龍を狩る少女
「ギシャアアアアアア!!」
「あぁもう、うるさいってばぁ!!」
非常にうるさいです。鼓膜が破けそうだ。
.........仮想空間に鼓膜っていう概念があるのかな。
乱入クエストが発生してから十五分程戦闘を続けている。親玉ともあって体力が非常に高いのか、何発か攻撃を加えて倒れてくれるような敵ではないようだ。
私は奇声を発し続けているそれにむかって攻撃を再開した。
「ボェアァッ!!」
「うわっ!?」
そのなんたらリザードはいきなり炎弾を吐いてきた。今までに見ない攻撃方法を繰り出してきたことに驚いたが間一髪避ることのできる私の反射神経に深く感謝したい。
某ゲームでのこういう敵には部位破壊というシステムがあったが、ブレイブソードはどうなんだろう。出来たら出来たで、私が持っているのは所詮初期武器。そう簡単に尻尾が切り落とせる訳ないか。
とりあえず足かな。
なんたらリザードの足元に潜り込んだ私は燕返しの真似をしてみた。切りおろしの直後切り上げる。シンプルで簡単そうに思えたこの行動もやってみると意外と難しいことがわかりました。
なんたらリザードは足元にいる私に対し、立派な尻尾を駆使して大胆にも薙ぎ払ってきた。もちろん避けられるはずもなく見事に吹っ飛びました。えぇそれはもう小石のごとく。
流石に痛みを感じるように設定されてはいないようで、現実なら起き上がれないほど派手に地面に叩き付けられたはずの私の体には傷一つ見当たらなかった。
「?」
おかしい。
こういうゲームは基本的に操作キャラクターのHPとかあるはず。しかも私は確かに今ダメージを負ったはずだ、それも致命傷になる勢いのものを。
しかし私の視界にはHPゲージが写っていない。
『ブレイブソードでのダメージ計算は数字によるものではなく、プレイヤーが敵の攻撃をどの部位で受けたかという判定で行われます。人間にとっての急所、すなわち心臓や頭に強いダメージが加わるとプレイヤーは即死となります。急所でなくとも、腕や足に多くのダメージを負うと麻痺し、動かすことができなくなります』
......リアルすぎませんかね、ゲームですよこれ。
まぁこれでゴリ押すという選択肢が消えたというわけだ。運営もよく考えたねこんなシステム。体感型ゲームでしかできない要素を盛り込んだと開発側の人間が言ってたけど、これもそのうちの一つかな。
いやいやそんなこと考えてる場合じゃなかった。
私は確かに攻撃を受けた。恐らく私が攻撃を受けた部位は腹部、そして地面を転がった時ににぶつけまくった全身かな。ということは一応全身にダメージが蓄積されてるって解釈でいいのかな。
要するに、敵の攻撃は是が非でも当たるな、と。
......当然か。
「そうは言ってもなぁ」
なんたらリザードは起き上がって考え出す私を見て、力強い雄叫びを上げた。私が近づけば奴の初手は炎弾を放ってくるプログラムがされているらしい。初見回避に成功したのは完全に奇跡だから二度目はうまくいかないだろう。
ジャンプして避ける?
おーなんかいいアイデアかも
再び真正面から走り出す私の速度は先ほどよりも早い気がした。
「ボェアッ!!」
「よっ!って!?」
炎弾自体は私の身長よりも大きい。まぁそのくらいなら仮想空間だし飛び越えられそうだとか間抜けすぎるかなと思ったんだけどね正直。
でも今の私、人二人分くらい飛んじゃってるんです。
これ着地地点を予想するに多分なんたらリザードの背中直撃だな。ここまで来たら勢いでいこう。
私は剣を地面と垂直になるように持ち、刃を下に向け勢いよく落下する。そして着地したなんたらリザードの背中に剣を深く刺した。
「うわブスって.....」
「ギィエァアァァ!?」
なんたらリザードは痛みに苦しむかのように暴れた。その暴れる様はプログラムされたものとは思えないくらい生き物そのものだった。私は剣がなかなか抜けなかったもので奴の背中から手ぶらで地面に降り立った。
足を切りつけた時とは苦しみ方が全然違う。足のときは正直あまり痛そうではなかった。しかし今回は落下の勢いもあってか思ったより剣が奥まで刺さった。こちらのほうが効いているように思える。
もしかすると、敵側のダメージも部位判定なんじゃないのかな。流石に即死はないだろうけど、まぁ攻撃がより強く入る弱点的な存在かな。逆に言うとそれが心臓なら表面を切っても有効な攻撃とは言えないわけだ。
「結構難しいぞこれ.....」
「ギシャアァ......」
「うわ」
苦しみ終わったなんたらリザードが殺意たっぷりの瞳でこちらを睨んできていた。激怒状態なのか口から常時炎が噴き出ていてすごく怖い。だってあいつデカいんだもん。
でも激怒ってことはもう少しなんじゃないの?
「ギシャアアアァァァ!!」
とりあえず剣を取り返さないとね。.....と思ったけど、
「飛んでるし....」
あろうことかなんたらリザードはもはや飾りなんじゃないの疑惑が浮かびだしていた自身の羽を広げ滞空し始めたのだ。これじゃ余計に剣を取り戻すのが面倒になったじゃないか。
どーすんのこれ、あいつ降りてくるの?
っていうか
「ボェアッ!!」
「ですよねぇ!?」
前転回避に成功。ちょっと遅れていたら焼き殺されていたな。
.......あそうか
私は装備メニューを開き、装備いしている「鉄の剣」を一度外した。
それと同時になんたらリザードの背中から鉄の剣が光の粒になって消えていくのを確認した。
そして再び装備すると、剣は私の手元に現れた。
「.....」
なんて表現したらいいかな、この気持ち。悩んでた私がバカみたいじゃんか。
そう、リアルに限りなく近くプログラムされているがこれはゲームだ。現実での考え方では足りない発想力や想像力がゲーム攻略のカギとなるのかもしれないな。
「まぁいいや、仕切り直しといこう」
私は剣を構え冷静に頭の中を整理し始める。奴は恐らく力尽きるまで飛び続けるつもりだろう。ここからは空中でどう剣を当てるかだけを考えればいい。
普通に考えるとジャンプ切りを当てそのまま地に帰るヒットアンドアウェイが妥当だが、あまり効率がいいとは思えないね。何よりあいつうるさいから一刻も早く終わらせたいのですよ。
しかしまぁ何をしてくるかわからない相手にはまず手の内を見せていただかないと始まらないか。
ヒットアンドアウェイでいこう。
私は地面から一番近い奴の尻尾を重点的に切りつけることにした。仮想空間によって強化されたジャンプ力でも尻尾が限界高度なようだ。つまりヒットアンドアウェイという選択肢以外選べなくなったわけだ。
面倒だけどやるしかないか。
「もう一撃!」
心臓に近い部位ではないせいかあまり大きなダメージが加えられているようには思えない。事実、なんたらリザードは痛がるような素振りを一切見せていなかった。
別の行動を模索しようかと迷い始めた矢先、なんたらリザードは羽を大きく羽ばたかせてこちらに突進してきた。
逃げるか......いや
これはチャンスだ
私は真上に飛び、滑空してくる奴の背中に飛び乗った。
そして先ほど私が与えた奴の背中にある深い傷に向かって剣を差し込んだ。
「ギェアァア!?」
今度は剣を手放さないよう勢いよく引き抜いた。痛みに耐えきれないなんたらリザードは羽を動かすことを忘れて地面に落ちる。
しかし二度目ということもあってか奴が怯んだのはたった一瞬だった。奴は再び空へ向かうために羽を動かし始めた。
「させない!!」
私はこれまでの奴との戦闘で私が与えた攻撃とは比べものにならないほど強烈な斬撃を奴の尻尾に与えた。その斬撃には、ここで飛ばせたら振出しに戻ってしまう、絶対にここで終わらせて見せるという私の気持ちが表れているようだった。
すると奇跡が起きた。
奴の尻尾が切れたのだ。
「ガアァァッ!?」
自慢の尻尾が切り落とされたなんたらリザードは、まるで意識を失ったかのように力なく地面に落ちていった。
私はもがくそれに対して剣を用いた乱舞を開始した。まるで踊るかのように激しく、それでいて攻撃をより多く当てるように無駄のない動きを意識して剣を振る。
私の剣が奴の角を切り落とした直後、奴は痛みにもがくことをやめ完全に沈黙した。
『《乱入クエストクリア》』




