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俺たちの慈悲無き漫才ライフ  作者: 宇豪野 衆
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なんでもアドリブは必要

放課後、涼盛が話しかけることはなかった。何か噂話で職員室に行ったらしい、昼間の喧嘩についてのことだろうと俺は思った。もう帰ろうと思った瞬間、「1年C組の宮城洋一君、宮城洋一君、いますぐ職員室に来てください」と放送が鳴る。

 嘘だろ? そう思い、俺は職員室に向かった。

 職員室に入ると「おっす」と声を掛けてきたのは、歴史の教師である、今日原きょうはら 綾子あやこ先生だった。あろうことか、教師であるにも関わらず、一升瓶の酒を持ちそれをコップに入れて飲んでいた。後ろに束ねたプロペラのような赤髪が喜びを表すかのようにくるくる回って見える。身長は百六十センチと女性の割にはあるが、男女合わせれば小さいほうである。

「どうだー、洋一、楽しんでいるかー?」と出される声は軽薄に満ちている。

「まあ、ぼちぼちですよ」

「そうか! ぼちぼちとは結構いいことじゃないか!! 私はこの間の授業参観で疲れてねぇ」と喜んだかと思いきやかったるそうに綾子先生は肩を回している、俺は教師がこれまでの経験から苦手、いや、嫌いなのだ。

「ふーん、そっか、で、こうやって洋一君も来てくれたことだし、話を聞こうじゃないか、小山涼盛、君はこの私に何を望むんだい?」と綾子先生はまるで魔王が勇者に世界の半分を与えようと言う風に、小山に手を差し伸べる。

そして、何お前は照れてんだよ涼盛、めちゃくちゃ顔真っ赤にしてんじゃねえか、まあ、この先生は一見外見は確かに良いが勤務中に酒を呑むくらい型破りな先生だぞ、てか、本当にあんた先生なの? いや、どうでも良いんだ、問題はなんで俺を呼んだかってことだ。

 すると、涼盛は声を上ずらせて「はい!! 今日原先生には、我が部、漫才部の顧問をしていただきたいと思います!!」と懇願した。

 は? なんだって? 漫才部? 漫才って言ったか? 

「おい、ちょっと待て、俺はやるなんて一言も」

「なるほど」と俺の抗議の声は飲んだくれ教師の言葉で消された。

「君は、新たに漫才の部活を始めるために顧問となっていない私を指名した、が、部活には最低五人必要であるとされているが、それはどう考えている?」

「はい! 漫才とはコンビ、それかトリオ、2~3人が最高人数と思っています、もし、それ以上の人数でやるなら喜劇団部と命名します」

「なるほど」え? なるほどって何が? と俺が思っているのを読んだのか、先生は俺の顔をいぶかし気に見てきた。

「おいおい、なんて顔してるんだ、宮城少年、君は分からなかったのか? 先生と涼盛との間で、今、高度な駆け引きが行われていたんだよ」

「え? そうなんですか?」と返事すると、わざとらしいほど、はぁあああ、と先生は大きなため息をつく。

涼盛も「お前しっかりせえや」と叱咤する。え? 何、俺悪いことした?

「全くこれだから中学生は困る、もっと君は色々な事を経験すべきだ、学生なら色々あるだろ? 例えば、プールの時は女子更衣室を覗こうと奮闘したり、修学旅行では女湯を覗いたり、カードで見れるエッチなビデオを見たり、まあ、先生はな、友達に詳しい奴がいたんだ、それで、まあ、その、色々とお世話に」

「いや何の話? ていうか色々な経験って全部犯罪行為、ていうか最近の修学旅行でそんなテレビはあるかどうか分からな……てなんで俺が見る前提で話を進めてるんですか!?」

 俺がたまらずツッコムと、先生は顔をキョトンとし、「ノリツッコミとは、やっぱり涼盛の言う通り漫才に向いているな」と感心して顎に手を乗せた。

「でしょ? 先生、俺の言った通りやろ?」と涼盛は嬉しそうな顔をしている。

 え? あ? まさか、俺は「そう、試されていたんだよ」と俺の思考を読んだかのように先生は言う。

「な? 先生、ええやろ? 漫才部!!」と涼盛はここぞとばかりに張り切る。

「そうだな」と先生は何故か吸ってもいないのに手をタバコを掴むような形をして口に持ってきて、そのまま椅子を半回転させている。そして、やがて、ピタッと止まると「そこまで言うなら、君たち、ネタはできているんだろうな?」と言った。

「「え?」」俺たち二人は同時に反応する。いや、出来てるわけないでしょ、第一、俺、やるなんて一言も言ってないと言おうとした時「も、もちろんですよ先生!! もう俺らネタもばっちし作っているに決まってるで、なあ!?」

「いや、決まって」と俺が口を開くと涼盛は手で俺の口を塞いで「ほらな、洋一もこういってるわけだし、先生、開いている教室を使わせてください!!」とお願いする。

 すると、先生は吸ってもいないのに、机の上でタバコの吸い殻を落とす仕草をしているっていうか何でタバコ持ってないのにそんなことしてんの? と考えていると突然立ち上がり「来るんだ」と俺たちを誘ってきた。

「来るってどこにですか?」と涼盛が尋ねると、先生はニッと笑い俺たちの方を向いて「決まっているだろう、君たちの漫才する所にさ」と言った。



「よっしゃ、なあ、見たか!? 洋一、見事に成功したで!!」

「声デカいから、ていうか何で? 俺やるなんて一言も」

「ほなら、何で今ここにいるんや?」

「それは」

「そうそう」俺たちが廊下を歩きながら話していると、前を歩いている先生が声をかけた。

「これはあくまで今から君たちが漫才するところだからな、だれも、君たちの部活部屋とは言っていない」と言ってニイっとすこし顔を歪めて悪魔のような笑みを浮かべた。

「なんや、先生、そりゃないわ~」と涼盛が不満を漏らすと、先生は「ほう、怖いのか? 君たちの漫才が認められないかもしれないことが」と挑発してきた。

「まさか!! 先生も度肝抜きますよ、な!!」と涼盛は俺に同意を求める。よくまあ根拠もない自信を言えるな。

「ほお~、それは楽しみだ」そう言って先生はいじわるな笑みを浮かべる。俺たちが歩いているのは、校舎の東側の1階だった。1階となると美術室や技術室が並んである所だった。

 その時、「あら? これは、綾子先生」と女性の声がした。俺たちが振り向くとそこには眼鏡をかけた黒髪で、前髪が全て長さがそろって髪を後ろに食べ寝ているいかにも優等生っぽそうな女子生徒がいる。

「おや、八重子じゃないか、生徒会の仕事か?」

「はい、今、美術室の備品の整理整頓の手伝いを、そちらの方々は?」と弥子と呼ばれた生徒は俺らの方に体を向けた。

「あ、初めまして、俺の名前は宮城 洋一」

「初めまして!! 俺の名前は小山 涼盛です!! よろしくお願いします!!」と自己紹介すると、ウフフと女子生徒は笑った、その笑い方は天使のように優しい。

「初めまして、宮城 洋一さん、小山 涼盛さん、私は生徒会、副会長をつとめます、外藤八重子がいどう やえこと申します、以後、お見知りを」と言ってお辞儀をした。

「そこでお二人はどのような用事で、この、飲んだくれ、いえ、綾子先生に用事が」

「おい、今、飲んだくれって言ったの聞き逃さなかったからな、私は」と多少何か俺はこの外藤 八重子の裏の顔をみたような顔をした。だが、この天使の表情、守りたい、この笑顔、なんて思っていたためか、それとも俺が女子と話しなれていないためか「い、いや、お、わ、私、たちは」とどもっていると、八重子さんは相も変わらず聖母のような慈悲の表情で「いいですよ、落ち着いて、ゆっくり話して下さい」と優しく俺の心の氷を溶かしてくれる。

 すると「いや!! 俺ら、漫才部作ろうと思ってんねん!!」と俺と神との会話に汚い犬が割り込んでくる。

「まん、ざい?」それを聞いた瞬間、八重子さんは、表情を消した、そして次の瞬間、鬼の形相になり「漫才、あれは最も愚かなる愚行の一部、それを行う者は、周りからいじられと言ういじめを成立させ、どんなことも強要させられる、それを美談のようにして語り、後世にその悪しき習慣を残させて、そして、それをテレビに伝染させる、数々の暴力行為も面白いからといって容認されてそれを子どもたちが真似する、さらにいじめの増長、そして、芸人たちはモラルの低下、精神の崩壊、もはや漫才が楽しめない、他の漫才を見ても素直に笑うことができず、自分たちが面白いかどうかずっと死ぬまで永遠に悩み続け、その闇は死んでも終わることが無く、さらに、いじられ芸人の場合、子どもを生んだ時、その子どもも笑いものにされる確率も大、そして」

「ちょっと、ストップ、ストップ」と先生が間に入って来たから良かったものの、入って来なかったらこの鬼と化した彼女を見なければ無かったのか、ていうか、今も何かブツブツ呪詛みたいなものを呟いているし!! こわ!!

「まあと言うことで悪いな、邪魔したな」と先生と共に俺たちは立ち去ろうとした時、八重子さんの目がギュルンと周り、ゴキュンと首を曲げて、骨が軋むような音がするほど手を伸ばし、先生の肩を掴んだ。

「おまちくださ~い? まさかぁ、この私を差し置いてそんなことをするつもりですかぁ?」うわ!! さっきまで天使だったのに、この呪詛を吐きそうな表情、最早死神だよ、ていうか髪の一部が口に引っ掛かっているのが恐怖感を煽っているんですけど!!

「え? も、もしかして、漫才部、反対?」とおそるおそる振り向いて先生は言う。

「当然です、そのような部活、例え誰が、神が認めようとも、この外藤 八重子が認めません」

と八重子さんが断言した。マジかよ!! て俺は思ってからハッと我に返った。なんで俺は今がっかりしたんだ。

「な、副会長、漫才は良いものですよ!!」そう抗議するのは涼盛だった。

「漫才は人を笑わせて元気をくれます」と涼盛が言葉を続けるが、八重子さんの眼光が向かれると何も言えなくなった。

「あら、あなたはそんなに漫才が良いものだと言うのね」と言うと、彼女は眼鏡をはずし、一つ結びの髪を振りかざし「じゃあ、貴方には覚悟があるの? 漫才をするという覚悟が、お客様を笑わすとはどういうことなのか、考えたことはあるの?」と聞いてきた、目は心臓を貫くほど鋭い「も、もちろん覚悟ならあります!! それに、俺は、どんなお客さんも笑わせるのを目指しているんや、こいつと共にな!!」と俺を指さしながら言った。いや、巻き込まないでくれ。

「はぁ、論外ね」と一つ結びにした八重子さんは嘆息した。

 が「まあいいわ、そこまで言うならこの私が直々に見てあげましょう、どれだけ言うことが立派でも実力が伴わなければ絵空事、まあ、要するに、貴方たちの実力をこの私にしめしてみなさい、面白いか、面白くないか、判断してあげるから」と言った。て、あれ? これ、一応漫才することを認めてくれたのか?「うわ~、大変なことになったぞ~、こんな所で、お笑いに厳しい副生徒会長にみつかるなんて~」とわざとらしく大声をあげる先生、いや、あんたこれ全部仕組んでたんじゃないの? と俺は先生を見ると「てへ♪」と頭に拳を乗せてぶりっ子ポーズをする。可愛いと思っているのだろうか、と思っていると「先生」と八重子さんが呼ぶ。

「一つ撤回してください、私はお笑いに厳しいんじゃありません、お笑いが、嫌いなんです」と言い放った。

「はいよ」と言って先生は俺たちの方を振り向いた。

「よし、じゃあ、お前ら、今から生徒会室で漫才をすることになった、ついてこい」と俺たちを先導し始めた。え? マジで? この性格がきつそうな八重子さんの前でやるの? しかも、ネタも何もなしに? え? 詰んでね?


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