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勇者de焼き肉パーティ  作者: 吾妻ゆきと
24/27

第23話 砦の攻防 round3 前編

ご覧いただきありがとうございます。

作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。

*********************

気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。

基本的なストーリーの変更はありません。

第23話 砦の攻防 round3 前編


牙狼軍は夜を徹して行軍し、早朝には砦についた。そして、焼け焦げて散乱している遺体を回収して埋葬するとともに、砦を背にして陣を敷くための作業を始めた。砦内は建物がすべて焼け落ちていたが石垣は健在だったので、セイシュウ将軍は石垣の内側に指揮所を設けた。

指揮所ではセイシュウ将軍、ジュウベイ参謀、ムサシ副将軍が集まっており、グウィンと話をしていた。


「トモとモカは本来ならば将軍の許可を得てから親衛隊にすべきだったが、トモの場合は瀕死の状態で一刻を争う事態だった。また、モカは特殊な能力を持っていて、親衛隊としてその能力を生かしたいという本人のたっての希望でもあったので祝福を与えた。実際にモカは祝福を与えることによってその能力が一段と大きく開花したのだ。親衛隊に加えてよかったと思っている。事後承諾になってしまったが了承してもらいたい。」

グウィンはセイシュウ将軍に言った。

「いえいえ、こちらこそ迅速なご判断に感謝いたします。トモは紅蓮の大火竜の攻撃を直接見ている唯一の生存者です。おかげで何があったのか知ることができます。」

とセイシュウ将軍が言うと

「モカは攻撃が始まってすぐに井戸に隠れたと聞いていますので、トモの証言はとても貴重です。今後の作戦に大きな示唆を与えてくれます。」

ジュウベイ参謀も口を添えた。

「そうと決まればさっそくトモを呼んで話を聞きましょう。おい、トモを呼んで来い。」

ムサシ副将軍は側にいた兵士に命じた。


トモとリクは遺体を埋葬した場所で手を合わせていた。遺体の多くは激しい炎で焼かれており、身元の判別は難しい状況だった。リクの両親のトシゾウとハルミの遺体も特定することができなかった。

「リク!ごめんなさい!」

トモが涙を流しながら地面に両手をついて謝り始めた。

「トモ、いったいどうしたんだよ。」

「リクのお父さんとお母さんが亡くなったのに、私だけ生き残ってしまって・・・」

「な、何を言っているんだ!トモだけでも生き残ってくれて良かったと思っているよ。それに両親が死んだのだってトモのせいじゃない!勇者のせいだ!俺も親衛隊に入って勇者を殺してやる!」

リクは憎悪に満ちた表情で墓石を見つめた。

「リク・・・そのことなんだけどね。聞いてくれる?」

「なんだよ。」

「リクのお父さんが言っていたのを憶えているかな?『若くて優秀な人材が皆グウィン様のところへ行ったら牙狼軍は崩壊してしまう。将来の牙狼軍を支える人材が大事だ。』って言っていたのよ。」

「そんなことは憶えているよ。憶えているけどその人材は僕じゃない。僕はグウィン様の親衛隊になりたい。そうすれば、トモやナナとも一緒にいることができるだろう。」

「リク・・・・」

ちょうどそこへ伝令の兵がトモを呼びに来た。

「トモさん、セイシュウ将軍がお呼びです。紅蓮の大火竜の件についてお聞きしたいそうです。」

「あ、はい。すぐ行きます。」

トモが立ち上がると、

「グウィン様にお願いするチャンスだ!僕も一緒に行ってもいいかな?」

リクもトモの後をついて行こうとした。

「あなたは将軍に呼ばれていないでしょう。別の機会にしたら?」

「大丈夫!大丈夫!当たって砕けろだ!」

リクはトモが止めるのも聞かず、無理やりついて行ってしまった。


暫くするとトモが指揮所へやって来た。後ろからリクがついてきた。リクは指揮所へ入るといきなりグウィンのもとへ駆け寄り跪いた。

「グウィン様、お願いいたします。どうか私を親衛隊に入れてください。魔王の祝福をお願いいたします。」

グウィンはリクの突然の行動に一瞬戸惑ったが、

「それはできない。」

と、間髪入れずにリクの申し出を断った。

「えっ、なぜですか?なぜ私は駄目なのですか?」

リクは予想外の答えに驚き狼狽した。

「お前は牙狼軍の兵士だ。将軍の許可なくして勝手に入れるわけにはいかない。」

「し、しかし、トモはどうなんですか?フドウさんだって親衛隊に入れたのになぜ私は駄目なんですか?」

リクは承服できない様子だった。

「トモは危篤状態だった。魔王の祝福を与えなければ死んでいた。フドウはお前の父である砦守備隊長のトシゾウの許可を得てから魔王の祝福を与えた。俺が勝手に親衛隊に入れたわけではない。」

グウィンの話を聞いてリクはセイシュウ将軍に向き直った。

「将軍、どうかお願いいたします。私がグウィン様の親衛隊に行くことをご許可願います。」

リクは必至に訴えたが

「駄目だ!許可できない。」

というのがセイシュウ将軍の答えだった。

「な、なぜですか?」

「ええいうるさい。将軍が駄目だと言ったらだめなんだよ!だいたい貴様はここをどこだと思っている。貴様が勝手に入っていい場所じゃないんだ!邪魔だからとっとと出て行け!」

ムサシ副将軍が大声で怒鳴ると

「リク、お願いだから出て行って。これから大事な話があるの。邪魔しないで。」

トモもリクに出て行くよう促した。

「ト、トモ・・・分った。も、申し訳ありませんでした。失礼します。」

リクはそう言うと指揮所から走り去って行った。

「リクが大変失礼なことをして、申しわけありませんでした。どうか、お許しください。」

トモはセイシュウ将軍に深々と頭を下げた。

「うむ。リクの気持ちも分かるが、我々はリクに期待しているのだよ。将来、牙狼軍を支える人材の一人としてな。後でトモからも良く話しておいてくれ。」

セイシュウ将軍は優しい表情でトモに言った。

「ありがとうございます。必ず伝えます。」

「どうやら落ち着いたようですね。それでは早速砦で何があったのか聞かせていただきましょう。今後の作戦を考える上で重要な情報ですからね。」

ジュウベイ参謀の言葉を合図にトモの報告が始まった。


「チクショウ、チクショウ、チクショウ、これも全部あのクソ勇者のせいだ。何が紅蓮の大火竜だ!今度攻撃して来たら必ず僕が殺してやる!この野郎!」

リクは指揮所から走って出てくると、砦の石垣を何度も蹴りつけて、怒りをぶつけていた。

「おい!リク!さっきから何をしている!さっさと作業に戻れ!」

「あ、小隊長!」

「両親を失ってショックなのはわかるが、今は戦の真最中だ。いいか!気をしっかり持つんだ!悔しい気持ちは戦場で晴らせ!」

「あ、はい!申し訳ありませんでした!直ちに戻ります!」

リクは小隊長に敬礼をすると陣地の構築作業に戻っていった。


トモは報告が終わるとグウィンと一緒に親衛隊の野営地に赴いた。指揮所では、セイシュウ将軍、ジュウベイ参謀、ムサシ副将軍の3人で今後の作戦について打ち合わせを行った。


その日の夕方、グウィンは指揮所に呼び出された。セイシュウ将軍が作戦について相談したいという事であった。グウィンは、フドウ、オイチそしてモカを連れて指揮所へ入った。

「これはグウィン様、お呼び立てして申し訳ありません。」

セイシュウ将軍がグウィンを出迎えた。

「戦の最中だ。細かいことは気にするな。」

「ありがとうございます。それでは早速ジュウベイ参謀より作戦について説明させます。何かお気づきの点がございましたら遠慮なくおっしゃってください。」

セイシュウ将軍はそう言うとグウィンたちを中へ案内した。


グウィンたちが席に着くと、ジュウベイ参謀が今後の作戦について説明を始めた。

「先ず、我々が現在入手している情報によりますと、王国軍は明日の昼頃までに砦の近くへ到着する見込みです。その後、陣を敷いて態勢を整えると思われますが、攻めてくるのは明日の午後以降になるとみています。グウィン様の方で何か新しい情報はお持ちでしょうか?」

「今日の午後にガルダ族のものに偵察をさせたが、今の説明と状況は同じだ。特に新しい情報はない。」

「ありがとうございます。紅蓮の大火竜の炎の竜巻ですが、あれほどの魔法はそう何度も使えるものではないと考えています。それからあの魔法の欠点は、敵も味方も人も物も何でも飲み込んで焼き尽くしてしまうことです。ですので、敵味方が入り乱れての乱戦になると使えないと思われます。逆に我が軍が王国軍から離れて密集していると狙われる可能性がありますので、できるだけ広がって素早く攻撃し乱戦に持ち込めればあの魔法は封じることができると考えています。」

「ふむ。なるほど。それで俺は何をすればよい。」

グウィンはジュウベイ参謀に尋ねた。

「はい。グウィン様には兵士1万5千人の強化をお願いしたいのと、戦の冒頭で『死の呪文』を使っていただき、王国軍に大きなダメージを与えていただきたいのです。その後、横に広がった我が軍が王国軍へ攻撃を開始しますが、突撃隊を一つ編成したいと思っています。」

「突撃隊?」

「はい。『死の呪文』で混乱した王国軍を一気に突っ切って、敵の指揮所を叩き、後方の食糧に火をつけて戦争の継続ができないようにする作戦です。この突撃隊の指揮はムサシ副将軍が執りますが、先鋒としてフドウをお借りしたいのです。いかがでしょうか。」

「フドウ、どうだ。」

グウィンはフドウに尋ねた。

「はい。お任せください。必ず戦果を挙げてご覧に入れます。」

フドウの答えにジュウベイ参謀は満足そうに頷いた。

「さすがはフドウです。頼りにしています。突撃隊が成功すればこの戦は勝ったのも同じなのです。ですが、一番の問題は紅蓮の大火竜です。こちらの対処方法で悩んでいたところです。」

ジュウベイ参謀は困った表情でグウィンを見つめた。

「勇者の件は我々に任せてもらいたい。俺と親衛隊で始末しよう。」

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります。」

ジュウベイ参謀は安堵した様子だった。

「グウィン様、特に何もなければこれで散会といたしますがよろしいでしょうか?」

セイシュウ将軍がグウィンに言った。


「俺の方からは特にない。お前たちはどうだ?」

グウィンが親衛隊の方を見るとモカが恐る恐る口を開いた。

「あの・・申し上げてよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわん。言ってみろ。」

「はい。突撃隊なのですが、もし可能なら敵の兵糧に火をつけるだけではなくて・・一部の馬車ごと兵糧を奪ってはどうかと思いまして、その・・・」

「なるほど。馬車と兵糧をグウィン様たちが猛虎国へ行くときに持って行きたいというわけですな。確かに燃やすだけではもったいないと思います。出来れば奪いたいという気持ちも分かります。ですが、この作戦で大切なのは迅速さです。もたもたしているとこちらが危険になります。諦めていただいた方が良いと思います。ムサシ副将軍はどう思われますか?」

ジュウベイ参謀はムサシ副将軍の意見を聞いた。

「ジュウベイ参謀の言うとおりです。ただ、突撃隊とは別に親衛隊の方で馬車をかっさらってくる分には問題ありません。ただし、もし親衛隊が危機に陥っても我々は援護できませんのでそこのところはご理解ください。ぐずぐずしていて敵に包囲されてしまえばこの作戦は失敗してしまいます。」

「分った。この件については持ち帰って皆の意見を聞いてみよう。」

グウィンはそう言うと、指揮所を後にした。


太陽が沈みはじめ辺りが薄暗くなってきた頃、グウィンは砦内の空き地で焚火を囲みながら親衛隊と打ち合わせを始めた。テントでは親衛隊全員が入ることができず、建物も全て焼け落ちているために他に適当な場所が見つからなかったのであった。


最初にフドウが説明を始めた。

「簡単に作戦の流れを説明しよう。先ず牙狼軍をグウィン様が強化する。次にグウィン様が死の呪文により王国軍に攻撃を加える。その後、牙狼軍による一斉攻撃。そして、突撃隊が敵の指揮所を襲撃し後方の兵糧を焼き払う、というのが大まかな流れだ。突撃隊には私が入る。以上だ。」

次にオイチが説明を始めた。

「親衛隊の動きについて説明します。グウィン様が強化の魔法を使う前に、マリンカとカリンカはグウィン様に強化の魔法をかけてください。グウィン様が死の呪文を使う時は、ワイナさんとドワーフの回復術士の皆さんは、万一に備えてグウィン様の側で待機してください。この時、マリンカとカリンカも一緒にいてください。それ以外の人たちについてはグウィン様からお話があります。」

オイチの話の後、グウィンが話し始めた。

「突撃隊が敵の指揮所を襲撃する際に、親衛隊も参加して王国軍の馬車と兵糧を奪ってはどうかという意見がある。この作戦は敵陣深く侵入するので素早く遂行しないと敵に囲まれ全滅する危険性がある。この作戦について皆の意見を聞きたい。」

と、グウィンが言うと、スパーナが話の口火を切った。

「俺たちガルダ族なら、敵陣を迂回して背後から襲撃することも可能だ。やばい時は空へ逃げれば良いわけだから、大丈夫だと思うぜ。もっとも三人しかいないから盗める馬車も3台が限度になっちまうが。」

「空から背後に回るのでしたら、自分もハクと一緒に参加できます。いいろいろと考えがございますのでお任せください。」

と、すかさずイチタも言った。

「あたしたちも参加させてください。突撃隊と一緒に馬で突っ込んで馬車を奪ってやります。参加するのはあたしとコハル、センコ、ハクコの4人です。あたしたちだってグウィン様から祝福をいただいていますし、さらに強化してもらえるってわけですから、王国軍の兵士になんかに後れは取りませんよ。それにドワーフさんから武器や防具を新調してもらっていますので、お披露目しないと宝の持ち腐れになっちまいます。」

アオイがそう言うと、一緒にいたコハルたちも強く頷いた。

「アオイさんたちが参加するのであれば、私も護衛を兼ねて参加しましょう。」

と、オイチが言うと

「オイチさんが行くなら私も行きます。」

トモも手を挙げた。

「ふむ、10名で10台の馬車を奪ってくるのか。危険な割には実入りが少ないな。」

グウィンはどうしたものかという表情で呟いた。

すると、

「直接乗ることができる馬車は10台だけですが、他の馬車も逃がして自分たちの後を追わせることはできます。」

イチタが言った。

「そんなことができるのか。」

「はい。兵糧に火が付けば馬たちは驚いて逃げようとします。その前に車輪止めを外しておいて、逃げる馬を誘導すれば多くの馬車が手に入ると思います。馬たちの誘導は自分に任せてください。戦とはいえ、多くの馬たちが焼け死ぬのはかわいそうです。一匹でも多くの馬を助けたいです。」

「うむ。分かった。そこはイチタに任せよう。馬車の誘導に関してはイチタの指示に従うように。分かったな!」

「「「はい。」」」

「あの~よろしいでしょうか?」

モカが恐る恐る手を挙げた。

「ああ、かまわん。」

「はい。今回の馬車の奪取作戦は迅速さが大事です。まごまごしていると命取りになります。そこのところは十分注意していただきたいと思います。特にアオイさんたちはこの事を忘れないようにお願いします。」

「どうしてあたしたち何だい?」

アオイは名指しされて、一瞬、ムカッときた。

「私も良く分かりませんが、アオイさんたちが何かに気を取られて、作戦が失敗してしまうルートがあります。得られるはずの多くの馬車を失ってしまう未来です。鍵はアオイさんです。よろしくお願いいたします。」

モカは頭を下げた。

「ああ、分かったよ。迅速にやればいいんだろう!迅速にね!」

アオイは不貞腐れたように言った。

「それからもう一つですが、このままいきますと、紅蓮の大火竜と戦うのは、ルルナさんとリアンさんのお二人になります。よろしくお願いします。」

モカが言った。

「まて、俺がいる。」

「いいえ、グウィン様は戦えません。というか、戦える余力を残してはいけません。」

「どういうことだ。」

「死の呪文を使う時に魔力の消費を抑えてはいけません。今回、王国軍は魔道士の精鋭部隊を送ってきています。しかも彼らの魔力は宝珠で強化されています。グウィン様はすべての魔力を解き放って呪文を使わないと、王国軍のマジックシールドは破れません。破ったとしても少人数で終わってしまいます。敵は2万です。1000人程度殺しても厳しいです。ですので倒れるくらい全力を出していただかないと、この戦は勝てません・・・・で、出過ぎたことを言って申し訳ありません。ですが・・・。」

「分った。ルルナ、リアン、お前たち二人で紅蓮の大火竜は倒せるか?不安なら誰かに残ってもらうが?」

「いいえ、大丈夫です。というよりいないほうが戦いやすいです。リアンの毒霧は敵も味方も選びませんので、周りに味方がいないほうが思いきり使えます。牙狼軍の人もリアンには近づかないよう伝えてください。毒で死んでしまいますから。」

ルルナは答えた。

「ルルナは大丈夫なのか?」

グウィンは余計なことを言ってしまったと思ったが遅かった。

「私ですか?私は大丈夫です。だって・・・もう死んでいますから・・・うふふふ。」

ルルナはそう言って笑うと、顔や体がどんどんどす黒くなり、眼球が飛び出して垂れ下がり始めた。

「わ、分かった。もう良い。元に戻せ。」

グウィンがそう言うと、ルルナは自分の体を修復し元に戻した。

「お姉ちゃん、面白い!」

リアンは無邪気に喜んでいた。

「エヘン、エヘン、あ~アオイ、この打ち合わせが終わったら至急牙狼軍へ伝令を頼む!内容は『戦闘中にリアンに近づくな!毒で死ぬ危険あり!』だ。」

グウィンはアオイに命じた。

「はい。かしこまりました。」

「あとは何か意見がある者はいるか?」

グウィンが尋ねると

「特にありません。大丈夫です。」

フドウが答えた。他の親衛隊も大きく頷いていた。

「では、これで終わりだ。解散!」

グウィンがそう言うと、モカを除いて、おのおの自分のテントへ戻っていった。


「モカ、まだ何か話があるのか?」

「はい。」

「遠慮なく言え!」

「はい。えっと、グウィン様は強化の魔法をお使いになるとき魔力を消費されますか?」

「うむ。魔法を使うわけだから魔力を消費するのは当然だ。」

「1万5千人の牙狼軍を強化するのに多くの魔力を消費しますよね。その状態で仮に残りの魔力を振り絞って死の呪文を使っても魔力不足で十分な効果が得られません。」

「では、どうしろというのだ?」

「魔力を使わずに強化する方法はないのでしょうか?」

「う~む。俺には分からないが、アイリスに相談してみよう。」

「よろしくお願いします。いろいろと申し訳ありませんでした。失礼します。」

モカはそう言うと自分のテントへ戻っていった。


トモは打ち合わせが終わり自分のテントへ戻ろうとしたが、途中でリクとばったり出会った。リクが待ち伏せていたのだった。

「トモ、少し話があるんだけど今いいかな?」

「うん。大丈夫だよ。」

リクはトモを石垣の上に連れて行った。太陽は沈んだが西の空には月がかかっていて月明りが二人を照らしていた。

「今日はここで夜中まで見張りなんだ。交代の時間までは誰も来ない。」

「そうなの。それで話って何?」

「うん。僕は牙狼軍を辞めようと思うんだ。そうすればどこへ行って何をしても自由だろう?軍にいるから命令に従わなくてはいけないけど、辞めれば将軍や副将軍に何を言われても関係ないよ。そう思うだろう?」

「それで・・・あなたは何がしたいの?」

「何がって、そんな事は決まっているじゃないか。グウィン様の親衛隊になってトモと一緒にいるんだよ。」

トモは何も言わずしばらくじっと考えていた。

「ねえ、いい考えだと思わないか?」

リクは黙っているトモに同意を求めた。

しかし、

「リク、怒らないで聞いてくれる?」

「あ、ああ、怒らないよ。」

「あのね。私は死んだの。」

「えっ?どういうこと?トモは生きているよね。」

「私は大火傷をしてもう少しで死ぬところだった・・・それをグウィン様に助けていただいたわ。グウィン様の血を頂いている時、私は大きく変わった・・・身も心も生まれ変わった気がするのよ。それでね、その時にリクを好きだった私はこの世からいなくなったの。ここにいる私は、生まれ変わった私は、リクよりね、グウィン様の方が大事なの。」

「そ、そんな事って・・・」

「もちろんリクのことが嫌いになったわけじゃないのよ。でも、リクは私にとってはもうただの幼馴染でしかないわ。私が命をささげる相手はグウィン様なの。あなたが付いて来ても私には何もしてあげられないわ。」

「う、嘘だ!」

「嘘を言っても仕方がないわ。あなたからもらったスカーフね。とても嬉しかったけど炎で焼かれてしまった・・リクを好きだった私は、あの時に死んだのよ。だから私には付いて来ないで!迷惑だから!」

トモはそう言うと顔を伏せたまま、リクの顔を見ようともせず走り去って行った。

「ト、トモ、嘘だろう!嘘だといってくれ!嘘だと・・・」

リクは涙を流しながら頭を抱えてうずくまってしまった。


トモは石垣を降りると、そこにはオイチがいた。

「ごめん。二人の話だけど聞こえちゃった。」

「オイチさん・・・リクには・・・リクには牙狼軍に残ってほしい・・・リクのお父さんもそう望んでいたし・・・将軍も期待しているって言ってくれた・・・でも、リクが私に付いて来ちゃったら・・・」

「そう、そうだったの。テントに戻ろう。話を聞くわよ。」

「は、はい。うわあああん。」

トモはオイチにすがりついて泣き始めた。オイチは抱きかかえるようにトモをテントへ連れて行った。テントに入るとモカが待っていた。オイチとトモとモカは同じテントに宿泊することになっていたのだ。その後、三人は夜が更けるまで話し込んでいた。


グウィンは自分のテントの中で横になってアイリスと話をしていた。

「ふ~ん、そのモカっていう子がそう言ったのね?それはすごい能力を持った子を親衛隊に入れたわね。」

「そう思うか?」

「魔力を消費しないで、能力を強化する方法か~普通はそんな事考えもしないわよ。最も彼女の場合は考えたわけではなくて、そういう未来が見えたっていうことよね。それならグウィンちゃんにできる可能性があるってことね。」

「そんな方法があるのか?」

「もちろんあるわよ。でも、グウィンちゃんにはまだ早いかと思って黙っていたけど、可能性があるならこれから特訓してみる?」

「分った。時間が惜しい。早速やってくれ。」

グウィンはアイリスに導かれてテントの外に出た。そして砦の東の方向へ歩いて行き、牙狼軍が野営している場所から離れて行った。


「ここなら誰にも迷惑をかけないと思いから思いきり特訓できるわね。」

「誰かに迷惑がかかるのか?」

「そろそろ寝る時間でしょ。テントの近くで特訓していたら安眠妨害になるわ。そんなことより、さっそく始めるわよ。グウィンちゃんは生きている人から精気を吸い取ることができるわよね。それって、生き物だけではなく、生きていないもの、例えば、大地とか空気とか水とか火とか、そういうものからも精気を吸い取ることができるっていう話は聞いたことがある?」

「ああ、そう言えばブロ爺がそんなことを言っていたような気がする。」

「これからやるのはそのための特訓よ。そうね。今日は大地から精気を吸い取る訓練をしましょう。そして、その精気を他の人に与える練習ね。」

「大地からの精気で俺は成長するのか?強くなるのか?人の気を吸ったときのように。」

「もちろん大地から吸った精気を取り込めば、人の精気と同じようにグウィンちゃんは強くなるわ。でも、自分に取り込まないで人に与えれば、グインちゃんは強くならないわ。これから大地の精気の扱い方を特訓するけど、何回か自分に取り込んでみてね。グウィンちゃん自身が成長を実感できるはずよ。」

「効果は永久に続くのか?」

「もちろんよ!グインちゃんの場合は成長するのだから強くなった状態は続いていくわ。でも精気を分けてもらった人は一時的な効果ね。魔法と同じで永続性はないわ。それからこの方法は魔法と違って相性があるのよ。」

「相性?」

「そう。大地の精気をもらって、すごく強くなる人もいれば、あまり効果が出ない人もいるわ。一人一人の個性が違うから仕方がないのだけれど、悪影響はないからその点は安心してやるといいわね。」

「そうか。分かった。」

「それじゃあ、始めるわよ。先ずは、足を開いて・・・」


その夜、ドスーン、ドスーンという音が一晩中響き渡った。

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