第16話 炭鉱の攻防 round2
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第16話 炭鉱の攻防 round2
グウィンを乗せた馬車が炭鉱につくと、門のところでミサトとワイナが待っていた。アオイはミサトを見つけると馬車を飛び降りてミサトの前へ走って行った。
「お、お母さん?お母さん・・でしょ?私、アオイ・・」
「アオイ、本当にアオイなの?」
ミサトは信じられないという表情で、目の前に現れたアオイを見つめた。
「お母さん、見て、この天然石のネックレス。7年前の誕生日にお父さんとお母さんからプレゼントしてもらったものだよ。私、どんなに辛くても、苦しくても、このネックレスを見て、お父さんやお母さんに会うまでは絶対死なないって・・頑張って来たんだ!」
「アオイ!よく生きていてくれたね!本当にありがとう!ありがとう!」
ミサトとアオイは抱き合って泣いた。
「お母さん、お父さんは?」
「7年前に人間に襲われたときにね、あなたを取り返そうとして・・・」
そこまで言うと、ミサトは首を横に振った。
「でも、アオイ、どうしてここへ?」
「もう少しで死ぬところだったけど、グウィン様に助けていただいたの。お母さんが一緒にいるって聞いてうれしかった。やっと会えると思った。」
「そうだったの。グウィン様は私との約束を守ってくださったのね。ご自分の体調が最悪だったのに。グウィン様には本当に感謝しなくちゃだね。アオイ、話したいことはいっぱいあるけど、詳しい話は後で聞かせてね。今はグウィン様をお助けしないといけないから。」
ミサトが涙を拭きながら言うと
「うん、分かっている。私にも協力させて!」
とアオイが答えた。
司令塔の一室のベッドでグウィンは寝ていた。ミサトとアオイは親子で一生懸命グウィンの体を舐めてグルーミングをしていた。猫又族のグルーミングは体を清潔に保つだけではなく、癒しと回復促進の効果があった。また、ワイナは6人の回復術士たちと一緒にベッドを取り囲み回復術を行っていた。
広場にはドワーフの各宿舎の代表と親衛隊が集まって、今後のことについて打ち合わせをしていた。親衛隊からはフドウ、オイチ、サヤカ、ルルナ、リアンが参加した。
「明日、600人のドリア公爵の兵がやってくる。これから迎え撃つ準備を始める。この兵を撃破すれば、お前たちは自由の身だ!ドワーフの中で戦闘に参加できるものはいるか?」
フドウがそう言うと、ドワーフの代表が話し始めた。
「私はカレルヴォと申します。この炭鉱のドワーフのまとめ役のようなことをしております。先ほどのお話ですが、私たちは毎日毎日休みもなく日の出から日没まで限界まで働かされてきました。ここにいる全員疲れ切っております。しかし、自由の身になれる千載一遇のチャンスです。気力を振り絞ってご協力いたします。ですが私たちは、つるはしを持ったことはありますが武器は持ったことがありません。3000人いるとはいえ兵士相手に戦えるとは思えません。直接の戦闘以外でお力になれることがあれば良いのですが。」
と、カレルヴォはドワーフの現状について述べた。
「ふーむ。どうする?」
フドウがオイチへ訊いた。
「相手は600人だから私たちだけでも大丈夫じゃないかしら。非戦闘員を無理に引っ張り出しても逆に足を引っ張られる可能性もあるし、ドワーフの皆さんにはどこか安全な場所に避難してもらったほうが良いのでは?」
と、オイチが答えた。
「私もオイチさんの意見に賛成!ドワーフの人たちは安全な場所に避難するのが良いと思うなぁ。でもね、私たちが戦っている間に人間の兵士たちがドワーフさんたちを襲わないっていう保証はないから、自分たちを守る準備は必要だよお。」
と、サヤカが言うと、ドワーフの間からも同意する声が上がった。
「避難できる安全な場所はあるか?」
フドウはカルレヴォに尋ねた。
「はい、坑道に避難すれば安全だと思います。男どもは全員武器になりそうなものを持って避難することにしましょう。皆さんに安心して戦ってもらえるよう、できる限り自衛の準備をします。」
カレルヴォは力強く答えた。
「あの~一つだけお願いがあるんですが・・」
ルルナがカレルヴォに言った。
「はい。何なりとおっしゃってください。」
「ここには、たくさんの死体がありますが、死体を移動して欲しいんです。戦いで使いますので・・」
「死体を移動??良く分かりませんが指示していただければ移動します。」
「よろしくお願いします。」
ルルナは深々とお辞儀をした。
東の空が明るくなりはじめ、太陽が顔を少し出し始めた。
ドワーフたちはルルナの指示で死体を集め、炭鉱施設の進入路の両側に並べ、死体と分からないように上から軽く土をかけた。
フドウはイチタと話をしていた。
「イチタ、ドリア公爵の兵がどのあたりにいるのか偵察してもらえないか?」
フドウがそう言うと
「了解しました。すぐに出発します。」
と言ってイチタはハクに乗って偵察に出発した。
しばらくしてイチタが偵察から戻ってきたので、親衛隊全員とドワーフの代表が司令塔の会議室に集まって打ち合わせを始めた。
「ドリア公爵の兵とドワーフの一行ですが、ここから約10kmの地点まで来ています。彼らの移動速度を考えると、2時間後くらいには目視しうる距離まで来ると思われます。」
イチタが偵察の内容を説明した。
「ドワーフの皆さんの準備はどうですか?」
フドウが尋ねると
「はい。女性は全員坑道の中に避難しました。男性は各々武器になりそうなものを持って坑道の入り口を守っています。人間どもに手出しはさせません。」
カレルヴォが答えた。
「ミサトさん、アオイさん、ワイナさん、ドワーフの術士の皆さんはグウィン様の回復を、サヤカさんはグウィン様の護衛をお願いします。イチタは引き続き偵察を頼む!それ以外の親衛隊は各自戦闘準備に入るように!」
フドウが指示を出すと、各自持ち場に移動していった。
グウィンの寝室にマリンカと猛虎族の女の子のカリンカがやってきた。二人は姉妹であった。
「すみません。アオイさんいますか?」
「マリンカ、どうしたの。ドワーフの人たちと一緒に坑道の中に避難したんじゃなかったの?」
アオイが訊くと
「うん。私たちは強化の魔法が使えるから何かの役に立てるんじゃないかと思って来てみたんだけど。」
とマリンカが答えた。
「強化の魔法が使えるのかい。そいつはありがたいね。二人ともこっちへおいで。」
話が聞こえたのか、ワイナはそう言って二人を呼び寄せた。
「私たちはグウィン様の魔力を回復しているんだがね、回復しなければならない魔力が大き過ぎて思うように進まないのさ。私たちを強化してくれるかい。」
「分かりました。カリンカも手伝ってね。」
「うん。頑張る。」
カリンカは元気いっぱい返事をした。
猛虎族は身体的能力を強化する魔法と魔法能力を強化する魔法が使えた。身体的能力が強化されると、力、速さ、体力などが上昇し、敵の物理攻撃に対する抵抗力も高くなった。また、魔法能力が強化されると、あらゆる種類の魔法の威力が高まり、敵の魔法攻撃に対する抵抗力も高くなった。この強化魔法を使うものを猛虎族では祈祷士(師)と呼んでいた。
そして、祈祷士の最大の特徴はシナジー効果であった。先ず、マリンカがカリンカの魔法能力を強化すると次にカリンカがマリンカの魔法能力を強化する。これを何度も繰り返すことによって二人の魔法能力は極限まで上昇した。
「では、行きますよ。」
マリンカはそう言うと、カリンカと一緒に呪文を唱え始めた。
「「我が一族を守護する偉大なる守護神バイフーの力をもって、汝らの願いを叶えん!心願成就!」」
マリンカとカリンカは手分けして、6人の回復術士に強化の魔法をかけて行った。
「おお、すごい。」
「うわさ以上だ。」
「ありがとう。これならいけそう!」
ドワーフの間から歓声が上がった。
ただし、祈祷士の極限まで上昇した能力は、数人に対して魔法を使うと元に戻ってしまうのであった。
「カリンカ、まだやれそう?」
マリンカが疲れた表情を浮かべたカリンカに尋ねた。
「もう一回ぐらいならできるかも。」
カリンカは疲れた表情に笑顔を浮かべて答えた。
マリンカとカリンカは再び互いに魔法をかけあい能力を極限まで高めていった。そして、その場にいた、ミサト、アオイ、ワイナ、サヤカにも強化の魔法をかけた。
「それじゃ私たちは坑道に戻るね。」
疲れた表情でマリンカはカリンカの手を引いて部屋から出ていった。カリンカは眠そうな表情をしていて歩くのも辛そうだった。
ドリア・ズーファ公爵の兵600人と奴隷のドワーフ1000人は炭鉱の施設への進入路までやって来た。進入路の先には大きな石垣と門扉があり、そこから中へ入ると広場があった。
監督官は馬車の中から外の景色を眺めていた。
「ようやく着いたか。一か月の辛抱だ。頑張るとするか。」
監督官がひとり呟いた。進入路を進んでいくと、門扉が開いていて、中央に顔色の悪そうな少女が一人いた。
「何者だ、あの娘は?」
監督官が見ているとその少女は突然弓を構えた。
「なに?敵襲?」
監督官は慌てて馬車から飛び降りた。
リアンは開いた門の中央に立っていた。
「パパ、ママ、お姉ちゃんの仇!人間をコロス!出でよ!暗黒ミズチ!」
リアンは闇の精霊、暗黒ミズチを召喚した。そして弓を構え思い切り引き絞ると、いつの間にか弓には緑色の矢がつがえられていた。
「今こそ思い知れ!毒霧の矢!」
ぎゅうういいいいいんんんん!
リアンが矢を放つと、矢は耳障りな音を発しながら回転し、周りに緑色の霧をまき散らして兵士たちの頭上を飛んで行った。兵士たちは矢が外れたと思って安堵したのもつかの間、霧を吸い込んだ数十人の兵士たちが苦しみだし、バタバタと倒れていった。
「あ~ははははは。苦しめ!苦しめ!苦しめ!一人残らず死に絶えよ!」
リアンは歓喜の声を上げた。後にリアンは王国軍から『復讐の毒霧 殺し矢リアン』と呼ばれ恐れられた。
そしてリアンは2発目を発射するため弓を構えた。
「敵襲だ!敵襲!」
「毒だ!霧を吸うな!」
「ダークエルフに弓を撃たせるな!一斉攻撃だ!」
ドリア公爵の兵たちはリアンの急襲に一時混乱したが、すぐに態勢を整え反撃に転じようとした。しかし、
ぼこっ!ぼこっ!ぼこっ!ぼこっ!ずる!ずる!ずるる!
進入路の両脇に不自然に盛り上がった土の中から、死んだ兵士たちが起き上がってきた。
ぼこっ!ぼこっ!ぼこっ!ぼこっ!ずる!ずる!ずるる!
「おおおえええええ!し、死体が襲ってくる、ぐふっ!」
「た、助けてくれ!」
「うろたえるな!どこかに術士がいるはずだ。術士を探して始末しろ!」
進入路の片隅に半分腐った少女の死体があった。その死体の目がギョロリと動いた。ルルナだった。兵士たちは腐った死体が操っているとは思わずに、襲ってくる死体と必死に戦いながら死霊術士を探していたが見つからなかった。そして、死体に襲われかみ殺される兵士が続出していった。
後に、ルルナは王国軍から『恐怖の腐女子 死人のルルナ』と呼ばれ恐れられた。また、ルルナとリアンは『血塗られた姉妹』と呼ばれ、その姿を見た者は死を覚悟したという。
司令塔の屋根の上からフドウとオイチが様子を見ていた。
「このままでは、ルルナとリアンの二人でやっつけてしまいそうだな。」
フドウが言うと
「本当ね。でも、兵士たちも毒霧に対応し始めたわ。」
とオイチが答えた。
「うむ、ちょっと厄介だな。」
「ここは一旦、リアンちゃんに引いてもらって、残りは私たちで始末しましょう。」
オイチの言葉にフドウも頷いた。
リアンは8発目の矢を放った。兵士たちは手拭いで鼻や口を覆っていたが、毒は目や耳、皮膚からも侵入し兵士たちを苦しめ命を奪っていった。しかし、目から血の涙を流し、苦しみながらもルルナの操る死体を蹴散らして、リアンに迫ってくる兵士の一団があった。兵士たちの後ろには魔道士の部隊がおり、兵士たちに治療魔法をかけ続けていた。
「突破したぞ!」
「ダークエルフを殺せ!」
「おおおお!」
リアンに兵士の一団が襲いかかってきた。
そこへ
「風神の刃!」
オイチの放った無数の風神の刃が兵士たちを切り刻んだ。以前は詠唱をしないと使えない大規模魔法であったが、新たに魔王グウィンの祝福を受けてからは無詠唱で発動できるようになった。
「千槍獅子奮迅!」
フドウが叫びながら一瞬の間に無数の槍を繰り出し、その場にいた魔道士たちを全員串刺しにした。この技も新たに祝福を受けてから身に付けた技であった。
「リアンちゃん、お疲れ様、後は私たちに任せて!」
オイチはリアンに声をかけた。
「リアンは司令塔の入り口でグウィン様を守ってくれ!」
フドウがそう言うと
「はい、分かりました。」
と言って、リアンは満足した表情で司令塔へ向かった。
「オイチ!行くぞ!」
「はい!」
フドウとオイチは兵士たちに突撃していった。
司令塔の一室、グウィンのベッドの周りでは、ワイナと6人の術士たちが疲れ果てて横になっていた。ミサトとアオイもグルーミングにつかれて休憩していた。
サヤカはグウィンの顔をじっと見つめていた。
(グウィン様・・・・キスしたら本当に目覚めるのかな?)
グウィンの寝顔を見つめているうちにサヤカはグウィンに無性にキスがしたくなった。
「ワイナさん、あの~キスしたら本当に目覚めちゃうかなぁ?」
サヤカはワイナに尋ねた。
「ははは、どうなんだろうねえ、分からないけどね。でも、私たちはできることは全部やったよ。後できることと言えば待つことだけなんだけどね。でも、もしサヤカちゃんがやり残したことがあると思っているのなら、やっておいた方がいいよ。結果が問題じゃないのさ。やれることをやらなかったという後悔は残したくないじゃないか。」
ワイナはそう言うと顔をそむけた。その場にいる他の面々もあらぬ方に目を向けていた。
どきっ!どきっ!どきっ!どきっ!どきっ!
サヤカは自分の心臓の音が周りの人にも聞こえているような気がした。
(みんなの前で恥ずかしい、でも、この気持ち抑えられない!)
サヤカはグウィンの頬にそっと手を置き、静かに、優しく唇を重ねた。
だが、グウィンは目覚めなかった。
「グウィン様、目覚めないのなら、目覚めるまで何百回でも何千回でも一日中でもずっとキスしちゃうんだからね!」
サヤカはきっぱりと言った。
「ま、待て!」
グウィンは目を覚ました。
「わ、私のキスがそんなに嫌なのぉ?」
サヤカは顔を真っ赤にした。
「いや、そうではない。」
グウィンの眉間の宝珠がひときわ明るく光っていた。
「絶好の機会なのだ。」
グウィンはベッドから降りて立ち上がった。
「危ない!」
サヤカはグウィンがまた倒れるのではないかと心配し、体を支えようとして思わず抱き付いた。
「サヤカ、ありがとう。それから、みんなにも礼を言う。もう大丈夫だ。後は任せておけ。」
グウィンはそう言うと、サヤカを体から離し、部屋を出ていった。
「グウィン様、お待ちください!」
サヤカは後を追いかけた。
ルルナは進入路の片隅で、自分の体を腐った死体の状態にして兵士たちの目を誤魔化しながら死体を操っていた。ルルナが操る死体は兵士たちの攻撃により手足の関節を破壊されて無力化されていったが、死んでいく兵士が大勢いたので新たな死体を見つけては利用していた。ルルナが新しい死体を探すため目をギョロリと動かしたとき、近くにいた兵士と目が合った。
「こ、こ、こいつ、怪しいぞ!目が、目が動いたぞ!」
兵士は槍を構えた。
「貴様の仕業か!この野郎!死ね!死ね!死ね!」
ずかっ!ずかっ!ずかっ!ずかっ!
兵士は何度もルルナを槍で刺した。
「へへへ、ど、どうだ、参ったか!」
兵士は無抵抗のルルナを見て勝ったと思った。しかし、ルルナはゆっくり立ち上がった。
「き、貴様、どういうことだ。死なないのか?不死身なのか?」
「不死身・・違うわ・・だって・・私は・・もう・・・死んでいるのよおおおおおおお!」
ルルナは思いきり兵士の首を絞めた。兵士は血反吐を吐いて斃れた
「こいつだ、こいつが死霊術士だ!」
ルルナの周りに兵士たちが集まってきた。
その時、ルルナを取り囲んでいた兵士の一人が、突然全身が干からびたようになり斃れた。
「グウィン様!」
ルルナが叫ぶと兵士たちもグウィンを見た。グウィンは瞬間移動のような素早さで兵士の側に行くと一瞬で精気を吸いつくした。精気を吸いつくされた兵士は生命機能を維持することができなくなり、即死した。グウィンは次から次へと兵士の精気を吸いつくしていき、バタバタと兵士が死んでいった。
大勢の兵士の精気を吸ったことにより、グウィンの身体的能力と魔法能力はさらに著しく向上した。特に魔力の容量が激増した。
「これで、死の呪文を使っても、倒れることはないだろう。と言っても、一日に何度も使えるわけでもないが。」
グウィンはそう言いながら、さらに兵士たちから精気を吸い取っていった。
一方、イチタはドリア公爵の兵士たちの後方で待機していた1000人のドワーフのところにいた。
「9代目魔王様の親衛隊、イチタと言います。今から皆さんの鎖を外します。」
そう言って。イチタはドワーフの両手を縛っている鎖をほどき、ドワーフを自由に動けるようにしていた。兵士たちに見つからないように隠れながら行っていたが、600人いた兵士が残り100人程度になったとき、全員の鎖がほどけた。
「おい、野郎ども!魔王様への手土産に残っている連中をやっちまおうぜ!」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
1000人のドワーフが背後から兵士たちを襲い、ドリア公爵の兵は全滅した。
だがこの時、一人の兵士が離脱して逃げていったことにイチタは気が付かなかった。




