第13話 王都 その4
ご覧いただきありがとうございます。
作品中に残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第13話 王都 その4
オネスト・ヨーデル侯爵は今日も王宮の庭園でメーディア王女と会っていたが、心ここにあらずという表情だった。
「先日お話しした乗馬の件ですが、いかがいたしましょうか?」
メーディアが尋ねてもオネスト侯爵は無言で考え事をしているようだった。
「お嫌でしたら、無理にお誘いはしませんわ。・・・そ、そういえば今日の午後ですが、法王様のお話会があるのです。良かったらご一緒に行きませんか?毎回、とっても素晴らしいお話で・・・その・・・オネスト様?」
メーディアは会話のきっかけをつかもうと話始めたが、オネストの耳には入らなかった。
「・・・アオイ・・」
思わずオネスト侯爵の口からアオイの名前が漏れた。
「え?あおい?どうかなさいましたか?」
「い、いえ・・そ、空が青くてきれいですね・・ははは・・すみません。今日は体調がすぐれませんので、し、失礼いたします。」
オネストはアオイのことが頭から離れず、思わず口から出てしまったことに慌てて、そのままそそくさと立ち去っていった。メーディアは曇っている空を眺めながらため息をついた。
オネストは今日もアオイの部屋に来ていた。最近は公務も疎かになり、アオイの部屋に入り浸りという感じであった。オネストにかけられた魅了の魔法はとっくに消えていたが、オネストは自分の心に湧き上がったアオイへの思いは真実だと思っていた。そして恋に恋するようにアオイとの恋愛に溺れていった。そして頻繁に獣人のサロンに出入りするオネスト侯爵の姿は周囲の人々から目撃されるようになり噂が広がっていった。
メーディアは母のイデュア王妃と一緒に法王のお話会に参加するために大神殿へきていた。メーディアたちは王族専用のボックスの中で話を聞いていた。
法王は中肉中背で身長も人並みであったが、非常に存在感のある人物でただならぬ雰囲気を感じさせた。法王は法衣を着て頭には宝冠をかぶっていた。法王の座に就いたのは5代目魔王討伐の頃で、すでに60年以上たっていた。かなりの高齢のはずだったが若々しく見えた。
「人間は神が創った最も偉大な生物なのです。他の亜人や獣人とは違うのです。この世界は人間が統治してこそ豊かで平和ですべての人々が幸福になれるのです。まさに神の国がこの地上に出現するのです。そういう世界が実現すると、皆さんは、生きている時は地上の神の国で幸せに暮らし、死んだあとも天国と言う神の国で永遠に幸せに暮らすことができるのです。これほど素晴らしいことはないのです。だが、最近一部のエルフ族の中に、エルフのほうが人間より高等な生き物だ、などと言う邪説がはびこってきました。彼らは妖しげな神を信じ、森の中で自然と一体となって自堕落な生活をしています。いずれは彼らの邪説を打ち破らなければなりません。エルフの森には多くの資源があります。邪神を信じる彼らはその資源を活用する術を知りません。我々人間がエルフの森を支配し、資源を活用すれば、より多くの富が産まれ、人々の暮らしはより豊かになり、大勢の人々が幸せになれるのです。」
法王は水を一口飲んで話を続けた。
「ところで、勇者たちは8代目魔王を倒し、現在は猪豚族を制圧するために出陣しています。その後は猛虎族、牙狼族と制圧していくことでしょう。勇者たちの活躍は本当に素晴らしいものです。その勇者の全員が『法王神衛隊』の出身なのです。私が『法王神衛隊』を作り育てているのは、人間の世界を守り、皆さん方の幸せのためなのです。ですが、『法王神衛隊』を維持するには莫大なお金がかかります。どうか皆様の真心からのご寄付をお願いいたします。」
この時、法王の目が怪しく光った。すると、参加していた人々が全員大きく頷いていた。
法王のお話会が終わり、メーディアたちは神殿をでて、迎えの馬車を待っていると
「ええ、オネスト侯爵が?」
「まさか、信じられませんわ。」
「それがそのまさかなのよ。毎日、獣人サロンに入りびたりだって・・・」
お話会に参加していた貴族の婦人たちの会話が聞こえてきた。
メーディアは動揺し、イデュア王妃の顔を見たが、王妃は何も言わず平然としていた。
数日後
「はあぁぁぁ、私には魅力がないのかな。やはり男の人は大きい胸が好みなのでしょうか?アンコはどう思いますか?」
メーディアは控えめに盛り上がった胸を鏡でチェックしながら侍女のアンコに話しかけた。
「そんなことはありません。姫様はとってもお美しく魅力的です。お胸の方だって殿方にもいろいろと好みがあると聞いております。大きければ良いというものでもないようでございますよ。それに、姫様は成長するお年頃ですのでご心配には及びません。必ず立派なお胸になります。このアンコが保証いたします。」
「アンコに保証されてもねー、でも、ありがとう。」
そこへもう一人の侍女が走って飛び込んでいた。
「姫様、大変です。大変なことになりました。」
「ノンコ、どうしたのですか?」
メーディアは慌てふためいているノンコに問い質した。
「それが、オネスト様が獣姦罪で陛下から呼び出され、査問を受けていらっしゃるとのことです。」
「オネスト様が獣姦?まさか、そんな。」
メーディアは気が動転し、部屋を飛び出して走り始めた。
「「姫様!お待ちください!」」
二人の侍女はメーディアの後を追った。
アイエス・ヘリオス国王は険しい表情でオネスト・ヨーデル侯爵を睨みつけていた。
部屋の中には多数の兵士たちがおり、オネスト侯爵を取り囲んでいた。
「オネスト侯爵、メーディアと付き合っていながら獣人にうつつを抜かすとは信じられん。よくも我が王家に恥をかかせてくれたな。獣姦は犯罪だということをよもや忘れたわけではあるまい!一体全体どういうつもりだ!よくよく見そこなったぞ!」
アイエス国王は厳しい口調で問い質した。
「陛下、そ、その、わ、私は陛下の秘密指令を受けまして、せ、潜入捜査をしていたわけでありまして・・・」
オネスト侯爵はアイエス国王の激しい剣幕にしどろもどろであった。
「秘密指令?何の話だ!口から出まかせを言うな。獣人の体にちん入した捜査報告など聞きたくもないわ!この痴れ者が!」
国王の怒りが収まる様子はなかった。オネスト侯爵は自分がドリア・ズーファ公爵に騙されたことに気が付いたが、後の祭りであった。
「オネスト侯爵に一度だけチャンスを与えよう。今すぐ領地へ戻り猛虎族と戦うがよい。戦果をあげれば今回の件は目をつむってやる。もし、十分な戦果を挙げることができなければ、ヨーデル家の領地は全て没収し貴族の地位を剥奪するから覚悟しておくがよい。話は以上だ。もう顔も見たくない。今すぐ出ていけ!」
国王は吐き捨てるように言った。オネスト侯爵は深々と頭を下げよろよろとした足取りで部屋を出ていった。
オネスト侯爵が出ていくのを確認した後、
「ドリア・ズーファ公爵を呼べ。」
と、国王は側近に命じた。
オネスト侯爵が部屋を出ると、メーディア王女が侍女に体を支えられ涙を流しながら侯爵を見つめていた。オネスト侯爵は顔を背け足早に王宮を去っていった。
「ねえ、アンコ、ノンコ、私って、獣人より魅力無いの?ねえ、猫耳じゃないからダメなの?ねえ、尻尾がないからダメなの?私って胸が足りないだけじゃなかったのね。何もかも足りなかったのねえええ!」
メーディアは全身がワナワナと震え出した。
「姫様!お気を確かに!」
「おいたわしや!」
アンコとノンコはメーディアの体を両側から支えて部屋へ連れて行こうとした。
「いやあ!止めて!もう、いやあああああああ!」
大声で暴れはじめたメーディアの前にイデュア王妃が現れた。
パシン!
イデュア王妃はメーディアの頬を叩いた。
「お、お母様?」
「いったい何の騒ぎですか!みっともない!あんな男のことは忘れなさい。あなたには、もっと素晴らしい運命の男性がいるのよ。あの男は運命の相手ではなかっただけのことです。」
「お母様あああああ!」
メーディアは母の胸で泣いた。
しばらくして、ドリア・ズーファ公爵が国王の前に姿を現した。
「陛下、遅くなって申し訳ありませんでした。緊急のお呼びだそうでどのようなご用件でしょうか。」
ドリア公爵が恭しくお辞儀をした。
「結論から言う。獣人のサロンの件だ。即刻閉鎖せよ。」
「い、いったい何のことでしょうか?」
ドリア公爵はしらを切って胡麻化そうとした。
「知らないというのであれば、今すぐ兵を送り全員捕らえて調べるが良いのだな?もしもその時にそなたの名前が出てきたらただでは済まないからな!今から覚悟しておけ!」
国王はドリア公爵を睨みつけた。その目は本気だった。
「ひいいい、お許しください!陛下!申し訳ありませんでした!おっしゃるとおり直ちに閉鎖いたします。」
ドリア公爵はその場にひれ伏して謝罪した。
「今まで大目に見てきたが、王家に恥をかかされたとあっては見逃すわけにはいかん!ましてやこれから獣人どもと激しい戦いが待っているのだ。放置しておいては王国民に示しがつかない!そこにいる獣人どもは全て斬り捨てよ!」
国王は厳しい口調で言った。
「はい、承知いたしました。しかし、獣人とはいえ民間人を理由もなくいきなり斬り捨てるのはいかがかと・・・」
ドリア公爵は恐る恐る答えた。
「頭を使え!そこにいる獣人は全て炭鉱に連れていくのだ。途中で脱走しようとしたから斬ったことにすればよい。出来ぬというのなら炭鉱は没収だ!」
「ひいいいい、お、お待ちください!そればかりはお許しください!か、か、必ずご命令のとおりにいたします。」
ドリア公爵はそう言うと、ほうほうの体で帰っていった。
ドリア公爵は屋敷で息子のアンドル・ズーファに王宮での出来事について話をした。事の顛末を聞いたアンドルが冷ややかな目でドリア公爵を見つめた。
「おやじ!獣人遊びはもう潮時だ!スパッと止めないと公爵家はマジでお取り潰しになっちまうぜ!いい加減にしてくれよ!」
アンドルは呆れ果てた口調で言った。
「分かった。お前に言われるまでもない。それにしても陛下のお怒りはただ事ではなかった。本当に肝を冷やしたわい。そこでだ。サロンの獣人は一人も残さず殺さなければならない。明後日だが、採掘した石炭を回収するために兵士と奴隷を炭鉱に出発させる予定だ。その時に一緒に連れて行って始末すればよいのだが、間違いのないようにしなくてはならない。お前が行ってやってくれるか?」
ドリア公爵はアンドルに言った。
「ああ、もちろんやってもいいが、一つ条件がある。それは、この屋敷にいる獣人の子供も全員一緒に連れて行って始末することだ。陛下にばれてからでは手遅れだ!嫌とは言わせねえぜ!」
アンドルの強硬な態度にドリア公爵も反対できなかった。
「わ、分かった。お前に任せる。ただ、別に言い訳をするつもりではないが、わしが獣人の子供たちを集めたのは、単なるスケベ心だけではないのだ。その、獣人の魔法を研究する目的もあったのだ。信じてはもらえないだろうが・・・」
「今さら、それがどうしたんだよ!」
「それゆえ、魔法能力の高い子供を集めている。サロンの女性もそうだ。油断はするなよ。」
「心配ねえよ!」
アンドルは面倒くさそうに答えた。




