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純愛

作者: 白桜 ぴぴ

真っ暗やみの中で男が絵を描いていた。キャンバスには女の顔。

どうやらすっかり出来上がっているようだ。絵筆を置くと、男は

自分の作品を手に取って満足気に言った。

「よーし、完成だ!我ながら良いできだぞ。これなら、節子さん

も気に入ってくれるだろう。さあ、渡しに行こう」

 走り出そうとして、男はふ…と立ち止まった。

「しかし、どうやって渡そう?そういえば今まで一度も節子さん

と口をきいたことないんだった。」

 男はしばらく首をひねって考え込んでいたが、やがて、おもむろ

にシュミレーションをはじめた。

「(ニヒルに)節子さん、これ、受け取って下さい。(節子の真

似で)まあ、うれしい、これを私に?(ニヒルに)輝くあなたの

一瞬を描いてみました」

 どうやら、絵のモデルは節子という女らしい。

「(節子の真似で)まあ、素敵。でもなぜ私を?(ニヒルに)そ

れは、あなたを、愛しているからです!!」


 男が、恥ずかしいシュミレーションをしていたその時、真っ暗闇

の一部分が扉が開いたように明るくなり、誰かが入って来た。

その気配で男が振り返ると、そこにはあの絵にそっくりの女、節

子が料理を持って立っていた。男はつぶやいた。

「ああ…もうそんな時間か…」

無表情に茶碗を並べていく節子に、男はにこにこと話しかけた。

「いつもすまないねえ、節子さん。節子さんの料理は世界一だよ

…それにしても、何で節子さんが毎日食事を作ってくれるんだ?」

しかし、節子はなにも答えない。

「まあいいや。そんなことより、飯にしよう。ああ、そうだ節子さ

ん、雪はもうやんだかい?ここのところずいぶんと暖かいが…」

すると節子が何か答えた。しかしそれはあまりにも小さな声で男には

良く聞き取れなかった。男はひっしで節子の声を聞こうとした。

「なになに?…もう5月だって?何言ってるんだまだ12月じゃないか」

節子は男を哀れむように首を振った。

「そんなことより節子さん…」

男は大切なことを思い出して手をたたいた。

「見てくれ。できたんだ、君の絵だよ。ほら…」

男はキャンバスを手に取り節子に渡そうとした。しかし、それはあっ

さりと拒否された。

「どうして受け取ってくれないんだ?君の為に半年もかけて完成させ

た絵なんだぞ。え?何言ってるんだ?良く聞こえない。なになに?

毎日見せられて困ってる?…何を言ってるんだ?僕は今日まで節子さん

と話した事なんかないぞ。僕は内気で女の人と話すのが苦手で…って何笑

ってるんだ?…え?愛人何人も作っておいてよく言うって…馬鹿な、何

いってるんだ。僕は節子さん一筋だよ。あの時誓っただろ?誰がなんと言

おうと、僕はこの絵筆と君の手だけは離さないって!信じてくれ節子

さん。きっと君を幸せにしてみせる!!」

そして、男は、真剣な表情で節子の手を取りこう言った。

「なあ、節子さん、結婚しよう!!」

すると、節子は始めてその顔に怒りをみせ、男の頬をたたいた。

「痛いっ。何するんだ?節子さん!!」

答えず、節子は泣きだした。

「どうしたんだ?何が悲しいんだよ。え?なんだって?お母さんが死

んだ?…そうか、それはお気の毒に…え?原因はお父さんが、何人も

愛人を作ったから?それで、気疲れして早死にしたって?それはひどいオ

ヤジだな。事情はわかったよ。でも僕がついてるじゃないか、節子さん。

…え?なんだって?キミは節子さんじゃない?美春?美春って名前?

節子は…節子はキミのお母さんの名前だって!?」



 風薫るうららかな5月のある日、金井家の屋敷の一室で老人がキャ

ンパスに、むかっていた。老人は震える手に絵筆を握りしめ、真っ

白なキャンバスを見て満足気につぶやいた。

「できた…できたぞ。節子さん、君の絵ができた…!」

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