第17話 炭鉱での出来事
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。基本的なストーリーの変更はありません。
第17話 炭鉱での出来事
炭鉱での戦いも終結し、グウィンは広場にドワーフの代表と親衛隊を集め今後のことについて打ち合わせをしていた。また、グウィンたちを取り囲むように大勢のドワーフも集まり、話を聞いていた。
「勇者を倒して宝珠を取り戻すことが俺の目的だ。だがそれに協力してドワーフに何のメリットがあるのかと言うことだが、俺は約束しよう。人間に奪われたドワーフの国を再び取り戻すことを。勇者を倒さなければ、ドワーフの国を取り戻すことはできない。勇者を倒すことが最優先なのだ。それが実現すれば、必ずドワーフの国を取り戻すことができる!」
グウィンが力強く宣言すると、多くのドワーフから賛同の声が上がった。
「そこで、当面は、牙狼国へ行き、様々な準備を整える。戦えるものは戦いの準備を、鍛冶が得意な者は武器や防具の整備を、その他にも水や食料の準備、けが人の治療の準備、野営の準備等やることはたくさんある。ドワーフの中でよく話し合って体制を確立してもらいたい。
もちろん、俺について来るかどうかは自由だ。一緒に行動したくない者は自由に好きな所へ行って良い。咎めはしない。」
グウィンがそう言うと、
「滅相もありません。我々はグウィン様について行きます。」
銅鉱山の代表のミョイネンが言うと、
「俺たちだって、どこまでもついて行きますぜ!どこへ逃げたって、王国の奴らに捕まったらまた奴隷に逆戻りだ!勇者を倒しちまおうぜ!」
石炭を回収に来た運搬員の代表のワイネンが叫んだ。
「グウィン様に折り入ってお聞きしたいことがございます。」
炭鉱の代表のカルレヴォが口を開いた。
「グウィン様はご自分の国をお造りにならないのですか。ドワーフの国を取り戻すというより新たにグウィン王国をお作りになり、我々を最初の王国民にしていただくというのはいかがでしょうか。」
カルレヴォがそう言うと、ドワーフの間からどよめきが起こった。
「お前たちは、自分たちの国が欲しくはないのか?」
グウィンはカルレヴォに尋ねた。
「もちろん欲しいのですが、また人間との戦いを考えると、グウィン様を王に頂いた方が何かと安心というものです。もちろんある程度の自治は認めていただきたいのですが、税金も払いますし徴兵にも応じます。これは、ドワーフで独自の国を造っても同じことです。」
カルレヴォがそう言うと、ワイナが応じた。
「つまり、人間に占拠されたドワーフの土地を取り戻し、そこに新たにグウィン王国を建ててあたしたちはその王国民になるということでいいのかい。」
「ドワーフ王家の流れをくむワイナさんが賛成してくれればの話なのだが、どうかね。」
カルレヴォはワイナに尋ねた。
「ドワーフの国は滅んだのさ。王家の血筋と言っても今や名ばかりで実態は何もない。今さらあたしが王家を復活させようとは思っていないよ。そんなことよりもグウィン王国を建国する話のほうが面白いじゃないか。あたしはこの話に乗ったよ。」
ワイナがそう言うとドワーフの間から歓声が上がった。
「「「グウィン様!万歳!」」」
「「「魔王様!万歳」」」
「「「グウィン王国!万歳!」」」
その様子を見ていたグウィンの親衛隊の面々も一緒に歓声を上げていた。
グウィンは右手を挙げて歓声に応えた後、おもむろに話し始めた。
「それがお前たちの望みなら、その望みを叶えることにしよう。ところで、これから牙狼国へ行くわけだが、あちらでも4000人以上の集団がいきなりやって来たら困るだろう。事前に連絡をしておきたい。牙狼国の総統と面識がある者はいるか?」
グウィンの問いに
「はい。私は面識があります。」
フドウが答えた。
「ではフドウに頼むとしよう。だが、ただで受け入れてくれと言っても難しいだろう。ドワーフから何か牙狼族へ提供できるものはあるか?」
グウィンはカレルヴォに尋ねた。
「石炭運搬用の荷馬車がありますので、石炭を持って行くことができます。それから、ここにいるドワーフの中にはアクセサリー職人や鍛冶職人もいますので、牙狼国にある銀や鉄を使って、銀のアクセサリーや鉄製の武器や防具を作って差し上げることができます。」
と、カレルヴォは言った。
「うむ、分かった。では、フドウ、今の条件で交渉してくれ。」
「かしこまりました。もし万が一交渉が整わない時はいかがいたしますか。」
「その時は牙狼国を通過して猛虎国へ行く。牙狼国を通過する許可と水食糧の補給を要請して欲しい。」
「承知いたしました。」
フドウはそう言うと、急いで牙狼国へ出発した。
「それでは、牙狼国へ出発するための準備を始めてくれ。使えるものは全て利用し、万全の準備を整えてもらいたい。それからこの炭鉱でミスリル製の防具の改造はできるか?」
グウィンはカルレヴォに尋ねた。
「はい。簡単な改造でしたら可能です。」
「兜とプレートメールがあるのだが、俺が装備できるようにしてもらいたい。詳しい内容は鍛冶職人に直接説明する。後で来てもらいたい。」
グウィンはここまで話をすると、司令塔へ入っていった。ドワーフはカルレヴォを中心にいろいろ打ち合わせを始めた。
「グウィン様にお願いがあります。」
ワイナはそう言って司令塔のグウィンのいる部屋へ入って来た。ドワーフの6人の術士も一緒だった。
「グウィン様、先ほどのグウィン王国のお話を伺って、こいつらもグウィン様の祝福を受けたいと言っているんですが、よろしいですか?」
ワイナがグウィンに言うと
「グウィン王国の件はどうなるか分からないぞ!」
グウィンの答えはワイナには意外だった。
「どういう事ですか?」
「ドワーフはここにいる4000人だけではあるまい。もっと大勢いるだろう。もし、多くのドワーフが望まないのなら俺は王にはならない。もし、力ずくでドワーフを支配して王になったとしたら人間と同じになってしまう。そのようなことはしたくない。」
「なるほど、確かに人間に支配されているドワーフの土地にはたくさんのドワーフが奴隷としてこき使われていますからね。そいつらの意見も聞いてみないとどうなるか分からないってことですね。」
と、ワイナが言うとロウヒもすかさず尋ねた。
「もし王にならないとしたら、グウィン様はどうなさるおつもりですか?」
「そうだな、ここから北西方向に俺が生まれた城がある。勇者を倒して七色宝珠を全て取り戻した後は、そこに住むのも悪くない。人間に破壊されて今はボロボロの城だが、改修すればそれなりに住めるだろう。」
「ふふふ、魔王様って欲がないのね。そのお城で何をなさるおつもりですか?」
ロウヒは楽しそうに笑いながらさらに尋ねた。
「初代魔王が七色宝珠と言うのを作った理由は、苦しんでいる人を助けたいと思ったからだ。本来、戦争をするための道具ではないのだ。俺は初代魔王の意思を継いで、七色宝珠を使って助けを必要している人の力になりたいと考えている。」
「さすがはグウィン様です。惚れ直しました。私は一生ついて行きますよ。来るなって言われてもついて行きます。ええ、ついて行きますとも!」
ロウヒはうれしそうな顔でグウィンに言った。
「私もついて行きます!」
「わしらもついて行くとも!」
「俺も行くぞ!」
ロウヒの言葉に他のドワーフたちからも賛同の声が次々と上がった。
「それじゃ確認するけど、最終的にドワーフの国に住めなくなっても良いんだね!」
ワイナが6人の顔を見て言った。
「「はい!」」
「「「「おう!」」」」
この後、ドワーフの回復術士のアイノ(女性)、ロウヒ(女性)、レンミン(男性)、マリネン(男性)、カイネン(男性)、ハイネン(男性)の6人が新たに親衛隊に加わった。
深夜、王都のドリア公爵邸に一人の兵士が見るも無残な姿になって帰ってきた。ドリア公爵は取るものも取り敢えず兵士のもとへ行き話を聞いた。
「侯爵様、炭鉱は何ものかに占拠されていました。交代のために行った兵は全滅、ドワーフたちも敵に寝返って襲ってきました。」
「いったい何が・・。それはそうとアンドルはどうした?アンドルは・・」
ドリア公爵は息子のアンドルのことが気がかりだった。
「はい。アンドル様は炭鉱で合流する予定でしたが、見当たりませんでした。」
兵士がそう言うとドリア公爵は茫然自失という状態であった。
「侯爵様、詳しい話は私の方で聞いておきます。侯爵様は少し休まれてはいかがですか?」
執事はそう言ったが
「そんなことはしていられん。明日の朝いちばんで王宮に行き、陛下にご報告しなければ。」
ドリア公爵は目を血走らせて兵士の報告を聞き始めた。
ドリア公爵は朝一番に王宮へ行き、アイエス王に謁見していた。バルカ将軍も急遽呼ばれ同席した。
「陛下、早朝より申し訳ございません。大変なことが起こりましたので大至急ご報告せねばと参上した次第です。」
「うむ。分かった。話を聞こう。」
ドリア公爵は兵士からの報告内容を伝えた。
「ふむ。どう思う?」
アイエス王はバルカ将軍の顔を見て言った。
「はい、報告にありました猫又の男に死霊術士、牙狼族の槍使いと風魔士、これは先の牙狼族の砦に現れた白銀の魔描の一味の特徴と一致しております。きゃつらに間違いないと考えられます。ただ、ダークエルフは新しい情報です。仲間が増えた可能性も否定できません。」
とのバルカ将軍の答えにアイエス王は大きく頷いた。
「やはりそう思うか。なぜ奴らが炭鉱に現れたのか、何のために炭鉱を占拠したのか、謎が多い事件だ。」
「はい、まったくその通りです。ここは兵を派遣して調査をする必要があると考えます。白銀の魔描の一味をこのまま野放しにするわけにはいきません。」
「今すぐ動かせる兵はどの程度か?」
国王はバルカ将軍に尋ねた。
「2000人規模であればすぐに動かせます。」
「分かった、ドリア公爵、そなたの兵はどの程度の残っている?」
国王はドリア公爵にも尋ねた。
「はい、現状ですと、すぐ動かせるのは300人程度です。炭鉱に行った兵が戻ってくれば別ですが・・全滅してしまったようなので・・・」
ドリア公爵は真っ青な顔で体を震わせて答えた。
「それでは、バルカ将軍、至急兵を派遣して調査をしてくれ!ドリア公爵も可能な限り兵を率いて同行するように。息子のことも心配であろう。探すがよい。それからもう一つ。ザラ・ザブン伯爵家所有の銅鉱山でも何かあったらしい。伯爵家から捜索願が出ている。行ったついでに調べてもらいたい。」
国王がそう言って退席するとバルカ将軍とドリア公爵は出兵の打ち合わせを始めた。
炭鉱では牙狼国へ出発するための準備が進められていた。そんな中、作業の合間の休憩の時間に、広場ではグウィンとサヤカが遊んでいた。
「グウィン様、こっち♪ こっち♪」
「にゃははは、まて~」
グウィンはサヤカの持っているマタタビの枝を追いかけて無邪気に楽しんでいた。その様子をミサトとアオイは腰を下ろして眺めていた。平和なひと時であった。
「ねえ、お母さん、グウィン様の他に魔王様の一族はいないんでしょう?」
「そうね。人間に皆殺しにされたって聞いたわ。」
「ふーん、それじゃ、グウィン様にもしものことがあったら、完全に滅亡じゃん。」
「これ!縁起でもないこと言うんじゃありません!お母さん怒りますよ!」
「そうじゃなくてさ、グウィン様は子供を作らないのかなって思って・・・もしかしてグウィン様はそっちの方は奥手なのかな?」
「グウィン様は急成長して体つきはとても立派になられたけど、お生まれになってからまだ二か月もたっていないの。その間、戦いの連続でそれどころではなかったのよ。お気の毒に。」
ミサトは悲しそうな目でグウィンを見つめていた。
「お母さん、私、グウィン様に生きる喜びみたいなものを味わってほしいな。そのお手伝いができれば恩返しになるかな。」
アオイは何か閃いたらしく、明るい表情になっていた。
「あなた、まさかグウィン様の子を産むつもり?」
「私じゃないよ。ほら、あの子。見た目は子供っぽいけど、発情した女狐の匂いがここまでプンプン匂ってくるよ。ふふふ。」
「サヤカちゃんね。そうね、いいと思うわ。妖狐族は他人には本当の姿を見せないから実際はもう少し大人なのかもね。」
「よし、そうと決まれば、このアオイお姉さまが縁結びのお手伝いをしてあげるとしよう。なんだかワクワクしてきたあああ!」
アオイは思わずガッツポーズをとった。アオイは後にグウィンの後宮を取り仕切り、『アオイの局』と呼ばれたのであった。
ある日、アオイは人目につかない場所にサヤカを呼び出した。
「サヤカちゃん、忙しいところ悪いね。少し話があるんだけどいいかい?」
「はい。なんですかぁ?」
「ズバリ訊くけどさ、サヤカちゃんはグウィン様の赤ちゃんを産みたいと思うかい?」
「え、えええ~?どうしたんですか急に?」
サヤカは顔を真っ赤にした。
「これから人間との戦いも激しくなるしさ、宝珠を持った勇者とも戦うことになるだろう。私は人間の狡さ、汚さを知っているから心配なんだよ。魔王様の一族はグウィン様しかいらっしゃらないじゃないか。グウィン様に万が一のことがあったら大変だろう。私は一刻も早くお子様を作っていただいた方がいいと思っているんだ。本当に気が気じゃないのさ。」
アオイは真剣な表情でサヤカを見つめた。
「ええ~でもぉ~私はそんなぁぁぁ・・・」
サヤカはアオイから目をそらしモジモジし始めた。
「ああ、すまなかったね。無理強いはしないからね。私は力ずくで女に言うことを聞かせようとするやつは許せないんだ。ぶち殺してやりたくなるよ。だから私もそんなことはしないつもりさ。嫌なら嫌でいいんだよ。他をあたるからさ。邪魔して悪かったね。」
アオイはその場から立ち去ろうとした。
「他をあたるって・・・ま、待ってください。わ、私、グウィン様のお子様を産みたいです。本当に心からそう思っています。」
サヤカは意を決したようにアオイを見つめて言った。
「ふーん、そうなのかい。じゃあ、いい物あげるよ。」
アオイは小さな瓶を取り出してサヤカに渡した。
「今度グウィン様と鬼ごっこをするときは、この瓶の液体を少し体にかけるといいよ。この匂いを嗅げば奥手のグウィン様もその気になるだろうからさ。ああ、それから周りに誰も人がいない場所で鬼ごっこをするんだよ。途中で邪魔が入るとせっかくのお膳立ても無駄になっちまうからね。それじゃあ頑張りな。」
アオイはそう言うと今度こそ本当に立ち去ろうとしてサヤカに背を向けて歩き始めた。
「アオイさんは、どうして私に親切にしてくれんですか?まだ、良く話したこともないですよね。」
サヤカが質問をするとアオイは振り向いて答えた。
「悪いけどサヤカちゃんのためじゃないよ。グウィン様のためさ。サヤカちゃんならグウィン様に幸せをあげられると思ってね。私はグウィン様に恩返しがしたいだけなのさ。」
「それなら、アオイさんがグウィン様の子供を産もうとは思わなかったんですか?」
「私は人間にさんざん弄ばれて汚されちまったからね。グウィン様にはふさわしくないよ。」
アオイはそう言うとサヤカに背を向けて歩き始めた。
「あ、そうそう、その瓶は他の男がいる前では使っちゃだめだよ。いろんな男に言い寄られちまうからね。ははは。」
アオイはサヤカに背を向けたままで話しをすると軽く右手を振って去っていった。
その翌日、サヤカはグウィンの前へ白馬を連れて行った。その馬は先日殺した勇者アステルが乗っていた馬だった。
「グウィン様!この子をグウィン様の専用馬にしたらどうかと思うんですけどぉ、どうですかぁ?」
「ああ、良いだろう。」
グウィンはサヤカを見て頷いた。
「それじゃあ、ハクみたいに祝福を与えていただけますかぁ?」
「分かった。その前に馬具を外してくれ。体が大きくなると思うから。」
サヤカが馬具を外すと、グウィンは白馬に祝福を与えた。白馬は体が二回りくらい大きくなり頭には一本の角が生えた。白馬は頸をあげて軽くいなないた。
「グウィン様、この子に名前をお願いします。」
サヤカは馬の顔を優しくなでながらグウィンを見つめた。
「そうだな・・・『ユニ』だ。『ユニ』にしよう。」
「素敵な名前です。ユニのお世話ですが、私に任せていただけますかぁ?」
「ああ、もちろんそのつもりだ。よろしく頼む。」
「やったぁ!ユニちゃん、よろしくね!」
サヤカは嬉しそうにユニを撫でた。
「馬具は、後でドワーフの工房に頼むとしよう。」
グウィンがそう言うと
「ありがとうございます。ところでグウィンさまぁ、もし今お時間があるようでしたらぁ、一緒にユニに乗ってみませんかぁ?」
と言ってサヤカは馬にまたがり、グウィンに手を伸ばした。グウィンはサヤカの手を取りサヤカの後ろにまたがった。
「ハイッ!」
サヤカが声をかけると、ユニは軽快に走っていった。
グウィンとサヤカは炭鉱が見渡せる高台にいた。日は高くまばゆい日差しが二人を照らしていた。汗ばむような陽気の中、二人は並んで炭鉱を見下ろしていた。
「グウィン様、祝福を受けた馬は全然違いますね。本当に素晴らしい!」
「ああ、そうだな。ところでサヤカ、お前、今日はとてもいい匂いがするが・・・」
グウィンはサヤカと一緒に馬に乗っていた時から気になっていた。グウィンは突然地面に膝をついてサヤカを抱きしめ、サヤカの柔らかい胸に顔を埋めて思い切りサヤカの匂いを嗅いだ。
「い、いけません。グウィンさまぁぁぁ。」
と言いつつ、サヤカは優しくグウィンの頭を抱きしめた。
「サヤカ、こんな気持ち始めてだ。これは何なのだ?」
グウィンは顔をあげてサヤカを見つめた。
「さあ、何でしょう。ご一緒に考えさせてください。でもその前にグウィン様に見ていただきたいものがあります。」
サヤカはゆっくりグインの体を引き離したかと思うと、突然煙に包まれた。煙が消えてなくなると、そこにはうら若き乙女の姿あった。
「グウィン様、妖狐族が本当の姿を見せるのは、家族と・・伴侶となる相手だけです。」
サヤカはそう言って再びグウィンの頭を優しく抱きしめた。グウィンは体の奥底から激しいエネルギーが湧き上がってくるのを感じた。
「サヤカ!」
グウィンはサヤカを抱きしめ、そのまま倒れこんだ。グウィンとサヤカは思いきり抱き合いながら、やがて一つに溶け合っていった。
「元気なお子が生まれると良いね~」
高台を眺めていたワイナがぽつりと言った。
「まったくだ!あはははは!」
周りいたドワーフからも祝福の笑い声が上がった。
ガルダ族の城は巨大な断崖絶壁をくり抜いて造られていた。そこでスパーナは父であるガルトマン王と真剣な表情で話をしていた。
「お父様、どうかわたしを魔王グウィンのもとに行かせてください。」
「前にも言ったが、王の娘であるお前が魔王のもとに居たら、それを口実に人間はここを攻めてくる。数が少ないガルダ族は滅亡してしまうかもしれない!それでもいいのか!」
ガルトマン王は厳しい表情でスパーナを見つめた。
「私は、先日のエルフ村の襲撃を見て思いました。こちらがいかに中立的な態度を取っていても人間はいずれ攻めてくると。人間の奴らはこの世界を全て自分たちのものにしないと気が済まないんです。遠からずこのガルダ族も攻撃されます。そうなる前に、グウィンと一緒に戦った方が生き残るチャンスがあると思います。」
スパーナは必死になって訴えた。ガルトマン王はしばらく考え込んだが、急に優しい笑顔でスパーナの頭を撫でた。
「お前も大きくなったな。」
「お、お父様?」
「分かった。お前はグウィン様のもとへ行け。その代わり、何があってもここへ戻ってきてはならん!わしもお前に何があっても、お前の所へは行かない!」
「それは一体どういうことですか?勘当ですか?親子の縁を切るということですか?」
スパーナはガルトマン王の話しに困惑した。
「勘当と言えばそう言えるかもしれない。だがこれは生き残るための戦略なのだ。お前はお前が生き残るために全力を尽くせ。自分が生き残ることだけを考えよ!こちらはこちらで最善を尽くす。運よく両方生き残ればよいが、最悪でもどちらかが生き残ればよい。全滅は避けたいのだ。」
ガルトマン王は言い含めるようにスパーナへ言った。そこへ双子の妹のケネスが現れた。
「お姉さま、お父様のおっしゃるとおりです。ここは二手に分かれて生き残りを考えた方が良いと思いますわ。」
ケネスはそう言ってスパーナの手を握りしめた。
「くっ・・・やはりそうなってしまうのか・・・」
スパーナは苦渋の決断を迫られていた。
「ニアールとライアンを呼べ!」
ガルトマン王が側近に命じると二人がすぐやって来た。
「ニアールとライアンに命じる。二人はスパーナと一緒にグウィン様のもとに行き魔王軍に参加せよ。ただし、お前たちは王の命令を無視して出奔したことになる。二度とここへ戻ってきてはならぬ!良いな!」
「「はは、承知いたしました。」」
「うむ、スパーナのことはよろしく頼む。」
ガルトマン王はそう言うと何かを振り切るようにその場から去っていった。ケネスもスパーナに微笑むと王の後に続いた。
「へっ、そういうこった!これからも世話になるぜ、お二人さん!さーて、家出の準備だ!」
スパーナはできるだけ明るく話しをしていたが、目には涙が滲んでいた。
スパーナ、ニアール、ライアンの三人は、それから間もなくしてガルダ族の国から姿を消した。
「グウィン様、お話があるんですけど、今、よろしいですか?」
アオイがサロンの仲間と子供たちを引き連れてやって来た。
「先ず紹介しますね。私が王都のサロンにいた時の仲間で、こちらからコハル(猫又族)、センコ(妖狐族)、ハクコ(妖狐族)、マリンカ(猛虎族)です。そして、こっちがドリア伯爵の屋敷に監禁されていた子どもたちで、コテツ(猫又族)、コムギ(猫又族)、クズハ(妖狐族)、カリンカ(猛虎族)です。ここにいる全員、親兄弟を人間に殺されてしまって、行く所がないんです。それで、話し合ったんですが、コハル、センコ、ハクコ、マリンカの4人はグウィン様の祝福をいただいて親衛隊として働きたいという希望です。子供たちはもう少し大人になってから自分で判断してもらおうと思っています。カリンカはマリンカの妹なので一緒に暮らすと言っていますが、それ以外の子供たちは、私の母が面倒を見ると言っています。そう言うことでいかがでしょうか。」
「うむ。それがお前たちの希望ならそれでも良いが、これから牙狼国へ行くのだ。そこで暮らす気はないのか。」
「どこへ行っても、力がなければまた人間にさらわれるか殺されるかしかありません。人間に勝てるのは、勇者に勝てるのはグウィン様しかいません。グウィン様と一緒に戦いたいのです。こそこそ逃げ隠れて生きていくのは嫌なのです。私たちは直接の戦闘ではあまり役に立たないかもしれませんが、グウィン様のお側でアオイのお母さんと一緒に雑用係やお世話係をさせていただきたいと思っています。よろしくお願いします。」
マリンカが深々と頭を下げた。
「そうか。お前たちが納得しているのならかまわん。そうすると良い。」
グウィンがそう言うとアオイたちはほっとした様子で顔を見合わせて頷き合っていた。
「ところでグウィン様、マリンカなんですけど、サロンに来たばかりでまだ男を知らないというか・・・」
「ちょっと、アオイさん、いきなり何を言うのですか。やめてください。」
マリンカは顔を赤らめた。
「実はね、マリンカなら立派な赤ちゃんを産めるんじゃないかと思ってね。それに、マリンカは勇気があるし、機転が利くし、いざとなったら自分の命を捨ててでも仲間を助けようとするし、グウィン様のお妃に相応しいんじゃないかと思ったんだけどね。いかがですか?マリンカはお勧めですよ。」
アオイはいたずらっぽい表情でグウィンを見つめた。
「アオイさん、本当にもう止めてください。グウィン様だってご迷惑でしょうし・・・」
マリンカはうつむいてしまった。
「アオイは俺に子供を産ませたいのか?」
グウィンはアオイに尋ねた。
「はい、できるだけ早く、しかもたくさん産んで欲しいと思っています。」
「なぜだ。」
「はい、これから勇者たちとの戦いが始まります。グウィン様にもしものことがあったら魔王様の血は失われてしまいます。そうなったら私たちに勝ち目はありません。どうかお子様をお作りください。」
「今は、サヤカがいる。」
「もちろん承知しています。でも魔王様はもっとたくさんのお妃をお持ちになった方が良いと思います。マリンカの件は本人が希望しないのであれば、お忘れください。無理強いはしたくありませんので。」
「そうか、アオイの言いたいことは分かった。心がけるとしよう。」
するとそこへガルダ族の三人が入って来た。
「グウィン、俺だよ、来ちまったぜ。」
「スパーナの姉貴!いったいどうして?」
スパーナ、ニアール、ライアンの三人は居住まいを正してグウィンの前へでた。
「私、ガルダ王の娘スパーナと、ここにいるニアール、ライアンの三名は本日より魔王グウィン様のもとで共に戦う所存で参りました。なにとぞ魔王軍に参加するご許可をお願いいたします。」
三人は跪いた。
「姉貴!良くガルトマン王が許したな。」
「グウィン様、これからは姉貴と言うのはお止めください。スパーナとお呼びください。それから、父ガルトマン王は許してくれませんでした。やむを得ず国を出奔してきました。」
「そうか、分かった。スパーナ、ニアール、ライアンよく来た。歓迎する。期待しているぞ。」
グウィンがそう言うと三人は力強く返事をした。
そして、スパーナは立ち上がると
「堅苦しい挨拶はこれで終わりだ。よろしく頼むぜ、グウィン!」
そう言ってグウィンの手を力いっぱい握りしめた。
この日、グウィンはコハル、センコ、ハクコ、マリンカの4人とスパーナ、ニアール、ライアンの三人に魔王の祝福を与えた。
帰り際にアオイはスパーナに近寄って握手を求めた。
「ガルダ族のお姫様、期待していますよ。」
そう言いながらアオイはスパーナを見て微笑んだ。
その日の夜、グウィンはベッドに横になって、眉間にある宝珠の精霊、虹の女神アイリスと話しをしていた。
「アオイが俺に子供をたくさん作れと言っているんだが、どう思う?」
「あら~グウィンちゃんもそんなお年頃になったのね~」
アイリスは茶化して言った。
「俺は真面目に聞いているんだ。たくさん作れと言われても、サヤカ以外に誰がいるんだ?アオイが紹介したマリンカは嫌がっていたし、ルルナは死体だから子供は産めないし、リアンはまだ子供だから無理だし、オイチにはフドウがいるし、アオイはその気がないだろうし、ミサトは・・・ちょっと無理だろう。」
「ふふふ、グウィンちゃんて面白い。」
「何がだよ!」
「そう言えば大事な人を忘れていない?」
「大事な人?誰だよ。」
グウィンは不満そうな顔でアイリスに訊いた。
「でもこういう事はね、誰かに煽られたからといって慌てても仕方がないんじゃない。それよりも重要な戦いが始まるのよ。浮ついている場合じゃないわよ。」
「それもそうだ・・・すまん、俺もちょっといろいろあって舞い上がっていたかもしれん。」
グウィンは真剣な顔つきに戻った。
「これからたくさんの人がグウィンちゃんのもとに集まってくるわ。その一人一人の言うことに耳を傾けることは大事だと思うけど、行動するときは優先順位を考えないといけないわね。一度に全ての人の要望や希望を叶えることはできないわ。優先順位を間違えると取り返しがつかないこともあるのよ。」
「分かった。心しておくよ。」
「ところで、サヤカちゃんのお腹の中に赤ちゃんがいるみたいよ。」
「ほ、本当か?俺が父親になるのか?」
「うん、そうよ。おめでとう。でもその前にやることがあるの。毎日、サヤカちゃんのお腹にグウィンちゃんの精気を注ぐの。そうすると生まれてくる子供は、魔王の後継者の力を持つことになるわ。でもやりすぎちゃだめよ。一晩眠れば回復するぐらいの量をやってね。たくさん与えても赤ちゃんは早く成長するだけで悪影響はないけど、グインちゃんが寝込んだらみんな困るでしょう。」
「良し、分かった。」
そう言うとグウィンはサヤカを呼ぶために部屋を飛び出した。この日からサヤカはグウィンの正式な妃として周知された。
炭鉱では、いよいよ牙狼国へ出発するための準備が完了してきた。そんな時、ワイナがグウィンのもとに改造したミスリルの兜とアーマーを持ってきた。
「グウィン様、防具の改造が終わりました。兜を担当したのが鍛冶師ゴブネンです。そしてアーマーを担当したのが鍛冶師クレネンです。」
ワイナは二人の鍛冶師を紹介した。
グウィンは兜とアーマーを身に着けてみた。兜からは希望どおり耳が出るようになった。アーマーは動きやすさを重視し全身ではなく部分的なものとなった。
「うむ。これなら動きやすい。」
と言いながら、グウィンは耳を動かして向きを変えたり、体を曲げたりねじったりしていた。ワイナ達ドワーフから見るとおよそあり得ない方向に体が捻じれていても、グウィンは全く平気だった。
「グウィン様は驚くほど体が柔らかいですね。ところで内密のお話があるのですが。」
ワイナが言った。
「改まってどうした?」
「はい。他の種族には秘密にしているドワーフの奥義なのですが、鍛冶魔法と言うのがあります。これは、ミスリルの武器や防具に魔法の力を付与することができる秘術です。この鍛冶魔法を使えるものはドワーフでも数が少なく、この炭鉱では、ゴブネンとクレネンの二人だけでした。そして、今回、グウィン様の兜とアーマーに魔法の力を付与したとのことです。このことは、たとえ親衛隊であっても、他種族にはご内密にお願いします。」
「そうか、分かった。ゴブネン、クレネン、礼を言う。ところでワイナ、牙狼国への出発の準備はできたか?」
グウィンはワイナに尋ねた。
「はい。いつでも出発できます。」
「よし、明日の早朝に出発する。全員に知らせてくれ!」
「はい。かしこまりました。」
ワイナはそう言うと走り去っていった。
グウィンたちは翌朝、牙狼国へ向かって出発した。
それから数日後、ドリア公爵と王国軍が炭鉱へ到着したが、炭鉱には誰もいなかった。




