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勇者de焼き肉パーティ  作者: 吾妻ゆきと
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第25話 砦の攻防 round3 後編

第25話 砦の攻防 round3 後編


時間は少し遡る。

ラートリーがグウィンを『臆病者』と挑発していた頃、ルルナ、リアン、そしてワイナたち7人の回復術士は既にマリンカとカリンカの強化魔法をかけてもらい、いつでも作戦行動ができるように待機していた。

「グウィン様の魔法が始まったよ!」

ワイナたちはグウィンの魔法が終わるのをじっと見つめていた。グウィンの死の呪文によって多くの王国軍兵士が倒れていき、グウィンも力尽きて倒れた。

「みんな行くよ!」

ワイナたち回復術士は一斉に飛び出し、グウィンのもとへ駆け寄って行った。

「リアン、これから紅蓮の大火竜を殺すのよ!その前に死体がたくさん必要だから、死にぞこないの兵士たちを殺してくれる!」

「うん、私に任せて!」

グウィンの死の呪文からかろうじて生き残った兵士たちに、リアンは毒霧の矢で止めを刺しながらラートリーがいる場所を目指して進んでいった。ルルナはグウィンとリアンに殺された兵士たちを操り後からついて行った。


セイシュウ将軍は王国軍の兵士が次々と倒れていくのを見ていた。

「なんという恐ろしい魔法だ・・」

セイシュウは死の呪文の威力の凄まじさに背筋が凍る思いをしたが、気を取り直して全軍に命令を下した。

「全軍、攻撃を開始せよ!」

将軍の号令でほら貝が一斉に鳴り響き、牙狼軍の攻撃が開始された。牙狼軍の攻撃はリアンの毒霧に巻き込まれないようにするため、リアンの周辺を避けて行われた。


突撃隊も攻撃の合図を今や遅しと待っていた。突撃隊の中にはリクもいた。リクもトモもお互い気づいていたが目を合わせないようにしていた。

リクは昨晩トモに言われたことがショックであったが、突撃隊に志願し、そこで手柄を立てればトモの気持ちももう一度自分に向いてくれるかもしれないと考えていた。しかし、グウィンの魔法のあまりの威力に驚愕し自分の力がいかに小さいかを思い知らされた。リクは自分自身に激しい苛立ちと怒りを感じており、その矛先をどこに向けて良いのか分からなかった。

その時、ほら貝が鳴り響いた。

「突撃隊!行くぞ!途中の兵は相手にするな!我々の目的は敵の本陣だ!突撃!!」

ムサシ副将軍が叫ぶと、突撃隊は死の呪文で多くの死者が出た地域を無人の野を行くように進んでいった。特にユニに乗ったフドウの速さは特筆すべきものがあり、一騎駆けの状態でみるみる敵本陣へ近づいて行った。フドウからは大きく距離を離されたが、リクも馬を必死で操り2番手を走っていた。


王国軍の本陣では第三近衛師団長のルキウスが戦況を見ていた。

「信じられん!あいつは・・あいつは魔王の生き残りなのか!魔王の一族は一人残らず殺したはずではなかったのか!」

ルキウス師団長の背後に青いローブを身にまとった3人が現れた。

「白銀の魔猫は間違いなく魔王のようですね。」

「ラートリー一人で倒すのは難しいでしょう。魔王には親衛隊もいますから。」

「我々は急いで法王様にご報告せねばなりません。これにて失礼いたします。」

3人はその場を立ち去ろうとした。

「ま、待ってくれ。法王神衛隊は戦わないのか!力を貸してはくれないのか!」

ルキウスは悲鳴にも似た声をあげた。

「我々は宝珠を持っていません。無茶な戦いをするより先ずは法王様へご報告することが先決なのです。な~に、ご心配いりませんよ。いずれ猪豚国へ行っている勇者5人が戻れば、問題なく倒せるでしょう。」

神衛隊の一人が軽い口調で言った。

「わ、私はどうなるのだ・・・私は・・・魔王だなんて、そんな話は聞いていなかったぞ・・」

「師団長!敵の騎馬兵が本陣をめがけてものすごい勢いで突っ込んできます。」

戦況を監視していた兵がルキウスに報告した。

「何!」

ルキウスが牙狼族の方を見ると、白馬に乗った牙狼兵が一人猛然と向かってきているのが分かった。フドウだった。さらにその後ろから約2000人の騎馬兵も迫ってきていた。

神衛隊の3人は互いの顔を見合わせて頷くと大急ぎで立ち去っていった。

「サルスは何をしているのだ!サルスは!」

ルキウスが言うよりも早くサルス参謀が率いる騎馬兵連隊がフドウめがけて出陣していった。

「おお、さすがはサルスだ!お前たちもただちに戦闘準備に入れ!私の武器を持ってこい!」

ルキウスは槍と盾を持ち、師団長直属軍200人と一緒に牙狼族の突撃隊を迎え撃つため守りを固めた。


スパーナ、ニアール、ライアン、イチタの4人は、低空を飛行しながら大きく迂回して王国軍本陣の後ろの兵站部隊のさらに後方に隠れて突撃部隊の到着を待っていた。兵站用の馬車を略奪するためだった。

「スパーナ様、3人が馬で陣から離脱していきます。」

王国軍の様子を監視していたニアールが草むらに隠れていたスパーナへ報告した。

「ちっ、グウィンが魔王だってことを報告に行くんじゃねえのか!」

「どういたしましょうか?追いかけて始末しますか?」

「その必要はねえよ。どうせこの戦が終わればばれちまうんだ。それよりも今は馬車の略奪を成功させることが大事だってことだ。」

「ふむ。確かに。そうしますと、この次、王国は魔王討伐軍を送ってきますな。」

「ああ、勇者全員でやってくるだろうさ。だがな、ここで紅蓮の大火竜を倒しておけば残り5人だ。7人を同時に相手にするよりはるかにいいと思うぜ。」

「グウィン様が魔王だということを知られる前に、個別に二人と戦えたのは運が良かったと言えますな。」

「ああ、だがそうは言っても宝珠を持った勇者5人だ。俺たちも命を賭けなければならんだろうさ。」

スパーナは小さな声でそう言うと、後は息をひそめながら法王神衛隊が去っていくのを眺めていた。


「全軍出撃!単騎で突っ込んでくる愚か者を血祭りにあげろ!」

サルス参謀はそう叫びながら3600人の騎馬兵を率いて牙狼軍の突撃隊の先鋒であるフドウめがけて突進して行った。


フドウが王国軍の騎馬兵に接近したとき、後方からオイチが魔法を放った。

「風神の刃!風神の刃!風神の刃!」

フドウの前方にいた騎馬兵が次々と風神の刃に切り刻まれ、落馬していった。

千槍せんそう獅子奮迅ししふんじん!」

フドウはその後続の騎馬兵に対して、一瞬で無数の突きを放ち、次々と騎馬兵を串刺しにして血路を開いて行った。すると、きらびやかな鎧を身にまとっていたサルス参謀を見つけた。

「あいつが指揮官か!その命、もらった!」

フドウがサルスにまっしぐらに向かって行った。


「サルス様を守れ!」

「牙狼兵を近づけるな!」

王国軍の騎馬兵がサルス参謀を守るためにフドウの前に集まってきた。だが、フドウとユニの力の前に人馬もろとも簡単に蹴散らされていった。


「た、退却だ!退却!!」

サルス参謀は退却の命令を出し、逃げようとしてフドウに背後を見せたとたん、フドウが襲いかかり、背後から槍で首を貫いた。そして槍の穂先でサルスを持ち上げぐるぐる振り回して放り投げた。サルスの首は胴体から千切れるように遠くまで飛んでいった。そこへ、牙狼族の突撃隊が追い付いてきた。


「ひいいいいいいいいい」

「逃げろ!」

「ダメだ!俺たちでは歯が立たない!

「勇者でなければ無理だ!」

騎馬兵たちはグウィンの魔法で王国軍に多数の死者が出ているのを目の当たりにし、勝ち目のない戦に士気は著しく低下していた。そして、今フドウの圧倒的な力の前に、戦意は完全に失われ総崩れとなって逃げ始めた。


突撃隊の指揮を執っているムサシ副将軍がフドウのところへ駆け寄ってきた。

「フドウ、見事な働きだった。これから親衛隊を連れて馬車の略奪に行け!」

「行ってもよろしいのですか?」

「ああ、ささやかなお礼の印だ。俺たちは本陣を襲撃した後、兵糧に火をかける。それまでわずかしか時間がない。馬車を奪いたいなら素早くやれ!成功を祈っている!」

ムサシ副将軍はそう言うと、王国軍の本陣へ進攻して行った。


「親衛隊!馬車の略奪に行くぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

フドウの号令の下、オイチ、アオイ、コハル、センコ、ハクコ、トモの6人はフドウに続いて行った。


「ルキウス師団長!騎馬兵連隊が撤退してきます。サルス参謀は名誉の戦士を遂げた模様です。牙狼軍がこちらに向かって来ていますが、我々はいかがいたしましょうか?」

「兵站連隊に伝令!『兵站連隊は全軍直ちに攻撃準備をせよ!』だ。急げ!」

「は、かしこまりました。」

伝令は即座に兵站連隊へ走って行った。

「私はすぐに王都へ戻る。陛下に魔王のことを報告しなければならない。」

ルキウスは師団長直属の兵と共に陣を引き払い退却の準備を始めた。


牙狼軍の突撃隊が本陣に到着したと時にはすでにもぬけの殻だった。

「くっそおおおお!逃がすな!追撃だ!」

ムサシ副将軍はそう叫びながら2000の兵と共に、兵站連隊に向かって突撃していった。


王国軍の本陣の後方には、3個の兵站連隊1800人とドリア公爵の兵1000人、合わせて2800人が待機していた。兵站連隊の役割は食料、医薬品、物資などの輸送・補給であった。開戦までは王国の勝利を確信し遠足気分であったが、王国軍の壊滅的な敗北を目の当たりにして動揺が広がり浮き足立っていた。


ルキウスが兵站連隊のところへやってくると、連隊長とドリア公爵が待っていた。

「攻撃準備はできたか!」

ルキウスが言うと

「はい!間もなく完了します。」

第一連隊長が答えた。

「急げ!すぐそこまで来ている!全軍を挙げて牙狼軍の進攻を阻止せよ!私が出発したら貴様たちも直ちに撤退せよ!」

「「「はい!承知いたしました!」」」

三人の連隊長は敬礼をして走り去っていった。

すると、ドリア公爵が近づいてきた。

「私の兵で師団長を王都まで護衛いたしましょう。ささ、急いでください。」

ドリア公爵はそう言いながら師団長の耳元に顔を近づけた。そして小さな声で、しかしドスを利かせた声でささやいた。

「貴様、自分一人で逃げるつもりではないだろうな!そんなことをしたらどうなるか分かっているんだろうな!おい!」

ドリア公爵の言葉にルキウス師団長は驚いた表情をしたが、すぐに姿勢を正しもっともらしい口調でドリア公爵に告げた。

「え~おほん!私は今回の戦を陛下に報告するという大事な任務があります。今回の戦の最高責任者として、ドリア公爵には私を王都まで護衛する任務を命じます。」

「はは、かしこまりました。ただちに準備いたします。」

ドリア公爵はうやうやしく敬礼をして、即座に退却の準備に取り掛かった。


馬車は全部で300台あり東西に長くならんでいた。本日到着したばかりなので物資は積んだままの馬車が多かった。一番東側、つまり王国に一番近い場所にある馬車の周りには約1000人のドリア公爵の兵士がおり、積み荷を降ろして退却の準備を始めた。


隠れていたスパーナ、ニアール、ライアン、イチタの4人は王国軍が退却の準備を始めたことに気が付いた。

「あいつら逃げる準備を始めやがったぜ。どうする?」

スパーナがイチタに尋ねた。

「はい。あの人数ですと全部の馬車を持って行くことはできません。せいぜい持って行っても東側の100台が良いところでしょう。我々は彼らの後方、つまり西側の馬車を100台程度いただくことができれば大成功です。見つからないように近づいて車輪止めを外しましょう。」

イチタの指示で、4人は馬車に近づいていった。


一方、フドウたちは、本陣を迂回して側面から馬車へ向かって行った。突撃隊と兵站連隊はすぐに戦闘に入り、フドウたちは気づかれずに馬車に近づくことができた。

「イチタたちがいるぞ!」

フドウはイチタを見つけて合流した。

「皆さん聞いてください。王国軍は東側の馬車に乗って退却するつもりです。我々は西側の馬車をいただきましょう。見つからないようにできるだけ多くの車輪止めを外してください。私が合図したら馬車に乗ってください。突撃隊が火を放ったら私が誘導しますのでついて来てください。御者ぎょしゃが乗っていない馬も一緒についてくるはずです。」

イチタの指示で全員が一斉に作業を始めたが、アオイだけは一人たたずんで一番東側の馬車を見つめていた。


「アオイ!何をしている!愚図愚図するな!」

フドウがアオイを注意したが全く耳に入らないようだった。

「あいつ!あの鎧は間違いなくドリア公爵だよ!ぶっ殺してやる!」

アオイは遠くに見える金ぴか鎧姿がドリア公爵であると確信した。アオイは全力で走りだし馬に飛び乗ろうとした。

「何をしている!」

フドウがとっさにアオイに駆け寄り馬から引きずり下ろすと、アオイを地面に投げ捨て馬乗りになって取り押さえた。

「は、放してくれ!ドリア公爵がいるんだよ!行かせてくれ!」

「ふざけるな!」

フドウはアオイの頬を思い切りぶった。

「お前は作戦を台無しにするつもりなのか!時間がない!さっさと任務に戻れ!」

「で、でも・・・あたしたちはあのドリア公爵に何年もの間どれだけ苦しめられてきたことか・・殺してやりたいんだよ!」

そこへコハクが走ってきた。

「アオイさん、しっかりしてよ。冷静になって!このままではモカの言っていたとおりになっちゃうよ!」

「でもよ、ドリア公爵を目の前にして見過ごせないよ!コハクだって悔しいだろう!みんなどれだけ苦しめられてきたか・・・」

「あたしだって殺してやりたいよ!でも、グウィン様に恩返しをするんだってアオイさんは言ったじゃないか!今は何をすべきなのかアオイさんだってわかっているだろう!」

「チ、チクショウ!」

アオイの目からは涙があふれ出てきた。フドウはアオイを押さえていた手を放した。

「アオイ、ドリア公爵というのはどこにいるんだ?」

「あの、金ぴかの趣味の悪い鎧の奴です。」

アオイは遠くの東側の馬車を指さした。

「そうか、分かった。あいつは俺に任せて、お前たちは早く車輪止めを外せ!急げ!」

「はい!分かりました!」

コハクはそう言って無理やりアオイの手を引っ張って作業を再開した。


やがて、師団長たちが乗った馬車が出発し、西側の馬車の近くで火の手が上がると、イチタの合図で馬車が一斉に走り出した。親衛隊が乗った馬車は10台だったが、火に驚いた馬たちが走り出し、全部で100台余りの馬車が付いてきた。

フドウは馬車が出発したのを見届けると、ユニに乗ってまっしぐらに王国軍の馬車を追った。そして、フドウの後を追いかける馬が一騎あった。



グウィンは死の呪文で全魔力を使い切って倒れた。今回は意識こそ失わなかったが、体が動けない状態だった。そこへ待機していたワイナたち7人の回復術士たちが走ってきてグウィンの回復を始めた。ドワーフの回復術はケガや病気の治療だけでなく、消費した魔力も回復することができた。しばらくするとグウィンは上半身を起こして地面に座った。

「ワイナ、助かった。礼を言う。」

「ははは、お礼なんてとんでもありません。それがあたしたちの仕事ですから。もっともグウィン様の魔力量は大きすぎてどうなることか心配しましたが、役にたてて良かったです。」

ワイナが笑いながら言った。

「今日はもう死の呪文は使えないが、普通に動く程度なら問題はあるまい。」

グウィンはそう言うと立ち上がった。そこへリアンが走って戻って来た。


「グウィン様、お姉ちゃんが・・お姉ちゃんが焼き殺されてしまいました・・・え~ん。」

リアンは泣きながらグウィンにしがみついた。

「リアン、何を言っている。ルルナは死んだりしない!なぜなら、もう既に死んでいるからな。はははは。」

「で、でも、炎に焼かれて消えちゃったんです。」

グウィンはリアンの話を聞きながら遠くを見つめていた。

「どうやら紅蓮の大火竜がやって来たようだ。ワイナ!リアンを連れてお前たちは下がれ!」

「承知いたしました。」

ワイナはリアンの手をつかんでグウィンから離れて行った。


グウィンはラートリーが近づいて来るのを待っていた。

「ふふ~ん、白銀の魔猫・・いや、グウィンと言ったわね。もう立ち上がれるようになったのね。」

ラートリーは周囲を警戒しながらグウィンの様子をうかがっていた。グウィンはラートリーを見た瞬間、大きな杖の正体に気が付いた。

「お前が持っている杖は俺の父が持っていたものだ。返してもらおう。」

「あなたの父の杖?・・あなたは8代目魔王の子供なの?・・えっ、まさかあの時の赤ん坊?これは驚きだわ。こんな短期間で成長するのね。シラーラの言うとおりにあの時に殺しておけばよかったわ!」

「お前たちが殺して食べたのは俺の母親だ!今度は俺がお前たちを喰ってやる!」

「さあそれはどうかしら。私のお腹の中で感動の母子おやこの再会になるんじゃあないのかしらね。」

ラートリーは呪文の準備を始めた。

「だが、お前を倒すのは俺じゃない。」

「ふ~ん、他に誰がいるの。別の親衛隊でも連れてくるのかしら?」

ラートリーがそう言うと、ラートリーの手の上に白い灰が落ちてきた。

「あ、熱い!」

ラートリーが空を見上げると、上空から白い灰がラートリーめがけて降り始めた。そして一部の灰がラートリーの口の中へ入った。

「ぺっ!ぺっ!ちょっと!何よこれは!しかも熱いし!」

ラートリーは杖を振り回し灰を何度も振り払ったが、その程度でどうにかなる量ではなく、ラートリーにまとわりつくように次々と灰が降ってきた。

「えーい!もう来ないで!あっちへ行って!うっとうしい!大火竜 昇竜波!」

ラートリーは次から次へと降ってくる灰を追い払うため魔法を放ったが、その魔法で灰はさらに過熱された。

「あちちち、何よこれは!何なの?大火竜 昇竜波! 昇竜波! 昇竜波!」

ラートリー焦って冷静な判断ができなくなり、次々との魔法を放ったが、そのせいで灰はますます過熱され赤くなってラートリーに降り注いでいった。そして呼吸をするたびにその灰が鼻や口から体の中に入り気道や肺を焼いていった。

「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!く・・苦しい・・息ができない・・・やめて・・」

ラートリーは胸を押さえ苦しみのあまり地面を転がり始めた。その上にどんどん灰が降り積もりラートリーの姿は見えなくなったが、灰の山がボコボコ動いているので、中で暴れている事が分かった。しばらく暴れていたが、やがて静かになり、熱い灰の山だけがそこに残った。


この様子は、後に『ラートリー死の踊り』と呼ばれ、ルルナの武勇伝の一つとして語り継がれたのであった。


グウィンは灰の山に近づいて話しかけた。

「ルルナ!どこにいる?」

灰の山の上にうっすらと少女の姿が現れた。だがそれが実体を持った状態ではなく、灰が舞い上がりその濃淡でできたものだった。

「グウィン様、私はここにいます。」

「ルルナ!元の姿へは戻れないのか?」

「はい。紅蓮の大火竜に体を全て焼かれてしまい、グウィン様から頂いた血も全て燃え尽きてしまいました。私が体を取り戻すには、もう一度グウィン様の血が必要です。」

そこへリアンを連れてワイナたちが戻って来た。

「お姉ちゃん!大丈夫?途中でお姉ちゃんのミスリルナイフ見つけたよ。」

「リアン、大丈夫よ!もうすぐグウィン様が元に戻してくださるわ。」

「うん、良かった。えへへへ。」

「リアン、そのナイフを寄こしなさい。」

グウィンはリアンからナイフを受け取ると自分の左手の甲をナイフで切った。

「ルルナ、どこに血をかければいいのだ?」

「こちらにお願いします。」

ルルナの姿が消え、その後に小さな灰の山ができ、グウィンの足元へ動いてきた。グウィンはその上に血を振りかけた。


ジュウウウウウウウウ


灰から蒸気が立ち上り、その中から真っ白な肌をした全裸のエルフの少女が現れた。

「あれま~ルルナさん、裸!裸!」

そう言いながら慌ててワイナは手に持っていたタオルをルルナにかけようとした。

「ワイナさん、今は駄目です。私の体は熱いのでタオルが焦げてしまいます。冷えるまで少しお待ちください。」

ルルナそう言ってワイナを止めた。

「男どもは見ちゃだめだよ!ほら!後ろを向いて!」

ワイナに言われ、回復術士のレンミン、マリネン、カイネン、ハイネンの4人の男性は裸のルルナから目をそらすため後ろを向いた。


「ルルナ、ナイフを返そう。」

グウィンはそう言ってルルナにミスリルナイフを渡した。

「ありがとうございます。ところでグウィン様、早速ですが、ラートリーを食べますか?今ならジューシーで美味しいかもしれませんよ。」

ルルナはグウィンに微笑んだ。

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