第1話
マックでコーヒーを啜りながらスマホを見ていた。
外は雨で、ジーパンがやや濡れた。
又隣の席のJK二人組が大声で騒いでる。
「有り得なくない〜?」「それな、ギャハハ」
俺は『知るか』と言いたい。こっちは特に調べるものもないのに、グーグルでネットサーフィンするのに夢中なんだ。黙ってろ。その小さな赤い唇を三十歳手前の臭い口で塞ぐぞ。よろしいか?
俺はノートを取り出した。今からこのJK二人組を非道徳的な妄想、言ってみれば18禁の妄想をノートに書きなぐる。俺の非道徳的な趣味だ。
ノートを取り出すと、間にメモが挟まっていた。
『勇者クラー、英雄になる。そのあとハーレムのお楽しみ』
このメモを書いた記憶が一切ない。だが、疑いようのなく俺の字だ。
メモの裏を見てみた。『交渉しろ』と書いてある。
昨日ノートを見た時は無かった。どこからか寒気がする。
『勇者クラー』で思い出したこと事があった。学生時代に小説投稿サイトでファンタジーものを数ページ書いた。まさかその時のプロットが紛れ込んだというのか、意味不明だ。
懐かしさと、興味もあって、投稿していた小説のタイトルを検索した。出てきた。恥をしのいでクリックする。
小説はコメント、ブックマークが一つもなく4話で終わっていた。小説の中身を要約すると……
ーーエプリフト帝国に住む、奴隷階級のクラーは来る日も、来る日も宮殿の建設工事をしていた。そんななか市井では、貴族階級の美しき若き女、サラが奴隷解放を謳い、一部の支持を集めていた。サラの思想は奴隷たちの耳にも伝わり、クラーはサラに魅力された。
サラの支持者は日に日に増してゆき、エプリフト皇帝はサラを無視出来ずにいた。そして、皇帝は対話の機会を設けた。
しかし、隣国のカンドルド王国が奴隷解放を名目にエプリフト帝国に侵攻した。この侵攻をきっかけにサラはスパイ扱いされ、逮捕される。
判決により、サラは死刑宣告を受けた。それを聞いたクラーたち奴隷は、サラを救出すべく武装蜂起したーー
ここで終わってる。オチまで考えた気がする。だが肝心のオチを忘れた。
暇なので、ちょっと書いてみるか。JKとムフフな妄想を書き殴るよりかは遥かに健全だ。俺の本職に相応しいからな、作家として。自称だが。
さてと、勇者クラーくんをどうするかだが、まあサラとくっ付けるオチだろうな。ノートにプロットを書くために次のページを開くと。白紙のはずのページに文字がびっしり書いてあった。
『おい!作家よ!お前がふざけたことしてくれたから、こっちは大迷惑だ!書くなら、主人公の俺ことクラーて言うんだが、主人公なんだよな?何が奴隷だ!生い立ちは奴隷じゃなくて、資産階級の金持ちにしろ!それから、エプリフトもクソ国家だがカンドルドは話にならない。野蛮人だ。俺の願いだが、神の天罰がカンドルドに降るような展開を書け!』
酔っ払って書いたのか……?俺の犬のフン並みに汚い字であるのは間違いないのだが、こんなこと書いた記憶が一切ない。
一旦ノートを閉じる。あたりを見渡す。そしてもう一度ノートを開く。
『創造主よ。あなたに問う。あなたに少しでも良心というものがあるのなら、どうか我が国、我が民族の繁栄を書いていただきたい。エプリフトの現在の状況は悲惨そのものであり、カンドルドに領土がほぼ制圧され、多くの市民が戦犯となり逮捕され、鎖で繋がれている。カンドルドの大義名分の奴隷解放は全く嘘であることがもはや、わかった。』
達筆だった。夢にしてはリアルだ。妄想が見えるようになってしまったのか。
上の文章にはさらに続けて『創造主よ。いや、こう言いたくない。作家よ、名を名乗れ。そして、我々の味方をせよ!さもなくばこの文章を読み終えたのち、不幸が起きるだろう』
読み終えたその時だった。俺の近くを歩いていたサラリーマンが転び、コーヒーを俺に向けてこぼした。
サラリーマンは起き上がりハンカチを持って謝罪の言葉を連呼した。
頭からかかった。不幸中の幸いと言えるかわからないが、アイスコーヒーなのが救いだ。
さっきまで騒いでいたJKが一瞬鎮まり、こちらを見た後、何事もないように再び大声で話していた。
俺は「大丈夫ですよ」と連呼したが、本音はふざけるなだ。
トイレに行き鏡を見た、シャツが茶色くなっている。クソッタレだ。
洗面台の近くのゴミ箱に漫画雑誌が捨ててあるのが気になった。表紙を見て寒気を感じた。アイスコーヒーで濡れたからではなく。その文字で。
『不幸は続くよ!交渉しよう!待望のカラー』
そしてスマホが鳴った、LINEだった。「話の続きは?」
とにかく深呼吸をすることにする。そして送り主が友人であることを確認した。
店を出ることにした。そして心療内科に受診することを決めたーー
ーーある夜の森の中、焚き火を見ていた集団がいた。美しい娘が書物を書いている。
「サラさんよ。なんでもっと奴を痛めつけない?」
「クラー、彼は一応、創造主であることは変わりない。彼が怒り震えてこの世を消し去ることも可能なのよ。言わば……、言いたくないけど神に近い存在なの」
「でも、俺たちも奴の……、いや、創造主さんの運命を左右できる方法を見つけたじゃないか」
サラと言う娘は書物を注意深く見ていた。
「あったわ。彼は今寝てるみたい。そして、なんとでも呼べ。何して欲しいか書け!って書き込んでるみたい」
「会話が成立しましたな」
白髪に髭の老人がポツリと言った。
「ガノさん!あなたにはなんとお礼をしていいか。ガノさんのお陰でこの戦争も勝てそうです」
「サラお嬢様のためならこれぐらい。まさか我が秘蔵の家宝が役に立つとは」
木々の間にサラは何かを感じた。辺りを見渡すサラ。
「ん、どうした?サラさん」
「クラー。みんな用心して。敵かもしれない」
ある者は剣を抜き、ある者は弓を構えた。
緊張が走る。
木々の間から若い女が走ってやってきた。
「サラ様。私です」
「ローサ!敵の状況は?」
「カンドルド兵が近くまでやってきます。その数50人ほど」
「50人?これは創造主に頼むしかない」
クラーが言った。
「ガノさん。彼を起こす方法は?書いて味方してもらわなきゃ困るわ」
「書物に何か創造主が起きるようなことを書きましょう。彼をなるべく刺激しない方法で」