はぁ〜、やっと座れたぁ……」

 席に座って一分足らずで女性の司会者が開始の挨拶を始め、出演者を会場に呼ぶ。流石人気作品のリリチルイベントなだけあって、名前を呼ぶ前から観客は少しハメを外すテンションになってる。

 私は、いたって冷静だけどね。

「おぉ〜。あの人がヒメ役の(ほし)天子(てんし)ちゃんで、カノコ役の藤宮(ふじみや)花音(かのん)ちゃんなんだ‼︎ へぇ〜、声優って演技力だけじゃなく外見も重視されてるんだね〜」

 そして次は歌手枠としてトップアイドルグループのfliezと羽衣(はごろも)瑞稀(みずき)がステージに立つ事になっている。

 太陽みたいに笑顔が眩しく、超が付く程に元気ハツラツな宮野(みやの)明日香(あすか)。月のような儚さと、何とも言えないミステリアスな美しさを持つ(いずみ)(かおる)。ソロ活動ながらも男性からの人気が絶大で、ほんの少し大人びた風貌だけど歌声の幅広さを武器に様々なジャンルを歌い上げる羽衣瑞稀。

 2組が出演する事はここにいる全員が事前に知ってるんだけど、いざこうして目の前に本人が登場したら誰でも興奮しちゃうし、中には語彙力消失や“そこに推しがいる奇跡”を前に気絶したり、最悪とてつもない額をグッズに貢いだりする。

 実際に推し活をする人ってさ、よく“推し”の為に観賞用と保存用と布教用を買うって話を聞くよね。私は1つ買えただけで満足しちゃうから、きっと推し活さんとは馬が合わないだろうな。

「そして今回このイベントに、スペシャルゲストが来てます!! リリチル特殊EDを担当した羽衣瑞稀が来てくれました!!」

「こんにちはー、羽衣瑞稀でーす‼︎ 八王子に帰って来たよみんなー‼︎」

 司会者の合図と同時に現れた別のトップアイドル、羽衣瑞稀がステージに立ったと同時に湧き上がる男性陣。それもそのはずで、彼女は特に男性からの支持が大きくて持ち歌も電波じみたものばかりという、女性からの支持がぶっちぎりのfliezとはあまりにも対照的なアイドル。

「瑞希ちゃーん!! 会えて嬉しいよー!! 手ぇ振ってー!! コッチ向いてぇー!! あぁー!!!!」

「ホントに!? まさかココで歌うのか!?」

 必死になって存在をアピールする為に、お腹から思いっ切り叫んだり手を伸ばしたりするファンもいれば、感情が爆発してるのは確かだけど、周りの迷惑にならないよう一歩引いた言動を心がけるファンもいる。

「そして次はfliezなんですが…… 申し訳ございません、今夜生放送の歌番組に出演のため欠場するとの事です!! 本当に申し訳ございません!!」

 司会の謝罪をキッカケに、ザワつき始めるファン達。

「ウソつけ‼︎ どうせ最初から呼んでないんだろ‼︎」

「アイドルファン舐めんな‼︎」

「ふざけてんじゃないわよ‼︎ アンタ達の所為でわざわざ遠出する程に期待した分、恥かいたじゃない‼︎」

「土下座しろ‼︎ ファンに恥かかせた事を土下座して謝罪しろ‼︎」

「そうやって男にばっか媚びやがって‼︎ 今すぐ連れ戻して来い‼︎」

「お前のせいで大勢の男の前で恥かいたんだ‼︎」

「全部お前のせい‼︎」

 fliezファンであろう一部の女性陣が、お目当てのアイドルが来ないと分かった途端に血相を変え、それはもう般若の如き表情で怒って矛先を司会者へ一斉に向ける。

 しかもよく見るとクレームじみた怒りをぶつけてるのはいい歳した大人で、30代くらいからもっと年上の様にも見える。一方で私の様な10代以下の女子も騒いではいるけど、「えー残念ー」とか「歌番組かぁ〜」みたいに“大人の対応”をとっていた。

「そこまで怒るか……?」

「ババアうるせぇな……」

「お前らがそんなんだから、女性のアイドルファンは“民度が低い”って言われるのになぁ……」

「相手はトップアイドルなんだから、欠席とか頭に入れとけよ……」

「瑞稀ちゃんや声優さん達を困らせるなよ……」

「これがリアルな“男ガー”ってか?」

 男性陣はいたって冷静にfliezの欠席を嘆いてる。だけど流石にあの過激なファンには怒り心頭らしく、明らかに不快感を示してる。

 私は、ファンの“民度”というものを目の当たりにした。

「あのっ……‼︎ さっき司会の人が言ってた通り、fliezは歌番組に出るんです‼︎ 私よりも忙しい中、少しでもこういうイベントに出ようと努力してたわけで……」

 そんな時だった。迷惑なfliezファンが瑞稀に向けて牙を向く。

「──んなモン知るかッ‼︎ たった1回しかリリチルに関わってない“ちんよし”は黙らっしゃいッ‼︎」

「アッ、今のスゴく痛い‼︎ 言葉のナイフで思いっ切り刺されたッ‼︎」

 瑞稀がアイドルとして司会とfliezファンの仲裁に入ろうとしたのに、ファンは聞く耳持つどころか、瑞稀ファンの反感を買う態度で罵倒してしまう。

「キモい態度とってんじゃねぇ‼︎」

 大声で罵倒しながら迷惑なfliezファンの一人が瑞稀に向けて投げ付けたのは、スマホ。投げる速度は目で簡単に追えるほど遅めなんだけど、真っ直ぐ飛んでいった先に瑞稀のオデコが。

「痛ッ……‼︎」

 スマホの角がオデコに直撃した痛みに耐え切れず、顔を両手で覆い隠す仕草をとると同時に、スイッチが入ったのか次々と物が投げ込まれる。丸められた宣伝のチラシ、モール内で買った缶、氷が入った紙コップ、fliez応援うちわ、明日香推し用ミニタオル、発売したてのCD。それら全てが、司会をかばった瑞稀へ一つ残らず矛先を向ける。

「やめ、や…… ぃゃめぇて……」

 顔を守ったまま、涙で訴える瑞稀を前に。

「それ以上は見過ごせねぇぞオイッ‼︎」

「さっきから黙って見てれば……ッ‼︎ もう我慢ならねぇッ‼︎」

「アイツらを抑えつけろ‼︎」

 とうとう、瑞稀ファンのほとんどが抑えていたはずの感情を爆発させてしまった。

「たった1回だとしてもなぁ、瑞稀ちゃんはもう立派なリリチルメンバーなんだぞ‼︎」

「どんだけ周りを不快にして迷惑かけても、お前らはどうせ“何も悪くない”んだろ⁉︎ いいねぇ〜そうやって趣味に没頭出来てさぁ‼︎」

 迷惑なfliezファンの悪逆非道じみた行いにとうとう瑞稀ファンも堪らず反撃に出てしまい、全く無関係な人がこのイベント会場にスマホ片手に注目しはじめる。

「明日香ちゃん……」

「薫さん……」

 司会や声優陣は何も出来ずすっかり困り果ててしまい、どんどん表情が曇っていく。その間も周りが写真や動画に収めてSNSに拡散しては、アイドルファンの迷惑行為を誇張ツイートしていきfliezや瑞稀達までもが叩かれる最悪の流れ。もしかしたらこの暴動に対してリリチル公式からの謝罪コメントが公開されるかもしれない。

 このままじゃ前々から治安が悪い八王子が、余計に悪いイメージが根深くなってしまう……‼︎

『ちょっ、すいません‼︎ ソコ通してくださーい‼︎‼︎』

 後ろから全速力で駆け寄り、そのまま舞台に立って息切れを起こす少女が現れたのをキッカケに、呆然とするお互いのファン達。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……‼︎」

 しばらくの沈黙が流れる。

「あっ、わたし、みや……」

 ようやく顔を上げて私達の方を見つめる。その顔を見てファン達に戦慄が走った。

「私は…… fliezの宮野明日香です」

 瑞稀も、声優陣も、司会も。そしてfliezファンと瑞稀ファンも、突如として現れた宮野明日香に対してリアクションもとれず、ただ呆然としている。そんな空気にはちっとも圧倒されず、明日香は一つ大きく息を吸ってまた口を開く。

「まず何故ここに私がいるのか、説明します。薄々勘付いてるかもしれませんが、SNSでの炎上を見つけタクシーで勝手に来ました。もちろんパートナーの薫やマネージャーに多大な迷惑をかけてます。そして私達がここに来られないからこんな暴動にまで発展したとなると、私達はわざわざここに来て頂いたファンに申し訳ない気持ちでいっぱいです。今日このイベントを、ドタキャンしてしまい申し訳ございません。その代わりと言うのはあまりにも変なんですが、今夜の生放送は午後8時45分頃にfliezが出る予定になってます。皆さんとテレビ越しに、一緒に歌っていきたいんです。なのでどうか皆さん、それまで待っていただけないでしょうか⁉︎」

 最敬礼で頭を下げる明日香。その思いがなんとか伝わり、お互いのファンが見合って申し訳なさそうに謝り合う。

「ごめんなさいね、すいませんでした」

「本人に迷惑かけたのは、俺ら許さないからな」

「んなモン、アンタらも同じだからな?」

「そうだな、全員が悪い」

 それぞれのファンが握手して和解していく中、明日香は瑞稀にアイコンタクトを送る。

「皆さん本当にありがとうございます。それでは私、もう番組に間に合わなくなるんで行きますね。瑞稀ッ、あと頼んだよ‼︎」

 瑞稀にマイクを押し付けると同時に舞台から飛び降りるように駆け出していき、風のように去って行った。大暴動の間に颯爽と明日香が現れ去って行くという展開に、ほぼ全員が混乱する。

「……あっ、そ、そういう事なので」

 瑞稀が司会よりも早く我にかえって、イベントを再開させようと話を進めだす。そのおかげもあって、すぐに司会も調子を取り戻してイベントは最後にはぎりぎりで良い終わり方になった。


『fliezでーす‼︎』

 結局のところ、SNSでの炎上は避けられなかった。特に炎上の種になったのは羽衣瑞稀が害悪fliezファンから罵詈雑言を浴び、物を投げ付けられる異常極まりない映像。その凄惨さで“トレンド1位”になって、今テレビでfliezが歌ってるにも関わらず歌番組関連のツイート数が伸び悩む程。

「明日香ちゃん、あの現場に居合わせたってのに笑顔がとっても自然だね。さっすがトップアイドル、気持ちの切り替えが完璧」

「うん、そうだね……」

 最後の歌が終わって明日香のアップになった時、視聴者に向けてなのかウインクしてくれた。

「……ッ‼︎」

「えっ、ケールどうした⁉︎」

「こ、これは“尊死”したんだよ‼︎」

 その後MCとの会話中に、テレビに向かって満面の笑みで手を振ったりしていたから、これは明日香がアドリブでファンサービスをしてくれているんだね。

 あんな騒動からたった数時間しか経ってないのにあの切り替えの完璧さ。スゴいんだなぁ、トップアイドルって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ