第15話 逃走!and 闘争!
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
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気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第15話 逃走!and 闘争!
ドリア公爵の息子のアンドル・ズーファは、サロンの女性獣人5名と屋敷から連れ出した4名の子供の獣人を馬車に乗せ、周りを10人の手勢で取り囲み、炭鉱へ向かっていた。一緒に炭鉱へ向かっていたのは交代要員の監督官と兵士600人、そして炭鉱で採掘した石炭を運ぶための奴隷ドワーフ1000人だった。そして石炭を運ぶため多数の荷馬車を引き連れていた。
明日には炭鉱に到着する地点まで到着し、アンドルは獣人たちを皆殺しにするタイミングを見計らっていた。その夜、アンドルは監督官のテントへ行った。
「夜分すまんな。」
「これはアンドル様、どうなさいましたか?」
監督官は突然のアンドルの来訪に驚いた。
「うむ、これから獣人どもが脱走する。そして、我々はそれを追いかけて一人残らず処刑し、馬車ごと全員を焼き払う予定だ。その後炭鉱へ行く。炭鉱で会おう。」
「承知いたしました。それでは、『アンドル様は獣人が脱走したので追いかけて処刑した』と記録しておきましょう。」
「そう言うことだ。では後のことは頼んだぞ!」
アンドルはそう言うと監督官のテントを出ていった。
アンドルは10人の配下と一緒に馬車を人目につかない茂みの中に移動した。
「先ずは女どもを馬車から降ろせ。」
アンドルの命令で、サロンで働いていた女性獣人5名が引きずり出された。全員の両手が鎖に縛られていた。
「あんた!あたしたちをどうするつもりなんだい!」
アオイがアンドルを睨みつけて言った。
「ふん、はじめに言っておくが、お前たちの魔法は効かないぜ。ここにいる魔道士の先生が俺たち全員にマジックシールドを張っているからな。」
アンドルの配下の一人は魔道士だった。
「お前たちはこれから全員仲良く天国に行くんだ。心配するな。苦しまずに済むように一気に息の根を止めてやる。俺ってなんていい人なんだ。い~ひっひっひっひっ!」
アンドルが下卑た笑い声をあげると周りの配下からも笑いが起こった。
「ま、まさか子供たちまで殺すの?止めて!子供たちだけは助けて!」
アオイは大声で叫んだ。
「だ・め・だ!恨むのなら獣人に生まれたことを恨むんだな!今度は人間に生まれることができるように神様に祈ってやるよ!俺ってなんて慈悲深いんだ!い~ひっひっひっひっ!」
「チクショウ、何でなのさ!何で急に殺すことになっちまったのさ!ちゃんと言う事を聞いて来たのに!しかも子供たちまで!」
「ふん!それじゃ、冥途の土産に教えてやるか!いいか、よく聞け!お前が誑し込んだオネスト侯爵はな、国王の娘の婚約者だったんだ。そのオネストが獣人と関係を持っているということが国王にばれて、国王が大激怒したってわけだ。それで俺のおやじにサロンにいる獣人を皆殺しにしろと命令が下ったのさ。俺たちも陛下の命令に逆らう訳にはいかないからな。諦めて殺されるんだな。」
「侯爵のことだってドリア公爵から命令されてやったのに、そんな話があるか!」
「何を言っても無駄だ!君命には逆らえないんでな!」
アンドルは腰に差していた剣を抜いた。
「チクショウ!チクショウ!チクショウ!チクショウ!」
アオイは激しい怒りで滅茶苦茶に暴れ始めた。
「ははははは、馬鹿な女だ!どんなに暴れてもその鎖はほどけやし・な・・い?」
アンドルは余裕で笑っていたが、その時アオイの両腕が鎖から外れた。猫又族の体はとても柔らかく関節の可動域も大きいため、滅茶苦茶に暴れているうちに何かの拍子に外れてしまったのだ。
その様子を見ていた猛虎族の女性がすかさず強化魔法の呪文を唱え始めた。そしてアオイに魔法をかけた。
「アオイさん!逃げて!」
猛虎族の女性が叫ぶとアオイは我に返り
「マリンカ!ありがとおおおおぉぉぉぉ!」
と叫びながら猛烈な勢いで疾風が駆け抜けていったかのように一気に走り去っていった。あまりの早さにその場にいた全員が一瞬唖然としてしまったがアンドルが気を取り直した。
「お、追え!逃がすな!」
「こいつらはどうしますか?」
配下の一人がアンドルに尋ねた。
「魔道士の先生!こいつらを見張っていてください。後は全員アオイを追え!見つけ次第殺せ!」
アンドルが叫ぶとマリンカが大声で笑った。
「あははははははは、愉快ですね!公爵様ご自慢の息子は女一人まともに殺せない腰抜けですね!」
「黙れ!」
ぐっさ!
アンドルはマリンカの胸に深々と剣を刺した。
「ぐはっ!」
マリンカが口から血を吐き倒れた。
「くっそー、余計な手間取らせやがって!行くぞ!追え!絶対逃がすなよ!」
アンドルはマリンカを足で蹴飛ばして剣を引き抜くと、大急ぎで馬に乗り、アオイを追いかけていった。
(アオイさんだけでも逃げて!逃げて!逃げて・・・・)
マリンカは遠ざかる意識の中でアオイの無事を祈った。
「マリンカ!大丈夫かい!」
「しっかりするんだ!死ぬんじゃないよ!」
他の獣人の女性がマリンカのもとに集まってきた。
「そこの魔道士の先生様よ!あんた、治療の魔法とか使えるんだろ!頼むよ!マリンカを助けておくれよ!」
猫又の女性が一人残った魔道士に話し始めた。
「ふん、どうせアンドル様が戻ってくればお前たちは全員殺されるんだ。今さら助けたって意味ねえだろう。」
魔道士が面倒くさそうに言った。
「そうだけどさ、苦しんでいるのを見ちゃいられないんだよ。すぐに殺されるのはわかっているけどさ、ちょっとの間だけでもいいから治療しておくれよ。お願いだよ。お願いします。頼みます。」
猫又の女性が頭を地面に擦り付けて魔道士に哀願した。
すると、馬車から4人の子供たちが降りてきた。子供たちも両手を鎖で縛られていた。子供たちは魔道士の周りに集まってきて泣きながら助けを求めた。
「えーん!えーん!お姉ちゃんを助けて!」
「助けてください!お願いします!」
「助けてください!助けてください!」
「お願いです!助けて!助けて!助けて!」
「えええい、うるさい!分かったよ!ちょっとだけだぞ!」
魔道士は子供たちの泣き声に負けて、マリンカに治療魔法をかけ始めた。
「けほっ!けほっ!けほっ!」
マリンカは咳をしながら血を吐いた。
「俺の力ではここまでだな。これ以上は無理だ。」
と、魔道士が言うと、
「私、強化の魔法が使えるから、魔道士様にかけてあげられるよ。そうすれば治療の魔法も、も~っと強力になるよ。魔法かけていい?」
と、猛虎族の女の子が言った。
「そ、そうか。分かった。やってみろ!」
「でも、マジックシールドが邪魔なの。解除してくれる?」
魔道士はそう言われて、マジックシールドを解除した。
猛虎族の女の子が魔道士に強化の魔法をかけている間に、猫又の女性がこっそり魅了の魔法をかけた。
(助けて!助けて!助けて!)
グウィンは目を覚ました。
「誰かが助けを呼んでいる。」
そう言うと、グウィンは立ち上がろうとしたが体がふらついた。
「グウィン様、危ない!」
サヤカがすかさずグウィンの体を抱きしめて倒れないように支えた。
「馬を用意しろ。今から出かける!」
「そのお体で無理をなさっては・・・もう少しゆっくりお休みになられてはいかがですか?」
出かけようとしているグウィンをミサトは何とかなだめようとした。
「だめだ、急がないと間に合わない。」
「グウィン様、私が一緒に行ってもいいかなぁ?馬の扱いは私に任せて!」
グウィンの固い意志を感じたサヤカは、止めても無駄だと思い、同行を申し出た。
「そうか、頼む!すぐに用意をしてくれ!」
サヤカはグウィンの体を支えながら外へ出ていった。
「さて、私たちもこうしちゃいられないね。どうします?ミサトさん。」
とワイナが尋ねた。
「早くフドウさんたちに伝えましょう。ルルナさんとリアンさんはお留守番をしてもらえますか。」
そう言うとミサトはワイナと一緒の外に出て、フドウ、オイチ、イチタを呼んだ。そしてグウィンとサヤカが出かけていったことを伝えて、後を追うように頼んだ。
「はぁはぁはぁはぁはぁぁ、これ以上走れない。少し休まないと。」
アオイはマリンカの強化魔法のおかげで身体的能力が大きく向上し、ここまで猛スピードで逃げることができた。だが、ここへきて体力の限界を超えてしまったせいか、脚ががくがく震えはじめ走れなくなってきた。やむを得ず木の陰に隠れて息を整えていると、遠くから馬の鳴き声や人の声が聞こえてきた。アオイは耳をぴくぴく動かし声の方向を確認すると再び走る準備を始めた。
「動いてくれよ!」
アオイは脚をポンポンたたきながら立ち上がり走り始めた。どこに向かって走っているのか自分でも分からなかったが、とにかくアンドルたちから離れることだけを考えて走っていた。
「はぁはぁはぁはぁ、せっかくマリンカが助けてくれたんだ!死んでたまるか!」
アオイが疲れ果ててよろよろと歩いていると、後ろから矢が飛んできてアオイの足を貫いた。アオイはうめき声をあげて地面に倒れた。
「うははは、見つけたぜ!ここだ!ここにいるぞ!」
アンドルの配下の兵士がアオイを見つけ声を上げた。
「見つけ次第殺せという命令だからな、遠慮なくいかせてもらうぜ!おりゃ!」
兵士がアオイめがけて次から次へ矢を射掛けた。
ずぶっ!ずぶっ!ずぶっ!
矢がアオイの体に突き刺さった。
「嫌だ!こんなところで死にたくない。助けて!助けて!・・・おかあさん!」
アオイは地面にうつ伏せになりながらも必死で逃げようと体を動かした。
「ははは、往生際が悪いぜ。それもこれでおしまいだ。」
兵士が弓を大きく引き絞ってアオイの頭部に狙いを定めていると、地面に突然三匹の大蛇が現れ、兵士に向かってきた。
「うううわあああ!」
兵士は驚き大蛇に矢を射掛けたが矢はすり抜けてしまい、まったく効果がなかった。
三匹の大蛇のうち、一匹は腕に噛みつき、もう一匹は脚に噛みつき、三匹目は首に巻き付いた。
兵士は血を流しながら窒息死した。
「大丈夫か?しっかりしろ!」
グウィンは馬を飛び降り、アオイを抱きかかえた。
「た、助けて・・・」
「俺に忠誠を誓うと約束すれば、助けてやるがどうする?」
「あ、あなたは?」
「俺はグウィン。8代目魔王の後継者にして9代目魔王だ。」
「魔王様の・・・魔王様の一族の方が・・生きていたんですね・・・良かった。」
「魔王の祝福を授ければお前は助かるが、その代わり一生俺に忠誠を尽くさなければならなくなるがそれでも良いか!」
「うれしい・・喜んで!」
アオイがそう答えると、グウィンはアオイに祝福を授けた。アオイの体から矢が自然と抜け、傷がふさがり、体つきもひと回り大きくなった。
「グウィン様、私の名はアオイです。よろしくお願いいたします。」
アオイはグウィンの前に跪いて頭を下げた。
「アオイ?アオイと言ったのか?」
グウィンはミサトの言葉を思い出した。
「はい。それが何か?」
「お前、ミサトを知っているか?」
「わ、私の母です。母をご存知なんですか?」
「ああ、毎日グルーミングをしてもらっている。」
「おかあさんが・・・グウィン様、私も母と一緒に毎日グルーミングをさせていただきます。ですがその前に・・・人間どもをぶち殺してきてもいいでしょうか!」
アオイの目に怒りの炎が燃え滾っていた。
「ああ、思う存分暴れて来い!」
グウィンの話しが終わる間もなくアオイは飛び出していった。
グウィンとアオイが話をしている間、サヤカは幻術でアンドルの配下と戦っていた。
妖狐族は幻術(幻覚魔法)が得意な種族で、幻術を使えるものは幻術士(師)と呼ばれていた。幻術では幻視、幻聴、幻嗅、幻味、幻肢、幻痛を相手に感じさせることができた。先ほどサヤカが見せた大蛇も幻覚であった。実際には存在しない大蛇であるが、幻覚によって噛まれると体が反応し、噛まれた跡が現れ、そこから実際に出血し、激しい痛みに襲われた。また、大蛇に巻き付かれ首を絞められるという幻覚を見せると、実際に首に絞められた跡ができ呼吸ができなくなって窒息死した。
アンドルとその配下は魔道士のマジックシールドで守られていたが、一般の魔道士一人の力では魔王の祝福を受けたサヤカの魔力の前になすすべがなかった。
「ぎゃああああああ!」
アンドルの配下がまた一人サヤカの幻覚によって体から血を流しながら窒息死した。
「ふう、3人目!まだいるのかなぁ?出ておいで!」
サヤカがそう言うと、暗闇の中からアンドルが現れた。
「き、貴様、何者だ!」
アンドルは剣を構えながらサヤカに言った。
「私?私はサヤカだよぉ。」
「ふ、ふざけるな!」
アンドルは虚勢を張ってみたものの、全身から脂汗が流れていた。そこへフドウとオイチが現れた。
「お前の仲間は何人いるんだ!」
フドウはそう言いながら手に持っていたものをアンドルの前に投げた。オイチもまた同様に手に持っているものを投げた。アンドルの前には配下の首が6つ転がってきた。
「ひ、ひいいいいい!ま、待ってくれ、お前たちは誰なんだ!俺はお前たちの敵じゃない、そう、敵じゃないんだ。」
アンドルは何とかこの場から逃げ出す方法を考えていた。
そこへアオイが現れた。
「敵じゃないだって!散々あたしたちを食い物にしておいて都合が悪くなったら殺そうとしたくせに!あんたたちのせいで、これまで何人の仲間が殺されたと思っているんだ!」
アオイはそう言って手に持っていたものをアンドルの前に投げた。アンドルの前には配下の首がまた一つ追加された。
アオイの激しい形相にアンドルはあとずさりしはじめたが、突然全身の力が抜けたかのように地面に腰を下ろしてしまった。アオイの魅了で意識が朦朧となったアンドルはペラペラとしゃべりだした。魔王の祝福を受けたアオイの魔力の前ではアンドルにかけられたマジックシールドは無意味だった。
「私はドリア・ズーファ公爵の息子でアンドル・ズーファと言います。私は10人の配下と共にサロンの獣人や子供たちを殺すためにやってきました。私たちはこれから炭鉱へ向かいます。明日、炭鉱には600人の兵士と1000人のドワーフが到着します。私たちは炭鉱で合流します。」
「なるほど、そう言うことか。」
サヤカに支えられてグウィンが姿を現した。
「アオイ、その男はお前にくれてやる。好きにしろ!」
「ありがとうございます。」
アオイはアンドルの剣を奪い取るとアンドルを滅多斬りにした。
「このやろう!このやろう!このやろう!チクショウ!チクショウ!チクショウ!はぁはぁはぁはぁ」
アオイの目には涙が浮かんでいた。
「とどめだ!」
そう言うとアオイは剣をアンドルの胸に深々と突き刺した。グウィンは最後まで見届けた後、アンドルに近づき剣を抜いてアオイに手渡した。
「よくやった。この剣は褒美だ。受け取れ!」
「あ、ありがとうございます。」
アオイはグウィンから剣を恭しく受け取った。
ちょうどその時、ハクに乗って周囲を偵察していたイチタがグウィンの前に下りてきた。
「グウィン様!ご報告があります。この近くを馬車が走っていますが、その馬車には獣人の女性4人と獣人の子供が4人乗っていました。いかがいたしましょうか。」
「グウィン様、その馬車は私の仲間が乗っている馬車です。どうかお助け下さい。」
イチタの話を聞いていたアオイが思わずグウィンに懇願した。
「うむ。イチタ、その馬車をここまで誘導できるか?」
「承知いたしました。」
そう言うとイチタはハクに乗って飛び立っていった。
「よし、今すぐ戻って迎え撃つ準備を・・す・・」
グウィンは意識が薄れ、また倒れてしまった。
オイチとサヤカとアオイの3人でグウィンを介抱し、フドウが周囲を警戒していると、イチタが乗ったハクと馬車がやって来た。イチタはフドウの前へ飛び降りた。
「フドウさん、馬車を案内してきました。グウィン様はどちらに?」
「また、意識を失ってしまったようだ。オイチたちが介抱している。」
フドウはそう言うと馬車の中の様子を調べ始めた。そして、異常がないことを確認すると、馬車をグウィンのいるところまで誘導してきた。そこへアオイが走ってやって来た。
「みんな~無事だった!大丈夫?」
アオイが声をかけると、馬車から全員が降りてきてアオイと抱き合って無事を喜び合った。
「ところで、魔道士はどうしたの?」
アオイが尋ねると
「うん、魅了をかけてマリンカの治療をさせていたんだけど、だいぶ良くなったから解放したんだよ。その後ふらふらとどこかへ行っちゃったみたいだけど、後はわからない。」
猫又の女性が答えた。
「魔道士か、そう言えば先ほど一人首をはねたな。」
側で話を聞いていたフドウが思い出したように言った。
「ぷぷぷ、もう死んでいたんだ。ところでみんなにお願いがあるんだけど、グウィン様を馬車に乗せて炭鉱まで運びたいの。協力してくれる?」
アオイの呼び掛けに応じて、全員でグウィンを馬車に乗せて炭鉱へ向かっていった。




