〜side駿貴〜
いとこにあたる桜澤有紗ははっきり言って美少女だ。
生まれたばかりの時から可愛らしく、噂に聞く真っ赤な猿ではなかった。
有紗の5歳の誕生パーティーでは皆がドレスを着たお姫様のような有紗に見惚れていた。
有紗とは生まれる前から両家で婚約の約束が出来ていたので僕の自慢の婚約者だった。
僕が成人を迎える15歳に正式な婚約発表をして有紗が成人を迎えたら結婚。
のはずだった・・・・。
ある日有紗の母は駿貴と有紗を連れては駿貴の叔母の依子の見舞いに行った。
依子は少々体が弱かったがとても優しく賢い穏やかな女性だった。
当主や駿貴が不在の時は当主代理として家を切り盛りしていた。
「体が弱いので嫁に行くのは諦めているの」と言ってい た依子に縁談が舞い込んできた。
鏑木の分家でも上位に当たる郷原の当主が園遊会で依子を見初めたようだ。
依子より2才年下だが才気溢れる武人のような当主。
依子もまんざらではないようであっという間に結婚が決まった。
依子は郷原に嫁いでいった。
郷原の嫁いで半年後、依子の妊娠が分かった。
もともと丈夫ではなかった依子はつわりでかなり弱っていた。
依子を心配した有紗の母は2人を連れて見舞いに行った。
そこに鏑木の当主がふらりと遊びに来ていた。
郷原は武骨な男で噂話に疎かった。
そして依子もあまり積極的に社交に出ていなかったのでやはり噂に疎かった。
世間では知らぬ人はいないというほどの鏑木のつるバラへの執着を2人は知らなかった。
そ して有紗たちに合わせてしまった。
もちろん当主は大喜び。その様子を見て皆が嫌な予感がした。
その日のうちに有紗への正式な婚約の申し込みが来たと聞いた時その予感は当たったのだと知った。
桜澤は駿貴との婚約の話をしてお断りしたらしい。
それでもあきらめない当主と一族。何といってもつるバラを手にすることは一族の悲願。
先代も先々代も袖にされたというがその後つるバラの所有者の情報は秘匿されていた。
なぜ鏑木が気が付いたかと言えば鏑木家のリビングに飾られている肖像画である。
つるバラのネックレスをした女性が描かれている。
有紗の母はその女性に瓜二つだったのだ。(もちろん本人の許可なく描かれた肖像画である。今でいうところのストーカー?)
どうしても息子の嫁にと梶尾に婚約を破棄するように圧力をかけてきた。
この無茶苦茶な横やりに梶尾の一族は怒り狂い、絶縁覚悟で鏑木家に怒鳴り込みに行く寸前だった。
我々は、有紗の母が言った婚約破棄話に乗るしかなかった。
「段取りは全部済ませてあるから、大丈夫よ。二人の結婚の邪魔なんかさせないわ。
どうせ私の継いだつるバラのネックレスが狙いだろうけどそれもきちんと対処済みだから大丈夫よ!」
そして、桜澤と梶尾は長期にわたる婚約破棄のシナリオを進めた。
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どんなに思いあっていても今有紗と会うわけにはいかない。
ただひたすらに今出来ることをやるしかない。
まだ親の保護下にある自分にできることは限られているが・・・。
有紗の噂や評判を聞くたびに会いたい思いは募った。
そんなに綺麗になっ たのなら駿貴の事を忘れてしまうのではないかと不安もあった。
本当に婚約破棄できるのか、有紗と一緒になれるのか・・・・ 信じるしかなかった。
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ようやく有紗の高校の入学式。ヒロインが5人の攻略者との出会いをする日である。
次々と着実にイベントをこなすヒロイン。
君たちがやらかしてくれればそれだけ終わりへの時間が進む。
がんばれ ヒロイン(笑) 我々の自由は 君にかかっている!!
そして我々は完全勝利(婚約破棄)を手に入れた。
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梶尾家は有紗との婚約破棄を機に鏑木と縁を切り、世界各国へ移住している。
もともと柵や人付き合いが苦手な一族は総出で喜んで移住を決めた。
手間をかけさせてしまったが逆に感謝されたほどだ。
海外に渡ってからは大好きな研究に没頭している内に時間が経ち、いつしか梶尾の名は世界的なブランドとなった。
何もかもが想定の通りに進んだ。
そして、ティアドで偶然(?)再会した二人はようやく長かった冬を越えた。
良一がつるバラのネックレスが鏑木家の物だと勘違いした原因は当主の部屋にあった肖像画
(=先々代のストーカーの賜物)でした。