悪い想像すると案外良かったりする
次の日、「それでは活動を始めます」と何故か生徒会副会長、外藤 八重子さんが部室にいた。
因みに部室は、一階の昇降口の目の前の教室を借りている。
綾子先生、俺、涼盛、そして、八重子さんがいた。
「あ、あの」
「何かしら」
「なんでいるんですか?」俺は当たり前のように八重子さん部室にいるのが不思議だった。
「はぁ、そんなことも分からないの?」八重子さんは当たり前でしょ? と言うようにここにしかも、生徒会のものであろう椅子に偉そうに座っている。
「貴方たちに部活、いえ、同好会を許可したのはこの私よ、よって私は貴方たちを監督する義務があるわ」と、仕方ないわね、と言うように胸に手を当てて言った。
「お笑い、嫌いなのでは?」
「嫌いよ?」どういうこと? 何で嫌いなお笑いに強力しようとすんの? と俺は疑問に思ったが、先生が嬉しそうに目を瞑って微笑んでいるのを見て何かこの人しっているんじゃないのか? と思った。
ガラッと突然扉が開かれる。
「おお、外藤、そんなところにいたか」廊下から入ってきたのは、学生帽子を被った長髪の男、そして、干し芋を食べながら「八重子ちゃん、いつも一番に生徒会にいるのにいないと思ったら~どしたの? こんなとこで」と呑気な口調で黒髪のくせっ毛のロングエアーの女、続いて髪がぼさぼさで、生気がなく、この世の絶望を表しているような瞳孔が開いているずぼらそうな女、俺が生きてんの? と思って顔を見ると、ギュルン!! と首を回転させて、殺し屋のように鋭い目を向けて「何か?」と湖の底から聞こえるくらい暗い声が飛び出してきた「い、いえ、なんでもありません」と俺はどもった。危ない、絶対あの人、『貞子』とか仇名つけられてるよ。
と、俺が思っていると「八重子副会長、こんな所に何をしているんですか!?」といかにも真面目そうな、坊主に近いほど短髪の男が部室に入って来た。
すると、その声に続いて、「おやおや、副生徒会長はいつからこんな同好会の部長になったのかな?」と長身の学生帽子を被った男。
続いて、何も言葉を発さず目がドス黒い眼を浮かべている顔が足までかかるほどのロングヘアーの見た目がめちゃくちゃ怖い女、が入って来た。
「おや~?」
すると、八重子さんがいけしゃあしゃあと「あら新家今善会長、そして、また干し芋ですか? 書記の新浪 白江相変わらず、生気がないわね会計の佐伯 貞華さん、そして、見習いの小竹 小次郎君」
「なんか、僕の紹介適当じゃないですか!?」と見習いの小竹 小次郎君が叫んだ。
うん、分かるぞ、適当にされるのが嫌なその気持ち、はたから見れば全く良い所が無いと評価されるゆえに、「え、えーと、いつも笑顔の洋一君」とか困ったように紹介されるよな、つらいな、わかるよ、お前の気持ちは。
「そこの人、なんか失礼なこと考えているでしょ!!」と小次郎君は俺を指さした。なんで? ばれた!? この生徒会の人たちは要注意した方がいいな、相手の考えが読めるなんて。
すると、八重子さんが俺の考えを読んだように「貴方の考えは読まれやすいのよ」と言った。
え!? 嘘!? 俺、小学生のころ、レディーガガに憧れてんだろ、だって顔ポーカーフェイスじゃん、て言われるほど無表情なのに!?
「貴方はもう表情で何を言ってるか物語っているようなものよ、その顔は」ごめん、俺のことレディーガガとか言ってたクラスメイト、そんなにポーカーフェイスじゃなかった。
「それよりも、副会長、なぜ漫才同好会と言う妙なところに居るのですか?」と小次郎君が話を繰り出した。
すると八重子さんは、またしても、そんなことも分からないの? と言うように、はぁぁぁぁぁぁ、と長い長い溜息をついて胸を張る。
「この同好会を立ち上げたのは私のようなものよ、私が責任を取らないでどうするの?」その言葉に「いやあ、立ち上げたのは顧問の綾子先生じゃない?」と呑気に干し芋を食べながら白江さんは反論する。
だがそんなことには関わらず八重子さんは「とにかく、この部活は私のものなのです!! だから、私が指導する必要があるんです!!」と言い放つが「いや、お前のものじゃないだろ」と先生にツッコまれてしまった。
八重子さんは暫く、ぐぬぬ、と言葉を詰まらせていると「ともかく、洋一!! 涼盛!! 貴方たち、新ネタは考えてきたんでしょうね!?」と、突然、矛先が俺たちの方に向いた。
もちろん、俺はそんなこと考えていない、だが、「はい、考えてきました」と涼盛は軽々とそう言ってのける。
「はぁ!? お前、昨日の今日でなんで出来るんだよ!!」
「そりゃ、俺が漫才の才能があるからや」と言う涼盛を見て、八重子さんが「なら、そのネタを今すぐやりなさい!!」と無茶振りしてきた。
「いや、俺、聞かされていないんですけど」
「あなた、漫才においてだけ記憶力が良いでしょ!? この場で覚えなさい!!」八重子さんの凄い剣幕に押されて俺は涼盛から渡されたネタを慌てて見た。と、やはりすぐに覚えることが出来た。
「よっしゃ、やるで」
「あ、ああ」
少年漫才中略
「え? なあに? これ」白江さんはそう言って髪を指で遊ばせている。
「……」貞華さんなんて本読み始めじゃったよ
おい、小次郎、白目剥いて拍手するのやめろ。
会長は、何も言わずにうんうん頷いている。そして、頷いた後「うん、面白くないな、ツッコミの言葉も仕方もボケも両方ダメだ、ネタに関しては全く持ってダメだ、何がダメかと言うと色々ありすぎてそれこそツッコミが止まらなくなる、まあ点数をつけるなら、十点、もちろん、百点満点中ね」と長々しい理路整然で直球な批判を述べてきた。しかも、そのいいかたがとても冷たく体がデカい槍に貫かれたんじゃね? と思うほどだ。心配になって涼盛を見た。涼盛は目を白目にしながら直立不動していた。あ、だめだ、めちゃくちゃ傷ついている。
もう立ち上がれないかもしれない。
そして、肝心の八重子さんは、まるでこちらを試しているかのように神妙な面持ちでこちらを見ている、何だ? 何を見ている? この人は。
すると涼盛が突然「そうか~!! やっぱだめだったか~!!」と言い出した。
「お、おい、涼盛、大丈夫か?」どうしたの? ダメ出しされ過ぎてちょっとハイになっちゃった?
「ん? 俺は、大丈夫や、平気も平気、でも、やっぱり、オリジナルで考えた漫才、ダメだったか~、上手くいくと思ったんやけどな」そう言って涼盛は俯いた。カラスに襲われてボロボロになった案山子のような姿だった。俺は、かける声が見つからずにそのまま涼盛を見る。すると「てことは!! まだまだ面白くなるってことやな!!」と顔を上げた。
俺は少しびっくりした。結構な酷評されたのにまさかこんな言葉を言うとは。生徒会の人たちも、ただ一人、八重子さんと先生は微笑んでいた。
「よし!! じゃあ行くか」と突然先生が声を上げる。
「行くってどこにですか?」と俺の疑問の声に先生はニッと笑いながら「決まってるだろう? 昨日の児童センターだ」