第24話 砦の攻防 round3 中編
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
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気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第24話 砦の攻防 round3 中編
翌朝、グウィンがテントから出ると、トモとモカがテントの外で待機していた。
「お前たち何をしているんだ?」
「私たちは一番の新参者ですから、御用聞きにやってきました。」
トモが言った。
「そうか。今のところは特にない。」
「それでしたらグウィン様!少し私の話を聞いていただく時間はありますか?」
モカが言った。
「ああ、大丈夫だ。」
「昨晩も夢を見たんです。それもこの戦に勝つ夢なんです。もう、嬉しくて早くグウィン様にご報告したくて早朝から待っていました。」
「ははは、お前たちが待っていたのはそれが本当に理由か?」
「はい。ただ、少し面白いと思ったのは、夢の中でフドウさんが白い馬に乗っていたんです。しかもその馬の頭には一本の角が生えているんですよ。ありえないですよね。ですから、もしかしたらこの夢は本当にただの夢で、予知夢ではないのかも・・・」
「トモ、伝令だ!至急ユニのところへ来るようにフドウへ伝えろ!」
「はい。かしこまりました。」
トモは、フドウのもとへ全力で走って行った。
「モカ、ついて来い。」
グウィンはそう言うと、モカを連れてユニを休ませている場所へ行った。
「お前が夢で見たのはこの馬ではないのか?」
「そ、そうです。この馬です。まさか・・このような馬が本当にいるなんて・・」
「この馬は、魔王の祝福を与えた馬だ。ユニという名前だ。」
そこへフドウが駆け寄ってきた。
「グウィン様、至急のお呼びと伺ってまいりました・が・・グウィン様、昨晩何があったのですか?」
フドウはグウィンを見て驚いたように言った。
「何がとはどういう意味だ?」
「あ、申し訳ありません。その、悪い意味ではなく・・・グウィン様のお力が一晩で今までよりもさらに強大になったような・・・そんな感じがしたものですから・・・」
フドウはグウィンが昨晩行った特訓を知る由もなかったが、グウィンの変化には気づいたようだった。
「昨晩はアイリスと一緒に特訓とやらをしていたんだ。」
「と、特訓?ですか・・」
「その話はいい。今回の突撃隊の任務だが、お前にこの馬を貸そうと思っている。この馬に乗って大いに暴れて来い。」
「ユニをお借りできるのですか!ありがとうございます。光栄です。きっと親衛隊に恥じない戦果を出してご覧に入れます。」
「だが、その前に試しに乗ってみろ。ユニがお前を受け入れてくれなければどうしようもないからな。」
「はい。では早速!」
フドウはそう言うとユニにまたがり走らせていった。
「どうやら大丈夫そうだな。」
グウィンがフドウの様子を見守っていると、空からハクに乗ったイチタが降りてきた。
「グウィン様、王国軍の位置を確認してまいりました。昼前にはこちらに到着すると思われます。」
「ご苦労だった。セイシュウ将軍のところへ行って相談しよう。伝令だ。トモは将軍の都合を確認。モカはフドウ、オイチ、アオイを呼んで来い。至急だ。」
「「はい、かしこまりました。」」
トモとモカは返事をするや否やそれぞれの目的地へ走っていった。
太陽が南の空高く輝くころ、王国軍は砦の東10kmのところまで到着し、戦闘の準備を進めていた。指揮所ではルキウス第3近衛師団長のもと、サルス参謀が紫の勇者ラートリー、大魔道師パウラ、ドリア公爵の3人へ作戦の説明を行っていた。指揮所には師団を構成する旅団長3人、歩兵連隊長12人、騎馬兵連隊長3人、兵站連隊長3人も同席していた。
「歩兵大隊は1個当たり300人で構成されていますが、盾を隙間なく並べ一塊となって攻撃していきます。陣形としては、12個の歩兵大隊が横に一列に並び、そしてその後ろに同じように並んでいき、全部で4列並びます。合計で12×4で48の大隊になります。そして各大隊に20名の魔道中隊を配置し各種魔法で歩兵大隊を援護、支援をしていただきます。さらに本陣には騎馬兵連隊を3個遊軍として待機させ、私が直接指揮を執ります。」
「私はどうすればいいの?」
ラートリーがサルス参謀に尋ねた。
「ラートリー殿はパウラ殿と一緒に行動をお願いします。魔道中隊を2個配置しますので白銀の魔猫が現われた時に倒していただきたいのです。どうやらその者が牙狼族を勢いづかせているようなので、そいつを倒せば、連中の気勢を削ぐことができると考えています。相手が姿を現すタイミングですが、最初に出てくると予想されますので、ラートリー殿も前の方に出ていただいた方が良いと思います。」
「ふふ~ん、どうしてそう思うのかしら?」
ラートリーは興味深そうな顔でサルス参謀に尋ねた。
「前回の戦いの報告を見ると、最初に魅了を使って我が軍を混乱させてから攻撃を仕掛けて成功していますので、今回も同様の作戦で来るとみています。しかし、ラートリー殿の力をもってすれば問題にならないでしょう。初めに白銀の魔猫を叩けば、形勢は一気にこちらに傾くはずです。今日という今日は目に物見せてやります。」
サルス参謀は自信たっぷりに答えた。
「兵を強化できる祈祷士がいると聞いていますがその対策はどうするのですか?」
パウラがサルス参謀に質問をした。
「そもそも猛虎族の祈祷士は目撃されていなので、本当にいるのかどうか定かではありませんが、仮にいたとしても、そう多くないでしょう。強化できる兵の数もたかが知れています。500人の砦を一人で焼き尽くしたラートリー殿なら、お一人で始末できると期待しておりますがいかがですかな。」
「わかったわ。私が焼殺せばいいのね。楽しみだわ。うふふふ。」
ラートリーは妖しく笑った。
「それからドリア公爵の兵ですが、兵站連隊と共に本陣の後方に配置した兵站用のテントと馬車の護衛をお願いいたします。食糧が失われるとどんなに屈強な兵士でも戦線を維持できませんので重要な任務です。よろしくお願いします。もっとも、ドリア公爵のところまで牙狼兵が攻め込むようなことは無いと思いますが。ははははは。」
「ふん。分かった。後方から、近衛騎士団の活躍を拝むとしよう。」
ドリア公爵はちょっと不快な表情をして答えた。
「よし、それでは各自の準備を始めてくれ。」
ルキウス師団長の命令で出陣の準備が始まった。
ラートリーの周りには50個の魔道中隊が集合していた。ラートリーは紫の宝珠を使って魔道士の魔力を強化すると、魔道中隊はそれぞれ歩兵大隊のもとへ行き、先ず、マジックシールドを全員に張っていった。
歩兵大隊は12個が横一列に並んでおり、全体で4列あったが、ラートリーはパウラと2個の魔道中隊と共に最前列の中央へ歩いていった。
「ははは、圧倒的じゃないか。これだけの布陣を牙狼族ごときが破ることはできないだろう。そうは思わないか?」
ルキウス師団長は満足そうにサルス参謀に尋ねた。
「はい。さすがルキウス様です。見事な布陣です。ここを打ち破れば牙牢城は落ちたのも同然です。牙狼族は亡国の民となることでしょう。」
サルス参謀も笑みを浮かべながら答えた。
「だが、油断するなよ。遊軍の騎馬兵の指揮は任せる。機を見て攻撃するのだ。」
「はい。かしこまりました。」
サルス参謀は、騎馬兵連隊へ走って行った。
「では、出陣だ!銅鑼を鳴らせ!」
ルキウス師団長の命令で銅鑼が一斉に鳴り響き、王国軍は10km西にある砦へ向かって進軍を開始した。
牙狼族の砦の中では、マリンカとカリンカが互いに魔法をかけあい魔力を高めていた。そして最大限まで高まったときに、グウィンへ強化魔法をかけた。
「「偉大なる守護神バイフーの力をもって、汝らの願いを叶えん!心願成就!」」
グウィンの能力は大幅に上昇した。
「おお、これはすごい。話に聞いていたとおりだ。王国軍の奴らを一網打尽にしてくれる!二人は今後に備えて少し休め。」
「はい、ありがとうございます。少し休ませていただきます。」
マリンカはそう言うとカリンカと一緒に砦内の休憩場所へ行った。
牙狼族の砦は小高い丘の上にあった。グウィンは焼け落ちた東門の前に歩いていった。そして砦の東側に密集していた1万5千人の牙狼軍を見下ろした。グウィンの近くではワイナ他6名の回復術士が待機しており、牙狼軍の中には突撃隊に参加するフドウ、兵站用の馬車を略奪するスパーナたち10人の姿もあった。
「これからお前たちを強化するぞおおおおおお!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!」」」」」
グウィンが叫ぶと牙狼軍から大歓声が上がった。
グウィンはおもむろに肩幅より少し大きく足を開き、左足を高く持ち上げてから再び地面に下ろした。
ドスーン!
大きな地響きがあたり一帯に広がった。グウィンは腰を低く下ろしてから立ち上がり、今度は右足を高く持ち上げてから地面に下ろした。
ドスーン!
再び大きな地響きがあたり一帯に広がった。牙狼兵たちがざわつき始めた。グウィンは気にする様子もなく、先ほどと同じように腰を低く下ろしてから立ち上がり、再び左足を高く持ち上げてから地面に下ろした。
ドスーン!
グウィンはこの動作を何度か繰り返していった。
ドスーン!
ドスーン!
ドスーン!
(意識を大地の下へ向けるのだ。大地の気を感じるのだ。そしてその気を誘導する!)
グウィンは右足を大地に下ろした後、腰を低くし、掌を上向きにして両腕を広げ大地から気をすくい上げるようにしながら立ち上がると、グウィンの足元から巨大な赤い光の柱が立ち上り明るく輝き始めた。そしてグウィンが両掌を兵に向けると、光の柱は霧散し、赤い光の粒子が1万5千の兵たちに降り注いでいった。
「「「「「おおおおおおおお!」」」」」
牙狼兵から驚嘆の声が巻き起こった。
「すごい!すごいぞ!」
「力が湧いてくる!」
「勇気百倍だ!」
「王国軍を皆殺しだ!」
「「「「「グウィン様!万歳!万歳!万歳!」」」」」
牙狼兵たちの大歓声が鳴りやまなかった。
グウィンがセイシュウ将軍へ目で合図を送ると、将軍は馬に乗り
「全軍配置に着け!」
と、号令をかけた。
牙狼軍は横に広がり王国軍を迎え撃つ準備を整えた。前方には土煙と共に王国軍が近づいて来る様子が確認できた。
王国軍が牙狼族の砦に近づいて来るといったん進軍をとめ、ラートリーが前へ出てきた。
「白銀の魔描!出て来なさい!私は紫の勇者ラートリーよ!貴様を私の炎で丸焼きにしてあげるわ!」
ラートリーが大声で叫ぶと王国軍からわざとらしい笑い声が起こった。
「それとも砦の惨状を見て恐れをなしたのかしら!恐ろしくてお母さんのオッパイでも飲みに行ったの?臆病者ね!」
「「「「「臆病者!臆病者!臆病者!臆病者!臆病者!」」」」」
ラートリーがさらに大声で叫ぶと王国軍から一斉に『臆病者!』の大合唱が起こった。
すると、牙狼軍の中央からグウィンがゆっくり歩いて出てきた。
「俺に母親はいない!貴様たちに殺されて食べられたからな!」
グウィンはそう言うと両腕を広げて空を見上げ呪文を唱え始めた。すると、グウィンの上空に大きな黒い霧のようなものが漂いはじめ、回転しながら空いっぱいに広がっていった。
「神の愛 天の恵み 無限の恩寵 苦役からの解放 死徒よ!今こそ永遠の安らぎをもたらせ!来たれ!死の祝福!!」
グウィンの詠唱が終わると、薄暗くなった空に楕円形の漆黒の闇が現れた。その闇が回転しながらだんだん大きく空に広がっていった。
「ええええ!これは魔王の死の呪いよ!みんな早く集まってえええええ!」
グウィンの魔法の正体に気が付いたラートリーは、紫の宝珠を掲げながら王国軍の中央めがけて全力で走り始めた。紫の宝珠には相手からの魔法攻撃に対する抵抗力を高める効果もあった。
「ラートリー!あれは、魔王の死の呪いなの?」
「そうよ、パウラも魔道士たちも私のそばに集まって!マジックシールドと宝珠の力で何とか耐えてちょうだい!」
「全員ラートリーのもとへ集まって!」
パウラも必死で周りの兵たちに声をかけながら、軍の中央へ走って行くラートリーの後を追いかけた。しかし、鎧と盾で身を固めた歩兵は、急に集まれと言われてもすぐに移動することはできなかった。
ラートリーは軍の中央部で宝珠を高く掲げたが、結局、宝珠の光に包まれたのはパウラと魔道中隊2個、周辺にいた歩兵大隊4個だけであった。
その時、グウィンの上空に大きく広がった闇の中から無数の黒い影[死徒]が現れ、ものすごい勢いで王国軍の兵士たちに襲いかかってきた。
ヒュウウウウウウウン!
ヒュウウウウウウウン!
ヒュウウウウウウウン!
死徒は兵たちが必死で攻撃しても手ごたえがなく、盾や鎧も死徒の動きを止めることはできなかった。死徒は猛烈な速さで次々と兵たちすり抜けていき、王国軍の兵士たちはバタバタと倒れていった。
ヒュウウウウウウウン!
ヒュウウウウウウウン!
ヒュウウウウウウウン!
王国軍の被害は甚大であった。ラートリーが走って行った中央付近の4個大隊と魔道中隊2個は、即死こそ免れたものの全員が呼吸困難に陥って地面に倒れ込んでしまった。また、その周辺の20個大隊はほぼ全員が即死した。その外側の24個大隊は中央に近い部隊ほど症状が重く、一番外側の大隊は比較的軽いめまいと吐き気に襲われた程度で戦うことができる状態だった。
「げほっ!げほっ!げほっ!アクアメディスン!はぁはぁはぁはぁ。」
パウラも地面に倒れていたが、苦しみながらもなんとか自分に回復魔法をかけた。パウラは魔道兵の中でも特に魔法抵抗力が高かったのでいち早く動くことができたのだ。
パウラは血を吐きながらゆっくり立ち上がり、呼吸を整えて見回すと、辺りは苦しんでいる兵士たちの喘ぎ声とピクリとも動かない死体で溢れていた。先ほどまで意気盛んであった兵士たちが一瞬で無残な姿になっていた。
「はぁはぁはぁ、ラートリーは?ラートリーは大丈夫なの?どこにいるの?」
パウラはグウィンの魔法の影響で、目眩がしており目の焦点も良く定まらなかった。
「アクアメディスン!アクアメディスン!アクアメディスン!」
パウラは周囲に倒れている魔道兵にも回復魔法をかけながらラートリーを探し始めた。パウラの回復魔法により魔道兵が次々と立ち上がった。そして、回復した魔道兵が倒れている魔道兵を回復していった。
ラートリーは地面に倒れて呼吸困難に陥っていた。顔の色はどす黒くなり、目は見開いていたが焦点は定まらず、口は半開きになって涎を流し、苦しそうな息遣いをしていた。ラートリーは他の兵たちよりも多くの死徒から攻撃を受けており、かろうじて生きてはいたが瀕死の状態であった。
「ううええええええ、はあはあはあはあはあ、あいつ、魔王だったのね・・皆殺しにしたつもりだったのに・・・生き残りがいたなんて、シラーラがいればこんなのあっという間に治してもらえるんだけど・・・うう・・ドナミンの青の宝珠があれば、魔王の魔法だって無効化できたのに・・・ひ・・一人で来たのは失敗だったかな・・・」
「アクアメディスン!」
ラートリーの意識が消えてなくなりそうになった時、パウラがやってきて回復魔法をかけたがラートリーの容体はかなり悪かった。
その時、牙狼軍の一斉攻撃が始まった。牙狼軍はラートリーやパウラたちがいる中央部を避けて、外側にいる兵に攻撃を始めた。
「どうして私たちを避けるの?まあどうでもいいわ。ラートリー!大丈夫?もう、しっかりしてよ!」
パウラはラートリーに声をかけながら回復魔法をかけ続けていたが、倒れている兵士を殺しながら近づいて来る少女が見えた。
「あれは?ダークエルフ?まずいわ。ラートリーが回復するまでの時間を稼がなければ。あなた達はラートリーを回復して!それ以外で動けるものは付いて来なさい!ダークエルフを討つわよ!」
パウラは数人の魔道兵にラートリーを託して、残りの動ける魔道兵を引き連れてリアンのもとへ向かって行った。
「パパ、ママ、お姉ちゃんの仇!人間をコロス!出でよ!暗黒ミズチ!くらえ!毒霧の矢!」
リアンの声が鳴り響き、緑色の矢が放たれた。
ぎゅうういいいいいんんんん!
リアンが叫びながら矢を放つと、矢は奇怪な音を発しながら回転し、周りに緑色の霧をまき散らして倒れている兵たちの頭上を飛んで行った。かろうじて生き残っていた兵たちも、リアンの毒霧で死んでいった。
牙狼軍はリアンの毒霧に巻き込まれるのを恐れリアンから離れて戦っていたのだった。
そこへパウラたちが駆けつけてきた。
「ダークエルフめ!やはりエルフは獣人と手を組んでいたのか!おのれ!」
パウラは水系の魔法の名手であった。パウラが赤の宝珠を掲げると地面から大量の水が噴出した。そしてその水を無数の氷の槍に変え、リアンめがけて放った。
「これでもくらえ!アイスランス!」
たくさんの氷の槍がリアンめがけて飛んでいった。
「暗黒ミズチは水の精霊なのよ!この槍もらったわ!」
リアンがそう言うと無数の氷の槍がリアンにあたる直前に空中で止まった。そして氷の槍は見る見るうちに緑色に染まり、上昇して行った。
「あはははははは!それ行け!」
リアンがそう叫ぶと氷の槍は砕け散り、毒に染まった無数の氷の破片が次々と王国軍に襲いかかった。
「「「マジックシールド!」」」
パウラたちは素早くマジックシールドを張ったが、周りで倒れていた兵たちはなすすべがなく毒で死んでいった。
「アクアメディスン!アクアメディスン!アクアメディスン!」
パウラたちは必死で回復魔法を唱えたがピクリとも動かなかった。
「回復魔法は無駄よ。手遅れだわ。もう死んだのよ!あはははは!」
リアンが笑うとパウラはリアンを睨みつけた。
「動けるものはダークエルフに一斉攻撃!これ以上撃たせるな!」
パウラが攻撃命令を出すと、倒れていた数人の兵がゆっくり起き上がってきた。
「お前たち!大丈夫だったのか!よか・・・・?」
パウラの目の前には、顔が緑色に染まった兵が立っていた。彼らは口から緑色の毒の唾液を垂れ流しながら一斉にパウラへ襲いかかってきた。
ぐああああ!ぐあ!ぐあ!ぐあ!がふっ!がふっ!がふっ!
「や、止めてえええ!きゃあああああああああああ!」
パウラは数人の兵に抑え込まれ、噛み殺されてしまった。
「リアンをいじめる奴は許さない!」
リアンの後ろからルルナがゆっくり歩いてきた。
「お、お前は何者だ!」
魔道兵が叫ぶと
「私はリアンのお姉ちゃん!」
ルルナはそう言いながら死んだ兵を操り、襲いかかった。
「ひるむな!死霊術士を倒せば死体も動かなくなるはずだ!攻撃開始!」
「「「ファイヤーアロー!」」」
「「「ファイヤーボール!」」」
魔道兵による一斉攻撃がルルナを襲った。ルルナは炎の魔法で何度も吹き飛ばされ、黒焦げにされたが、その都度立ち上がり、焦げた体を修復し、死者を操っていた。何度攻撃しても立ち上がるルルナと無数の死体の攻撃に魔道兵は後退を余儀なくされた。
一方、リアンは死んだパウラの側にいた。
「うわーきれいな腕輪!」
リアンはパウラが持っていた赤の宝珠を抜き取り、自分の腕にはめた。リアンは宝珠をしげしげと眺めていると突然閃いた。
「私はこの腕輪を使える!」
リアンが腕輪をかざすと、地面から大量の水が巨大な噴水のように噴き出し、空高く昇ったかと思うと細かい水しぶきなって辺り一面に降りそそいだ。水は緑色をしていた。
「毒だ!逃げろ!」
「アクアメディスン!」
「げほっ!げほっ!ぐはっ!」
魔道士たちは回復魔法をかけながら逃げ始めたが、毒を吸い込み死んでいくものも多かった。
「あはははは~死ね!死ね!死ね!」
リアンは次から次へと地面から毒水を噴き上げ、辺り一面に毒の水しぶきをまき散らしながら魔道兵を駆逐していった。
一方、ラートリーの回復は思うように進まなかった。
「ラートリー様、もうしばらくお待ちください。」
魔道士たちはさらに動ける魔導士を集めてきて、先ほどよりも大人数でラートリーに回復魔法をかけ続けていった。
「「「アクアメディスン!」」」
「「「アクアメディスン!」」」
「「「アクアメディスン!」」」
ようやくラートリーの顔色が良くなっていき、呼吸も元に戻り、動けるようになった。
「あああ、みんなありがとう!ふううう、あいつら一人残らず消し炭にしてやるんだから!」
ラートリーはそう言いながら立ち上がり、大きく深呼吸をするとパウラのいる方角へ駆け出した。すると、パウラのもとへ行った魔道士たちが走って逃げてきた。
「毒だ!吸い込むな!」
「距離を取れ!」
「逃げろ!」
「だめだ!マジックシールドが効かない!」
リアンの毒霧の矢だけであったらマジックシールドで防ぐこともできたが、赤の宝珠の力で地面から噴出する水はマジックシールドで防ぎようがなかった。リアンはその水を暗黒ミズチの力で毒に変えていた。
「いったい何が起こっているの?」
ラートリーは魔道士たちが逃げてくる方向へ走って行くと、緑色の水しぶきの中をこちらに向かってくる少女の姿を見つけた。
「あのダークエルフが原因ね!見ていなさい!劫火よ!焼き尽くせ!大火竜 昇竜波!」
ラートリーの腕から巨大な炎の渦が放たれ、リアンを襲い、リアンは炎に包まれた。
「ふふん、たわいもないわね。」
炎が消えるとそこに人影はなかった。地面から水が噴水の様に噴き出し、その水の上にリアンがいた。そして水しぶきが幾重にも重なり、リアンを炎から守っていたのだった。
「何?」
ラートリーが見上げるとリアンが弓を構えた。
「くらえ!毒霧の矢!」
ぎゅうういいいいいんんんん!
ぎゅうういいいいいんんんん!
ぎゅうういいいいいんんんん!
リアンは立て続けに毒霧の矢を放った。
「小癪な!大火竜 昇竜波!昇竜波!昇竜波!」
ラートリーも次々と魔法を放ち、リアンの毒霧の矢を焼き払っていった。
ラートリーは闘いの最中にリアンの腕輪に気が付いた。
(あのダークエルフの腕にあるのは、赤の宝珠?パウラから奪ったのね。しかも宝珠適性があるのかしら?だとすると厄介ね。)
リアンとラートリーの攻防が続いたが、しばらくすると、地面から噴き出していた水が無くなり、リアンはポトンと地面に落ちて尻もちをついた。
「あいたたたた。」
「ふはははは、どうやら魔力が底を尽きたようね。良く頑張ったわ。ご褒美に跡形もなく焼き尽くしてあげる!」
ラートリーが昇龍波を放つ準備を始めると、
「リアンをいじめる奴はだ~れ~だ~!」
リアンの後ろからルルナがゆっくり歩いてきた。
「リアン、あとはお姉ちゃんに任せて下がっていなさい。」
「うん。分かった。」
リアンはそう言うと、ルルナの背後に走っていった。ルルナの背後からは数百の歩兵の死体が付いて来ていた。
「ようやく現れたわね。あなたが噂の死霊術士ね。ふふふふ。この辺りには生きている王国兵のいないようだし、全力で行くわよ。皆まとめて火葬にしてあげるわ!」
ラートリーは大きな杖を振りかざした。
「大火竜 八門必殺の陣!」
ラートリーの周りに大きな炎の竜巻が八つ出現した。ルルナは数百の死体を操りラートリーにに襲いかかったが、八つの炎の竜巻は次から次へと死体を飲み込み激しい炎で焼き尽くしていった。
「これで終わりよ!火炎地獄の舞!」
八つの炎の渦はルルナめがけて集まっていき、やがて一つの巨大な竜巻となってルルナを飲み込んでいった。ルルナは竜巻の中で高温の炎に焼かれた。
ボタッ!ボタッ!ボタッ!ボタッ!ボタッ!ボタッ!
炎の竜巻で吹き上げられた焼け焦げた死体が辺り一面に落ちてきた。だが、その死体の一部が動き出し、一か所に集まり始めた。
「ははははは、死霊術士もたいしたことなかったわね・・・えっ、まさか?まだ動いているの?ば、化け物なの!こうなったら灰になるまで焼いてあげるわ。」
ラートリーは動いている焼け焦げた死体へ向かって再び魔法を放った。
「大火竜 八門必殺の陣! 火炎地獄の舞! 最大出力!」
先ほどよりも巨大な炎の竜巻が現れ、辺り一面の死体を飲み込んで焼き尽くしていった。炎が消えた後には何も残っておらず、死体を焼いた灰だけが空中に舞っていた。ルルナが持っていたミスリルナイフもどこかへ飛ばされて行ってしまった。
「おねえちゃん・・・・・」
ルルナが炎の竜巻の中で焼き尽くされるのを見ていたリアンは、一目散にグウィンのもとへ駆け出していった。
「ははははは、これで終わりよ。」
ラートリーはそう言いながら辺りを見回した。王国軍の大半は既に壊滅しており、かろうじて生き残っていた兵たちは重い盾や防具を捨てて潰走していたが、牙狼軍の猛攻撃を受けて次々と討ち取られていった。
「近衛師団も惨憺たる有様になったものね。まさに死屍累々という言葉がぴったりだわ。こうなったらせめて魔王だけでも討ち取って帰らないと、皆に合わせる顔がないわね。」
ラートリーはそう呟きながら、ゆっくりとリアンの後を追って行った。




