妹とカップ麺
「あのな……」
俺の名前は九重 士照。
「はい……」
目の前でアフロのカツラ被ったみたいになってるのが……
九重 咲為留
我が愚妹だ。その妹はシュンとして正座をしている。それはなぜか――
「なんでカップ麺作るだけで火事騒ぎになるんだよ!」
――そう。正に今言った通りだ。幸いボヤで済んだ……
うん。なぜかIHのコンロが焦げていて、上の換気扇が溶けている。それに電子レンジからは今も黒い煙が出ていて火花が飛んでいる。それでもボヤで済んだ。済んだといえば済んだのだ。
「うぅ……だってね、お兄ちゃん。私はちょっとリッチなカップ麺を作ろうとしただけなんだよ?」
「ほう? では妹よ。詳しく聞いてやるから話せ」
涙目で訴える妹の言葉を聞いてやるのは兄としては当然のことだ。しかし正座は解かないし、俺は腕を組んで見下ろして聞くぞ?
「あのねあのね――」
◯
「ふんふふーん♪」
鼻歌を歌いながらご機嫌なツインテール少女。彼女の前にはカップ麺がある。カップ麺の種類は、なになに?
《熊をも倒す! これが新時代の辛味の新境地だ! 熊担麺!》
……なぜカップ麺で熊を倒す必要があるのかは今回掘り下げることはやめておこう。おや? なにやら彼女は電子ポットの前で難しい顔をしているようですね。なにをしているのでしょうか? 改めてクローズアップしてみましょう。
「うーん……このままでも美味しそうだけど、やっぱりより美味しく食べたいよね……どうしようかな……」
どうやらカップ麺のアレンジを試みるか悩んでいるようです。小首を傾げて腕を組みながらうんうんいってます。小柄な美少女が悩む姿というのは可愛らしいものですね。
おや? また動きがあったようですね。様子を見てみましょう。
「えっと、冷蔵庫の中にあるのは――卵。ニンニク。タマネギ。ニラ。ラッキョウ。行者ニンニク。チャイブ。リーキ。ラムソン。アサツキ。ノビル。エシャロット。あと、熊肉かぁ」
……ヒガンバナ科・ネギ亜科・ネギ属多くない⁉︎ しかもなんで熊肉⁉︎ カップ麺といい、熊推し⁉︎ 熊推しなの⁉︎
……こほん。取り乱しました。さて、私が取り乱してる間にも彼女は行動しているようですね。どれどれ?
「まず、生クリームをホイップしてっと」
どこから出てきた生クリーム……
「次に、タマネギ・ニラ・ニンニクetc……最後に熊肉をミンチにしてっと」
餃子かな?
「それにホイップ生クリームを加えてよく混ぜる」
おっと、テンプレ的ダークマターかな?
「これをライスペーパーに包んで……バターを溶かしたフライパンで焼く!」
ライスペーパーもどこから出てきたの。
「さて、焼いてる間に今度は卵を……」
ゴソゴソと作業をして電子レンジを閉めました。何ができるのやら……
「うーん……中々焼けないなぁ。そうだ!」
今度は流し台の下にあるスライド式の扉を開いて何かを取り出しましたね。なんでしょうか?
――ボッ! シュゴオォォォ
……ガスバーナー?
「てりゃー!」
おもむろに取り出し火をつけたガスバーナーをフライパンに。いえ、IHに向けてぶっ放し始めましたよ。あぁ! それはあかんですよ!
案の定IHが焦げ、そして溶け始めました。そして――
バンッババババジバンッ
背後にある電子レンジが激しい音と光を立てながら爆発し、火を噴き黒煙を周囲に撒き始めました。
「ふぇ⁉︎ なに⁉︎ ただ卵をタルト台(金属製)に乗せてチンしただけなのにぃ!」
……それは二重の意味であかんです。あ! ダメダメダメそれはダメですよ!
ジリジリ……ボッ
「うぅぅ……怒られるぅ……う? なんか焦げ臭いような……あっ!」
放り投げたガスバーナーがIH横に置いてあった油ポットに引火して炎上してます。これはピンチ!
「ただいまぁ……って何事⁉︎」「うわぁぁぁぁ! お兄ちゃん助けてぇぇぇぇ!」
●
「……で。消化作業を終えたのが今ってわけか?」
「うん! ほら! 私は悪くない! なんでかわからないけど、火を噴いただけだよ!」
「うんうん。そうだな……」
誇らしげに胸を張る妹。腕を組みながら肯首する俺――
「俺の拳も火を噴くぜ‼︎」「アイッタァァァァ⁉︎」
――とかあるわけがない。とりあえずゲンコツを妹の頭にかます。
「うぅぅ――ひどいよぅ」
頭を押さえて涙目になる妹。いや、ひどいのはお前の色々な行動だからな?
とりあえず妹に台所の片付けを命じる。しかし、長時間の正座で痺れたらしく、しばらく地面をのたうち回っていた。そのため、片付けの大半は俺が終わらせる事となった。
これは、可愛い妹を持つ兄が苦労し、苦悩し、苦心し、苦言を吐き、苦楽を共にする物語──
あ、申し遅れました。私、ところどころナレーターも務めます。神様です。性別やCVなんかは各自自由に脳内補正してくださいね!(キラッ☆