良い奴は本当に良い奴
その日の帰り道、「それにしても、工事君、虐待の疑いがあるなんてなぁ」と涼盛が手を頭の後ろで組んでいた。
「まあその家庭にも色々あるんだろ」そうだ、誰にだって色々ある、いつもクラスで楽しそうにしているからって本当に楽しいとは限らない、もしかしたら、悲しみに耐えるために一生懸命笑い続けているのかもしれないし、悲しい記憶を封じている、忘れようとしている、これだけで様々なことが考えられる。だが、他人にはどうでも良いことだ、本人が笑っているからいつも楽しそう、何も考えてなさそう、とか考えて勝手に羨ましがるかもしれない、まあ、ここからは俺の持論、クラスで楽しそうに別に友達とも一緒にいるわけでもないのに楽しそうにしている奴がいたらそいつはきっと心の中で泣いてる。
「どうした? 洋一?」と涼盛が至近距離で顔を覗き込むので俺は「うわ!!」と身をよじらせる。
「びっくりした、突然、お前、いきなり顔近づけるから」
「びっくりしたのはこっちや、なんや、いきなりにやにやして」今度は別の意味で驚く番だ。
「俺、そんなににやついてた?」
「おお、めっちゃニヤついてたわ」
「そうか、気持ち悪かっただろ」
「いや? 何か、悲しいこと考えてたんか? て思った」
「……そうか」こいつは妙に勘が良い。
「ん? ホンマにそんなこと考えておったのか? だめやで、工事君の家庭環境がひどいものかもしれへんけど、最後には笑顔にせなあかんからな」そうか、俺が工事についてよくない想像をしていると思ったんだな、だが、最後には笑顔にってどういうことだ? と思い、不思議そうに涼盛の顔を見上げると、「あ、言ってること分かってへんな? 洋一、俺らは漫才部の人間やぞ? お客さんにわろてもろたら漫才冥利につきるやろ?」
「……」
「お、おい、なんか喋ってくれえな、漫才冥利ってちょっと格好つけすぎたわ」
「プ、アハハ」
「ちょ、笑わんといてぇな」
「わるいわるい」俺は笑顔だった。本当におかしい時は笑うんだな、初めて分かったよ。
あとやっぱり、こいつ、良い奴だ。羨ましいよ。




