〜side鏑木家〜
馬鹿な本家の跡取りがしでかしたと聞いたときには全てが遅かった。
桜澤家から弁護士を通して正式な婚約破棄の手続きを進めるように連絡が来た時には皆が耳を疑った。
卒業後にすぐにでも結婚して家に入ってほしいと一族が熱望していた娘をふって、浮気???
こちらからあんなに強引に進めた縁談なのに!!!!!!!!
分家は本家に集まり当主からの言葉を待った。
「良一と桜澤有紗嬢との婚約は先ほど正式に破棄と相成った」
皆が絶望の表情を顕わにしている中で歓喜の表情を浮かべる嫡男の良一。
その横には見たこともない部外者の女の子がぴったりと寄り添っている。
多分あれが浮気相手なのであろう。
有紗嬢より彼女を選ぶなんて 、なんて見る目がないんだろうか?
周りの軽蔑の眼差しに気が付くこともないでずっとニコニコしている。
見た目通りのふわふわした性格なのか?厚顔無恥なのか?
どちらにしても我々が彼らを認めることは無い。
「あの女は俺のことが好きだったんじゃない?ただの金と地位が目当ての女だ!!次期当主になるためならば仕方がないと諦めていた。だが俺は真実の愛を縁に教えられた。これからは縁と2人で生きて行く。お母様は許してくださいました。お父様、我々の婚約を認めてください!!」
「お義父様。私たちは愛し合っています。どんな苦労も2人で乗り越えて見せます。」
「「「「僕たちも皆で2人を支えて行こうと誓いました!!」」」」
辺りがシーンとな った。
『こいつらは本物の馬鹿か???何喜んでるんだ??大体馬鹿の中になんで桜澤の養子まで混ざってる???』
「お前たちの婚約を許そう」
「「「「「ご当主様????」」」」」
「お前たちの力だけで生きて行けばよい。鏑木の庇護から離れて何ができるか遠くから見ていよう。」
「待ってください。それはどういう意味ですか?俺は鏑木の次期当主だよ!俺がいなくなったら困るのは鏑木だ!」
「お前は廃嫡だ。今すぐ家から出ていけ。籍も正式に抜く。お前の母とも離縁する。今後は母の実家の安斎を名乗れ。お前の養育は妻に任せていたが・・・・失敗だったな。鏑木の一族の為だ。お前たち母子とは絶縁する。
手続きは弁護士に任せて ある。既にお前の実家に話は行っている。実家で自分が何をしたのか考えなさい」
「あなた!!なんで?なんで縁ちゃんじゃダメなの?」
「お義父様ひどいです!!良一さんほど立派な人はいないのに。あの女に騙されてる!!」
当主は大きく息を吐いた。
「良一。お前程度の能力の物なら鏑木にいくらでもいる。
お前が次期当主と目されていたのは私の嫡男だったことと、婚約者が有紗さんだったからだ。
我々にとっての婚約や結婚は契約だ。その契約を超えるほどのメリットはその娘にもお前個人にも無い。
分家も社員も使用人も、お前達には従わないだろう。今のお前にはこの一族は支えられない。
一族の為にお前を切り捨てるしかない。(頭の中が)残念だ よ。本当に。」
「お前は当主の妻として飾り立てる以外に何の才能もない。お前を見て、良一には賢い女性を望んだのだが・・・。やはり母に似た頭の中身の軽い女を選んでしまった。見る目もないし、人望もない。私の血も継いでいるはずなのに・・・なぜだ。。。。」
「そして、お嬢さん。君の理論でいえば一般庶民なら誰に何を言っても許されるのかい?桜澤のお嬢さんをお前たちは”あの女”呼ばわりかい?我々にはそんな下品な言葉は馴染みがあまりなくてねえ。ところで、君たちはそれほどに優れているのかい?素晴らしい人間なのかい?あの有紗さんより?
私はそうは思わない。我々の階級の世の中の誰もそんな事は思わないだろう。
そう思っているのは君たち5人だけだよ。君たちの味方になるような人間はいないと思うよ。
でも、そんなに素晴らしい君たちならきっと実力で世の中を生きて行けるんだろう?
頑張って鏑木家を超える一族でも会社でも作ればよいよ。」
『『『『出来るわけないだろ---』』』』
社交界の憧れ【つるバラのネックレスの後継者】である有紗嬢が鏑木に嫁入りするのは一族の悲願だった。
先代も先々代も手に入れることの出来なかったバラ。ずっとつるバラの所有者の情報は不明だった。
鏑木の当主がその持ち主に気が付いたのは先々代が本人に内緒で手に入れた肖像画。
それはずっと当主の部屋に飾られている。有紗の母がその肖像画の女性に瓜二つだった。
今回の婚約はかなり強引に進めた結果ではあっ たが、概ね良好な関係を築けていた。
まさかこんなどんでん返しがあるとは・・・・・。
「有紗さんには申し訳なかったな。婚約破棄以外のお詫びは何も思いつかなかったよ。」
寂しそうに当主が肩を落とした。当主は特に有紗さんを気に入っていたからなぁ。
「この馬鹿どもを叩き出せ!!戻れないように一族に通達を! 鍵なども全て変更するように。個人の認証登録も削除しろ。会社にも今後自由に出入りさせるな!!」
そうだ。そんな事よりこれからの対策を考えなければ!!
桜澤家に梶尾家にその他有紗嬢を可愛がっていた重鎮たち。我が家が社交界で笑いものになることは決定的だな。せめて上の娘が先に嫁いでいたのが幸いか・・・・。
分家 一同 遠くの空を眺めていた。夕日がまぶしいぞ!!
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馬鹿に付ける薬はなかった!!