ケンカが強ければ…
昼休み、俺は屋上にいた。
ここなら、あいつに見つからないと思ったからだ。だが、バアン!! と屋上のドアが開かれた。
「ここにおったか!! 洋一」涼盛だ、誰だよ俺の居場所言った奴。
「なあ、なんで漫才組まないんか!? お前、お笑い嫌いか!?」涼盛は早速俺に詰め寄る。
「そう言う問題じゃねえんだよ」おれは立ち上がる。
「お前には分からないと思うけど、今の俺は結構平穏にくらしているんだよ」
「あんな扱い受けてもか?」
「そうだ、あんなプロレス技かけられる側になっていてもだ、俺は昔、誰からも嫌われて、誰からにも話しかけられなくて、みんな俺のことを汚物かなんかだとみていた、けど、この立場になってから、みんな俺に話しかけるようになったんだよ、みんな俺の存在を認めてくれるようになったんだよ、だから、俺はこのままでいいんだ」
俺の言葉が終わると、辺りが静まった、風の音さえ大きく聞こえる。
「だから、もうお俺の所には」
「なんなん? それ、結局、何も変わってないやんけ」
「は?」言っている意味が分からなかった。何も変わっていない? 何を言っているんだ? 俺は変わった。昔のように学校の嫌われ者じゃなくなった。それは紛れもない事実だ。何も変わっていないなんて言わせない。
「結局今もみんなと仲良くなってないことは変わらないやん、自分、いまもずっと独りってことやないか、みんなに良いようにやられているだけやないか」
「な、ちが」
「そんなん繰り返してたら自分、本当にひとりになるで?」俺は雷に打たれたように体に衝撃が走った。こいつは、何を言っているんだ? 俺を、これまでの俺の努力と俺自身を否定する気か? そう思ったら怒りが内側から湧き出てきた。
「お前に、俺の、何が、お前に」と俺が怒りをぶちまけようとした時、屋上の扉がバダン!! と乱暴に開かれた。ドアの方向をみると、そこには、四人の男子生徒がいる。
俺は怒りが引いたどころかそのまま血の気も引いた。こいつは学校で最も恐れられる生徒、三年生の幹 龍太だった。
幹はそのまま仲間を連れて涼盛の所に近づいてくる。
「おい、転校生か? おめぇ」と幹が涼盛に詰め寄る。
「お前調子に乗ってんじゃねぇのか? お? この関西帰りの勘違い野郎が」とガンつけてくる。いつだって、不良と言うのは意味もなく絡んでくる。何か気に入らない。重箱の隅をつつくようにして何が気に入らないかを無理矢理探す。そして、それらしい理由を出して因縁をつける。それが不良のやり方だ。
すると、涼盛は俺の方を見ずに言った。
「洋一、よう見とけ」と言って幹に近づいて行った。
「おお? なんだ?やんの、が!?」次の瞬間、幹の体は宙を舞いそのまま地面に倒れた。
仲間たちは、ひぃ、と言って逃げ出した。
「な?」俺は一瞬驚いたが、すぐに思い出した。そうだ、小山涼盛、こいつも問題児で有名だったんだ。涼盛は「喧嘩する相手は選べ、俺はお前らとは年期が違う」と幹に言い放った。
すごいな、俺もけんかが強ければこんなセリフを言えたのだろうか。