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第1話『初めまして、魔法少女』

 八王子の高校でそれなりに充実した毎日を送る普通の一年生である私、高宮(たかみや)七海(ななみ)は今日も授業中に窓から見える景色をボーッと眺めている。さっきは充実してるって言ってたけど、最近は全体的に考えて暇な時間が増えてきたからかな? 自分を良く見せようと見栄張っちゃったけど、もう正直に言ったから無駄だよね。

 このクラスにはいないけど、隣のクラスにいる陽キャ代表の伊藤(いとう)美紀(みき)ちゃん。私は陰キャだから彼女の様な人と関わらない様に必死で無駄な努力をしながら、終業のチャイムと同時にサッサと家に帰る。

『一緒に帰らなくて良いのかな?』

 無理なんだよ、それが。だって美紀ちゃんは人当たりが良くていつも周りに女子も男子も集まっているんだもん。普通なだけの私があの輪に入る勇気なんて全く無いもん。

『高嶺の花ってヤツだね、本当に羨ましいよね』

 確かにそうだね。ああやって人気者気分を味わえるのって、本当に顔が良い人しか味わえないもんね。勉強も運動も何もかもが普通な私には一生無縁な世界なんだよ。

『でも心の底では、ほんの少しの刺激が欲しいんでしょ?』

 本当に出来るんなら欲しいよ。でもそれが出来ない以上は諦めるしかないよね。私だってもうちょっと素敵な人生が欲しかったなぁ……

『だったらその願いを叶える為、ボクにお願いしてみるのはどうかな?』

 はぁ? そうやってお願いして叶うんならみんなやってるって。そうやって勧誘とかして挙句には乙女の純潔を奪おうって魂胆なんでしょ? 私にはそういうの分かってるんだから。ホラあっち行った、シッシッ。

『ううん、ボクはこんな所で諦めないよ。ボクは君に用事がある以上簡単に手を引く訳にはいかないんだ、高宮七海ちゃん』

「えっ…………?」

 私、さっきまで誰と会話してたの…………?

「初めましてだね、ボクの名前はケール。魔法少女を捜してるんだよ‼︎」

「ま、魔法少女ぉ?」

 変に小さい緑髪の妖精みたいな女の子が、私の目線で話しかけている。夢と思うにはかなり現実味があるし、こういう展開はアニメや漫画でみかける所為なのか割と早めに状況を受け入れる事が出来た。

「えっとね、魔法少女って言うのは……」

「待ってケール、悪い敵と戦って平和を守る系でしょ? 何となく分かるからそういうの」

「そっかぁ‼︎ 話が早くて助かるよ‼︎ それでね七海ちゃん、ボクから改めてお願いするんだけど…… 魔法少女になってくれないかな?」

 いきなり現れたケールって言う妖精みたいな女の子から、魔法少女のお誘いを受けた。こういう状況はもしかしたら断るのが普通なのかもしれない。でも私はどうだろうか。

 私は普通の女子高生だ、ほんのちょっとばかりの夢を持った女の子なんだ。だからいくら現実の出来事であろうとケールの言ってる事を信じない方が良いんだ。良いんだ。

 ……だけどなぁ、なんか断ってもしつこそうだし。

「分かった、やるよ魔法少女」

「ありがとう七海ちゃん‼︎ それじゃあ早速お風呂に入ろう‼︎」

「うぇっ⁉︎ 何でお風呂に入るのさ⁉︎」

「何でって言われても…… ボクの声や姿は周りに見えるんだよ。だから身を隠すにはお風呂しかないんだと思うんだよ」

「とか言って本当は私の裸を見たいだけとかでしょ……?」

「そ、そんな事ないよ〜。とりあえずお風呂に入ろう、急いで入ろう‼︎」

 ケールに無理くり身体を押されて家に帰り、着替えもせず真っ直ぐお風呂場へ直行させられた。


 ケールによって服を着たままお風呂場に連れ込まれ、何も入ってない浴槽にシャワーを当てながら話をする事になった。

「……んで? いきなり魔法少女になれって言われても、何したら良いか分かんないんだけど」

「うんそうだよね。それじゃあ魔法少女活動の基本中の基本をこのボク、ケールが教えるね‼︎ まずは今の魔法少女達がどうやって活動しているのかから説明しようかな。他の魔法少女はそれぞれ契約時点で決められた“持ち点”が与えられるんだけど、特定の日付特定の時間帯になったらその持ち点を奪い合うのが、魔法少女達が従うべき“ルールその一”だよ。そして次に持ち点の奪い合いには自身の身体能力が必要不可欠になってくる。何故なら持ち点の奪い合いには、必ず魔法少女自身による攻撃が必要だからなの。光の魔法で倒すのも良し、相手を降参させても持ち点は奪えるから、七海ちゃんみたいに運動音痴な子でも相手次第では十分勝利の可能性を持ってるよ。それでも有利不利のバランスはどうしようもないけど、とにかく自身の攻撃で勝てば良いんだよ。極端な話、じゃんけんで勝てば良いんだよ。纏めると魔法少女達はそれぞれ自身が持つ攻撃手段で戦闘を行う事。これが“ルールそのニ”だよ。そして“ルールその三”なんだけど…… パートナーを組んでも良いよ。ただし一人だけね。魔法少女以外の人をパートナーにしても全然大丈夫だけど、その人を常に守る必要があるからドMの人だけにオススメするよ。さてと七海ちゃん、これが魔法少女活動の基本になるけど質問はあるかな?」

「ないかな。何となく理解ったし」

「それじゃあ魔法少女に、なる?」

 私は普通じゃない日々を送れると期待しながら、魔法少女になると決意した。するとケールは無垢な目で喜びだした。

「ありがとう七海ちゃん‼︎ それじゃあ早速契約の準備をするから()()()()()()‼︎()

 無垢な目をしたまま、ケールがグイグイと迫ってる。初対面でいきなりヘソを見せるのはかなり恥ずかしいけど……

「ヘソ、だけで良いの?」

「うん‼︎ 舐めなきゃ契約完了しないんだよ‼︎」

「変態‼︎」

 急に背筋がゾワゾワしたからか、ケールを両手で鷲掴みにしてヘソを必死に守る。体長が五から六センチくらいしかないケールの身体を、優しく拘束すると少し涙目で訴え始めた。

「ご、ごめんね…… いくら女の子同士だからって、ヘソを舐めるのは健全な女の子同士のエッチスケッチワンタッチだからって、優しくしないとダメだったよね。それをボクは勢い任せにしようとして…… グスン」

「そもそもヘソを舐める行為自体が健全じゃないし、変態だと思うんだけど」

「ほら、七海ちゃんは産まれる前は母体とヘソで繋がってたでしょ? ヘソは生命の源なんだよ。そこを刺激して命を活性化させてハートのエネルギーを少しずつ爆発させると魔法少女になれるって事なんだよ‼︎」

「へぇ〜、へぇ〜……?」

 ごめんケール、やっぱ分かりそうで分からなかったわ。

「えっと、とりあえずヘソ見せれば良いんだよね? あんまりジロジロ見ないでよ? 女の子とはいえ、恥ずかしいんだから」

 スカートに手を潜らせ、ワイシャツの裾を掴んで引っ張り上げる。そして恥じらいを隠しながらヘソを見せるとケールが急接近して私のヘソをまじまじと眺めだした。

「うわぁ〜、うわぁ〜」

 そのセリフがどういう感情を持って言ってるのかは、ケールの顔で分かる。

「舐めたいなぁ〜……」

 興奮だった。

「舐めてから契約でも、良いかな?」

 やっぱ変態じゃないか、ケール。

「……もう好きにしていいよ」

「ありがとう七海ちゃん‼︎」

 どうせ舐めさせないと話が進まないと悟った私は、諦めてケールの気が済むのをひたすら待つ事にした。ヘソ周りにケールが手を当てて鼻息を荒くする感覚が微かに伝わり、そして舌で舐められる感触があるのと同時に変な感覚も覚えた。

“ちょっ、コレ……‼︎”

 待て待て、コレは状況がそうさせてるんだ。シャワーの熱で身体が火照り、女の子同士での変態行為、そして場所はお風呂場。これらの条件が私を無理に意識させてくるんだ。ケールの口から魔法少女になる条件に、“変態であること”なんて一言も言ってなかったじゃんか。もし魔法少女が変態だったら、その時点で私は普通の女の子なんかじゃなくなっちゃうじゃんか。

“ま、まだ終わらないの……⁉︎”

 一分経ったけど、まだ終わらない。まだケールに舐められている。契約ってまさかエッチな事なのかと思う程に疑惑と不安な気持ちが溢れてくる。

「……はい、契約は終わり。無事に七海ちゃんはハートをボクに捧げて魔法少女になりましたとさ」

「うぇっ? いつの間に?」

 ずっとヘソを舐められる感触しか無かったけど、とりあえずもうヘソを舐められる事は無くなったね。良かった一安心。っていやいやいやいや、何安心してんの私‼︎

「これでいつでも魔法少女に変身出来るよ。ちなみに魔法少女同士の戦闘は特定の日付と時間って言ったけど、今のところ毎月一日の午後七時から午前零時まで。時間になったら全員が自分の足で敵魔法少女を捜す必要があるんだよ。だからそれを逆手に取って時間前に行動するのも良し、戦闘が終了するまでばっくれるのも良し。全ての行動は君達の自己責任だから注意注意‼︎」

 毎月一日の午後七時って、今じゃないの‼︎ しかもとっくに始まってるし‼︎

「早く行かなきゃケール、魔法少女を捜しに‼︎」

 慌ててお風呂場を飛び出し、コッソリ玄関を出て魔法少女を捜しに夜の世界へと赴いた。今日は十一月一日、もう真っ暗な外を魔法少女姿で出歩くのに抵抗があるから隠れながら移動している。

 魔法少女達は一般人にも見えるらしいから、捜索も戦闘も会話も、全部気を付けないと色んな意味で危険らしい。特に悪い事を考えてる人が魔法少女を誘拐してメチャクチャにした事件が過去にあったらしく、それ以降はケールが緊急アラーム機能を追加したみたい。私も持ってるけど役に立つかと言われたら……

「そういえばケール、私はどうやって戦えば良いの? いつか一人でも行動出来る様になりたいんだけど……」

「そっか、じゃあそんな七海ちゃんにはこのアイテムを授けよう‼︎ はいどーぞ‼︎」

 そう言って手渡されたのは、それこそ魔法少女らしさ全開デザインのコンパクトだった。ニチアサ的デザインを彷彿とする見た目が、なんか可愛いかった。

「ちなみに使用出来る魔法がいくつかあるんだけど、くれぐれもMP切れには充分注意してね。そこはリアルだから」

 戦闘が始まる前に、自分が使える魔法をチェックしておく事にしてみる。前もって確認して損はないし、何より大事な事だからね。

「えっとぉ、どれどれ…… [フレイム]、[アフターファイヤー]かぁ。見た感じ私は炎の魔法少女って感じだね‼︎」

「ちなみに魔法少女達にはガチャシステムもあるんだけど、その時は持ち点10ptを消費するからご利用は計画的にね☆」

「ちなみにそのガチャの中身って、人それぞれだったりするの? 課金したりチートとか使って不正されたら、もはや誰も勝てなくなるじゃん」

「その不正対策は人間界の技術では到底破れないから安心して。ガチャの中身に関してはユニークが含まれてるから、他の誰よりも沢山の固有魔法を入手しておけば戦闘を有利に持ち込めたり出来るよ」

「それじゃあ、私の今の持ち点っていくつあるの?」

「100ptあるよ。言い忘れてたけど、魔法少女活動には終了のタイミングがあってね。625ptを達成したら内に秘めてる強い想いか願いを叶えて強制的に魔法少女の力を失うよ。願いの代価は“魔法少女の力”って事になるね、この場合は」

 随分と中途半端な数字で終わるんだな……

「さぁ七海ちゃん、記念すべき初戦だよ‼︎ 頑張って‼︎」

「う、うん‼︎」

 ケールから色々教わって少しワクワクしながら街へと向かうその道中、私みたいにキラキラした衣装にスパッツを身に纏ったスポーツ系女子が立っていた。ぱっと見は学校で見た事ないから、きっと他校の生徒だね。

「敵だね。戦う準備は出来てる?」

「うん、まぁまぁね」

 相手は一言も喋らず、ジッと私の目を見ている。それが頭脳派による目つきなのか余裕な姿勢によるものなのか、それは今考えるには時間が足りなかった。

「……まさか初心者?」

「うっ、やっぱバレるか……」

「それじゃあ今回はラッキーかな。あたしさ、こう見えて脚にケッコー自信あるからね‼︎ ソッチがたとえ山の中や建物の中へ逃げたって一生追いかけちゃうんだから‼︎」

 両足をトントン弾きながら準備運動をする瞬足がウリの体育会系魔法少女は、ノリの良さそうなニカッと笑顔で私を見つめている。そんなスポーティ女子に対して私は全くの運動音痴で唯一良い成績を残したのはマラソンだけ。そんなヒョロヒョロの私が勝つには、一体どうすれば……

「ちょっと待った‼︎ 一回で良いからガチャらせて‼︎」

 ダメ元で運に頼ってみる事にした。もし相手がこれを拒否したら潔く正面突破して特攻しよう。

「うん‼︎ 良いよガチャっても‼︎ どんなスポーツでもフェアじゃなきゃちっとも楽しくないからね‼︎」

「ありがとう、見知らぬ魔法少女さん‼︎」

 運良くガチャを一回だけする時間を貰えた。このラッキーで何か良い魔法を手に入れないと、初戦から負けてポイントがかなり不利になっちゃう。ここは何としても良い魔法を引き当ててみせる‼︎

「よし、ガチャ発動‼︎」

 魔法少女が常備しているコンパクトを開いて、持ち点10ptを消費してガチャを一回だけ引いた。出来ればここでユニークを引いて相手を驚かせたいけど、一発でイケるか⁉︎

『ガチャ結果、補助スキル[スピード向上]獲得』

 スピードかぁ、今の相手が持ってる武器を考えるとなかなか良い結果だったんじゃないかな⁉︎ 少なくとも互角の勝負にはなりそうだし、何とかなりそうな予感‼︎

「どう? 期待してた魔法は当たった?」

「う〜ん、正直微妙かな……」

「あちゃ〜、それは不運だったね〜。悪いけどもうそろそろ待てないから行かせてもらうよ‼︎ ホラ構えて‼︎」

 そう言いながら相手はクラウチングスタートの構えをとり、今にも飛び出しそうな雰囲気を漂わせてる。私がその姿勢を目視した直後には既に目の前まで接近を許していた。

「そーらよっと‼︎‼︎」

「うっ⁉︎ くぅっ……」

 腰を低く構えてからのタックルがお腹を直撃する。まだ夕食を食べてなかったから良かったけど、それでも結構ダメージがある。よそ見程度にコンパクトをに目を通すとHP最大値500から60引かれていた。

「結構痛いんだね、タックルって……」

 両手でお腹を押さえながら前を向くと、右脚をグッと引っ込めて蹴り飛ばす構えになっていた。その姿勢はまるでカンフー映画の主人公の如く、そしてそれから繰り出されるキックも、まるでカンフー映画みたいな鋭さだった。

「ふんっ‼︎ 見よう見まねの一蹴だよ‼︎」

 ニカッと笑う魔法少女に蹴られた痛みを必死に我慢する。今のでHPが半分を切ったみたいだから、あんまりあの子の間合いに入らない方が良いかも……

「くっ……‼︎」

「おっ、逃げた」

 流石にこれ以上の攻撃を喰らいたくない想いでその場から全力で走り去る。そうやって走り出した瞬間、私は自分の脚の速さに驚愕しちゃった。

「ウソッ、これが私……⁉︎」

 何だか世界を相手する陸上選手になった気分だった。確かに陸上選手が大勢の女子からモテるのも納得だわ。

「とにかくあの子から精一杯距離を離さないと…… って、もう来てるし‼︎」

「ゴメンねー、そういうのは得意分野だから‼︎」

 私の後を、しかも少しずつ距離を縮めながら迫って来る。テレビで見かける陸上の一位争いみたいに、とてつもない速さで迫っている。

(まずいまずい‼︎ このままじゃ追いつかれちゃう……‼︎)

 いやまだだ。まだ諦めるな。まだ負けてないぞ私‼︎

(彼女はさっきの感じだと、脚技がメインの魔法少女…… そこから逆転する方法を見つけ出せば、私に勝機はあるはず‼︎)

 そして問題はこの状況から考えるに、立ち止まらずに攻撃しなきゃいけない事だ。もし立ち止まって攻撃しようものなら即捕まって幸先悪いスタートになってしまう‼︎

(つまり私が勝つには、数秒以内に一発逆転の手段を考えないとダメ‼︎ そして脚を一切止めずに攻撃しないといけない、まさに極限的状況‼︎ チャンスは一回きり‼︎ やってみせる、見せつけてやる‼︎)

 背を向けたまま魔法を発動するイメージで、炎の魔法を発動する‼︎ そしてそれを実現させる‼︎

「アフター…… ファイヤー‼︎‼︎」

 そう叫けんだ瞬間、突如身体のバランスを崩したと同時に背後でとてつもない爆発が起きた。あまりの爆風に耐え切れずその場から吹き飛んでコンクリートに身体を打ち付け、そのままあちこちを擦って血が滲み出てきた。

「いたた……」

 一体何があったのか。それを確認する為に後ろを確認すると、そこには真っ赤に燃えたぎる巨大な炎が存在していた。何も無い場所で不自然に燃えるソレは、まさに魔法そのものだった。

「あっ、そういえばあの魔法少女‼︎」

 急いで炎に突っ込んで背後にくっ付いていた子を助けようと手を突っ込むと、驚く程に熱が無かった。

「魔法で作った炎は、全ての魔法少女に対する損傷を最大限カットしているから触れても大丈夫だよ。ただHPの方はもう無いかもね、背後に付いていただけあって直撃だしね…………」

 ケールのおかげで不安な気持ちは収まった。そのまま炎の中に入るとすぐに倒れ込む魔法少女の姿を発見した。

「大丈夫⁉︎ ケガとかしてない⁉︎」

「う、ううん。ちょっと膝をやっちゃったな。アハハ……」

「良かったぁ〜、軽傷で済んだんだね……」

 するとコンパクトから音が出て、中身を見る様に促してきた。二人で一緒にコンパクトの中を覗くと、簡単な一文が表示されていた。

『戦闘決着、勝利‼︎ 持ち点移動+55pt 現在持ち点145pt(内訳○勝利:25pt 処女ボーナス:30pt)』

「……………………」

 とりあえず勝てた喜びに浸っていると、いつの間にか私が出した炎は綺麗さっぱり消えて無くなり、魔法少女衣装も消えて普段着に戻っていた。

「いやぁ〜、まさか後ろに発射してくるとは思わなかったなぁ‼︎ でも面白かったよ。また出会ったら戦おうね‼︎」

 ジャージ姿の女の子はニカッと笑顔を見せながら、その場を足早に去って行った。しばらくその場に座り込んでいる私にケールが近寄って、擦りむいた傷を心配そうに見ている。

「痛くない? 大丈夫?」

「うん、大丈夫。絆創膏貼っとけば良いし」

「なら良いかな。それじゃあ七海ちゃん、そろそろ気持ちを切り替えて家に帰ろうよ‼︎ 次の戦闘まで一ヶ月もあるから、それまではいつも通り青春を送ってても大丈夫だよ。それとガチャりたい時はなるべく人のいない所でやってね、魔法少女関係の道具も一般人に見えるから」

「あぁ分かった。じゃあ一緒に帰ろうケール」


 普通じゃない日常を求めて手にした魔法少女の力。それを駆使して相手の魔法少女と戦って持ち点を奪い合い、そして願いを叶える。そんなニチアサ的な魔法少女とは違う非日常的な人生を、私は今、その大きな一歩を踏み出した。

 だけどその大きな一歩は、少しだけ躓いてしまったようだ。

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