記憶力は大切
「パクリじゃない」沈黙の後に八重子さんが開口一発めでいった感想であった。
はい、その通りです、パクリです。あれ? 元知ってるって事はお笑いもして詳しいんじゃ
「まあ、完全にパクっていないあたり、そうね、パロディって所かしら、そのあたりは、ミルクボーイさんのリスペクトが見えるわ」と褒めたってやっぱりお笑いくわしいんじゃねえか!! 「失礼ね、これくらい常識でしょ?」と八重子さんは答えるけど、あれ? 今、俺の心の声読みました?
「ありがとうございます!!」涼盛は頭を深々と下げている。
「でも、それは自分たちの漫才で勝負が出来ないと証明しているものよ、第一、ちょっと、少しは面白かったのは先人たちの足跡のお陰よ、貴方たちはその先人たちとは違う新たな道を開拓しなければいけないわ」
「ありがとうございます!!」涼盛が嬉しそうに頭を下げているのを見るといや結構、高評価何じゃないかと思ったが「ですが」遂に酷評の口火を切った。
「まず、ツッコミがなっていませんね、失礼します」と八重子さんは立ち上がり、俺の前に立ち「いや、ピンポイントで俺やないか!!」とツッコんだ。
その外見から予想もつかない程キレがあるツッコミに俺は驚いた。手にハリセンを持っていないのにまるで持っていたかのような幻覚が見える程であった。
「そして、ボケ!!」
「はい!!」呼ばれた涼盛は背すじをピンと伸ばし勢いよく返事をする。
「活舌が悪すぎる!! 途中、何度か噛みそうになっていたわ!!」
「はいその通りです!!」
「いい!? ネタと言うものはどんなに速く喋っていても活舌が悪かったり、何言ってるのか分からなかったりするのはご法度!! お客様が聞き取ることに集中してネタに集中できないから!!」と厳しいコメントをした。
「それにしても」と八重子さんは振り向いた。
「あなた、ネタを三分で覚えたの?」
「え?」気付かれていた。俺が、ネタを三分前に初めて見てそこから漫才をしたことを。
「あなた、歴史の成績は?」
「えーと、小学校の頃だと、40点でした」
「得意教科じゃないの!? 大体、歴史って初期の頃は暗記教科なのよ!? 本当は違うけどね!? え!? てっきり記憶力が良いって思ったけど違うの!?」
「はい、何回見ても誰が何したか暗記できません」
「え? じゃあ何で漫才は暗記できるの?」
「いや、分かりません」
俺がそう言うと、八重子さんは頭を抱えた。そんなに俺変なこと言ったかな? たしかに俺は歴史も暗記教科なのに全く全然覚えられないけど、さっきのような台詞が決まっているものとかなら簡単に覚えることが出来るけど、これって変なことか? て思ったけど、よくよく考えてみれば変だわ、なんで暗記できないのに台本覚えるの速いんだよって話だよな。うん、これは変だわ。
俺が考えていると、頭をかかえている八重子さんを差し置いて先生が「なあ、とりあえず、部活、認めてやっても良いんじゃないか?」と言った。
「何を言っているんですか!? まだ私は許可したわけじゃ」
「でも、お前がこんなに熱く指導している姿は久しぶりに見たぜ?」その言葉に八重子さんは言葉を詰まらせて頬を赤く染めた。そして、コホンと咳払いをして「ええ、まあ、良いでしょう、当面の間は同好会として認めましょう」と言った。
「いやったで!! 洋一、部活、認められたで!!」と涼盛は大喜びしているけど、お前分かっているのか?「何を浮かれているのですか?」と八重子さんは厳しい声を、腕を組みながら俺らの方に向かって出していた。
「部活ではなく同好会です」そうなのだ、やはり部員が足りないため部活になることは出来なかった。そして、もう一つ良くない知らせがある。
「もし、貴方たちがこの一年間で何も実績を持つことが出来なければ、同好会は解除となります」そう、同好会は決して部活ではない。その理由を逆手に俺たちの学校では、一年間、実績をとる、つまり、全国大会に出場するみたいな実績を取らない限り無理なのだ。
まあ、実際にはそう言う大会はある。
全国学生漫才大会、これは小学生、中学生、高校生、大学生、とありとあらゆる年代の学生が集い、漫才をする。
そしてその中から頂点を決めるものである。
俺は、間違いなく絶望的な状況、俺らみたいなぺーぺーが、全国優勝、そんな大それた実績を作れるわけがない、こいつもまあ絶望しているんだろうな、と思っていると「なんや、一年間でええんやな」と呑気な声をあげる。
「はぁ!?」俺は驚くどころか呆れた、こいつ、何を言っているんだ? 何、一年とか十分やんけ、みたいなこと言ってんだ!? たった一年、たった一年だぞ!? そんなの無理に決まってるだろ!? 諦めてくれ!! と思っているとそんな俺の心の声が聞こえたのか、涼盛が顔を覗き込んで、「洋一どうした? そんな顔して、まだ一年もあるやろ? ほんならその間に実績作ればええ話やん」とそんなの簡単だろ? と言うように身を乗り出す。
そして、宣言した。
「俺らは全国学生漫才大会で優勝する」
「は!?」俺は驚愕の声と顔を表して、八重子さんは、目を細める、先生は、ひゅ~♪ と口笛を吹いた。
「本気ですか?」
「ああ、本気も本気や」
「たとえこの先が茨の道でも?」
「ああ、そうや、たとえ茨の道であっても俺らは進む!!」
「誰も報われないかもしれませんよ?」
「かまわん、報われるためにやっているわけやない」
「貴方の漫才がこの先、どんなに努力をしても全国に通じないかもしれないんですよ」
「いや、それはない」
「なぜ、そう言い切れると? 貴方の先ほどのネタは全国には到底及ばないレベルのものですよ?」
「それは、俺はお笑いが大好きだからや!!」
その言葉に、八重子さんは何に響いたのか、目を見開いた。
そして、そのまま沈黙が続く。
「先生」
「ん?」
八重子さんが先生を呼ぶ、その顔は心地よい風を受けた麦のように晴れやかな、そして、少し一滴の涙のように儚い表情をして「よろしくお願いしますよ」と言った。
「ああ、まかせろ」先生は、指をGOODポーズにさせた。
「それでは」そう言い残し生徒会副会長 外藤 八重子は生徒会室から退出した。
え? なんか流れで俺、もうこいつと一緒に全国大会優勝するながれになってね?
「さて、どうしようか」と、顧問となった先生は、僕たちを見渡しながらこれからの活動の指針を決めようと促している。
「よし、まずはネタ作り、そして練習あるのみやな!!」涼盛は張り切っている。
一方、俺は、諦めた。何をあきらめたかって? 色々だ、この同好会に流れで入ってきてしまったこと、そして、漫才をやってみんなの前で恥をかくこと、もう俺は恥をかくことは慣れている、ベテランだ、プロだ、恥をかくことに関しては誰かの師匠になれるほどの実力を持っていると言っても過言ではない。
「さあて、どうやってネタ作るかなぁ?」と涼盛が悩んでいると、「良い場所がある」と先生は提案した。
「良い場所ですか?」俺はそう言いながら何となく嫌な予感がしていた。
「ああ、そこはほぼアポなしで行ける所だし、観客もそれなりにいる、お前たちの今の実力とか、図るにはちょうどいいんじゃないか? 観客もそれなりにかなり厳しいからな」
「え!? おれらもう舞台デビューですか!?」
そんなわけないだろ涼盛、どうせ路上ライブとかで恥をかかせるに決まっている、厳しい観客と言うのはそこを通る歩行者のことだ。つまり、俺らは誰にも目にも止まらず、時々来る女子高生に、なに? あれ? とか言われて馬鹿にされるに決まっているんだ。と俺がそんなことを考えていると先生は「何か? 洋一は嫌なことを考えていないか? 例えば路上ライブとか」と俺の考えを読んだようにいったので、俺はギクッとした。
「まあいい、とりあえず」そう言って腕時計を見た。時計は五時を回っていた。
「よし、ちょうどいい時間だ、行こう」と言って生徒会室から出ていく。
「え? 先生、どこに行くんですか?」涼盛が聞くと先生は首だけ後ろを振り向いて答える。
「お前たちの舞台だよ」