第19話 王都 その5
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
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気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第19話 王都 その5
ドリア公爵は自領の炭鉱とザラ伯爵の銅鉱山の調査を終えて、2週間ぶりに王都へ戻りアイエス王へ報告していた。報告の場には、バルカ将軍の他に旧猪豚族の土地に領地を持つリゴリー・スプーン辺境伯、旧ドワーフ族の土地に領地を持つアヴェル・コラテス辺境伯が同席していた。
「陛下にご報告申し上げます。先ず炭鉱のほうですが、私どもの兵は全員殺されており、ドワーフはどこにもおらず、もぬけの殻でした。武器や食料・荷馬車なども奪われておりまして、多数の足跡の方角から牙狼族の牙牢城へ向かったものと思われます。銅鉱山も同様に誰もいませんでした。状況から炭鉱のドワーフと合流したものと思われます。息子ですが、炭鉱の近くで殺されていました。息子の死体と一緒に配下の者と思われる首が10個見つかりました。サロンの獣人の姿は見当たらず行方不明となっています。誠に申し訳ございません。」
ドリア公爵はここまで言うと平伏して謝罪した。
「ドリア公爵、ご子息の件はお気の毒でした。お悔やみ申し上げます。ところで、銅鉱山の近くにユリン村と言うエルフの村があるのですが、そちらは調査されましたか。」
バルカ将軍がドリア公爵に尋ねた。
「近くまで行っては見ましたが、エルフの兵士が多数おり、近づくと攻撃すると脅されましたので、中に入ることはできませんでした。やむを得ず中の様子を教えて欲しいと交渉したところ、多数の村人が虐殺されたことと、王国の兵士の遺体が多数あったということでした。状況から考えるとザラ伯爵の兵だと思われます。ただ、速やかに立ち去らなければ攻撃すると言われ、かなり険悪な雰囲気でしたのでそれ以上は聞き出すことができませんでした。」
ドリア公爵の顔は青ざめており、言葉にも力がなかった。
「結局ザラ伯爵の行方は分からずじまいか。獣人のサロンのことにしても、炭鉱のことにしても、ドリア公爵の大失態だな!」
と、リゴリー辺境伯が言うと
「旧巨人族の領地と炭鉱はドリア公爵にはちと荷が重すぎたようじゃのう。公爵領をお返しになってはいかがですかのう?」
と、アヴェル辺境伯も嫌味たっぷりに言った。
「なんとも申し開きのしようもございません。」
ドリア公爵は反論するわけでもなく、神妙な面持ちで答えた。
「炭鉱の遺体に不自然な点はありませんでしたか?」
バルカ将軍が再度ドリア公爵に尋ねた。
「はい、理由は分かりませんが、過度に傷んでいるというか破壊されている遺体も多数ありました。」
そこで、バルカ将軍が軍の調査結果を説明した。
「陛下にご報告申し上げます。ザラ伯爵のご息女を殺害したエルフですが、志願兵の名簿を確認しましたところ、ユリン村の出身でした。そしてこのエルフですが、死霊術士で例の白銀の魔描の一味だという報告がありました。おそらく過度に破壊されている遺体と言うのは、死霊術によって操られたものと考えられます。これらの事実から白銀の魔描とユリン村との間に、何らかのつながりがあることは明白であると言えます。ザラ伯爵はユリン村が白銀の魔描を支援しているか、或いは村そのものが一味の拠点となっているという情報をつかみ襲撃したのではないかと推察されます。」
説明が終わると、リゴリー辺境伯はバルカ将軍へ尋ねた。
「ふん、田舎の村が単独で獣人と手を結ぶなどありえない話だ。エルフ族全体と獣人のつながりはどうなんだ。何かつかんでいるのか?」
「いえ、そこまではまだ何もわかっておりません。」
リゴリー辺境伯はバルカ将軍を一瞥するとアイエス王の方へ向き直った。
「陛下、おそらくエルフ族は裏で獣人と手を結んだ可能性がありますぞ!」
「うむ、分かった。そのあたりを逆にエルフの特使に問い質さなければならんな。至急、エルフの特使を呼べ。」
アイエス王は側近に命じた。
しばらくしてエルフのプレイス特使が王宮へ到着した。特使が王の待つ部屋へ入ると、中央にはアイエス王がおり、向かって左側にドリア公爵、リゴリー・スプーン辺境伯、右側にはアヴェル・コラテス辺境伯、バルカ将軍が並んでいた。
「いったい何日待たせれば気が済むのですか。誠意の欠片もないのですか!」
プレイス特使は怒りあらわにして言った。
「プレイス殿、調査の結果、ユリン村の人間が獣人と手を結び、王国軍に多大なる損害を与えていたことが分かりました。ザラ伯爵はそのことを突き止め、ユリン村を調査に行ったところを襲撃され、全滅したとの結論に至りました。」
バルカ将軍はプレイス特使に説明した。
「ば、馬鹿な。そのようなことは断じてありません。何を根拠にそのような作り話を!」
「作り話じゃねえよ。ユリン村の連中は生き残っているんだろ?ザラ伯爵の軍は皆殺しにされたんだ。どっちが襲ってきたのか明白だろう。じゃあ、逆に聞くが、いったい誰がザラ伯爵たちを殺したんだ?お前たちエルフじゃないのか?他に誰がいるんだ?」
リゴリー辺境伯がプレイス特使を問い詰めた。
「いや、それは・・報告ではグウィンという猫又の・・・・」
「それだ!その猫又が白銀の魔描だ!やっぱりいたんじゃねえか。エルフが獣人とつるんでいる証拠だ!特使殿は王国に宣戦布告に来たってわけだ。」
リゴリー辺境伯が厳しい口調で言った。
「宣戦布告だなんて、そんなことはありません。いや、ちょっと待ってください。話がおかしいですぞ!」
プレイス特使は動揺し始めた。
「ユリン村のエルフが獣人と手を組んで王国軍を悩ませているのは事実でのう。私どもは、これがユリン村個別の出来事なのか、エルフ族全体の意思なのかと言うところを知りたいのだ。特使殿には心して返答願いたいですのう。」
今度はアヴェル辺境伯がプレイス特使を睨むように見ながら言った。
「我々エルフは、王国と戦う意思はありません。相互不可侵の約束を守ってきました。それなのに一方的にあなた方が襲ってきたのではありませんか!」
「特使殿、先ほど、猫又族の何と言いましたか?グウィ?」
バルカ将軍が尋ねた。
「村人はグウィンと呼んでいました。」
「そのグウィンについて話していただけますか?」
プレイス特使は手に持っていた報告書をぱらぱらと広げて確認すると気を取り直して話し始めた。
「報告書によりますと、村がザラ伯爵の兵に襲われて多数の村人が殺されている時にルルナと言う村の女性と一緒にどこからともなく現れ、ザラ伯爵の兵を倒し、村人を助けてくれたと言っていました。」
「その後、そのグウィンとやらはどこへ行ったのですか?」
バルカ将軍がさらに尋ねた。
「勇者アステルと名乗る者と一緒に村に残ったそうで、その後のことは分かりません。」
「アステル?アステルがその場にいたのですか?」
バルカ将軍は驚いた。
「はい。アステルと言う者は銅鉱山のドワーフを炭鉱へ連れて行くと言って生き残った銅鉱山の警備隊長からカギを受けとったそうです。おそらく銅鉱山へ行ったのでしょう。」
プレイス特使は報告書を見ながら説明をした。
「だが実際は、銅鉱山も炭鉱もドワーフの姿は見えずもぬけの殻、しかも炭鉱の兵は殺されていた。残念ながらアステルも殺されたと見るほかないようですな。」
バルカ将軍はつぶやくように言った。
「そのグウィンとかいう野郎とエルフはどういう関係なんだよ!」
リゴリー辺境伯はプレイス特使に言った。
「いや、エルフとは何も関係ありません!初めて聞く名前です。」
「じゃあ、何でそいつが村を助けたんだ!関係ねえ訳ねえだろう!」
「いや、そう言われましても、本当に知らないものは知らないのです。」
プレイス特使はリゴリー辺境伯の追及に狼狽していた。
「それじゃ、生き残った連中に直接話を訊くしかねえな。それなら文句ねえだろう!」
「どういうことですか?どうしろとおっしゃるので?」
「だから、生き残った連中をここへ連れて来いよ。このリゴリー辺境伯様が、優しく、じっくり時間をかけて、丁寧に話を聞いてやるよ。そして、エルフと獣人が何も関係がないと分かったらこれからも仲良くしようぜ!」
「リゴリー辺境伯、少しお待ちください!陛下、いかがいたしましょう?」
バルカ将軍はリゴリー辺境伯をいったん抑えて、アイエス王に伺いを立てた。
「うむ。リゴリー辺境伯の言うとおりだ。特使殿、エルフと獣人の間に何も関係が無いということがはっきりするまで、相互不可侵の約束は無いものと思っていただきたい。この件はリゴリー辺境伯に一任することとしよう。私は別室で用事があるのでこれで失礼する。」
アイエス王はプレイス特使にそう言うとバルカ将軍を伴って部屋を出て行った。
「アイエス王、お待ちください!アイエス王!」
プレイス特使がアイエス王を追いかけようとしたが、リゴリー辺境伯が立ちはだかった。
「さあ、プレイス特使殿、打ち合わせといこうか!」
リゴリー辺境伯が薄気味悪い笑顔を浮かべた。
「待たせてすまんな!」
アイエス王が部屋へ入ると、深紅のローブに身を包み、自分の背丈よりも長い杖を持った一人の女性がいた。
「陛下のお呼びとあれば、いつでも駆けつけてまいりますわ。」
「はっはっはっはっは、頼もしい限りだ。」
アイエス王はそう言いながら側近から厳重に鍵のかかった箱を受け取り、中から腕輪を取り出した。
「紫の勇者、聖魔道師ラートリー、今一度紫の宝珠をそなたに託す。白銀の魔描を討ち取ってもらいたい。そして、一気に牙狼族を滅ぼすのだ。頼んだぞ!」
アイエス王はそう言って紫の宝珠をラートリーに渡した。
「承知いたしましたわ。牙狼族を一人残らずこんがりと丸焼きにしてご覧に入れます。」
「うむ。一緒に行くものを紹介しよう。入れ!」
アイエス王が声をかけると、二人の男女が現れた。
男性は全身ミスリル製の防具を装備し、兜を小脇に抱えて、威風堂々とした姿で入って来た。女性は白いローブに身を包み、手にはシラカバの杖を持って、水が流れるようなしなやかな動作で歩いて来た。
「紹介しよう。第三近衛師団の団長ルキウスだ。そしてこちらは知っていると思うが、大魔道師のパウラだ。パウラには赤の宝珠を持たせてある。」
アイエス王の説明にラートリーは意外そうな表情をした。
「パウラに赤の宝珠ですか?アステルはいかがいたしましたか?」
「うむ。エルフの村で消息を絶った。白銀の魔描に殺されたとみて間違いないだろう。」
「アステルが殺された?」
ラートリーは信じられないという表情でうつむいた。
「第三近衛師団団長ルキウスに命ず!近衛師団二万を率いて牙狼族を討伐せよ!」
「はっ!必ず勝利をご報告いたします!」
ルキウスはきびきびした動作でアイエス王へ敬礼をした。
「パウラ、千人の魔道士連隊を指揮してルキウスとラートリーを補佐してくれ!敵は猫又の妖術士、妖狐族の幻術士、猛虎族の祈祷士までいるようだ。そなたの活躍に期待している!」
「かしこまりました。必ずやご期待に応えてみせます。」
パウラはそう言うと恭しくお辞儀をした。
「それからもう一つ、白銀の魔描はドリア公爵にとっては息子の仇だ。あまり役に立たんだろうが参戦させてやりたい。団長の命令には従うように申し付けておくからよろしく頼む。」
「はっ、承知いたしました。」
「ではこれより出陣の準備に入れ!」
アイエス王の命により王国は牙狼国討伐の準備に入った。
グウィンは夕食を終え、牙牢城の宮殿の一室で、サヤカと一緒にベッドに横になっていた。グウィンはサヤカの大きなってきたお腹に軽く手をのせて精気を送っていた。
「グウィンさまぁ、昼間は勝手にアンジェちゃんの輿入れを承諾してしまって、申し訳ありませんでしたぁ。」
サヤカは甘えるように言った。
「サヤカはアンジェのことが気に入ったのか?」
「はい。とってもいい子で気に入りましたぁ。私も一度乗ってみたいですぅ?」
「サヤカがアンジェに乗るのか?」
グウィンは驚いた表情でサヤカを見つめた。
「え?あははは、違いますぅ、白い小象さんの話ですぅ。」
サヤカは楽しそうに笑っていた。
「そうか、象が気に入ってアンジェの輿入れを受け入れたのか。」
「一応、そう言うことにしておいてください。」
サヤカは、真顔でグウィンを見つめた。
「どういうことだ?」
「うーん、最近ね、私、いろいろ不安になっていて、ミサトさんは出産経験があるからいろいろ教えてもらってはいるんだけどぉ、魔王様の子を産んだことがある人は誰もいなくて、やっぱり不安で・・・」
「そうか、不安だったのか。気が付かなくてすまなかった。」
「ううん、グウィン様は悪くないんだけど・・・それでね、アンジェちゃんもグウィン様の子を産んでくれるって思ったらぁ、なんだか仲間ができたみたいで嬉しくなってぇ、いろいろ相談し合えるかなって思って・・・」
サヤカはグウィンの首に手をまわし、顔を近づけた。
「怒ってない?」
サヤカは小さな声で言った。
「ああ、もちろん怒ってないよ。」
グウィンはそっと唇を重ねた。




