〜side 有紗〜
婚約破棄!
まあよくある話です。
「桜澤有紗、お前との婚約を破棄する!!そしてこの逢坂縁と婚約をする!」
「そうですか、承りました。」
「「「「「!!!!!!!!!!!!!」」」」」
「そちらからの破棄ということで良一様よりご当主様へ報告をお願いします。
詳しいことは後日改めて。それでは、本日は失礼いたします。」
「お前は俺のことが好きだったんじゃないのか?やはりただの金目当てか!!」
「そんなこと言って逃げる気?実家に頼ろうったってそうはいかせませんよ!」
「そうだよ!良一が好きだからって縁にさんざん嫌がらせしたんでしょ!!」
「姉さんのした事は 皆わかってるんだよ!!」
「・・・嫌がらせ・・・サイ テー・・・
「嫌がらせと言われましても、心当たりがございません。
そちらの新しい婚約者様のお顔を拝見いたしましたのは初めてですしお名前も先ほど伺ったばかりです。
良一様も世彰もご存じなかったようですが、婚約は鏑木家よりの打診でした。
桜澤としましては、正式な婚約発表前にどちらかに瑕疵があればこの婚約は破棄されるという明文を婚約契約書に加えるという条件のもと一旦お受けしました。
この度は良一様の心変わり、と言うことですんなり婚約破棄となりましょう。
良一朗様、今までありがとうございます。
本日のこの卒業パーティーを以てお会いすることもなるなりましょう。
今後益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。」
「待て!!お前が付 けている【つるバラのネックレス】をすぐに返還しろ!!
それがどれだけの価値か分かっているのか?あれは鏑木の当主夫人になる縁にこそふさわしい!!」
「良一様・・・・・。何もご存じないのですか?
これのネックレスはは鏑木家とは一切関係のないものです。
なぜ鏑木家の所有だと思われたのか不思議でございます。
ああ、鏑木家の方々はずっとあのネックレスに執着をなさっていましたわね。
詳細につきましてはご当主様にお訪ね下さいませ。」
「じゃあ、そのネックレスは次期当主の僕の物だ!!
返してよ!!縁にあげるんだ!!」
「世彰・・・・。このネックレスに関して貴方には何の権利もありません。
そんな事も知らないなんて・・・・これは桜澤にも何の関 係もないものです。
あれはお母様の家の女性にのみ代々伝わる品です。」
「僕だってお母様の息子だ!!同じ子供なのに女だけなんて差別じゃないか!!」
「同じわけはないでしょう・・・世彰はお父様のお姉さまに当たる方の子であり、
ご両親が亡くなった際に我が家で引き取りました。
つまり私とあなたはいとこ同士であり姉弟ではありません。
もちろん、お母様とも私とも何の血縁関係もありません。
ですからお母様のご実家の品とも、関係はありません。
何度も説明されているはずなのに、自分に都合の悪いことは忘れてしまう癖を直したほうが良いですわよ。
お母様も私も実の子、実の弟として貴方に接してきましたつもりです。
貴方に次期当主の座を勧めたのも母 です。ですが、どうやらそれは失敗だったようですね。残念ですわ。」
「このネックレスの正式な所有者は私です。どなたにもお譲りするつもりはございません。
このネックレスの意味も価値も 何も分かっていないあなた方には分不相応です。
とにかく皆さまご実家でご両親や周りの方にまずお話を聞いてみて下さい。
それでは、今度こそ失礼いたします。」
まだ追いすがろうとする彼らを周りの生徒たちが盾になり防いでくれた。
「有紗様。今のうちにどうぞお帰り下さい。」
「皆さま、ありがとう。ごきげんよう。」
************************************
『やったー!!!やっと破棄宣言受けたぁ---!!』
正式な婚約破棄はまだだが、有紗の心は喜びでいっぱいだ。
馬鹿は嫌い!と心の中で常々思っている有紗ではあるが
良家の令嬢として口に出すことはない。
縁のとりまき(馬 鹿五人衆)との付き合いは高校生活までで十分だ。
有紗にしてみれば、馬鹿は伝染るのである。
実際に馬鹿五人衆は時差をおいて集団感染した。
そして馬鹿に付ける薬はない。
当主や周りの者たちの忠告にも諫言にも耳を貸さない。
もともと馬鹿だったのに、今回の感染により病状は一層悪化した。
馬鹿五人衆にはそれぞれ家同士で決められた婚約者がいる。
有紗は秘かに彼女たちと連絡を取り合い、同時期の婚約破棄を狙っていた。
そして同時期に卒業する2人は付属大学へは進まず、
他大学への進学が決まっている。まだ卒業を迎えない2人はしばらく
休学ののち夏には海外への留学が決まっている。
残るは有紗の正式な婚約破棄だけだった。
今頃は顧問弁護士が鏑 木家へと正式通達しているころであろう。
間違っても既成事実など作られないように、今後は護衛が山ほど付く。
世彰は先代当主にしごき直してもらうため、今日中に四国へ発つ。
あんな馬鹿でも義弟なので、一度だけチャンスを上げてほしいとお願いした。
************************************
もともと我が家ではこの婚約は歓迎されていなかった。
正式ではなかったが有紗には子供の頃から大好きな婚約者がいた。
有紗の遠縁に当たる5歳年上の駿貴である。
駿貴の父の体の弱い妹の依子が鏑木の分家に嫁いだことが始まりである。
何度も遊んでくれた優しいお姉さんのお見舞いにと依子を訪ねた有紗の母と
有紗をたまたま遊びに来ていた鏑木の当主が見初めた。
まさかこんな近くにつるバラの一族との接点があったとは思わなかった
当主がはっちゃけた。
どうしても息子の嫁にと梶尾に婚約を破棄するように圧力をかけてきた。
この無茶苦茶な横やりに梶尾の当主は怒り狂い、
絶縁覚悟で鏑木家に怒鳴り込みに行く寸前だった。
そんな時、母が言った。
「大丈夫よぉ~。どうせあの馬鹿はヒロインちゃんと浮気して有紗の高校卒業パーティーで婚約破棄宣言してくれるから、こっちが困ることは無いわ~。慰謝料 たっぷり貰いましょうね♪」
皆、キョトンとして母を見つめる。
母は未来視が出来るのかというくらい正確に今後についての話をしてくれた。
「こっ ちが悪者にされるように仕組まれるから自衛も大事なのよ。で、その時にこちらに有利に完全に破棄できるように、契約書も作成してあるのよ」
顧問弁護士にも相談済みらしい・・・。
「段取りは全部済ませてあるから、大丈夫よ。二人の結婚の邪魔なんかさせないわ。どうせ私の継いだつるバラのネックレスが狙いだろうけどそれもきちんと対処済みだから大丈夫よ!」
父は始め唖然とした顔をしていたが、何かに納得したかのように大きくうなずいた。
だって母だもの。
そして、桜澤と梶尾は長期にわたる婚約破棄のシナリオを進めた。
私たちに必要なのは将来にわたって生きていける力(知力・体力・財力・人材力など)
子供たちはそれだけで良いとい われただひたすらに自分を磨いた。
鏑木家の為に努力をしていると考えた当主夫妻や使用人たちはそんな有紗をとても可愛がってくれた。
時々、申し訳なさで罪悪感に苦しくなることもあった。想い合っていても駿貴と会うわけにはいかない。
駿貴目当てのご令嬢の噂が流れるたびに 有紗は不安になった。
本当に婚約破棄できるのか、駿一郎と一緒になれるのか・・・・ 有紗は母と駿貴を信じるしかなかった。
いざという時には海外に逃げることも出来るように海外の有力者とも縁をもった。
****************************************
そして、とうとう高校の入学式。ヒロインが5人の攻略者との出会いをする日である。
次々と着実にイベントをこなすヒロイン。どうやらヒロインも転生者のようだ 。
がんばれ ヒロイン。 私の自由は 君にかかっている!!
生暖かい目でヒロインと馬鹿五人衆を眺めながら、心の中でヒロインを応援する日々。
もちろん自己防衛の為 自分の立ち位置もきちんとしなくては!!
婚約者との噂を聞いたときには≪悲しそうな表情≫で『私は良一様を信じていますの』と健気さアピール!
一人にならないように必ず取り巻き以外の第三者も一緒に行動
『寂しいけど皆さんが一緒にいてくれて嬉しい』と女性の友人を優先するアピール。
第三者を順番に取り立てるためという名目で信用できる人間(風紀)が毎日のスケジュールを管理。
いじめの冤罪を防ぐためにこっそり数年前に理事会にお願いした防犯カメラは業者による集中管理。
不審 なことがあればすぐに職員室と理事長室に連絡がいく。
男は要らないが汚名も要らない。有紗は頑張った!
有紗に不利になる状況の芽は全てつぶし婚約破棄に備えた。
そして卒業パーティー
ようやく有紗は完全勝利(婚約破棄)を手に入れた。
***************************************
梶尾家は有紗との婚約破棄を機に鏑木と縁を切り、世界各国へ移住している。
梶尾は語学や研究に秀でており海外の大学からのオファーに研究大好きな一族は総出で喜んで移住を決めた。
海外に渡ってからは大好きな研究に没頭している内に時間が経ち、気が付いたら一族と一部の仲の良い人間以外、梶尾の詳細な移住先を知るものはいなくなった。
鏑木も有紗との婚約が順調に進 んでいたため、梶尾の動向をそれほど気にしていなかった。婚約破棄が決まり ふと気になって梶尾の所在を訊ねても誰も知らなかった。鏑木家はグルジア国内ではそれなりに力を持っているが 海外ではそれほどの影響力がない。唯一海外での取引や交渉が可能だった梶尾を手放すことになり鏑木の海外での求心力は徐々に低下した。その経緯と今回の有紗との婚約破棄が社交界に知れ渡り、梶尾に同情が集まっている。
今、有紗が梶尾の元へ行ったとしても梶尾に不利なことにはならないだろう。
何もかもが想定の通りに進んだ。
そして、ティアドで偶然再会した二人は。。。グリジアに帰ることなく。。。
研究を楽しみながら幸せな結婚生活を送りましたとさ。
****************************************
つるバラのネックレス:実は一本だけではない。百年以上前に海外の全寮制の女子中学・高校の同級生が
戦争で各国に戻される前にそれぞれの家にちなんだ石の入ったつるバラのネックレスを作り贈り合ったとされる。
それぞれに成功した初代から代々直系の長女に引き継がれている。いつの間にか一流の証と勘違いする人間も多い。
戦争で各国に戻される前にそれぞれの家にちなんだ石の入ったつるバラのネックレスを作り贈り合ったとされる。
それぞれに成功した初代から代々直系の長女に引き継がれている。いつの間にか一流の証と勘違いする人間も多い。
【メッセージジュエリー:石の頭 文字をつなげると意味があるジュエリー】
R ピンク ピンクブロンド マリアンヌ 南 ブロンガ領 天才軍師。夫と共に終戦の立役者
E 緑 碧眼 キャロライン 東 ティアド領 教育・識字率の向上
G 赤 赤毛 スカーレット 北 トーネット インフラ設備の開発と改良
A 紫 紫目 ユリシア 西 ストメジア領 医療の発展
R 赤 アルビノ 菊乃 島国 グリジア領 農業の発展
D白
****************************
【大陸戦争】と呼ばれた、大陸内のほとんどの国を巻き込んだ大戦があった。
大陸の半分以上の国土を焦土に変えた、不毛な戦いであった。
戦いは十数年に及び、人々から笑顔は消え、食物の育たぬ国土には大量の餓死者が出た。
開戦から数年たつと、戦いにより疲弊した国々は瓦解し、領主により各領地を守る制度が定着した。
その中でも北に位置するトーネット領・南に位置するブロンガ領・
東に位置するティアラルド領・西に位置するストメジア領は大きな領土と領民を抱える領土であった。
南のブロンガ領の領主は鬼神と言われたノーライト将軍を夫に持つマリアンヌ という女性だった。
マリアンヌは軍師として夫と共に戦場に立ち、知略と対話により終戦へと導いた。
終戦後の疲弊した領地を回復させるためマリアンヌに協力した女性たちがいたー
インフラを整え各地の再建に惜しみない尽力を尽くしたトーネット領主の娘スカーレット
孤児院と学校を建設し教育者を派遣、戦後の再建に力を尽くす若き世代を育て上げた東のティアド領の妹のキャロライン
治療院を建設。多くの医療従事者を育て医療の発展に寄与した西のストメジア領夫人のユリシア
そして、大陸から遠く離れた南の島国グリジア皇国の末孫菊からの膨大な食料援助と農業知識が彼女たちを後押しした。
終戦後短期間で国土は奇跡的な回復を遂げた。
彼女たちは皆 よく似たつるバラをモチーフとしたネックレスを付けていた。
領民は奇跡の回復に携わった乙女たちに感謝を込めて【つるバラの乙女】と呼んだといわれている。
読んでいただいてありがとうございます♬