第11話 王都 その3
残酷な描写が出てきます。苦手な方はご遠慮ください。
気づいたときに、誤字脱字の修正、言い回しの修正、言葉足らずな部分の加筆などを行っています。
基本的なストーリーの変更はありません。
第11話 王都 その3
オネスト侯爵は国王たちとの昼食会に参加した後、庭園でメーディア王女と2人で話をしていた。今日で2回目であった。
庭園には椅子とテーブルが置かれており、紅茶とケーキが出されていた。
「オネスト様はどのような料理がお好きなのですか?今度ご用意させますわ。」
メーディアは下から覗き込むようにオネストを見つめた。メーディアの目は嬉しそうにキラキラしていた。
「私は、その、特に好き嫌いはありませんので、大丈夫です。と、ところで、メーディア様はどのようなご趣味をお持ちなのですか?」
オネスト侯爵はこういう時に何から話を切り出したら良いのか分からなかったが、取り敢えず昨晩考えた質問をしてみた。
「私のことは、ディアって呼んで下さっても良いのですよ、ふふふ。私の趣味ですか・・・最近は乗馬が好きで楽しんでいます。馬に乗って駆け抜けるととっても気持ちがいいです。」
「デ、ディアは思ったより活発なのですね。」
「オネスト様も乗馬はなさいますか?」
「私の場合は趣味と言うよりは、馬を使った調練を行っています。戦で馬を使いますので。」
「もし、お時間があるときに、一緒に乗馬をしてみませんか?」
「た、楽しそうですね。よろしくお願いします。」
「はい。私も楽しみにしています。」
メーディアは嬉しそうにケーキを食べ始めた。
2人の様子を国王と王妃がそっと眺めていた。
「うまくいきそうか。」
「今日で2回目ですからまだ分かりませんわ。焦らないで見守っていましょう。余計な口出しをすると、まとまる話もまとまりませんわよ。」
王妃はそう言って国王の腕をとり王宮の中へ入っていった。
一時間ほどしてからオネスト侯爵は退席し、王宮から出ようとすると呼び止める声があった。
「オネスト侯爵!お久しぶりですな。」
声の主はドリア・ズーファ公爵であった。
「これはドリア様、こちらこそご無沙汰して申し訳ありませんでした。」
オネスト侯爵は丁寧にお辞儀をした。
「そんなに他人行儀になさらずとも良い。実は少し相談したいことがあるのだが。わしの馬車で話をしよう。」
ドリア公爵は周りの様子を窺いながらオネスト侯爵を馬車に乗りこませた。
「実は獣人と性的な行為ができるサロンがあるのだが・・・」
ドリア公爵は小声で話し始めた。
「獣人と・・・獣姦は犯罪ではありませんか?」
オネスト侯爵は驚いて聞き返した。
「もちろん、王宮には内緒で隠れて経営をしているのだが、いつまでも見逃すわけにはいかないと思っている。」
「もちろんです。」
「そこでだ。陛下の信頼の厚いオネスト侯爵にぜひ潜入調査を依頼したい。」
ドリア公爵の言葉にオネスト侯爵も驚いた。
「私がですか?」
「今から言うことは絶対に他言無用でお願いしたい。このサロンのバックにいる人物なのだが、法王だという情報がある。」
「法王様が?まさか?」
「そのまさかなのだ。あの法王は欲が深くとんだ食わせ物だ。陛下もいたく心を痛めておられる。なんとしても証拠をつかみ法王には退座していただくつもりだ。是非ともオネスト侯爵の力をお借りしたい。」
「潜入調査とは何をすれば良いのですか。」
「なに、簡単なことよ。サロンの中で獣人たちの話を聞いてもらえばよいのだ。どのような経緯でここにいるのか、サロンに出入りしている人物は誰なのか、などだ。複数の貴族が絡んでいるようなのでなかなか捜査の手が入らないのだ。この件は陛下からの内密の指令でもある。」
ドリア公爵はオネスト侯爵の目をじっと見つめながら真剣な面持ちで語った。
「陛下からの・・・かしこまりました。必ず法王の尻尾をつかんで見せます。」
「うむ、よく言った。さすが陛下が期待する青年だ。間もなく到着する。サロンについたら『王様の耳は猫の耳』と言え。合言葉だそうだ。では頼んだぞ。」
オネスト侯爵がドリア公爵の馬車から降りるとあたりはすっかり薄暗くなっていた。
オネスト侯爵は辺りを見回し人目につかないよう注意しながらサロンのある建物の中へ入っていった。建物の中は窓のない密閉された部屋で、中央が通路になっており、両側に古びた椅子が並べられていた。中には細身の男性が一人いた。
「どういうご用件でしょうか?」
男は侯爵に尋ねてきた。
「うむ・・王様の耳は猫の耳。」
侯爵は合言葉を言うと、
「ようこそ、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
そう言いながら、男は部屋の奥の分厚い扉を開けた。
「こちらです。どうぞお入りください。」
男に言われるまま中に入ると、ドアが閉められた。
部屋の中は右手にバーカウンターがありバーテンダーがいた。左手には椅子とテーブルがあり獣人の女性が思い思いの席に座って侯爵に注目していた。客は侯爵以外誰もいなかった。
「お客さん、初めてですか?お飲み物はどういたしますか?」
バーテンダーが尋ねてきた。
「そうだな。軽い飲み物をもらおうか。」
侯爵はそう言いながら、バーカウンターの椅子に腰を下ろした。
「お兄さん、イケメンだね。ここは初めてかい。私がいろいろ教えてあげるよ」
妖狐族の女性が近づいてきて、侯爵に話しかけてきた。
「何を言ってるんだい。あたいのほうがモフモフで気持ちいいよ。」
猫又族の女性も近づいてきて、侯爵の肩に腕を回してきた。
「はい、どうぞ。お飲み物です。好きな女性を一人選んでください。お金を出していただければ、2人でも3人でも構いませんがね。へへへ。」
バーテンダーは薄笑いを浮かべた。
侯爵が部屋を見回すと、他に3名の女性がいたが、一番奥にいてうつむいている女性に目が留まった。オネスト侯爵はどうしてもこの女性のことが気になり近づいていった。2人の女性は舌打ちして椅子に戻った。
侯爵は女性の前に座り顔を覗き込むと、人間でいえば18歳くらいに見えた。そこへバーテンダーがやってきて
「この子でお決まりですか?それではこちらにどうぞ。」
と言って、2人を上の階へ連れて行った。そこには左右にいくつもの部屋があった。
「それではこちらの部屋をお使いください。」
バーテンダーはそう言って2人を部屋の中に案内して飲み物を置くと出ていった。
部屋には3人掛けのソファーとテーブルとダブルベッドがあり、奥にはトイレとバスルームがあった。
「少し話をしようか。」
侯爵はそう言ってソファーに腰を下ろすと女性にも勧めた。
「あ、ありがとうございます。」
女性はそう言って隣に腰を下ろした。
「君の名前は?」
「私は、アオイと言います。あなた様は何とお呼びすれば・・」
「僕のことは・・・そうだな、『お兄さん』でいいよ。」
「お兄さんですか・・・それでは『お兄様』と呼ばせていただきます。」
アオイは少し笑った。
「アオイはどうしてこんな場所にいるのかな?」
オネスト侯爵はできるだけ優しく話しかけたつもりだったが、アオイの表情が固まった。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」
オネスト侯爵はできるだけ明るく振舞おうとした。
「私がなぜここにいるのか?ですか?それをあなた方人間が訊くのですか?私だってこんなところにいたくているわけじゃない!」
アオイは全身が震えだした。
「あ、うん。言いたくなければ無理に言わなくてもいいよ。ただ、もし僕にできることがあれば力になりたいと思っただけで・・」
「私は7年前、父や母と一緒に平和に暮らしていました。ある日突然王国軍が攻めてきて、逃げる途中私は両親とはぐれてしまい、王国軍に捕まってしまいました。そして私はあるお屋敷に連れていかれました。そこには神様がいました。」
「神様?」
「そこのお屋敷の主は、私たちに自分のこと神様と呼ばせていました。」
「私たち?何人いたの?」
「私の他に男の子が2人、女の子が3人です。みんな私よりずっと年下で小さな子供でした。私は一番年上でその子たちの面倒を見るために連れてこられました。」
「そうか。そこでアオイは性的虐待を受けていたのだね。」
「違います。性的虐待を受けていたのは小さな子供たちです。男の子も女の子も。みんなひどい目にあっていました。神様は小さな子が好きみたいで私には何もしませんでしたが、気に食わないことがあると私を何度も何度も鞭で打ちました。」
アオイの表情は恐怖と苦痛で固まり、全身はワナワナと震えていた。
「あるとき妖狐族の男の子が神様に幻術をかけようとしました。神様には強力なマジックシールドは張ってあり効果ありませんでした。神様は怒って、その男の子を私たちの目の前で切り刻んで殺してしまいました。ううううっうっうっ。」
アオイからは嗚咽が漏れていた。
「私がここへ入れられたのは私が大人になったからです。神様は大人が嫌いなのです。」
「うううむ。そうか、そんなことがあったのか。ひどい話だ。なんとしてもその神様の正体を暴かないと!」
オネスト侯爵がそう言うと
「止めてください、そんなことをすればあの子たちが殺されてしまう。」
アオイは必死の形相で訴えた。
「あなたは、先ほど力になりたいとおっしゃいました。だったら私を殺してください!私は逃げることも自殺をすることもできません。そんなことをすればあの子たちが殺されてしまうからです。私を助けたいのならあなたの手で私を殺してください。そうすればあの子たちは殺されずに済みますから・・・・もしそれができないのなら・・・・せめて・・・せめて私を抱いてください。そうでないと・・・また鞭で打たれます・・・痛いのはもう・・嫌・・・本当に痛くて痛くて・・・・・うっうっうっ」
最後は消え入るような小さな声を震わせながら、アオイはオネスト侯爵の胸にしがみついて泣いた。
「分かった。もう大丈夫だ。アオイのことは僕が必ず守ってあげる。」
「ほ、ほんとうですか?」
「もちろんだ。嘘はつかない。約束する。」
「うれしい。」
オネスト侯爵はアオイを優しく抱きしめた。
翌朝、オネスト侯爵は帰り際にバーテンダーから恋人契約について話を聞いていた。
「当サロンでは恋人契約という制度があります。一か月単位で契約することができまして、恋人契約中の女の子は、他のお客様には指一本触れさせません。契約者様だけの女の子になります。今は相部屋に住んでいますが恋人契約になりますと個室に住むことができるようになり、契約者様はいつでも自由に遊びに行くことができます。まあ、2人だけの愛の巣という感じです。お値段はかなり高くはなりますが好きな女の子と恋人気分を満喫できますので、好評をいただいております。アオイはおそらく明日までには他のお客様との契約が成立するでしょう。そうなると、もう会えなくなりますよ。」
「そうか。分かった。今日中に使いの者を寄こすから恋人契約の手続きをしてくれ。それと身請けはできるのか?」
オネスト侯爵はできることなら身請けをしたいと考えていた。
「身請けはお断りしています。ご存知のように獣姦がばれますと罪に問われます。自宅に獣人を囲ってしまうとどうしても人目に付きますからね。お止めになったほうが身のためです。恋人契約は何か月でも何年でも更新が可能ですので、そこまでお気に召したのであればずっと面倒を見てあげてください。」
バーテンダーの説明にオネスト侯爵は頷いて帰っていった。
しばらくしてシャワーを浴びてスッキリした顔のアオイが出てきた。
「アオイさん、恋人契約おめでとう。」
妖狐族の女性がアオイに近づいてきて言った。
「おめでとう。それにしてもアオイさんの魅了はすごいね。あの坊や、魔法をかけられたことに気が付いていないよ。」
猫又族の女性も感心した表情でアオイの恋人契約を祝福した。
「お疲れさん。分かっていると思うが、純情な坊やほど頭に血が上ると何をするか分からないからな。ほどほどにしてくれよ。刃傷沙汰はごめんだぜ!」
バーテンダーはアオイに忠告することも忘れなかった。
「うん、分かってる。本当は趣味じゃないんだけど、今回はドリア公爵の頼みだったから断れなかったのさ。やばいことになりそうだったら公爵にお願いして早めに何とかしてもらうつもりだから、迷惑はかけないよ。」
アオイは胸にぶら下がった天然石のネックレスを握りしめながらオネスト侯爵が出ていった扉を見つめていた。




