第2話 王都 その1
残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
第2話 王都 その1
ヘリオス王国は、勇者たちが魔王一族を滅ぼし凱旋したことでお祭り騒ぎであった。王宮では勇者たちがアイエス・ヘリオス王に謁見し魔王討伐の報告をしていた。
「勇者諸君!長きにわたる魔王との戦い、心から礼を申す。そなたたちの功績はいくら讃えても讃えきれないくらい素晴らしいものである。諸君たちの名前と功績は王国と共に未来永劫にわたって語り継がれるであろう。本当によくやった。」
アイエス王は勇者たちを褒め称え労をねぎらった。
「陛下、これから祝賀パーティですが、その前に勇者殿の今後について申し上げます。」
と、側にいたバルカ将軍が言った。
「うむ。よかろう。申すがよい。」
「はは。まず、聖魔道師ラートリー殿と聖弓士アステル殿は軍籍を離れ生涯の伴侶を探したいとのことです。次に聖騎士ドナミン殿、聖戦士バイン殿、剣聖コウタロウ殿、忍聖サナユキ殿、聖神官シラーラ殿は今後も勇者として王国軍と共に戦っていただけるとのことでした。」
「うむ。分かった。ラートリー殿、アステル殿、長い間本当にご苦労であった。重ね重ね礼を言う。そなたたちが良き伴侶に巡り合えるよう余も祈ることとしよう。それから5名の勇者殿には今後も苦労をかけるがよろしくたんだぞ。」
アイエス王の許可を得て、ラートリーとアステルは勇者を卒業できることを喜んだ。
「それでは、勇者の皆さん、パーティ会場へ移動してください。」
バルカ将軍の案内で勇者一行はパーティ会場へ移動した。
ラートリー、アステル、シラーラの3人は同じテーブルでパーティを楽しんでいた。
「訓練の時期から数えると、私たち30年近く一緒にいたのね。」
アステルがしみじみと語った。
「私たち7人は、もう家族というか実の兄弟姉妹みたいな感じじゃない。しかも、私たち全員捨て子だったし、不思議な出会いだったわよね。」
ラートリーも感慨深げだった。
「それもこれも、法王様のおかげなのれす。法王様に感謝なのれす。ところでお二人はその兄弟姉妹を捨てて、伴侶探しれすか?」
シラーラは酔いが回っているようだった。
「私たちは戦闘には参加しないというだけで別にみんなと絶交するわけじゃないし、これからも仲良くしましょう。」
ラートリーがそう言うと、シラーラは面白くなさそうにカクテルのお代り頼んでいた。
そこへバルカ将軍がお酒を持ってきてやってきた。
「これはこれはお嬢様がた、長年のご尽力に感謝いたします。甘くてフルーティなお酒が手に入りましたのでお持ちしました。良かったらいかがですか?」
バルカ将軍はそう言いながら3つのグラスにお酒を注いで3人に手渡した。
「ところで、ラートリー殿とアステル殿は、どちらで伴侶を探されるのですかな?実は我が軍にもお二人と同じくらいの年齢で独身の優秀な兵士がおります。もしよろしければご紹介しますよ。がはははは。」
バルカ将軍は愉快そうに笑った。
「ほほほ、それは良いお話ですわね。もし機会がありましたらよろしくお願いします。」
ラートリーは笑顔で適当に話を合わせていた。
「私はエルフの国へ行ってみようかと思っています。」
アステルは真面目に答えた。
「「「エルフの国?」」」
「私はハーフなので、エルフの国へ行けばもしかすると両親の手掛かりが何かあるかもしれないと期待しているんですけどね。」
アステルがクスッと笑って説明をした。
「何かわかると良いね!そこで伴侶を探すの?」
ラートリーが言うと
「エルフと結婚!まあ、ハーフのあなたにはお似合いでしょうね。」
シラーラはそう言ってアステルを一瞥すると、バルカ将軍の持ってきたお酒を飲みほした。
「お代りいただけます?」
シラーラはピッチが上がっているようだった。
「気に入っていただけて持ってきたかいがありました。ところでシラーラ殿はラートリー殿たちのように結婚相手は探さないのですか?」
バルカ将軍はシラーラにお酒を渡しながら・・・地雷を踏んでしまった。
「何を言っているのれすか。わらしは神に身も心も・・・ウィッ・・私のすべてをささげると決めたのれす。結婚なんてするわけないらないれすかああ!」
シラーラは酔いが回ってきて勢いが止まらないようだった。
「法王様がおっしゃってました。人間こそがこの世で最も神の恩恵を受けた選ばれた種族なのれす。ヒック。いいですか。分かってますか、ここ大事!・・ヒック・・ですから、この世界は人間が支配してこそ平和になり幸福になるのれす。本当なんだから~将軍!将軍!ちゃんと聞いてまふか!」
シラーラはバルカ将軍の肩をポンポン叩きながら話しに夢中になっていた。
そこへ一人の兵士が将軍を呼びに来た。
「将軍、お話し中恐縮ですが、陛下がお呼びです。」
「おお、そうか、分かったすぐ行く。シラーラ殿、陛下のお呼びなので失礼する。」
バルカ将軍はこれ幸いとばかりに去っていった。
「将軍!将軍!逃げるのれすか・・敵前逃亡は死刑!れすよ・・お酒はおいていってくらさぁい・・・んんん」
シラーラはテーブルに突っ伏して寝てしまった。
アステルとラートリーはシラーラの介抱を始めた。
「バルカ将軍、ずいぶんと楽しそうではないか。」
アイエス王に言われバルカ将軍は思わず恐縮した。
「申し訳ありません。うっかり飲ませすぎたのかもしれませんが・・・」
「酒宴の席だ、気に病むことはない。ところで大事な話がある。」
アイエス王は将軍を手招きして近くに呼び、小声で話し始めた。
「実は法王が牙狼族の領地内にある銀山が欲しいと言ってきた。」
「牙狼族の銀山ですか。しかしあそこは牙狼族の砦を先に落とさないといけません。しかも牙牢城からもそう遠くないのですぐに援軍が来るでしょう。そうなるとやはりそれなりの戦力が必要になってまいります。当面、軍の主力は猪豚族と猛虎族へ回す予定ですので、今牙狼族と新たな戦いを始めるのは少々無理かと思います。」
バルカ将軍は申し訳なさそうに答えた。
「やはりそうか。実際に戦争をしなくても良いのだ。格好だけでも何とかならんか。」
「それでは、兵を持っている貴族の皆様に参戦していただきまして、それでも足りなければ、民間から兵を募集してみることは可能ですが、どの程度兵が集まるかはやってみないと分かりません。」
「とりあえず法王へは準備をしているということが示せれば良い。やってくれ。」
「ははっ!御意!」
そう言うと、バルカ将軍は軍の司令部へ向かった。
エルフ族の17歳の少女がヘリオス王国の王都へ来ていた。彼女はお金が必要だったのでエルフの村から出稼ぎに来たのだった。街の中で働き口を探していると、牙狼族討伐の兵を募集しているチラシを見つけた。
「兵士募集か~『特に回復・治療魔法が使える方大歓迎!』、うーん、どうしようかな。期間は3か月ね~。『高給保証』、『福利厚生万全』、『万一の死亡保障も充実』、おおお何だかすごい、話だけでも聞いてみようかな。」
エルフ族の中には様々な精霊を呼び出す召喚魔法を使えるものがおり、召喚士(師)と呼ばれていた。彼女も召喚士の一人で治療魔法が得意だったので、村では教会の見習い神官をしながら人々を癒していた。
王国軍の募兵事務所へ行ってみると多くの人でごった返していた。
「すみません、私はユリン村のルルナと言います。見習い神官ですが召喚士で治療魔法が使えます。このチラシについてお話を聞きたいのですが。」
話を聞くだけのつもりであったが、いつの間にか入隊手続きまで終わってしまい、ルルナは困惑してしまった。
(とにかく、お母さんに手紙を書いておかなくちゃ。リアン、お姉ちゃん頑張るからね!)
ルルナは病気で苦しんでいる妹のリアンを思い浮かべてこぶしを握りしめた。
王国は魔王を討伐した戦勝ムードに酔っており、牙狼族討伐軍の兵も順調に集まってしまったため、王国軍は法王の手前、出陣を余儀なくされた。