第21話 戦火の足音
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
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気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第21話 戦火の足音
「三日後にトン薬の納品とアンジェ様のお輿入れがあるわけですが、お輿入れの儀をぜひ我々にお任せいただきたいとお願いに参りました。いかがでしょうか。」
ウタマロは、ドワーフの野営地にいるグウィンのところへやってきて話をしていた。
「輿入れの儀とは、どのようなことをするのだ?」
グウィンが尋ねると
「ほっほっほっほっほっ、正式にお妃になられることを内外に宣言していただきまして、皆でお祝いをさせていただきたいと思っております。段取りは全てこちらで整えますので、グウィン様は何もご心配なさらずにおいでください。それからサヤカ様のお輿入れの儀はまだと伺っておりますので、おめでたいことですから、もしよろしければお二人ご一緒にお祝いさせていただければと考えております。」
ウタマロの言葉にグウィンはサヤカを見た。
「サヤカはどうしたい?」
「私はとてもありがたいお申し出だと思いますが、牙狼族の皆さんにご迷惑ではないんですかぁ?」
「ほっほっほっほっほっ、迷惑だなんてとんでもありません。牙狼族にとっても光栄なことです。ただ、惜しむらくは、牙狼族のお妃様がいらっしゃらないことです。せっかくの機会ですから、牙狼族からもお妃様をお一人選んでいただけると我々としてもうれしいのですが、なかなかそんな都合よくは行きませんな。ほっほっほっほっほっ。」
「牙狼族からと言われても、心たりはないが・・・」
グウィンが真面目な顔で答えると
「冗談ですよ、冗談。お気になさらないでください。ほっほっほっほっほっ。」
ウタマロは笑いながら帰っていった。
翌日の午後、ドワーフの野営地にいるグウィンのところへウタマロと一緒に砦の守備隊長がやって来た。
「グウィン様、お忙しいところたびたびお邪魔して申し訳ありません。砦の守備隊長のトシゾウが是非ご挨拶したいということなので連れてまいりました。ほっほっほっほっほっ。」
ウタマロがそう言うと、守備隊長のトシゾウと一緒に家族もグウィンの前へ進み出た。
「グウィン様、その節は大変お世話になりました。明後日のお輿入れの儀、大変おめでとうございます。お輿入れの儀に参加させていただくために、家族でやってまいりました。」
トシゾウはそう言うとサヤカの方へ向き直って話し始めた
「サヤカ様もおめでとうございます。お輿入れの儀、楽しみですね。」
「守備隊長さん、そんな『サヤカ様』だなんて呼ばないでください。寂しいですぅ。今までどおり『サヤカちゃん』でお願いします。」
サヤカにそう言われて、トシゾウはちらっとグウィンを見ると、グウィンは笑って頷いた。
「承知いたしました。サヤカちゃん。おめでとうございます。」
「ありがとうございますぅ。」
サヤカは大きくなってきたお腹を両手で抑えながら、軽くお辞儀をした。
トシゾウは再度グウィンの方へ向き直って、家族を紹介し始めた。
「一緒に連れてきた家族を紹介させてください。妻のハルミです。風魔士で砦に一緒に勤務しています。」
「妻のハルミです。いろいろとお世話になりありがとうございます。」
「いや、こちらこそ世話になった。俺の服を調達する際にはいろいろ協力してもらったと聞いている。感謝している。」
グウィンが砦にやってきて、成長するたびにオイチやミサトが服を調達に行っていたが、陰では砦守備隊長の妻のハルミが尽力していた。
「こちらは長男のリクです。牙狼族の中でも足の速さでは1,2を争うぐらいの俊足でして、今年から軍に配属されました。今は砦で一緒に勤務しています。」
トシゾウが自慢げな口調で紹介すると
「お父さん、褒めすぎ。僕はそんなに速くないよ。あ、すみません。リクです。よろしくお願いします。」
リクは照れくさそうな表情で挨拶をした。
「それから、長女のナナです。昨年から牙牢城にある風魔士訓練所で訓練中でして、来年には正式に配属先が決まると思います。」
「ナナです。よろしくお願いします。」
ナナはそう言って会釈をしたが、緊張していたせいかどこかぎこちなかった。
「そうか、分かった。リクとナナ、二人の成長と活躍を期待している。頑張ってくれ!」
「「はい!」」
二人は誇らしげにグウィンに敬礼をした。
「ほっほっほっほっほっ。それでは皆さん、ご挨拶はお済ですか?私はこれからグウィン様と打ち合わせがありますので、お引き取りください。」
とウタマロが言うと
「承知いたしました。それではグウィン様、失礼いたします。」
そう言ってトシゾウたちがグウィンのもとを離れると、近くにいたフドウがとオイチが話しかけてきた。
「守備隊長、お久しぶりです。皆さんもお元気そうで何よりです。」
フドウがトシゾウに近づき両手で固く握手をした。
「お久しぶりです。砦時代はお世話になりました。」
オイチはトシゾウと妻のハルミに向かって丁寧に会釈をした。
「フドウにオイチ、お前たちの活躍は聞いている。私としても誇らしく思う。」
と、トシゾウが言うと
「お父さんは、しょっちゅう自分のことのようにフドウさんとオイチさんのことを自慢するんだよ。」
すかさずリクが話しに入って来た。
「ははは、いいじゃないか。一緒にいた仲間なんだから。」
トシゾウは少し照れたように笑った。
「リクもちょっと見ない間に立派になったな!」
「僕も早くフドウさんのように強くなりたいです。」
「ナナちゃんもすっかり綺麗になったわね。誰かいい人できたの?」
「そんな~私はまだ全然です。」
「ところでフドウさんとオイチさんはその後どうなの?もっとも今はまだ子づくりできる状況じゃないからしばらくは無理なのかな?」
ハルミは冷やかすよに二人へ言った。
フドウ達が談笑しているとウタマロのとこへ一人の兵士が血相を変えてやって来た。
「ウタマロ様、大変でございます。緊急事態です。王国軍がこちらに向かって侵攻中とのことです。その数約2万との報告です。今から緊急に作戦会議を開催します。至急お集まりください。グウィン様もよろしくお願いいたします。」
グウィンたちは至急宮殿へ向かった。
宮殿内の一室ではシャラク総統をはじめ文官、武官会わせて約100人が集まっており、作戦会議が進行中であった。グウィンと親衛隊が入室し席に座るとシャラクが立ち上がってグウィンに声をかけた。
「グウィン様、お話はお聞き及びとは存じますが、王国軍2万がこちらに向かってきております。お輿入れの儀は延期させていただきたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「当然だ!我々も王国軍を打ち破るために全力を尽くす!」
グウィンは力強く答えた。
「ありがとうございます。では、引き続き将軍のセイシュウを中心に作戦会議を続けさせていただきます。」
シャラクがそう言うと、セイシュウ将軍が立ち上がり、集まった文官武官に向かって話しを始めた。
「物見の報告によると、王国軍は約2万、今から三日後に砦を攻撃可能な場所へ到着するとのことである。我が軍は総勢1万5千だが、魔王様のお力添えもある。必ず王国軍を打ち破ることができる。この戦に勝って、盛大に魔王様のお輿入れの儀を執り行おうではないか。」
「「「「「おう!」」」」」
「うむ。では、守備隊長のトシゾウだが、大至急砦に戻って準備を始めてくれ。砦は1万5千の牙狼軍の兵糧を保管することになる大事な拠点だ。しっかり頼むぞ。牙狼軍本隊は直ちに出陣の準備を始めよ。明朝、日の出とともに出陣し、明後日の昼までには砦へ到着する!各々ぬかるな!以上だ!」
「「「「「おう!」」」」」
セイシュウ将軍の話が終わるとその場にいた文官武官がそれぞれの持ち場へ散っていった。
作戦会議終了後、グウィンのもとへ砦守備隊長のトシゾウと一緒にハルミ、リク、ナナがやってきた。
「グウィン様、お願いがあります。私と妻とリクはこれから砦へ向かいますが、ナナはまだ訓練期間中なので前線へ連れていくことができません。戦力にはなりませんが、グウィン様の雑用などのお手伝いができると思いますので、この戦が終わるまで、グウィン様のもとで仕事をさせていただけませんでしょうか?」
「雑用係なら結構いるのだが・・」
グウィンが答えると
「本当のことを言いますと、昨日、ウタマロ様がおいでになりまして、『牙狼族からもお妃様を出したいのだがナナはどうか』と言われました。ナナに尋ねたところ、一度もお会いしたことがないので分からないという話でしたので、急遽、先ほどご挨拶に伺った次第です。本人の気持ちを尊重したいと思っていますので、嫌なら嫌と断っていいんだぞ、と言ってありますが、本人もまだ自分の気持ちが良く分からないので、できればしばらくの間グウィン様のお側でお仕事をさせていただきながら考えたいとのことでした。本来ですと訓練期間中の兵は、牙牢城で待機と言う指示なのですが、ウタマロ様のご配慮でグウィン様のお手伝いをしても良いということになりました。」
トシゾウは一呼吸おいて話を続けた。
「この戦は大きな戦になります。私自身も命を捨てて戦う決意です。ですが、自分勝手な言いぐさと思われるかもしれませんが、やはり娘のことが心配なのです。グウィン様のもとにいると思えば心置きなく戦場へ行けます。」
トシゾウの表情を見ると死を覚悟しているようだった。
「うむ。分かった。ナナにはサヤカの身の回りの手伝いをしてもらおう。サヤカも最近お腹が大きくなって辛そうだしな。どうだ?サヤカ、それでいいか?」
グウィンはサヤカに尋ねた。
「ありがとうございますぅ。気心が知れたナナちゃんが側にいると安心ですぅ。ナナちゃん、よろしくねぇ~」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ナナは昨年から牙牢城の風魔士訓練所に入所していたためグウィンとは会っていなかったが、サヤカとはそれ以前からの知り合いであり友人であった。
トシゾウはナナに
「元気で暮らせ!」
と声をかけると、ハルミは目に涙を浮かべてナナを抱きしめた。
「体を大事にね。」
「うん、お母さんも気を付けて!」
「ナナ、僕たちは必ず勝つ。心配するな。」
「うん。お兄さんも無理しないでね。それから、トモさんによろしくね。お土産買ったんでしょう。ちゃんと心を込めて渡さなくちゃだめよ。お兄さんはぶっきらぼうな所があるから。」
「わかったよ。ちゃんと渡すよ。」
リクは苦笑いをしながら答えた。
「グウィン様!どうかナナをよろしくお願いいたします。それでは失礼いたします。」
そう言って、トシゾウたちは深々とお辞儀をした後、急ぎ足で去っていった。
(お父さん!お母さん!お兄さん!どうかご武運を!)
ナナは心の中で精いっぱい祈った。
グウィン達も出陣の準備を始めた。
そんな中、マリンカはカリンカと話をしていた。二人は猛虎族の出身で祈祷士の力があった。祈祷士の使う魔法は対象の能力を大幅に向上させることができるのだが、一人よりも複数の祈祷士が互いの魔法能力を高め合いながら行なったほうがより強大な魔法が使えるようになるのだった。そのような点からすると、二人が一緒にいたほうが効果的だったのだが、マリンカはカリンカを危険な戦場へ連れて行くことに抵抗があった。
「カリンカ、今度の戦はとても危険だからお留守番しててくれる?」
「でも、私が一緒にいたほうが、魔法がもっと強力になるんでしょう?私、お姉ちゃんと一緒にいたい。」
カリンカはそう言うとマリンカに力いっぱいしがみついた。
「わがまま言わないの。戦争では本当に殺されちゃうかもしれないのよ。」
「分かっている。お父さんとお母さんが殺されたから。」
「だったら、なおさら・・」
「でも、もしもグウィン様が負けちゃたら、どこにいたって人間に殺されちゃうんでしょ。だったら私とお姉ちゃんでグウィン様を強化して、戦争に勝ってもらえば、みんな安全なんでしょう?」
「それはそうでけど、戦場ではあなたの身の安全は保障できないわよ。それにあなたがいることで周りの人たちの足を引っ張ることになるかもしれないし。」
「だったら、私も祝福を受ける。グウィン様から魔王の祝福を受ける。そうすれば、今よりはずっと強くなるでしょう?」
「カリンカ~あなたそれでいいの?一生グウィン様にお仕えすることになるのよ。将来、結婚とかしたくないの?」
「お姉ちゃんだって一生お仕えするんでしょう?だったら私も一緒にいる!それに親衛隊になっても結婚できるし・・・イチタお兄ちゃん・・かっこいいし・・・」
「ぷ~っ、ごめん、そっか、イチタさんのこと好きなんだ。分かったわ。グウィン様にお願いしてみましょう。その代わり戦場では絶対私の側から離れないでね。約束よ!分った!」
「うん、絶対離れない!」
カリンカは嬉しそうにますます力を込めてマリンカにしがみついた。
この後、カリンカはマリンカと一緒にグウィンのもとへ行き、魔王の祝福を受けた。
今回の戦における親衛隊の配置は次のとおりである。
直接戦闘に参加
フドウ(隊長)、オイチ(副隊長)、ルルナ、リアン、スパーナ、ニアール、ライアン
偵察担当 イチタ+魔白鳥
連絡調整担当 アオイ隊(アオイ、コハル、センコ、ハクコ)
グウィンの回復及び強化担当 ワイナ隊
回復担当 ワイナ、レンミン、マリネン、カイネン、ハイネン、アイノ、ロウヒ
強化担当 マリンカ、カリンカ
宮殿で留守番 サヤカ
サヤカのお世話係 ミサト、コテツ、コムギ、クズハ、ナナ(短期お手伝い)
グウィンたちは出陣の準備を終え、明朝の出発に合わせて早めに夕食をとり、仮眠をすることにした。グウィンはベッドに横になり、隣にいるサヤカの大きくなったお腹に手を当てて精気を送っていた。部屋の入り口の近くではナナが椅子に座りグウィンたちの様子を伺いながらくつろいでいた。
「それにしても、みるみる大きくなってきたな。」
グウィンはサヤカのお腹を見ながら呟いた。
「グウィン様と同じで成長が早いですねぇ。普通はもっと時間がかかるんですよぉ。」
サヤカはグウィンを見つめていたが、グウィンの頬を撫でるようにそっと手を置いた。
「グウィン様、大丈夫ですよねぇ?私、心配でぇ、なんだか怖いです。」
「2万の大軍と聞けば怖くなるのも当然だろう。だが、心配するな、と言っても無理かもしれないが、大丈夫だ。任せておけ!」
「私が心配なのは、グウィン様なんですよぉ。私がグウィン様のお側にいることができないのでぇ、私がいない時に倒れたらどうしようと思うとぉ、心配なんですぅ。」
「そうか、俺のことが心配だったのか。だが、もし俺に万一のことがあったら、お腹の子を無事産むことだけを考えてくれ。」
「グウィン様、そんな事言わないでください!」
サヤカの目からは涙がこぼれ始めた。
「あくまでも万が一の時の話だ。大丈夫だ!俺はならず戻ってくる。」
「グウィン様~」
サヤカはグウィンの胸に顔を埋めて泣き始めた。
トントン トントン
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。どちら様ですか!」
ナナは立ち上がり、ドアの向こうの人物に尋ねた。
「イチタです。よろしいでしょうか?」
「あら、イチタさん。少しお待ちください。」
ナナはそう言うと少し離れたところからグウィンに声をかけた。
「あの~すみません。イチタさんがおいでなんですが、いかがいたしましょうか?」
「来たか。中へ入れてくれ。今行く。」
グウィンはそう言うと、サヤカから静かに体を離し、ベッドから降りて入口へ向かった。
「失礼します!」
イチタが中へ入ってきた。
「イチタ、頼みたいことがあるのだが、その前に、サヤカと少し話をしていくがいい。」
「サヤカとですか?はい。それは構いませんが・・・」
「明日から大きな戦で出陣する。サヤカも兄のことが心配だろう。安心させてやってくれ。」
「そういう事でしたか。承知いたしました。お心遣い感謝いたします。」
イチタはグウィンへ深くお辞儀をした。
「俺は庭園を散歩してくる。サヤカとの話が終わったら庭園の方へ来てくれ。ナナ、少し散歩に行くぞ。」
グウィンはそう言うとナナと一緒に部屋から出ていった。
「お気遣いありがとうございます。」
イチタは重ねて礼を言ってグウィンたちを見送った。
「おにいちゃん、急にどうしたのぉ?」
サヤカは体を起こしベッド上に腰かけた。
「サヤカ、無理するな。休んでいていいよ。」
イチタはそう言いながらサヤカの側へやって来た。
「大丈夫だよぉ、病気じゃないんだから。」
サヤカは脚をブラブラさせながらイチタを嬉しそうに見つめた。
「元気そうで安心した。それにしてもサヤカがグウィン様のお妃様になったと聞いたときは本当に驚いたよ。ははは。」
「ふふふ、なんだか話が一気に進んじゃってぇ、私もびっくりしちゃったぁ。」
「サヤカは幸せか?」
「うん、幸せだよぉ。もちろん不安なことはあるけどぉ、グウィン様はお優しいし、大丈夫だよぉ。」
サヤカの目が潤んできた。
「そうか。それを聞いてお兄ちゃんも安心して戦いに行ける。」
「お兄ちゃん、かならじゅ、かえってくゆよね。」
サヤカの目からは涙がポロポロこぼれ始めて、涙声になってきた。
「ああ、もちろんだ。必ず帰ってくる。サヤカのお輿入れの儀では兄として出席しなければならないからな。心配するな。」
イチタはサヤカの隣に座り、肩を抱き寄せた。
「絶対らよ、絶対に帰ってきてね。」
サヤカもイチタの体に抱きつき泣き始めた。
「あなたのお母さんは泣き虫でちゅね~早く生まれて、お母さんを助けてくだちゃいね~、僕はあなたのおじちゃんでちゅよ~」
イチタはそう言いながらサヤカのお腹にそっと耳を近づけた。
「おっ?この子、今返事したよ。お腹の中からとんとんって音がした!」
「お兄ちゃんのばかぁ、ふふふ。」
サヤカは涙を拭きながらクスクス笑った。
グウィンは宮殿内の庭園をナナと一緒に散策していた。空に月はなく、零れ落ちそうな星空が広がっていた。
「グウィン様、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
ナナは遠慮がちに尋ねた。
「ああ、大丈夫だ。」
「グウィン様はドワーフの人たちと一緒に国を取り戻して、ドワーフの王になるって聞いたのですけど、どんな国をお造りになりたいのですか?」
「ふむ。どんな国を造りたいのか・・・考えたことがなかったな。」
「え?考えていらっしゃらないのですか?」
ナナはグウィンの答えに驚いた。
「俺はもともと王になるつもりは全然なかったのだ。勇者を倒し、七色宝珠を取り戻すことが目的だ。」
「七色宝珠を取り戻した後はどうなさるのですか?」
「初代魔王が七色宝珠を作ったのは困っている人や苦しんでいる人を助けるためだ。戦争の道具ではない。俺はその七色宝珠を取り戻したら、初代魔王と同じように、助けを必要としている人の力になりたいと思っている。」
「え~と、すみません。それではどうして王になるという話が出てきたのですか?」
「ドワーフに頼まれたからだ。」
「それだけですか?」
ナナは驚いたような表情でグウィンを見つめた。
「それだけだ。何か問題でもあるのか?」
グウィンは不思議そうな顔でナナを見つめ返した。
「魔王様は頼まれたら何でもするのですか?」
「俺にできることなら、できるだけ願いを叶えてやりたいと思っている。」
「魔王様、生意気なことを言うようで申し訳ありませんが、もしよければ私の考えを聞いていただけますか。」
「ああ、かまわない。俺はそもそも生まれてまだ3か月にもならないのだ。肉体的には急成長したが分からないことが多い。遠慮なく言ってくれ。」
グウィンはさばさばした口調でナナに言った。ナナは少し戸惑ったが、軽く深呼吸して話し始めた。
「魔王様はとても大きなお力を持っていらっしゃいます。世の中にはそのお力に頼りたいと思う人々もたくさんいると思います。また、自分たちの利益のために魔王様のお力を利用しようとするものも現れてくると思います。魔王様は周りの人々の言いなりになるのではなく、ご自分の進むべき道をきちんと示して、それにそぐわないものはしっかりと断ることも大事なのではありませんか?」
「王になるなというのか?」
「グウィン様がそれを望んでおられないのならきちんとお断りして、ご自身が本当になさりたいことに力を注がれた方が良いのではないかと思います。えっと、あ、あの、詳しい事情も分からないで勝手なことを申し上げてすみませんでした。ただ、もう一度よく考えてみたほうが良いのではありませんか?」
「そうだな。よく考えてみよう。」
「ちなみに、私を受け入れてくださったのは、父から頼まれたからですか?それとも、私に・・その・・何かを感じたとか、かわいいなと思ったとか・・そう言うことはございませんでしたか?」
ナナは少しどぎまぎしながらグウィンに尋ねた。
「お前の父に頼まれたからだ。死を覚悟している人間の頼みは断れない。」
と、グウィンがきっぱり言うと、ナナは少しがっかりしたようだった。
「そうですか。そうですよね。私はそんなに魅力ないし。い、いいんです。気を使わないでください。分かっていますから。」
「だが、今の話を聞いて、ナナに来てもらって良かったと思っている。感謝している。これからも気が付いたことがあればいろいろ教えてもらいたい。」
「え、そうなのですか・・・感謝だなんてそんな・・・こちらこそ生意気なことを言って申し訳ありませんでした。私でお役に立つのならこれからもよろしくお願いいたします。」
ナナは少しうれしそうにグウィンを見つめた。
そこへイチタが現れた。
「グウィン様、ただ今戻りました。」
「うむ。ナナはサヤカの様子を見てくれ。」
「はい。かしこまりました。」
ナナはそう言うと部屋へ戻っていった。
「イチタに頼みがある。今からハクに乗って出発してもらいたい。王国軍の様子が知りたいのだ。」
「かしこまりました。ただちに出発いたします。」
「うむ。これを持っていけ。」
グウィンはイチタに赤のトン薬5個と青のトン薬5個を渡した。
「これを使ってもよろしいのですか?」
「ああ、遠慮なく使え。大事なことは必ず生きて戻ることだ。今までの相手とは違う。油断するなよ。」
「ありがとうございます。心して行ってまいります。」
イチタはそう言うと走り去っていった。




