第20話 追憶(アオイ)
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
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* 最後の部分に少し加筆しました。
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気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第20話 追憶
グウィンたちが猛虎国へ出発する準備を進めていたある日の昼下がり、スパーナとアオイは牙牢城にある茶屋で会うことにした。
アオイがスパーナとお茶したいとグウィンに言ったところ、グウィンからお小遣いをもらった。
グウィンたちはドワーフを中心に牙狼国の武器や防具を整備していたので、その見返りとして兵糧のほかに様々な支援を受けていた。牙狼国で使えるお金もその一つであった。
アオイはスパーナと二人だけのつもりだったが、グウィンから『みんなで楽しんで来い!』と言われ、マリンカ(猛虎族)、コハル(猫又族)、センコ(妖狐族)、ハクコ(妖狐族)の四人もついてきた。
スパーナはアオイたちと一緒に茶屋へ歩いていったが、スパーナは翼のあるガルダ族だったので、牙牢城の人にとっては物珍しく、スパーナの周りには人だかりができていた。
茶屋は木造の質素な造りだったが、牙牢城の人々には人気があり、中の様子を覗くと多くの客で賑わっていた。
「グウィン様からお小遣いをもらいましたよ。そんな訳だから、ここの支払いは私に任せてください。」
アオイが笑いながらスパーナに話しかけた。
「そいつはありがたい。それにしても皆できたんだ。ははは、賑やかでいいや。」
スパーナも笑いながらアオイと一緒に店の中へ入って行った。
店に入ると店員に案内され、アオイとスパーナが同じテーブルの席に座り、マリンカたち四人は別のテーブルの席に着いた。
「ここの『ゴロゴロ茶』が美味しいって聞いたんでけど、飲んでみませんか?」
アオイがスパーナに尋ねた。
「なんだいその『ゴロゴロ茶』と言うのは?」
「マタタビの虫瘤から作ったお茶だそうですけど、このお店の秘伝の製法があるらしくて、他の店よりもとっても美味しいっていう評判なんですよ。まあ、もともと猫又族はマタタビが大好きなんですけど、スパーナさんのお口に合うかどうか分かりませんが・・」
「そうか、じゃあ、俺も試しに飲んでみるか。」
スパーナがそう言うと、アオイは店員を呼んでいろいろ注文をした。
「さて、スパーナさん、グウィン様とはいつ、どこで知り合ったんですか?詳しく!教えてくださいな。」
アオイは好奇心に溢れた表情でスパーナに尋ねた。マリンカたちも興味津々と言う目つきでスパーナを見ていた。
「俺がグウィンに会ったときは、まだ小さな子供でよ。今の姿からは想像できないだろうけどとっても可愛かったんだ。城で生まれてすぐに両親を勇者に殺されて、父親の首と母親の大腿骨を毛布に包んでやって来たんだよ。あいつ自身はどこへ行ったらいいのか分からなったみたいだけど、俺たちは高い空の上から遠くのものが良く見えるから、ガルダ族の城をめがけて飛んでいる魔白鳥をすぐに見つけたよ。それで城に迎い入れたんだ。」
「小さかった頃のグウィン様~見てみたい。」
コハルが言うと
「お宝ですね。」
マリンカもつぶやいた。
「それで、賢者の洞窟・・賢者っていうのはブロンテスっていう巨人族の賢者がいるんだが、そのブロ爺のいる洞窟はガルダ族の王族を埋葬している聖地でもあるんだ。そこにグウィンの両親を埋葬して、一週間くらいグウィンはブロ爺からいろいろ学んだってわけだ。それから少しガルダ城に滞在していたんだが、結局、なんだかんだで二十日間ぐらいは一緒にいたのかな。その間にもみるみる成長してよ。何度も服を探しに行ったもんだよ。なんだかずいぶん昔のような気がするが、考えてみたら二か月くらい前の話なんだよな。」
スパーナは懐かしそうに話した。
「服はどちらに探しに行かれたんですか?」
とのアオイの問いにスパーナの表情が少し曇った。
「ユリン村っていうエルフの村に行って、物々交換で服を譲ってもらっていたんだが・・・そのユリン村が一月くらい前に人間の兵士に襲われてよ。何の罪もない村人がたくさん殺されちまったんだ。老人や子供まで手当たり次第に殺したって感じだな。そして村に火をかけやがったのさ。」
「まったく酷いことをするものですね。許せませんね。」
「ああ、まったくだ。俺はそれを見て思ったのさ。人間と争わないようにしても駄目だって。あいつらはいずれ攻めてくる、てね。それで父であるガルダ王にグウィンと一緒に戦いましょうと言ったんだが・・・ふふふ、勘当されちまったよ。」
スパーナは笑いながらアオイに言った。
「勘当されてうれしそうですね。」
「ははは、自分の気持ちに正直に生きるというのは気持ちがいいものさ。ところであんたたちはどうしてグウィンと知り合ったんだい?」
「私たちは、それぞれ別なところで人間に捕まって王立研究所っていうところに入れられていたんですけど、ドリア公爵っていうやつが私たちを引き取って・・・」
アオイはそこまで言うと、昔のことが頭の中によみがえってきた。
*
*
ビシッ! きゃあ! ビシッ! きゃあ! ビシッ! きゃあ!
「まったく、くそ忌々しい。昼間食べた魚の骨が喉に引っかかっていやがる。」
ドリア公爵は魚の小骨が喉に引っかかっていることに腹を立て、その腹いせにアオイを鞭で打っていた。その時、アオイは13歳であった。アオイがドリア公爵の屋敷に来てから二年以上経っていた。
「なんだ!その反抗的な目は!」
ドリア公爵はさらに腹を立て、アオイを鞭で打った。
ビシッ! きゃあ! ビシッ! きゃあ! ビシッ! きゃあ!
当時、ドリア公爵の屋敷には、コハル(12歳)、センコ(11歳)、ハクコ(11歳)と男の子で妖狐族のカイ(10歳)がいた。四人の子供たちは部屋の隅に固まって震えながら様子を見ていた。
「最近、貴様は生意気なんだよ。その目つきだ。この神様に逆らうとでもいうのか?あん?」
ドリア公爵は鞭で打たれて床に転がっているアオイの腹を思い切り蹴飛ばした。
ぐふっ!
アオイは口から血を吐いた。ドリア公爵は暖炉で赤々と燃えている薪を一本手に取ると、アオイの顔に近づけた。
「ほら、この炎で貴様の顔を焼いてやろうか、どうだ!」
ドリア公爵がそう言ってアオイを睨むと、アオイは冷めた目でドリア公爵を見つめ返した。
「やればいいでしょ!殺したかったら殺しなさいよ!その方が清々するわ。ふん!何が神様よ!哀れな男ね。」
アオイは蔑むように言い放った。
ドリア公爵は思わぬアオイの反抗に全身が怒りで震えた。
「なるほど、そいうことを言うのか。ならば思い知らせてやる!この神様に逆らうとどうなるかな!」
ドリア公爵は手に取った薪を暖炉に放り投げると、部屋の隅にいたカイを引きずり出した。
「アオイ!貴様が逆らうたびにこいつらを殺してやる!これでどうだ!」
ビシッ! ビシッ! ビシッ! うあああ!
ビシッ! ビシッ! ビシッ! た・す・けて
ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ!
ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ!
ドリア公爵は遮二無二カイを鞭で打ちまくった。カイは初めのうちは悲鳴を上げていたが、途中から動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ、次、もう一人だ!」
ドリア公爵はそう言ってコハルを見た。
「お止めください!お願いです!申し訳ありませんでした!」
アオイはそう叫びながらアオイ公爵の足元に土下座した。
「ええい。うるさい!」
ドリア公爵はアオイを蹴飛ばした。
(しめしめ、思いどおりになってきたぞ。もう一息だ。)
ドリア公爵はほくそ笑んだ。
「お願いですからお止めください!お願いします。何でも言うことを聞きますから、この子たちを殺さないでください。」
アオイは、再びドリア公爵の前に土下座した。
「ふん。よし、それなら今日のところはこれくらいにしてやる。その死体を持ってこい。外の焼却炉で火葬にしてやる。」
「カイを・・ですか?」
「そうだ。死んだ奴を置いておいても邪魔なだけだ。火葬が嫌なら野犬の餌にしてやってもいいんだ!愚図愚図するな!さっさと持ってこい!」
ドリア公爵はそう言うと、屋敷の外へ出て行った。
カイの体は鞭で打たれたせいで、全身の皮や肉が破れ血まみれになっていた。アオイはカイを抱っこしてドリア公爵の後を追って屋敷を出た。
ドクン ドクン ドクン
アオイの手にカイの心臓の音が伝わってきた。
「この子まだ生きている!」
アオイが焼却炉のところへ行くとドリア公爵が待っていた。この焼却炉はゴミを燃やすために作られたものだった。
アオイはドリア公爵の前まで行くとカイを地面に下ろし、ドリア公爵に再び土下座した。
「お願いです。この子はまだ生きています。治療すると助かるかもしれません。お願いです。どうか助けてください。お願いです。」
アオイは必死にドリア公爵に懇願した。
「無駄だ、治療するだけ無駄だと言っているんだ。遅かれ早かれ死ぬんだ。さっさと焼却炉へ入れろ!」
アオイはカイの体の上に自分の体を覆いかぶせて叫んだ。
「そんなことできません!この子はまだ生きているんです!生きたまま焼却炉に入れるなんてできるわけ・・・」
アオイはカイの上に覆いかぶさったまま泣き始めた。
「えええい!うるさい!これならどうだ!」
ドリア公爵はアオイを蹴飛ばし、腰に下げていた剣を引き抜くと、カイの心臓めがけて何度も突き刺した。
「きゃあああああ!止めてください!」
アオイはドリア公爵を止めようとしたが間に合わなかった。
「これで死んだだろう!早く焼却炉へ入れろ!」
「そ、そんな、なんてことを!」
アオイは茫然として全身から力抜け座り込んでしまった。
「早くしないともう一人殺すぞ!あのコハルとかいう小娘だ!」
「お待ちください!お願いします!何でも言うとおりにしますから、これ以上殺さないでください!」
アオイはまた土下座した。
「ならさっさと死体を燃やせ!」
ドリア公爵は満足げにアオイに命じた。
「はい。かしこまりました。」
アオイはそう言うとよろよろと体を動かしカイを抱っこした。
(ごめんね!ごめんね!ごめんね!ごめんね!ごめんね!・・・・)
アオイは心の中で何度も謝りながら、カイを焼却炉の中へ入れた。
*
*
「これ以上殺さないでって言ったのに、あの後、何人殺されたことか・・・」
アオイはぼそっと呟いた。
「あっ、アオイさん、大丈夫か?なんだか悪いこと聞いちまったのかな。言いたくなければ言わなくていいんだぜ。」
スパーナはアオイのあまりにも暗い表情を見て驚いた。
「えっ、ああ、こちらこそすまなかったですね。つい昔のことを思い出しちまって・・あたしのせいで・・あたしのせいで、何人もの子供が殺されちまったんですよ。」
アオイは半べそをかいていた。
「違うよ!違う!アオイさんのせいじゃないよ!」
コハルが叫んだ。
「そうだよ。ドリア公爵は男の子は大きくなると自分の手に負えなくなるから、その前に殺していたんだよ。」
と、センコが言うと
「私たち女は売春サロンで働かせるために生かしておいたけど、男の子は最初から生かしておくつもりはなかったんだよ。」
ハクコもアオイに言った。
「あんたたち・・・」
アオイは涙を拭きながらコハルたちを見た。
「私は来たばかりだったから、何があったのか分からないですけど、でも、悪いのはどう考えても人間ですよ。私たちは平和に暮らしていたところをいきなり襲われ、家族を殺され、財産を奪われ、そして奴隷にされたわけですから。アオイさんもここにいる私たち全員、誰も悪くないです。」
マリンカはアオイを見つめて力強く言った。
「マリンカ、ありがとう。あんた、やっぱりグウィン様のお妃にならない?」
アオイが笑いながらマリンカに言うと
「また~アオイさんの意地悪!」
マリンカも笑いながら答えた。
「スパーナさん、話が良く分からないと思うけど、簡単に言うと私たちはみんな人間に捕まって王立研究所と言うところに居たんですけど、ドリア公爵っていう野郎が当時子供だった私たちを引き取って、自分の屋敷に監禁したんです。そこで私たちは本当にひどい目にあっていたんですよ。そして、何人もの子供が殺されちまいました。私たちは幸い殺されませんでしたが、成長すると売春サロンで働かされました。私たちがサロンへ行くと、代わりに別な子供たちを王立研究所から連れてきて屋敷にまた監禁しました。その子供がコテツ、コムギ、クズハの三人です。逆らえば子供たちを殺すと脅されていましてね、サロンから逃げ出すこともできませんでした。」
アオイがスパーナに語った。
「そうだったのかい。俺たちガルダ族は山の奥に住んでいるから、そんなことが起こっているなんて、まったく知らなかった・・・」
スパーナは気の毒そうな顔でアオイを見た。
「どんな地獄でも何年もいるとだんだんと感覚が麻痺して慣れちまうみたいですね。まあ、それで最近の話なんですがね、王国のお姫様の婚約者だったオネスト侯爵と言う人がいましてね、その男を篭絡して虜にしろと命令されたんですよ。それでそのとおりにしたんですが、王様の方で娘の婚約者が獣人と関係を持っているということで大変怒っちまったんです。それでドリア公爵のところにいた私たちを皆殺しにしろと命令が下って、私たちはドリア公爵に全員殺されるところだったんです。子供たちも一緒にね。それを炭鉱にいたグウィン様が助けてくれたってわけです。あの時はグウィン様の体調が最悪の時だったんですが、それでも助けに来てくれましてね。おかげで生き別れた母とも会えて一緒に暮らせるようになったし、本当に感謝しているんですよ。」
アオイはうれしそうな表情で語ったが、テーブルの下では手が固く握られ震えていた。
「そうか、それを聞いてほっとしたよ。」
「ふう・・・それにしてもあの侯爵のお兄さんは、今頃、どこで何をしているやら・・・あんなお人好しで世の中わたって行けるのかしら・・・」
アオイは何気なくぼそっと呟いた。
「あれれ?」
コハルが興味深そうな表情でアオイを見つめた。
「アオイさん、もしかして侯爵様のことが・・・」
ハクコが言うと
「きっとそうだよ。アオイさん、侯爵様のことが好きなんだよ!」
センコも続いた。
「ち、違うよ!な、なにを言っているのさ!そんな訳あるはずないだろ・・まったく・・」
アオイは急な展開に思わずしどろもどろな口調になってしまった。
「はは~ん、そういう事だったんですね。な~るほどぉ~。うんうん。分かりました。応援しますよ、アオイさん!」
マリンカはアオイに微笑みながら言った。
「ちょっと!マリンカまで何言ってるの!そんなんじゃないって!」
「アオイさんが赤くなっているよ。」
「本当だ!これじゃアカイさんだね!」
「もしかして初恋だったりして!」
「初恋かぁ、私もしたいなぁ!」
「そう言う話なら俺も詳しく聴きたいな。」
「もう、スパーナさんまで!本当に違うんです!」
女性たちのとりとめのない会話が続いていた。
猛虎国の城で白虎城と言う城があった。猛虎族の統領のいる大河城から東に位置しているその城は、王国軍の攻撃によって陥落し、今はオネスト侯爵の領地になっていた。オネスト侯爵の父が戦死した場所でもあった。オネスト侯爵は国王の命令により猛虎族討伐のために白虎城へ戻っており、城の一室で地図を眺めながら兵士たちの説明を受けていた。だが、オネスト侯爵の表情はどこか上の空であった。
(アオイは今頃どうしているのだろうか?無事だと良いが?)
オネスト侯爵の頭の中からは、アオイの寂しげな笑顔が消えないようであった。




