『三匹の迷える子羊』【一画面小説】
ガ、チャッ。――ドアの開く音が聞こえた。
キリスト教父の次兄と、いかり肩の若い荒らくれが面会部屋から出てきた。それと同時に、隣の面会部屋からは、仏教の僧侶の長兄と、丸坊主の中年の荒くれが出てきた。荒くれ二人は、神妙な面持ちだ。「どうも、お世話かけました。」兄貴分と思しき二人の身元引受人が、指導者の兄達に挨拶をしている。この街は、平和と言えば平和なのか――
我々三人は、このうらぶれた街の『自警組織』の一部として、町の裏手通りに位置するこの建物を、宗教会議所という名義で間借りしている。兄二人は、それぞれの教えを忠実に守り、荒らくれ者達のトラブル解決に一役買っている。三人兄弟の末弟の私は、イスラム教徒の身分を買われ、その教えを授けてほしいと自警組織の人間から頼まれた。その結果、兄たちと生活を共にするようになった。
時として兄弟という血の繋がりは、宗教の垣根を超える。私たちは、互いの教えの違いを認め、互いの立場を尊重してはいる。しかし、ひと度冷蔵庫の中身を盗み食いしたことが明るみになると、烈火の如く、互いに教えを説き合う。互いの教えの違いをよく知っている分、その会話は自ずと、ほかの敬虔な宗徒には生き地獄となるような酷い罵り合いとなるのだが――残念なことに、いま、私の苺蒸しパンが見当たらない。
大喧嘩するんでしょうねーおそらく。